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社会人の学び直しに思う 〜大学院は受け皿となるのか〜

大学一般

プロフェッショナルスクールの拡充を!「クールジャパン大学」等の設立を! 100の行動51 文部科学5 (1/2)

 現在、専門職大学院の学生は約2万人、うち社会人学生は8千人弱で、ここ数年減少傾向にある。学部卒の知識を就職先企業でのOJTで鍛えれば十分であった高度成長の時代とは違い、大学卒業後、キャリアアップのために最新の知に基づくトレーニングをしたいというニーズは確実に増えている。問題は、日本の大学院の多くがその受け皿としてのレベルに達していないことだ。企業や社会人学生からすれば、最先端の知識やトレーニングを求めると、アメリカの大学が選択肢になってしまう。したがって、ニーズの高い社会人学生が国内の大学院を選択するよう、日本の大学院が質を上げていくことが必要だ。

 専門職大学院を含む大学院での社会人の学び直しに関する記事が出ていました。社会人の学び直しについては、大学改革実行プランでも「産業構造の変化や新たな学修ニーズに対応した社会人の学び直しの推進」として、

ICT・通信教育の活用や履修証明制度の活用を着実に進めるとともに、産業界と大学が協働してプラットフォームを構築し、対話の深化・好事例の共有・情報発信を図ることが必要。

とされています。

 そんな社会人学生の状況を学校基本調査から見ていきましょう。学校基本調査の高等教育機関《報告書掲載集計》表番号:14「専攻分野別大学院学生数」には、各年度の社会人学生数が掲載されています。それを、平成16年度から、課程別に明記したものを、図1〜3に示します。また、各課程の社会人学生率のみを抽出したものを、図4に示します。

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 これらから、修士課程における社会人学生率は横ばいであるものの、博士課程と専門職学位課程の社会人学生率は近年増加していることがわかります。ただし、専門職学位課程の社会人学生率上昇は、全体の学生数が減少したためであり、社会人学生数自体は減少傾向にあります。

 対し、大学院での社会人教育に対するニーズは増えているのでしょうか。東京大学大学経営・政策研究センターが平成21年に実施した「大学教育についての職業人調査」では、人事担当者及び大卒社員双方にアンケート調査を行い、大学院での学び直しに関する意識を調べています。

大学経営・政策研究センター(CRUMP): 卒業生調査

 その単純集計表を図示化したものを、図5〜図8に示します。

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 図5及び図6では、大卒社員へのアンケート結果から、機会があれば大学院への修学を希望する者は1割程度、関心がある者を含めると半数程度である一方、費用面や勤務時間、職場の理解について障害があることがわかります。

 図7及び図8では、各企業の人事担当者へのアンケート結果から、修士課程博士課程修了者への特別な配慮があまりなされていないことや、そもそも修学を認めていない事業所が半数程度であることがわかります。

 これらから、大学院での社会人教育について、ニーズは若干あるものの障害がいくつかあり、また事業所での修学希望者への対応や学位取得後の処遇についてあまり良い状況ではないことがわかります。実際、リクルート・カレッジマネジメントの記事によれば、専門職大学院での学習のために辞職した学生も一定数いるようです。

「社会人学生の進学動機を探る」カレッジマネジメント【161】 Mar.-Apr.2010 : カレッジマネジメント : リクルート進学総研

 なんにせよ、本調査は単年度調査であるため、大学院での社会人教育に対するニーズが増加しているかは判断できません。学校基本調査によれば、社会人の大学院入学者数は増加しておらず、直接的なニーズは増加していないとも判断できます。潜在的なニーズについては、網羅的な調査が見つけられませんでした。

 なお、ビジネススクールについては専攻研究がいくつか見つかり、その内容を見ても、学位取得後の処遇など全体的な傾向と少し異なるのかなとも思います。

download - リクルートワークス研究所

ビジネススクール調査 - みんなの教育

 冒頭記事中には、専門職大学に関する言及もあります。

専門職大学院:文部科学省

 専門職大学院は、科学技術の進展や社会・経済のグローバル化に伴う、社会的・国際的に活躍できる高度専門職業人養成へのニーズの高まりに対応するため、高度専門職業人の養成に目的を特化した課程として、平成15年度に創設されました。特徴としては、理論と実務を架橋した教育を行うことを基本としつつ、1:少人数教育、双方向的・多方向的な授業、事例研究、現地調査などの実践的な教育方法をとること、2:研究指導や論文審査は必須としないこと、3:実務家教員を一定割合置くことなどを制度上定めています。

 専門職大学院は、平成25年7月時点で、128大学187専攻設置されています。最も多いのは法科大学院73専攻であり、続いて所謂MBAに関連するビジネス・MOT系専門職大学院33専攻が設置されています。さて、冒頭記事中にある「たとえば日本のアニメや映像分野は、ハリウッドとも伍していけるレベルであるはずだし、ファッションやサブカルチャーにしてもアジアや欧米への浸透度も強いものがある。そういった分野も含めて、日本の得意分野で世界トップクラスの大学院・プロフェッショナルスクールを作ることを、めざすべきではないか。」ということについて、既にそれに関する専門職大学院は設置されています。

