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薬学とMBAのダブルディグリーに思う ~二重学籍への挑戦~

岐阜薬科大でMBA 複数学位取得来春導入、中京大と連携 − 岐阜新聞 Web

 岐阜薬科大(岐阜市)と中京大(名古屋市)は27日、薬学、薬科学の博士とMBA(経営管理学修士)の複数学位取得(ダブルディグリー)制度を来年4月から導入する、と発表した。薬学、薬科学の博士課程に進んだ大学院生が中京大大学院(ビジネススクール)に2年間通い、経営管理のノウハウなどを学ぶことができる。薬学、薬科学とMBAのダブルディグリーは全国初。

 岐阜薬科大学と中京大学がダブルディグリーの協定締結を行ったニュースが出ていました。中京大学にもプレスリリースがありました。

本学と岐阜薬科大が全国初「MBAと薬学のダブルディグリー制度」 | 中京大学

 中京大学と岐阜薬科大学は、全国初となるMBA(経営管理学修士)と博士(薬学・薬科学)のダブルディグリー(複数学位取得)制度に関する協定を締結し、1月6日、本学名古屋キャンパスで調印式を行った。国際的な視野に立ち、医薬の研究と医薬業界の経営に実力を発揮できる人材の育成に向け、2014年度より連携・協力していく。

 薬学とMBAという組み合わせは、なかなか聞いたことがありません。慶応大学では、大学院経営管理研究科と医学研究科・薬学研究科の間で、ジョイント・ディグリー制度を実施しているようです。

ジョイントディグリープログラム | KBS 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 | 慶應義塾大学ビジネス・スクール

 本研究科と本塾医学研究科の間で、ビジネス教育並びに医学教育のさらなる融合によりビジネスと医学双方に通じた人材を育成することを目的としてつくられたプログラムです。具体的には、本研究科と医学研究科に設置された共通科目を履修し双学位課程修了に伴い修士(経営学)取得後最短 1 年で修士(医科学)が授与されます。
 本塾大学薬学部薬科学科の新卒学生で本制度により本研究科に入学した学生、または他大学薬学部を卒業して本研究科に入学した学生が、本制度により引続いて薬学研究科に入学した場合、最短で1年間で修士(薬科学)を修了し、計3年間で2つの学位を取得できるプログラムです。

 医療MBAという言葉もあるくらいですので、一定程度のニーズはあるのでしょうね。記事中、いくつか気になったことがあります。

 まず、大前提として、日本にはMBAという学位はなく、日本でのMBAとは全て自称です。MBAとはMaster of Business Administrationの略称であり、一般に、海外のビジネススクールを修了した者に与えられる学位です。日本では、経営系の大学院修士課程を修了した場合に与えられる学位は修士(経営学)等、経営系の専門職大学院を修了した者に与えられる学位は経営学修士(専門職)等であり、国内法的には欧米のMBAとの関連性はありません。(学位の英語名称としてMaster of Business Administrationとしている大学もありますが、あくまで自称です。)

 アメリカのビジネススクール認証評価団体であるAACSBの認定を受けている慶応大学と名古屋商科大学のビジネススクールは、海外のMBAと関連性があると言えないこともないですが、国内法的には根拠がありません。日本の経営学修士(専門職)等の学位が海外でどれほど通用しているのかはわかりませんが、安直に「同じMBAだから」と考えるのは止めたほうが良いでしょう。なお、冒頭記事にある中京大学大学院ビジネス・イノベーション研究科は、専門職大学院ではなく通常の修士課程です。

 海外の大学とのダブルディグリープログラムについて、文部科学省は以下とおり定義づけを行っています。

ジョイント・ディグリーに関する検討状況:文部科学省

1.定義
 ダブル・ディグリー・プログラム(DD)とは、複数の連携する大学間で開設された同じ学位レベルの共同プログラムを修了した際に、各大学がそれぞれ学位を授与するもの。
2.考え方
 DDは複数の大学がそれぞれに特定の学問分野で学位を授与することが可能であるが、連携をはかることにより、学生が1つの大学に在籍して学位を得て、さらに別の大学に在籍して学位を得ることに比べ、期間と学習量を多少緩和して2つの学位を得ることができるものである。
 DDの場合は、実施主体が複数あり、その実施主体のどちらもが、単独でも学位を授与することができる。それぞれの大学のカリキュラムが存在した上で、他大学と協働し、相互に学位を出すことができる共通のプログラムを設定する。
 最大ワークロードは通常の学位取得の2倍となるが、多くの場合、実際は2.0以下のワークロードとなる。

 要は、期間に応じて2つの大学に所属し、各大学の教育課程をこなし、各大学から学位を得るということです。その際、教育課程への配慮(単位認定等)も行われるため、通常2つの大学に所属するよりも効率的に学位を取得することができます。
 冒頭、中京大学のプレスリリースを見ると、「対象となる学生は、岐阜薬科大学大学院薬学研究科博士課程の在籍者。本学大学院ビジネス・イノベーション研究科修士課程にも入学し、両大学院の学生として学習・研究に取り組むことでダブルディグリーが可能となる。両大学院の入学試験に合格し、並行して両大学院の学習・研究を行う」とあるため、どうも所謂「二重学籍」での対応を行うようです。
 大学院の二重学籍について、webでの検索では「禁止されている」という結果が複数見られましたが、大学院学則等で明記している国立大学をみつけることができませんでした。中京大学大学院学則にも、その明記はありません。
 (独)大学評価・学位授与機構の学術誌「大学評価・学位研究」第8号にある「わが国の大学院における共同学位プログラムの現状に関する研究」では、二重学籍について以下の通り言及があります。

No.8

 (共同学位プログラムの)導入に関わる困難については,(中略)また,二重学籍についての公式見解(明文化された規定等)がない,学年歴が外国大学とは違うことによる入学時期の問題など,制度面の困難も多く挙げられた。(P9)
 また,2重学籍を心配する意見が大学からあったが,学校教育法や設置基準等に明確な規定はない。学部では通常1日8時間の学修が必要とされ,時間的な制約を考えると二重学籍は修学が難しいと考えられるが,大学院に関しては,修了に必要な単位数が少ないことから,学修の面では時間的制約はあまり効力がないという状況にある。この問題に関しては,視点を変えれば,共同学位制度の導入によって,学修時間で教育成果を代替して測定している制度自体の問題が浮かび上がってくるとも言える。(P17)

 特に大学院での二重学籍については曖昧な部分があり、それを大学間協定により明確化させたというところでしょうか。
 学費はどうなのか、カリキュラムは効率化されているのか、専門職大学院ではないため修士論文は必須だがその負担は大丈夫なのか、などいろいろ運営上の興味は尽きないところです。