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コミュニティカレッジリーダーのコンピテンシーに思う 〜学長に求められる行動とは〜

大学一般

学長選考の混乱に思う 〜「参考」ではない意向投票とは〜 - 大学職員の書き散らかしBLOG

 前回のBLOG記事にて、学長選考には学長のコンピテンシーを示さなければならないと書きました。今回はそのお話し。

コンピテンシー - Wikipedia

 コンピテンシーとは行動特性のことであり、「学長のコンピテンシー」とは平たく言えば「学長とはどのような行動を求められているのか」ということです。「学長」を役職ではなく、一つの職業として捉えた場合、その役割や行動は一つの大学に留まることなく全学長に対し一定程度の共通性があるものと考えます。つまり、個人の特性のみではなく、あまねく学長(少なくとも同程度の規模やミッションを持つ大学の学長)に共通の行動特性があるのではないでしょうか。しかし、日本では複数の大学の学長を経験した者がそれほど多くないと推測できることもあり、学長の行動特性についてあまり先行研究がないという印象です。名古屋大学高等教育研究センターが出版している「名古屋高等教育研究」の第12号には、国立大学副学長に関する論文が掲載されています。

 名古屋大学 高等教育研究センター

 そんな中、アメリカのコミュニティカレッジの団体であるThe American Association of Community Colleges (AACC) では、Competencies for Community College Leadersとして、コミュニティカレッジのリーダー(つまり学長。以下CCL)に求められるコンピテンシーを公表しています。

