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外国人の入学拒否に思う 〜安全保障貿易管理の困難性〜

埼玉の専門学校が外国人の入学拒否 NHKニュース

 調理師などを養成する埼玉県熊谷市にある専門学校が生徒の募集要項に、「外国人の入学はできません」と記載して入学を断っていたことが分かり、埼玉県は運営する学校法人に改善を指導しましたが、これまでに応じていないということです。

外国人拒否の専門学校 入学認める方針に NHKニュース

 調理師などを養成する埼玉県熊谷市にある専門学校が外国人の入学を断り、埼玉県が運営する学校法人に改善を指導していましたが、学校法人の理事長が23日、県に対し、外国人の入学を来年度から認める方針を伝えたことが分かりました。

 専門学校の外国人入学に関する記事が出ていました。今後、外国人入学拒否の方針は撤回されるようですね。建学精神や実質的受け入れ可能性などをどのように考えれば良いのか、色々な観点で考えを巡らせることが出来る事案だろうと思いました。ところで、専門学校に在籍する外国人留学生ってどの程度いるんでしょうか。

 図1に、学校基本調査及び(独)日本学生支援機構が実施する平成25年度外国人留学生在籍状況調査結果‐JASSOを基に、専修学校専門課程における外国人留学生数の推移を示します。なお、ここでの「外国人留学生」とは、「出入国管理及び難民認定法」別表第1に定める「留学」の在留資格(いわゆる「留学ビザ」)により、我が国の大学(大学院を含む。)、短期大学、高等専門学校専修学校(専門課程)及び我が国の大学に入学するための準備教育課程を設置する教育施設において教育を受ける外国人学生を指します。

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 図1から、過去6年間では、専修学校専門課程の概ね5~4%が外国人留学生が占めていることがわかります。

 また、図2に、(独)日本学生支援機構が実施する外国人留学生進路状況・学位授与状況調査-JASSOを基に、専修学校専門課程の外国人卒業者数の推移を示します。また、併せて、進路の内訳も示します。

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 図2から、外国人卒業者数が増加傾向にあること、進路内訳で最も多いのは日本国内への進学であること、進路先が日本国内である卒業生が全体の8割程度であることがわかります。

 図1,2を見た率直な感想として、思いのほか外国人留学生が多いんだなと思いました。また、「卒業後国内へ進学」とありますが、どこへ進学しているのかも気になるところです。そのほかにも、ビザの関係など留学生関係ではいろいろと話がありますね。中には、専門学校に巣食う外国人 - 穂村有紀 (1/2)のような穏やかではない話もあります。(事実かどうかはわかりませんが。。。)

 冒頭記事では専門学校でしたが、大学がこのように外国人留学生の入学を拒否した話はあまり聞きません。国としても、留学生30万人計画やスーパーグローバル大学など、外国人留学生の受入に躍起になっているところです。しかし、どうも何か思い当たる節があるなと感じていたところ、何年か前に下記の事例があったことに思い当たりました。

イラン人入学拒否は違憲 東工大に東京地裁 - 47NEWS(よんななニュース)

 国籍や安全保障上の理由から、イラン人男性(43)の入学を許可しなかった東京工業大の決定が適法かどうかが争われた訴訟の判決で、東京地裁は19日、法の下の平等を保障する憲法と教育の機会均等を定める教育基本法に反すると判断、不許可決定を無効とした。

Yahoo!ニュース - イラン男性入学認める 東工大(2012年3月2日(金) 掲載)

 イラン国籍であることを理由に安全保障上の問題があるとして、東京工業大から原子炉工学研究所の研究生としての入学を拒否されたのは不当として、難民認定を受けたイラン人男性(43)が同大を相手取り、入学許可などを求めた訴訟の控訴審は2日、東京高裁(大橋寛明裁判長)で、条件付きで入学を認めることで和解が成立した。男性側は同日、訴えを取り下げた。(時事通信)

