専攻すべきではない学部に思う 〜日本の学科構成は変わってきたのか〜
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閉鎖を決めた学科も…米国で止まらない大学生の「文系離れ」 ニューヨーク・タイムズ(USA)より | World Biz News | 現代ビジネス [講談社]
米国の大学で人文科学を専攻する学生が減少している。景気低迷の影響で、大学は教養を身につける場所というより、就職の準備をする場所として意識されるようになったからだ。就職に有利とされるコンピュータ・サイエンスのような理系の専攻に学生が集中するなか、文系の人気は低い。
アメリカの大学における文系の人気低下に関する記事が掲載されていました。文系学科の閉鎖も始まっているようです。
本文中「理系の学科は連邦政府から豊富な資金援助が得られる」について、資金援助の具体的な内容は明らかではありませんが、政府としてのSTEM教育への支援にも関係しているのでしょう。
NISTEP Repository: 米国における科学技術人材育成戦略 ―科学、技術、工学、数学(STEM)分野卒業生の100 万人増員計画―
以前よりオバマ政権は、 教育政策、特に理数系教育を重要な政策課題の一つとして位置づけている。(中略)米国ではエンジニアリングやヘルスケアなどの分野は、将来的にも市場が拡大する教育上の重要分野とされており、それらの分野を支えるのは Science, Technology, Engineering, and Mathematics 即ちSTEM教育であるとの認識がある。
これに先立ち、米・フォース誌が、学部別就職率と就職後の平均給与を基に、修得する価値のある学位及び専攻すべきではない学部を独自に公表しています。
【フォーブス誌】専攻すべきではない学部ワースト10発表!!最も就職に役立たない学士号は果たして…?? - IRORIO(イロリオ)
The 15 Most Valuable College Majors - Forbes
The 10 Worst College Majors - Forbes
valuable
1.biomedical engineering
2.Biochemistry
3.computer science
4.Software engineering
5.environmental engineering
worst
1.anthropology and archeology
2.Film, video and photographic arts
3.fine arts
4.philosophy and religious studies
5.liberal arts
これを見ると、Worstの方に、所謂「文系」と呼ばれる専攻が集中していることがわかります。アメリカの大学における文系の人気低下は事実のようです。
翻って、日本の状況はどうなのでしょうか。図1に、学校基本調査を基にした、関係学科別入学者数の推移を示します。また、図2に、関係学科別入学者数の構成比の推移を示します。なお、平成16年以降0となっている商船分野は除いています。
図1から、平成15年以降、入学者数の総数に大きな変化がないことがわかります。また、図2から、平成15年以降、入学者数の構成比が大きく変化していないながら、社会科学の構成比が若干減少し、保健及びその他の構成比が若干増加していることがわかります。
図3に、H15を100とした場合の、関係学科別入学者数の推移を示します。また、表1に、関係学科別の入学者数及びH15を100とした場合のH25の指数を示します。
ここから、図2で確認したとおり、H15に比べ、保健とその他の入学者数が1.7倍程度増加していることがわかります。また、表1から、保健とその他の増加した数に対し、社会科学や工学など減少した数が同程度であり、図1のとおり入学者総数にはあまり影響を与えていないことがわかります。
もう少し細かく見てみましょう。図4に、H15からH25までの各細目分野の入学数の増減を示します。また、表2及び表3に、H15からH25までの増減数が多い5分野及びH15を100とした場合の増減数が多い5分野を示します。なお、H15からH25までに0となっている分野は除いています。
図4及び表2、表3から、看護や保健、薬学という実学分野が入学者数を増加させている一方、法学や文学、商学・経済学という文系分野が入学者数を減少させていることがわかります。また、その他という従来の分類に帰さない新規の領域が発展していることもわかります。電気通信工学が入学者数を減少させていますが、一時期国立大学の工学部の改組などがあったためとも考えられます。
これ以外で、特に入学者数を増加させている主要分野は、食物学(3,916人)や体育学(2,610人)、社会科学その他(2,431人)、教育学(2,054人)、哲学(1,805人)などがあります。一方、特に入学者数を減少させている主要分野は、土木建築工学(-3,679人)や機械工学(-2,660人)、史学(-1,614人)、数学(-1,421人)などがあります。どうも、一概に、文系だから入学者数が減少している、理系だから増加しているという状況ではなさそうです。
冒頭記事にある「最も専攻すべきではない学部」について、分類が難しいところではありますが、日本での状況をざっくり考えると以下のとおりになります。括弧内は日本で該当する分野であり、数値はH15からH25の増減数です。
10位 英語/英文学(文学:-8,518人)
9位 歴史(史学:-1,614人)
8位 商業美術/グラフィックデザイン(デザイン:-228人)
7位 フィットネス/レクリエーション(体育学:2,610人)
6位 音楽(音楽:-1,006人)
5位 教養(その他:20,656人)
4位 哲学/宗教(哲学:1,805人)
3位 美術(美術:-511人)
2位 映画/ビデオ/写真(芸術その他:928人)
1位 人類学/考古学(史学:-1,614人)
減ってるものもあり増えているものもあり、と言ったところでしょうか。なお、日本における学部別の進路決定率は、旺文社が公表しているようです。
就職率からは見えない大卒者の実情が分かる!「就職率」に代わる新たな指標「進路決定率」。2013年の大卒者のうち、就職者+進学者の割合=80.9 %|ニュースリリース|旺文社
日本の学科状況について、その構成比にあまり変化がなく、平均年収等社会環境にあまり影響を受けていないのではないかと考えられます。大学の専門分野と就職先に必ずしも関連性がないことはそのとおりですし、現状で各専攻分野別平均年収を調査したデータは見つけられませんでした。なお、文系出身者と理系出身者の平均年収については、(独)経済産業研究所のディスカッション・ペーパーが公表されています。
RIETI - 理系出身者と文系出身者の年収比較−JHPSデータに基づく分析結果−
また、冒頭の記事で言われている平均年収等について、受験生は大学・学部選択の際にどれほど考慮しているのでしょうか。ベネッセ総合研究所の第2回 大学生の学習・生活実態調査報告書には、第1章第1節に「図1-1-6 受験する大学・学部決定の際に重視した点」があります。それによれば、「興味のある学問分野があること」が重視した点で最も多く、「就職状況が良いこと」は第8位になっています。
第2回 大学生の学習・生活実態調査報告書[2012年] - ベネッセ教育総合研究所
新卒者を採用する企業側も、経団連のアンケートでは、新卒選考にあたって特に重視した点で「専門性」は低い数値です。
経団連:新卒採用(2012年4月入社対象)に関するアンケート調査結果の概要 (2012-07-30)
ここまで長々と書いてきてアレですが、少なくとも日本においては、学部専攻と就職先との関係性が明確にならない限り、冒頭記事で示された「専攻すべきではない学部」等はあまり意味はないと考えています。また、今回は学部の話でしたが、大学院での専門分野と就職先の関係についてはまた事情が違うのかなとも思います。このあたりは、また考えていきたいところです。