大学職員の出向に思う 〜出向で得られるものとは何か〜

出向によって得られるもの、という問い - ささくれ

 ちょっと前までよその機関に出向していたこともあって、「出向によって得られるもの」についてときおり考えてしまいます。なにを得て、どのように成長できるのか。

 図書館業界の情報を発信されているkitone氏のBlogはいつも興味深く拝見しています。当該Blogにて、出向に関する記事が書かれていましたので、今回は大学職員の出向について考えてみたいと思います。なお、本稿における「出向」とは、国立大学法人に籍を置きつつ他機関にて勤務をすることと定義します。

 国立大学法人の職員にとって、出向とは縁遠いものでなく万人に発生しうるものという認識です。つまり、職務命令として発生しうる可能性があるということです。もちろん、最終的なオファーは人を見てでしょうが、職員になって一度も出向の可能性(内在的な可能性も含めて)に晒されていない者は、少ないのではないかと思っています。また、出向先は以下のとおり整理できると考えています。

 この中でも、例えばLEAP(※)やJSPS海外事務所勤務など、プログラムベースで分かれる場合もありますし、大学によっては都道府県など協定自治体などへの出向もあるでしょう。また、近隣の高等専門学校へは「出向」という形というよりは、人事異動ローテーションに組み込まれている場合もあると思います。民間への出向については、例えば東京大学の民間企業出向者の声がweb上にありました。

民間企業への出向 | 東京大学職員採用情報

※LEAPについてはこちらの記事が詳しいです。

2012-03-26 - Clear Consideration(大学職員の教育分析)

 さて、そんな「出向によって得られたもの」ですが、kitone氏のBlog中に引用等があることであることは異論ありません。さらに踏み込むと、氏は

抽象的な「出向によって得られるもの」なんてじつはないのかも

とおっしゃっています。私の考えは少し違っていて「「出向で得られるもの」は抽象的なものでしかなく、さらにその「得られたもの」の水準判定が本人ですら立証困難であるため、外部から見ると全く分からない」ということかなと考えています。元々、大学職員という職自体がskillではなくabilityやcompetencyといったものを重視する以上、普段の職務と同様に、「出向で得られたもの」を明確に測定することができません(この辺り図書館職員は少し違うのかもしれませんが・・・)。だからこそ、出向者本人もアピールしにくいところでしょうし、まして本人以外の者がそれを根拠とともに理解するのはなかなか困難かもしれません。

 氏は

言い換えれば、「出向」は特別なものじゃない、本質的には「学内異動」とたいして変わらないんじゃないか、ということを思いました。

ともおっしゃっていますが、出向は職務命令の一環ですし、その観点から見れば確かに同一のものでしょう。もっと言うと、現在の状況と出向先もしくは異動先の属性の違いが、本人への様々な影響に違いを与えていると考えられます。例えば、同一法人内でも附属病院事務から学部学務に異動すると大きく影響を与えるでしょうし、京都大学の学務系から京都工芸繊維大学の学務系への出向は、細かいやり方の違いなど学ぶところはあるでしょうが、あまり本人に影響は与えないのかもしれません。この場合の属性とは、各機関のミッションやステークホルダー、業務内容、立地などを想定しています。この属性の違いが大きければ大きいほど、当人に対し(良くも悪くも)影響を与えるのでしょう。民間企業への出向はその最たるものだと思います。

※この辺りはもっと論理的に話を展開したいところですが、職場環境の変化が個人の能力に与える影響については先行研究を見つけることができませんでした。。。

 「英語ばかりの環境に身を置けば嫌でも英語が身に付く」といった論理と近しいですが、出向による環境の違いにより当人の中の「意識の芽」を刺激し行動を促すといった効果は確かにあるんだろうなと実感としています。出向先によってはそのようなプログラムが組んである場合もあり、例えば文部科学省への出向である行政実務研修生には関連機関(私立大学や高等専門学校、スポーツ施設など)を見学できる仕組みがあります。逆に言えば、何を得られるか、その結果どう行動するかは当人次第であり、所属機関に戻り新しい行動を起こす者もいれば日常業務に埋もれていく者もいます。

 「出向で得られたもの」がabilityやcompetencyであるならば、出向の効果を機関へ還元するためには、機関としては継続的なフォローが必要だと考えています。出向者がその考えや人脈を活かせるように、機関へ戻ってきた後1ヶ月後、3ヶ月後、半年後など継続的に出向者を集合させ、出向元で学んできたことにより改善できる点などを検討させ、必要に応じてプロジェクト化して業務に当たらせるといったことができれば、良い取組がでるのではないでしょうか。(本来は全職員に対しこのようなことがあって然るべきですが、まずは出向者からということで。)

 さて、そんな出向にとっても最も大切なことは「戻れる場所がある」ということだと思っています。戻れる場所があるからこそ、出向先で頑張ることができますし、もし心身の具合を崩した場合でも出向元に戻るという選択ができます。大都市で初めて触れた職員ネットワークを出向元に持ち帰って活用するといったこともできるでしょう。当人の意思など様々な事情があるでしょうが、「所属機関に戻ってくる」ということをまず考えて出向に臨んでほしいと思っています。

 私自身、比較的長期間の出向経験があります。そのオファーをいただいた際(後ほど、だいぶイレギュラーなオファーであることを知りましたが)、この機会はもうやってこないと思い、大幅に環境が変わる出向にも関わらず即決したことを覚えています。そこで得られたものやその成果を一応言葉にすることはできるのですが、それを口にするたび、成果など事実にも関わらず、いつも「これじゃない」感があります。このもやもやした感情はきっとkitone氏も感じてらっしゃることと思いますが、この感情があるうちはまだ自分には出向の成果を十分に発揮できていないのだろうと思いますし、またその可能性があるのだろうと感じています。