(10月10日更新)中教審グランドデザイン答申(案)への2,3の所感

(10月10日更新)

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「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申(案))」に関する意見募集の実施について

 本件に関するパブリックコメントが募集されています。提出締切は10月26日です。

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大学分科会(第143回)・将来構想部会(第9期~)(第26回)合同会議 配付資料:文部科学省

 中央教育審議会の会議資料が公表されており、その中で「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申案)」(以下、「本答申案」と言う。)があります。これは、平成29年3月の文部科学大臣からの「我が国の高等教育に関する将来構想について(諮問)」を受けての答申です。

 これは今後の大学教育や大学設置、大学規模等に係る非常に重要な答申です。前回と同じく、ザッと眺めて気づいた点や疑問点を以下に記しておきます。

誰に向けた文章なのか

 中央教育審議会が行う答申とは文部科学大臣からの諮問を受けたものであり、基本的に答申の受け手は文部科学大臣であろうと思います。一方で、答申はその後の政策誘導や規制緩和につながるものであり、大学関係者等も注目しているものである。

 本答申案は、大学運営や大学教育の微に入り細に入り記載されており、まるで大学に対する指南書のようになっています。

本答申が提言した高等教育のグランドデザインは、全ての学修者が自らの能力の伸長を実感できる高等教育改革の実現であり、それができない機関は社会からの厳しい評価を受けることとなり、その結果として撤退に至ることもあり得ることを覚悟しなければならない。(P49)

と大臣相手に凄んでみても仕方なく、答申の書き方として合致しているのかどうか私にはわかりませんでした。

学修者とは誰か

 本答申案は、

高等教育は、学修者が、予測困難時代に自らの能力を最大限に発揮し、多様な価値観を持つ人材が協働して社会と世界に貢献していくため、学修者にとっての「知識の共通基盤」 となるという視点に立ち、「何を学び、身に付けることができるのか」を中軸に据えた多様性と柔軟性を持った高等教育への転換を引き続き図っていく必要がある。(P7)

とし、学修者中心主義への転換を述べています。その通りに、答申案には「学修者」と言う言葉が26ヶ所も出てきます。

 ただ、これだけ学修者中心主義を打ち出しつつも、そもそも「学修者」とはどのような者を指すのかが全く述べられていません。どのような属性や意欲、能力などを持つ者をこの答申案で学修者と言っているのか、単純に入学者のことなのか、学修者中心主義を掲げつつもその「学修者」が定義されていないため全体的に空虚に感じます。

超人を育てるのか

 本答申案では、今後必要な人材として、

予測困難な時代の到来を見据えた場合、専攻分野についての専門性を有するだけではな く、思考力、判断力、俯瞰力、表現力の基盤の上に、幅広い教養を身に付け、高い公共性・倫理性を保持しつつ、時代の変化に合わせて積極的に社会を支え、論理的思考力を持って社会を改善していく資質を有する人材、すなわち「21 世紀型市民(「我が国の高等教育の将来像(平成17 年1月28 日 中央教育審議会答申)」以下「将来像答申」という。)」 が多く誕生し、変化を受容し、ジレンマを克服しつつ、さらに新しい価値を創造しながら、様々な分野で多様性を持って活躍していることが必要である。

特に、AI などの技術革新が進んでいく中においては、新しい技術を使っていく側として、読解力や数学的思考力を含む基礎的で普遍的な知識・理解と汎用的な技能を持ち、その知識や技能を活用でき、技術革新と価値創造の源となる飛躍知の発見・創造など新たな社会を牽引する能力が求められる。(P5) 

と述べられています。

 これを見ただけで、こんな人間いるわけないだろとツッコミたくなりました(現に弊記事でツッコんでいるわけですが…)。必要な能力を、その水準や測定方法等も考慮せず、とりあえず盛ったと言う印象です。これを審議している中教審委員や文科省官僚の皆さんはこの能力を全てお持ちなのでしょうか、また、ご自身のお子さんなどには、これらの能力を全て身に付けるように育てられているのでしょうか。