Publications and Resources

 以下は、ざっくりとした意訳です。

  • Organizational Strategy

 優れたCCLは教育機関としての質を戦略的に向上させ、組織の健全性を保ち、全ての学生の成長を促し、知識や環境や今後の動向を基にした組織のミッションの達成を支える。

・教育の質と機関の健全性を常にモニタリングし改善することで、戦略を策定・実行・評価します。

・問題を解決し、意思決定を行い、戦略的な計画を立てるため、学内外の関係者から収集したデータによる根拠や実績のある実践を活用する。

・人口の変化に合わせ学生や地域社会から要求される組織文化や経済、政治、公衆衛生の変化を判断し対応する観点から、仕組みを活用する。

・イノベーションやチームワーク、十分な成果を支援するため、前向きな環境を整備する。

・大学の人的財的資源や資産を維持し育てる。

・組織のミッション、構造、資源を大学のマスタープランに合わせ調整する。

  • Resource Management

 優れたCCLは、大学のミッションやビジョン、ゴールを達成するため、公平かつ倫理的に人々や行程、情報、資産を維持する。

・報告することにより説明責任を保証する。

・情報リソースを管理し、報告が上がってくるシステムやデータベースの整合性の確認や調整により、事業の意思決定を支援する。

・大学のマスタープランや地域、州、国の政策と合致する評価や計画、予算、取得、割当する資源を開発し管理する。

・倫理的な新たな財政基盤を探すという起業家精神を持つ。

・プログラムやサービス、スタッフ、教授団を支援するための財政的な戦略をとる。

・構成員のプロフェッショナルとしての能力育成のため、スタッフの募集や採用、報酬に係る人材システムや能力管理システムを導入する。

・時間管理や計画、業務委任を組織的に採用する。

・組織の長期的な存続のため、様々な形の争いや変化を管理する。

  • Communication

 優れたCCLは、学生の成功と大学のミッションの達成に向け、全ての構成員や地域社会と率直で積極的な対話をするため、明瞭な傾聴力、話力、執筆力を持つ。

・学内外の関係者と共有した明瞭で素晴らしいミッション、ビジョン、バリューを、関係者に合わせ適切に発信する。

・政策や戦略を普及させるとともにそれを支援する。

・資源や優先順位、将来展望に関するオープンな交流をつくりあげ、それを維持する。

・役員会や関係者に向け、メディアや様々な手段を通じ、簡潔かつ頻繁、全方位的に考えや情報を伝える。

・理解し、分析し、関係し、行動するために、積極的に傾聴する。

・信頼を伝え、責任と機転を持って対応する。

  • Collaboration

 優れたCCLは、多様性を育み、学生の成功を促し、大学のミッション達成を支えるため、共感し、協力し、双方に利益があり、倫理的な学内外の関係をつくり、維持します。

・個性や文化、価値、考え、コミュニケーションスタイルの多様性を受け入れます。

・国際社会に対応した異文化適応力を示します。

・相互利益をもたらす働きに向け、学生や教授団、スタッフ、地域社会の住民の関わりを促進する。

・大学のミッション、ビジョン、ゴールの達成のため、ネットワークや関係性を構築し、影響を行使する。

・国会議員や役員会、ビジネスリーダー、認証評価機関などのグループに対し、効果的かつ外交的に働きかける。

・建設的な関係性を構築し維持することにより、争いや変化を管理する。

・チームワークと協力体制を発展させ、高め、維持する。

・問題解決と意思決定を分配することで、それを容易にする。

  • Community College Advocacy

 優秀なCCLは大学のミッション、ビジョン、ゴールを理解し、取り組み、主張する。

・多様性や包容性、公平性、学術的な素晴らしさを価値付け、推進する。

・教育や学習の奨励を通じて、大学のミッションや学生の成功へ関わるとともに情熱を示す。

・変化を理解し全てのステークホルダーとの議論を促進することで、大学の主たるゴールである公平性や公共性、教育、学習、イノベーションを推進する。

・全ての構成員に対し大学のミッションを提唱し、その達成に向け力を与える。

・生涯学習を推進し、学習者を中心とした学習環境を整備する。

・政府の多様なレベルにおいて、幅広い教育界や地方社会の大学の代表者として顔を出すとともに、国際的に通用する高等教育モデルであることを示す。

  • Professionalism

 優れたCCLは、自己と他者のために高い基準を設定するとともに、継続的に自己と環境を改善し、機関の説明責任を実証し、大学と地域社会の長期的な存続を保証するために、倫理的に行動する。

・信頼、創造性、ビジョンを通じて変革のリーダーシップを発揮する。

・大学の歴史、哲学、文化を理解し、支持する。

・フィードバックや内省、ゴールの設定、評価を通じ、常に行動を自己評価する。

・自己及び他者のためにも、生涯学習を支援する。

・セルフケアやバランス、適応性、柔軟性、ユーモアを通じてストレスを管理する。

・リスクを取ることや難しい決定をすること、責任を受け入れることにより勇気を示す。

・自己と他者の感情や世界観、認識の衝突を理解する。

・個人的や組織的な誠実さや正直さ、人々への尊敬を高いレベルで推進し維持する。

・教授・学習や知識の交換過程において、影響力と権力を賢明に使用する。

意思決定の際、短期的および長期的なゴールをよく考える。

・専門的な開発プログラム、専門的な組織リーダーシップ、および研究/出版物を通じて、リーダーという職業に貢献する。 

  これらについては、実際のコミュニティカレッジにおける状況等検証する論文も出ており、サンプル数が少ないながらも、良い結果が出ているようです。

The competencies for community college leaders: Community college presidents' and trustee board chairpersons' perspectives (A.Hasson,  (2008), Graduate School Theses and Dissertations.)

http://scholarcommons.usf.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1283&context=etd

 これが答えだという訳ではありませんしだいぶ抽象的なところもあります。しかし、日本の大学にも合う部分もありますし、考えのきっかけとしては良いかなと思っています。

 コンピテンシーの内容以上に印象に残ったのは、「リーダーシップは学ぶことができる。(Leadership can be learned.)」と繰り返し述べられていることです。この点は日本とだいぶ違うと思っており、学長のリーダーシップ向上に向けて取り組んでいくべきだと感じています。コンピテンシーの中にも「自己及び他者のためにも、生涯学習を支援する。(Support lifelong learning for self and others.)」とあるのは、教育機関としての大学の本懐でしょう。

 最近は学長のリーダーシップばかり言われてますが、リーダーシップを発揮するためにどのように行動するのか、学長だけが考えれば良い問題でもないなと感じています。