BFGU

 文化ファッション大学院大学は、学校法人文化学院が設置する大学院大学であり、専門学校が母体ということもあって、かなりしっかりとした実技教育が行われているという印象があります。

デジタルハリウッド大学大学院 - DIGITAL HOLLYWOOD UNIVERSITY,GRADUATE SCHOOL

 デジタルハリウッド大学院大学も、コンテンツマネジメントに関して教育が行われています。

映画学校|映画専門大学院大学(専門職大学院)|本学は2013年7月に閉校致しました

 また、以前は映画制作・プロデュースに関する専門職大学院があったのですが、学生募集停止後、平成25年7月に閉校しました。恐らく、学生が集まらなかったのでしょう。

 日本の得意分野で世界トップクラスの大学院・プロフェッショナルスクールを作るのは、それはそれでわかるのですが、国内の専門職大学院ですら学生募集や実務家教員などに課題がある以上、海外から人を呼んで大成功という姿がどうもイメージできません。

 記事中「日本では学部中心主義で大学が編成されているため、大学院独自の教員組織や施設設備が充実しておらず、大学院教育を支える教職員、設備などのインフラの拡充も必要だ。」というのは、設置基準にも現れています。例えば、大学院設置基準では、大学院の教員について

大学院設置基準(昭和三十一年十月二十二日文部省令第二十八号)

(教員組織)

第八条  

3  大学院の教員は、教育研究上支障を生じない場合には、学部、研究所等の教員等がこれを兼ねることができる。 

 となっており、また、大学院の教員数に関する告示である「大学院に専攻ごとに置くものとする教員の数について定める件」では、研究指導教員数と研究指導補助教員数のみ指定があります。つまり、大学設置基準で定めるような専任教員については指定がなく、学部と接続されている場合には、大学院専任の教員を雇用する必要がない仕組みになっています。専任教員がいない組織体では、大学院単独で動くというのはなかなか難しいでしょう。

2008年刊行分|国立国会図書館―National Diet Library

 国立国会図書館調査論文集「レファレンス」No.695(2008年12月)には、「社会人の学び直しの動向—社会人大学院を中心にして—」と題した論文が掲載されています。参考文献と併せ、これを見れば大抵のことがわかるくらい網羅的に整理された論文の中で、最後にこう書かれています。

 また、イノベーション人材の育成、社会人の再教育の必要性が言われるにもかかわらず、その一方で現実には、職場における労働時間も長く、学ぶことに対する実質的、精神的理解も得やすい企業風土にはなっていない。さらに、日本では、社会人が大学で学習することがどのような付加価値を持つかについての、社会的な認識がいまだ成立しておらず、換言すれば、社会人の教育と労働市場との関係が確立していない状況ともいえる。

 これはまさにそのとおりであり、執筆時点から5年経過した現在でも変わることのない課題です。社会人学生に対する社会的評価の欠如は、大学では如何ともし難いことであり、大学がいくら魅力的な教育を提供したとしても、人は集まらず評価は高まらずやがては潰えてしまいます。

 そんな中で、一つ方法があるとすれば、よりターゲットを限定した社会人教育体制の整備でしょう。当時東京大学大学院教育学研究科長・教育学部長だった金子元久先生は、リクルート・カレッジマネジメントの中で「ニッチ型」の社会人大学院と言っています。

カレッジマネジメント【151】 Jul.-Aug.2008 : カレッジマネジメント : リクルート進学総研

 既設の大学院の組織・人員を活かして,地域のニードあるいは特殊な職業分野に対応した教育プログラムを設定するタイプもある。これを「ニッチ型」と呼んでおこう。

 よっぽど伝統がある大学院ならともかく、全国的に広報して全国から人を集めますよ、という新規の社会人大学院の形態は、かなりのフォロー手段(通信制、ICTなど)を整備しないことには、いくら教育内容が良くても人が集まらないのではないかと思っています。COC事業などもあり、より近いニーズに対応する形が求められているのでしょう。

 また、大学職員という職業について言えば、学位授与機関である大学に勤務しているからこそ、職員が大学院に入学し学位を取得することや学位取得後の人事・待遇等について大切に考えてほしいと思っています。しかし、特に国立大学について言えば、そのような状況になっていないのかもしれません。私の周りでも、勤務大学にある高等教育関係の大学院への進学を上司に相談したところ、意味がないからと止められたケースを聞いたことがあります。非常に穿った見方をすれば、一定数を占める最終学歴高等学校の職員が定年退職等である程度減少し、組織上部の若返りが進んでいけば、状況は少し変わっていくのかもしれません。もちろん、それ以上に、大学院出身者がその所属機関内において活躍することが大切なのですが。