国立大学法人の基金に思う 〜寄附方法と寄附戦略〜

 法人化して以降、国立大学法人にとっては、国家の財政事情もあり、寄附金の重要性はますます高まっていると感じています。国立大学財務・経営センターが発行した「国立大学法人経営ハンドブック」第3集(平成20年3月)には、寄附金について、以下の記述があります。

(平成20年3月)「国立大学法人経営ハンドブック」 第3集

大学に対する寄付・募金活動は、大半の私立大学においては創設時から大学存立の基盤財源として継続的に組織的に取り組まれてきている。一方国立大学法人は法人化前では国家機関として国家予算で運営されていた経緯から、外部からの募金や寄付金獲得については特段の活動や対応は行われてこなかった。

 しかしながら法人化され、主要財源である国からの運営費交付金等の支援が年々抑制的になっている現状では、大学の教育や研究活動を充実させていく上で国以外の外部からの資金獲得が不可欠である。外部資金の中でも寄付金や募金はその使途や運営管理を大学で比較的自由に決められる財源として、今後その獲得を拡充すべき資金調達手段と考えられる。 

(1)基金

 大規模大学を中心に設置が進行しており、現在準備中の大学も相当数あると推測され、多くの国立大学において取り組みが行われている。寄付金を基金としてプールし、集まった資金の運用益で大学の教育、研究活動等に支援を行うことを目的としている。

 基金規模で最大と推測される東京大学基金の例では、平成16年10月から平成20年3月までの間に138億95百万円の寄付を集め、うち使途が特定されている寄付金76億39百万円と寄付活動経費5億8千万円、大学事業充当分1億16百万円を控除した55億59百万円が基金として積み立てられている。(出所;東大基金HP)

 記述中にもあるとおり、各法人においては、法人全体で寄附金を募りスケールメリットを活かした運用を行うため、「基金」を設けているところもあります。今回は国立大学法人の基金事情を見てみます。

 全86国立大学法人について、法人全体を対象とした基金を設けている法人、設けていない法人を計上したものを図1に示します。なお、この場合の「法人全体を対象とした基金を設けている法人」とは、大学公式ホームページのTOPページあるいはグローバルナビゲーションの「卒業生の方へ」「地域の方へ」等をクリックし、「基金」「支援事業」等のページが見つかった法人をさします。各学部事務部等を通じ各教員へ申し込まれる通常の奨学寄附金は該当しないと整理しています。あくまで独自調査であり、ホームページを通じてのみ簡単に判断した点に留意ください。(ただ、そもそも、寄附金を募っているのにホームページ上に明記していない、あるいはわかりにくいところに表示しているというものどうかと思いますが。)

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 図1から、全体の80%にあたる69法人において、法人全体を対象とした基金を設けていることがわかります。基金を設けていない17法人について、概ね教育単科大学や医系単科大学など、比較的規模の小さい法人でした。ただ、弘前大学茨城大学長崎大学宮崎大学琉球大学という中~大規模総合大学でも基金を設けていない法人があることは、少し意外でした。ただし、茨城大学では、教育研究目的でありませんが、以下の基金を設けているようです。

六角堂等復興基金の募集等について | 茨城大学

 茨城大学は、文部科学省茨城県北茨城市等の多くの関係機関のご協力を頂きながら、六角堂等を復興したいと考えております。これまでに多くの方々から多額のご寄付を頂き六角堂の復興の見通しが立つようになり、大変有り難く感謝しております。しかし、五浦地区の天心邸なども多大な被害を受けています。また、日本美術院研究所の再建や復興の記録を後世に残すための記念館の建設も視野に入れていきたいと思います。さらに、これらの文化財の維持管理にも努力していく必要があります。そのため、「茨城大学岡倉天心記念六角堂等復興基金」の募集を今しばらく継続していきたいと思います。 

 寄附をする側から見れば、寄附に係る手間は最小限にしたいですし、特に確定申告の時期に近いのであれば迅速な対応がありがたいですね。ということで、基金を設けている法人についてどのような寄附手段を設けているのか、見てみましょう。

 国立大学法人において恐らく最も通常の寄附方法と言えば、寄附者から法人に対し寄附金申込書を提出し、それを基に法人が振込用紙を作成・寄附者に送付し、寄付者は振込用紙に沿って寄附金を振り込むといった流れだと認識しています。書いているだけで手間が多いなと感じてしまいます。さらに、法人によっては、各部局へ申し込まれた寄附金について教授会等で審議を要する場合があり、申し込みから支払いまでのタイムラグが発生する可能性があります。