 イラン国籍の男性が入学を拒否され、裁判の末に無効判決、入学許可が降りたという事例ですね。(どうでも良いですが、「研究生としての入学」という言葉には少し違和感があります。)ただ、冒頭記事と本事例が決定的に異なるのは、本事例は安全保障貿易管理の概念が関係してくるという点でしょう。

安全保障貿易管理**Export Control*安全保障貿易の概要

 我が国をはじめとする主要国では、武器や軍事転用可能な貨物・技術が、我が国及び国際社会の安全性を脅かす国家やテロリスト等、懸念活動を行うおそれのある者に渡ることを防ぐため、先進国を中心とした国際的な枠組み(国際輸出管理レジーム)を作り、国際社会と協調して輸出等の管理を行っています。 

 我が国においては、この安全保障の観点に立った貿易管理の取組を、外国為替及び外国貿易法に基づき実施しています。

 要は、武器や軍事転用可能なものや技術について、その譲渡・伝搬等を制限しましょうという規制です。外国為替及び外国貿易法(いわゆる外為法(がいためほう))が根拠法令になっています。

外国為替及び外国貿易法

(目的) 

第一条  この法律は、外国為替、外国貿易その他の対外取引が自由に行われることを基本とし、対外取引に対し必要最小限の管理又は調整を行うことにより、対外取引の正常な発展並びに我が国又は国際社会の平和及び安全の維持を期し、もつて国際収支の均衡及び通貨の安定を図るとともに我が国経済の健全な発展に寄与することを目的とする。 

 安全保障貿易管理は、該当となる技術等をかなり細かく指定するリスト規制や、リスト以外の事項についても必要に応じて取扱を規制するキャッチオール規制などを以て、(少なくとも規制上は)かなり厳密に行われています。各大学においては、少し前までこの規制がかなり緩い状況であったのですが、文部科学省から以下の通知が出され対応が迫られているところです。

科学技術・学術審議会 技術・研究基盤部会 審議状況報告(大学等の国際的な産学官連携活動の強化について)[参考資料] 8.国際的な共同研究を進める上での外為法等の規制について [別紙1]−文部科学省

 我が国では、平和国家としての立場から、大量破壊兵器等に関連する貨物の輸出(注1)や技術提供(注2)に関し、国際協調の下に外国為替及び外国貿易法(以下「外為法」という。)に基づき、輸出管理を行っております。

 しかし最近、我が国及び世界の安全保障上ゆるがせにできない外為法違反容疑事案が続いており、去る3月3日、経営者の輸出管理意識の向上及び外為法の遵守を徹底するため、経済産業大臣名で、輸出関係団体の長に対して通知が発出され、また、文部科学大臣に対しても協力要請がありました。

 これまでのところ、大学及び公的研究機関(以下「大学等」という。)における外為法違反事例は報告されておりませんが、このような情勢に鑑み、各大学等におかれては、上記貨物の輸出や技術提供が不用意に行われることがないよう、輸出管理の徹底にご協力いただきますよう、お願いいたします。 

国際連合安全保障理事会決議第1737号を受けたイラン人研究者及び学生との交流における不拡散上の留意点について(依頼):文部科学省

 これを受け、去る2月20日、外務省より、イラン人研究者及び学生との交流における不拡散上の防止の徹底につき、文部科学省に対し協力要請がありました。

 文部科学省としては、昨年3月24日付けの「大学及び公的研究機関における輸出管理体制の強化について(依頼)」と題する通知において、関係機関に対し外国為替及び外国貿易法の遵守についての協力依頼をさせていただいているところですが(別添参照)、この通知に関する取組みの徹底は同決議の趣旨に適うものと考えております。

 つきましては、大学及び公的研究機関におかれましては、改めて輸出管理体制の強化に向けた取組みを徹底していただけますようお願いいたします。

東京大学 安全保障輸出管理支援室

 当該事例については、入学希望者がイラン国籍を持つ難民であり、大学としての対応に注目が集まりました。当時のいくつかのBLOG記事にも、筆者の見解が記載されています。

