会議の事務局としての裏方ファシリテーションの手法

 他の組織の例に漏れず大学もたくさん会議があります。学内の組織運営上行われる正式な会議では、教員が委員として参加しつつ職員が事務局として対応することも多いと思います。事務局は、開催日程調整や資料・議題の準備、会場設営、議事録作成などを担当するという認識です。職員は委員に加わらず、直接発言を行わないという前提で、準備をするということですね。私自身も、規模の大小はあれども、これまでに担当した職務において常に会議の運営を行ってきました。

 特に大学本部などで行われる各部局から一名ずつ教員が出席するような会議体は、会議運営や進行管理が難しいなと感じています。なぜならば、例えばカリキュラム編成など直接な教育研究活動とは異なり、そこで議論される議題は情報ネットワーク管理や大学評価、環境対策など大抵は出席者の専門分野ではないため、前提知識や判断基準の提示など適切な議論・意思決定に向けてある程度綿密な議論設計が必要だからです。今回は、会議のメンバーが議題分野の専門家ではない場合を想定し、事務局として円滑な会議運営を行う方法について考えてみます。

 巷にあふれる会議ファシリテーションの書籍は、基本的に自分自身が会議に加わり進行していくことを前提にしています。運営上参考になる点は多々ありますが、そもそも前提条件が異なるため直接応用することはできません。PMO(プロジェクトマネジメントオフィス)を生かす - 第1回 事務局にあらず、庶務係にあらず:ITproにあるPMOが立場として若干近いかなとも思いますが、会議のメンバーとして加わらずにその会議をうまくまわしていくためには、事務局としてどのような点に心がければ良いのでしょうか。日頃私が実践していることを紹介します。

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 図に、理想と考える会議のあり方を示します。議長とメンバー、事務局の三者により構成される会議では、事務局と事前に十分にレクチャーを受けた議長がメンバーと議論しつつ、必要に応じてメンバーからの質問に事務局が答えるという形が理想的だと考えています。この場合の事務局の役割は議題設定や会議資料作成、議長への事前レクチャーであり、これらを通じて会議の運営をコントロールすることになります。

 これらの事務局の役割に則り、特に報告事項を除く議事について、日頃意識していることは以下の3点です。

  1. 「何を」「どのように」決めるかということの明確化
  2. 1.に合わせた資料の作成
  3. 議長とのコミュニケーションの促進

1.「何を」「どのように」決めるかということの明確化

 会議である以上、基本的には「決める」ということが出口になります。そのため、会議を開催するためには、まず「何を決めるのか」ということを決めないといけません。例えば報告書を決めるのか、実施方針を決めるのか、部局に照会する案を決めるのか、などが考えられます。

 それと併せて、会議で決める事項を「どのように決めるのか」を決めないといけません。決めるべき箇所を一カ所ずつ全員で確認・審議するのか、ある程度まとめるのか、あるいは分担して担当するのかなどが考えられます。この際に、審議資料を事前送付し確認してもらうのかなどを考えることになります。

 「何を決めるか」という論点に対し、「どのように決めるか」という方法論はどうしても忘れられがちになるという印象があります。慣れた議長ならば自分自身の感覚で進めていくことができますが、あまり慣れていない場合は事前にしっかりと打ち合わせる必要があります。特に、議事にどの程度時間を確保するかの面からは、「どのように決めるか」ということはとても重要な要素です。

 議論メインの案件なのか、確認のみの案件なのか、あるいは今回は何を決めるのではなく提示された論点に対し委員が意見を述べるということもあり得ます。恐らく案件の進行段階(意見を固める段階なのか、最終的に報告書を出す段階なのか)にもよるでしょう。そこは、まずは事務局で判断することが必要です。

2.1.に合わせた資料作成

 1.が決まれば、それに合わせて資料を作成します。この際、審議する箇所を色付け(白黒印刷でコストを削減する場合は薄いグレーなどにする)等し、メンバーが審議する際に資料中のどこを見れば良いかすぐ分かるようにしておいた方が良いですね。また、どのような観点から確認・審議を行えば良いのか、メンバーに分かるように別紙資料を準備するようにしています。

 会議資料は、(案)本体のように完成体のみになりがちで、前述のようにそれを「どのように」確認・審議にするのかは資料ではなく口頭で述べられがちだと感じています。しかし、口頭で述べることにより言い間違いや聞き間違いが発生するリスクが生じ、議論に行き違いが生じる可能性は否定できません。また、言うまでもなく、聴覚よりも視覚の方が、一度により多く情報を得ることができます。資料が多くなるコストが発生しますが、別紙かあるいは資料中欄外等に確認・審議のポイントを明記した方が、行き違い無く議論を進められると考えます。

 その他、最終的な報告書等出口イメージを示す、今後の作業工程をフロー図で示すなど、なるべく視覚的に訴えられるような資料作成を心がけています。

3.議長とのコミュニケーションの促進

 議長には、事前に事務局から議題や議事進行についてレクチャーをします。その際には、議長としての発言内容や1.の内容、各議題の審議予定時間、今後の予定等が書かれた進行メモを渡し、資料と共に説明した方が良いですね。進行メモの通り進行する必要はなくあくまで議長次第ですが、それにしても何も手持ちせずに議事進行に臨むのは大変心細いだろうと思います。事前レクチャーのためにも、昼食を一緒にとるなど、日頃から議長役の者とコミュニケーションを取るようにしています。場合によっては、一過言持っている委員とも、事前に話をしにいくなどコミュニケーションを取っても良いかもしれません。

 ここまでいろいろ書いてきましたが、最も考えなければいけないのが、なぜこの会議を行っているか、もっと言うと「なぜこの会議に教員が参加しているか」という点だと思います。以前、弊BLOG(教員の教育研究時間の確保に思う 〜教職恊働と能力開発〜 - 大学職員の書き散らかしBLOG)でも述べたとおり、教員の教育研究時間を確保することが最優先であると考えていますので、その優先順位を崩してまで会議に出席してもらうということは、教員あるいは特定の教員でないといけない理由を明確にする必要があります(言うまでもなく「規則に書いてある」という以外の実務的な理由のことを指します。)。そして、その理由を十分に意識した議題設定、資料作成等会議運営を行えば、より効果的効率的な意思決定に繋がるはずです。本論を言えば、職員だけで判断・意志決定できることならば、教員を含めた会議を開催する必要がありません。出席者要件が書かれた学内規則を変えれば良いのです。

 ただ、この点は私自身まだ整理しきれていないところです。会議内容もそうですが、大学運営における同僚性、独立性や業務の継続性、それに関連した教職員の業務や職員の異動、能力開発など、関与する項目が多いため、どのように割り切るか一般できるのかをちょっと考えているところです。平たく言っても、後から文句言われないためにという理由が現状であることも考えられます。

 議題の設定や資料作成、運営はその業務の担当者の能力を最大限発揮できる場です。逆に言えば、担当者の能力が高ければ、その大学のその業務の質向上につながります。担当者として、いかに矜持を持つかということであるとも思います。

 なんにせよ、私は、良い議論、良い意思決定をして、早く会議を終わらせるために、何をすれば良いかということをいつも考えているところです。