寄附金 - 横浜国立大学

名古屋大学寄附金受入規程

 (寄附金の申込み等)

第5条 寄附者は,別に定める寄附申込書(以下「申込書」という。)を部局長に提出する。

2 部局長は,寄附者から申込書の提出があったときは,教授会若しくはそれに代わる機関又は教授会等が認める審査機関(以下「教授会等」という。)において前条の基準によりその内容を審査し,支障がないと認められるときは,受入れの決定を行うものとする。ただし,第3条第2項第5号に該当する場合は,部局長はあらかじめ総長に協議し,承認を得た後その受入れの決定をするものとする。

 このような事情も考慮し、寄附金の受け入れ金額をより高めるため、最近はクレジットカード払いやコンビニ支払いができる法人も増えてきたようです。ということで、基金を設けている法人において、寄附金支払方法などがどのようになっているか、確認します。

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 図2に、基金を設けている法人のうち寄附申込みに対応したWEB入力フォームを設けている法人を示します。通常は紙媒体やメールでの申し込みであるものを利便性を高めるためWEB入力フォームを設けている法人を指し、基金を設けている法人全体の40%強にあたる33法人が該当しています。思いのほか多いな、という率直な印象を持ちました。後述しますが、クレジットカード払いに対応している法人は、システム上WEB入力フォームを設けています。しかし、クレジットカード払いに対応していない法人でもWEB入力フォームを設けており、従来紙媒体やワードファイル・pdfファイル等で対応していたものを寄附者の利便性や事務の省力化を考慮し、WEB上で対応可能にした法人も見受けられました。

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 図3に、基金を設けている法人のうちクレジットカードでの寄附を受け付けている法人を示します。基金を設けている法人全体の35%にあたる24法人が該当しています。これについては、もう少し伸びてもいいんじゃないかと思っています。私自身、クレジットカードで買い物することもありますし、寄附者の利便性を考えれば検討すべき事項ではないでしょうか。ただ、システム設計や業者との相談、導入後の保守など、すぐに決定できない要素はたくさんあると想像できます。

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 図4に、基金を設けている法人のうち担当部署への持参での寄附を認めると明記している法人を示します。基金を設けている法人全体の15%にあたる12法人が該当しています。直接持参するとはあまりイメージがわかないですが、広く手段を設けているという意味では、良いことかなと思います。

 なお、WEB入力フォーム、クレジットカード支払い、持参の3つ全てを満たしている法人は、一橋大学、金沢大学、島根大学の3法人でした。

 ここからは、各法人で特徴的だなと感じた寄附の形態等を紹介します。

ご寄附のお申し込み|筑波大学基金

 筑波大学基金(TSUKUBA FUTURESHIP)へのご寄附は、1回1,000円以上(クレジットカード及び給与控除によるご寄附の場合は、1口1,000円の複数口数)でお申し込み頂けます。

 給与・賞与からのご寄附【学内専用】

 筑波大学では、寄附紹介ページの中に「給与・賞与からのご寄附」という文言があります。学内からしか確認できないようですが、どのような仕組みになっているのでしょうか。

 なお、国立大学法人・大学共同利用機関法人の改革推進状況(平成23年度):文部科学省では、以下の取り組みも紹介されています。

 室蘭工業大学教育・研究振興会への寄附金の受入れを増加させるため、教職員の給与からの控除を可能とし、さらに一度の申込みにおいて複数月に渡る控除を可能とすることで、教職員がより寄附を行いやすい環境を整備している。【室蘭工業大学

峰が丘地域貢献ファンド | 宇都宮大学:UTSUNOMIYA UNIVERSITY

 峰が丘地域貢献ファンドは本学の地域連携のモットー「地域に学び、地域に返す、地域と大学の支え合い」を念頭に、本学学生を対象に、(1)地域型人材育成を目指すとともに、(2)地域型人材育成のための修学支援環境整備等に資するものです。こうした仕組みの創設は、国立大学法人初の試みです。

 宇都宮大学では、企業の協賛を得て、ファンドを運用しているようです。「国立大学法人初の試み」とあるとおり、あまり他では聞かない取り組みですね。

おつりを寄付する|寄付のしかた|東京大学基金

 「同窓会懇親会費の残金を寄付したい」、「ある同窓会では、母校を助けるために会費に1,000円か2,000円上乗せして集めている。東大の同窓会でもそうしたい」という幹事様からの問い合わせが増えてきています。