安全保障上の「依頼」と、入学審査の間の判断 : 大学プロデューサーズ・ノート

東工大イラン人入学拒否事件について(1): 花水木法律事務所

 なかなか難しい問題であることがわかります。安全保障貿易管理はモノや情報の行き来を制御するものですが、人の行き来を制限するものではないと理解しています。その意味で、入学拒否に対し違憲判決が出たのは当然だと思います。つまり、脅威になる可能性である因子を排除するという「予防」ではなく、脅威になる可能性である因子を含んだ中での「対応」が求められていることですね。もともと一枚岩の組織ではない大学にとって、かなり大変なことですね。

http://www.meti.go.jp/policy/anpo/kanri/bouekikanri/daigaku/kibigijyutukanrigaidansu.pdf

 そこで、外国為替及び外国貿易法(以下「外為法」という。)に基づく技術提供管理等を効果的に行うため、大学・研究機関(以下「大学等」という。)が実施すべきことをとりまとめ、大学等における技術提供管理等の参考に資することを目的として本ガイダンスは作成されました。

 経済産業省のガイダンス資料から、大学の研究活動に関係ある主な部分を以下に抜粋します。

  •  提供する技術が、大量破壊兵器の開発のために利用されるおそれや、大量破壊兵器の開発を行っているおそれのある懸念国や組織出身の研修生や留学生に対するものではないかなど、用途や相手先を慎重に検討しなければなりません。(P16)
  •  外国ユーザーリストに掲載されている大学や研究機関と研究協力協定などを締結する前に、大量破壊兵器の開発などに利用されるおそれの有無について慎重に確認するようにしてください。(P17)
  •  公知の技術を提供する場合や基礎科学分野の研究活動において技術を提供する場合などについては、例外的に経済産業大臣の許可が不要とされています(Ⅱ-5.規制の許可例外について参照。)。このため、大学において市販の書籍や公開されている論文を用いて研究指導を行う場合など、公知の技術となっている範囲において技術の提供を行う場合には、許可が不要です。(P19)
  •  留学生や研修生は、来日して6か月未満は外為法上、「非居住者」となります。非居住者に対し規制対象技術に当たる公開されていない技術データ、自主開発・改良したプログラム(ソースコードを含む)などを提供しようとする場合には、許可を取得しなければなりません。(P21)
  •  ここで重要なことは、留学生や研修生に対する指導・教育が禁止されるわけではないということです。「非居住者」に対して規制対象技術を提供する前に、許可を取得しなければならないということであって、許可を取得した上で指導・教育を行うのであれば法令上問題ありません。(P21)

 安全保障貿易管理に係る留学生等対応については、以下の文献に具体例等が記載されています。

ウェブマガジン『留学交流』2013年4月号‐JASSO

【事例紹介】安全保障輸出管理とは?-外国人留学生受入れに係る問題点-

  •  ここで注意してほしいことは、決して輸出する行為が禁止されているのではなく、学内又は経済産業省への輸出手続きが必要なのかどうかを審査することであって、当然のことながら経済産業省の許可がおりれば、たとえ規制されている貨物・技術であっても輸出するこは可能である。(P3)
  •  このようなことから外国人留学生に対する「居住者」「非居住者」の区分基準は、大学における輸出管理業務を複雑にしている大きな要因の一つとなっている。(P5)
  •  つまり、外為法では、この受け入れた相手への貨物の輸出・技術の提供を規制しているのである。にもかかわらず政府機関が入口管理に外為法が関係するように示唆することで大学担当者の困惑を生じさせている。(P9)

 教員一人一人レベルでの対応が必要であり、大学本部としてはそれらを把握・管理していく必要があります。何度も言いますが、これはかなり大変な仕事だと思います。厳密に組織的に対応しようとすれば、教員一人一人の研究分野を確認し、それに関する事項について個別にアプローチすることになるでしょう。今後、大学の国際化を考える場合は、このような研究上の規制や倫理についても、国際水準で考えていかなればならないなと改めて感じました。