Learning Agilityに思う 〜意思を実現するための姿勢〜

 大学業界にいると「ラーニング・○○」という言葉は良く聞きますね。ラーニング・コモンズやラーニング・アウトカムズは比較的良く聞かれる言葉でしょうが、私が気になっているのはLearning Agility:ラーニングアジリティです。最近は、平常業務内7時間45分間の中で学びと成長が実感できる働き方はどのようなものか、それをなし得る組織体はどのような特徴を持っているのかということを考えています。それを考える上で、ラーニングアジリティという概念が一つのキーワードになるかなと思っています。

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 もう一つが、Learning Agility(=学習機敏性、以下、アジリティ)である。これは経験から素早く学び、初めての環境下でその学びを応用して成功に導くことができる能力を指す。アジリティに優れたリーダーは、何をすべきかが明確でない状況でも何をすべきかを短期間で理解することができる。皆さんの周囲にもいると思う。どんな環境においても、要領よくコツを習得する人が。ASTD(米国人財開発機構)でもテーマとして取り上げられたほか、多くのグローバル企業が採用時に重視するようになっていたりと、近年、アジリティへの注目度は非常に高まっている。

人材・組織システム研究室

 ただし、必ずチェックをするのが、Learning Ability, Learning Agility(学習能力・学習機敏性)です。学習能力が高い人は、リーダーシップに必要な要素を後からでも吸収していけるんですよね。ですから、最終的に選抜する際には、その人のLearning Ability, Learning Agilityのレベルを必ずしっかりと確認します。また、「この人は、Job Description(決められた職務記述書)の内容の範囲で仕事をしたい人なのか、それを自分から越境していきたい人なのか」を確認します。自ら越境していきたい人でないと、新しいことを学習しようなんて思わないですからね。

 学習機敏性とも訳されていますが、環境や経験から学びそれを応用するサイクルを速めることだと認識しています。リーダーに必要な能力という観点から語られることも多いようですが、リーダーだけに必要なものではなく、業務の中で学習を進めていく上では普遍的な概念でしょう。今回は、ラーニングアジリティについて少し整理してみます。

 ラーニングアジリティという概念はKorn Ferryというアメリカの人材コンサルティング会社が発出のようですが、Center for Creative Leadershipにて解説白書が公表されています。その内容を大まかにまとめたものを以下に示します。

Learning About Learning Agility

What is Learning Agility?

We have long known that a major difference between successful people and those whose careers falter is their ability to make meaning from their experiences. ()We now know that these successful leaders are learning agile; that is, they show the willingness and ability to learn throughout their careers, if not their entire lives.

ラーニングアジリティとはなにか?

 私たちは、成功した者とキャリアにつまずいた者の大きな違いは、経験から学ぶことができる能力があるかどうかであると考えています。()私たちは、今、成功したリーダーは機敏に学習していると知っています。つまり、自身のキャリアを通じて学ぶ意識と能力を示しています。

Learning Agility “Enablers”

  • Innovating: They are not afraid to challenge the status quo.
  • Performing: They remain calm in the face of difficulty.
  • Reflecting: They take time to reflect on their experiences.
  • Risking: They purposefully put themselves in challenging situations.

Learning Agility “Derailer”

  • Defending: They are simply open to learning and resist the temptation to become defensive in the face of adversity.

ラーニングアジリティを可能にするもの

  • 革新:彼等は現状に挑戦することに恐れない
  • 情動:彼等は困難に直面しても冷静さを保つ
  • 内省:彼等は経験を反映させる時間をとる
  • リスク:彼等は意図的に困難な状況に身を投じる

ラーニングアジリティを阻害するもの

  • 防衛:彼等はただ学ぶことや逆境に直面して防衛的になるという誘惑に抵抗することを受け入れてる

Finally, learning-agile individuals understand that experience alone does not guarantee learning; they take time to reflect, seeking to understand why things happen, in addition to what happened.

 結局、機敏に学ぶ者は、経験するだけでは学ぶことに繋がらないと理解しています。つまり、彼等は内省する時間をとり、なにが生じたが、なぜそれが生じたかを考えます。

 特に注目したいのが、ラーニングアジリティを阻害する可能性のある要因として、Defendingが挙げられている点です。白書中には、Defendingの重要性について、以下の説明があります。

Receiving feedback can often feel threatening, like an attack on who we are. When this is the case, our instinct is to deflect the comments, perhaps by making a joke or by attacking the person in return. However, when we enter a mode of self-preservation and try to defend what is, we close ourselves off to what could be. It is only in the latter, not the former, that we are able to learn and grow.