 「おつり+PLUS 募金」は、同窓会懇親会費の残金のご寄付や会費に母校への寄付を上乗せして集めていただけないかという同窓会幹事様へのご提案です。頂戴した寄付金は、懇親会参加者にお知らせできるよう東京大学基金ホームページにて、団体名・金額を掲示いたします。

 東京大学では、懇親会・同窓会費の剰余金を寄附に回すことを提案しています。少し趣旨が分かりにくいとも感じますが、実際にそのような問い合わせがあったのでしょうね。

京都大学基金「本de募金」

 京都大学「本de募金」とは、みなさまよりご提供いただいた書籍類(書籍・DVD・CDなど)の買取金額が、京都大学基金に全額寄附され、京都大学の教育・研究に役立てられるプロジェクトです。

 京都大学では、中古書籍等の買い取り金額を大学への寄附金に還流する制度を設けています。業者と連携することで引き取り・査定などはすべて業者に任せ法人はその買い取り金額を受領するのみというのは、良いアイデアだなと感じました。実際にどの程度の寄附金を受け入れているのか気になるところです。

 その他、東京工業大学お茶の水女子大学などでは、寄附金のWEB受け付けやクレジットカード払いを検討しているようですね。

寄附金関係の税制について:文部科学省

 教育、文化、スポーツ、科学技術・学術等の振興を図るには、公的な助成のみならず、民間からの寄附等による支援を促進していくことが重要です

 このため、個人や法人が行った国や地方公共団体に対する寄附金のみならず、国立大学法人公立大学法人大学共同利用機関法人等 (これらを総称して「公共法人」という。以下同じ。)に対する寄附金、学校法人や独立行政法人、一定の認定を受けた特例民法法人(「特定公益増進法人」(※)という。以下同じ。)等に対する寄附金については、以下の通り税制上の優遇措置が講じられています。

 大学への寄附は、税制上の優遇措置を受けることができます。また、文部科学省は、奨学寄付金の受け入れ拡大を図り、平成26年度税制改正要望において国立大学法人等への個人寄附に係る税額控除の導入等を要望しました。(結局採用はされませんでしたが。。。)

平成26年度税制改正要望(文部科学省) : 財務省

国立大学法人等への個人寄附に係る税額控除の導入等(文部科学省

 このような寄附について、寄附の手段や寄附金額、寄附者の属性(年齢、職業、居住地など)などの関係を分析すれば、より効果的な寄附戦略が立てられるかもしれないなと思っています。寄附や資金源開拓における戦略の重要性については、「ドラッカー名著集 4 非営利組織の経営」の中で詳しく述べられています。直接大学に当てはまるものばかりではありませんが、非常に参考になると思います。

 また、今回各法人のホームページを網羅的にチェックした結果、寄附金の使い方やその効果・成果の公表など、必ずしも明らかではない法人も散見しました。このような日本の大学の状況について、東京大学教授の小林雅之は、以下の通り述べています。

私学高等教育研究所 :アルカディア学報|日本私立大学協会

 調査した大学から得られた、日本の大学にとってのインプリケーションは、限られた紙幅のなかでとうてい述べることはできない。ひとつだけ財務基盤の強化に関連していえば、寄付募集は単なる収益の増加手段ではないと考えられていることである。寄付募集は、大学と社会のコミュニケーションとして重視されている。さらに、寄付募集は、学生の雇用や大学の社会貢献に大きな役割を持っている。また、一回きりの大口の寄付より小口でも毎年寄付してくれる方が大学経営にとって重要で、同窓会の活用が鍵となっている。理事にも寄付をしてくれそうな人だけでなく、より重要な理事の要件として、寄付募集を積極的に行ってくれそうな人を選んでいる。

 こうしたアメリカの大学の寄付募集戦略に比べると、私たちが実施した寄付募集アンケートで見る限り、日本の大学はそこまで認識していないようだ。周年事業などの募集が多く、一回きりの大口募集になりやすい。また,周年というだけで、寄付がどのように使われるかの説明も不十分である。寄付する者にとっては、何に使われるかが最も重要なことだ。

 「攻めの寄附戦略」に向けて、できることはまだまだたくさんあるのかなと考えています。