 大抵の場合、フィードバックを受けることは、まるで私たちが攻撃されているような脅威に感じます。この場合、私たちは、茶化したり人格攻撃をしたりして、本能的にそれをかわそうとします。しかし、私たちが自己防衛的になると、自分自身の可能性も閉ざしてしまうことになります。私たちが学び成長できるのは、前者ではなく、後者だけです。

 フィードバック、つまり他者からの評価等について、それを受け入れる大切さを説いています。白書ではラーニングアジリティの習得はリーダーを対象としていますので、ある程度年齢や実績を重ねた者にとっては、このような観点はなかなか難しいところもあるのかもしれません。理想とする姿に近づこうとする一方で、その姿を実現させる過程あるいは実現させた際に自己が脅かされることを無意識的に感じているのでしょうか。ハーバード大学教育学大学院教授のロバート・キーガンらが著したなぜ人と組織は変われないのか ― ハーバード流 自己変革の理論と実践では、改善目標の達成を妨げている「裏の目標」として、”変革をはばむ免疫機能”という概念を提唱しています。

  •  “変革をはばむ免疫機能”は、ある人がどのような行動を取っているせいで本人が望んでいる目標を達成できずにいるのかを描き出す。しかし、この免疫機能が生み出す動的な平衡状態は、特定の目標の追求をじゃまするだけにとどまらない。知性を向上させる妨げにもなる。(P67)
  •  私たちに不安をいだかせるのは変化そのものではない。変化にともない、難しい課題に挑むことを要求されるとしても、かならずしも不安をかき立てられるとは限らない。人に不安を感じさせるもの、それは、先に待ち受けている脅威の前に無防備で放り出されるという感覚だ。”変革をはばむ免疫機能”を克服しようとすればかならず、そういう脅威や危険に身をさらすことへの恐怖がこみ上げてくる。(P71) 

 同書では、このような衝動を自ら表出しコントロールする考え方や手法が紹介されています。ラーニングアジリティのDefendingとは、直接的には異なるもの、目標を阻害されるという意味ではちょうど同書の言う“変革をはばむ免疫機能”のようだなと感じました。

 なお、なぜか日本法人の説明書では、Defendingの概念が明確になっていません。

 ラーニング・アジリティとは、混乱、スピード、流動性が増す中で効率的な 運営を行うことができる能力を指し、以下の5つの要素で構成される。

  • メンタル・アジリティ:領域を越えて活動し、関連のない分野へも興味を示し、点在する課題を結び問題を解決する能力
  • ピープル・アジリティ:他者をよく理解し、多様なグループに適応し、明敏な対人判断を下す能力
  • チェンジ・アジリティ:現状に挑戦しようとする意思、システムや手続きを改善しようとする意欲、変化を実行に移す能力
  • リザルト・アジリティ:すばやく優先順位を見出し、目標を設 定し、好況時にも苦境時にも成果を出す能力
  • セルフ・アウェアネス(自己認識):フィードバックを受け容れる姿勢、自己反省の習慣、学習や自己啓発に対する強い関心

 アジリティは、何をすべきか明確でない場合にも何をすべきかを即座に理解する、学習速度の速い有能な幹部社員に見られる指標と考えてほしい。ス マート・グロース時代の急速に変化する環境を考えると、アジリティもまた、リーダーの優劣を区別する重要指標の一つであろう。

 白書中には、Tips and Suggestions for Becoming More Learning Agile(もっと機敏に学ぶためのヒントと示唆)やDEVELOPMENT ACTIVITIES AND PERSONAL CHALLENGES(成長するための活動や課題)が掲載されており、具体的に個人がどのように考え、行動すれば良いのかがわかります。

 ここまで、ラーニングアジリティという概念を紹介してきました。「学ぶ」というのはどうしても勉強という静的まイメージがあり、経験から学ぶという動的なイメージにはなかなか結びつかないかもしれません。そうではなく、ラーニングアジリティとは、要は自身の目標を達成するためにどのように積極的に動いていくのか、それを仕事等を回しながら強力に押し進めていくことなのでしょう。ただ、このような学びに対する姿勢も大切なのですが、それ以上に、弊BLOGでは何度も言及していますが、やはり個人として何をしたいと思うか、どのような姿を実現したいかという自らの意思を意識することが大切だと改めて考えました。