地域社会への丸投げではないか

 本答申案では、地域における高等教育の将来像として、

高等教育の将来像を国が示すだけではなく、それぞれの地域において、高等教育機関が産業界や地方公共団体を巻き込んで、それぞれの将来像が議論されるべき時代を迎えていると考えられる。(P39)

とし、

地域の単位は、各高等教育機関が結びつきの強い地域を中心に、歴史や文化に裏打ちされた、経済圏や生活圏といった関わりで捉えることが適切である。その際は、必要な関係者と議論していく必要がある。

そのために、地域の高等教育機関が高等教育という役割を越えて、地域社会の核となり、産業界や地方公共団体とともに将来像の議論や具体的な連携・交流等の方策について議論する「地域連携プラットフォーム(仮称)」を構築することが必要である。(略)その際には、地域の高等教育機関の経営戦略が重要であり、学長等、トップの力量と覚悟が求められる。(P39)

としています。

 ただ、地域連携プラットフォーム(仮称)はどのような姿であるのか本答申案では十分に語られず、同プラットフォームに関する国の関与としても情報収集・提供や精度整備などを記すに留まっています。これは、実質的に、グランドデザインの地域社会への丸投げではないかと考えます。

 現実として、各大学は他大学を総括するような気概もそのために費やせる労力・コストもなく、都道府県市町村も大学行政は所管外であるため非常に及び腰であると言う印象があります(一部の地域は異なるのかもしれませんが…)。大学行政を都道府県や道州の所管とするなど大胆な権限移譲を行わなければ、各地方が一律に高等教育の将来構想を行うことは難しいのかもしれません。

再設置認可申請への布石か

 本答申案では、国が行う質保証システムの改善として設置審査と認証評価の関係について述べられており、

現在の設置基準を時代に即したものとして、 例えば、定員管理、教育手法、施設設備等について、時代の変化や情報技術の進歩、大学教育の進展を踏まえ、学生/教員比率の設定や、編入学や転入学などの学生の流動性への対応、教育課程を踏まえた教員組織の在り方、情報通信技術を活用した授業を行う際の施設設備の在り方など、抜本的に見直す必要がある。 なお、この見直しについては、新たに設置される大学のみならず、既存の大学も含んだ全ての大学を対象として、我が国の大学教育全体の質保証を担保する観点から行うものであり、今後、専門的な審議を経た上で行うべきである。(P30)

と設置基準の見直しに関する言及があります。

 ここで注目したいのは、「全ての大学を対象として」と言う点です。まさに、教育職員免許法改正に伴う再課程認定と同様に、全ての大学等を対象として再設置認可申請の可能性を感じさせるものだとニヤニヤしました。まぁ流石にそのようなことにはならないだろうと思いますが、設置基準が大きく変わったときに既存の大学がどのような影響を受けるのかは注視しておく必要がありますね。

国の役割とは何か

 高等教育への投資における国の役割として、

いかに高等教育機関が社会に貢献し、その便益を高めていくか、 また、それにより得られる経済効果をいかに高等教育に還元していくか、ということを示しつつ、必要な投資を得られる機運の醸成を国は後押ししていく必要がある。(P47)

とあります。

 この部分は本当に驚きました。本来、今後の国の教育政策を示すべき答申において、国の役割は機運醸成の後押しであると精神論で押し通そうとしています。ここは、高等教育に必要な投資につながるような政策の方向性を示してほしかったです。

 一応、この後の部分では給付型奨学金の拡充等に触れつつ、

高等教育における教育や研究への投資の在り方や、限られた財源の中で、公的な支援、民間からの投資と社会からの寄附等の支援、個人負担のバランスの在り方について、国のあるべき姿の一環として引き続き、議論をしていく必要がある。(P47)

と引き続き検討していくべきとしています。

視点が様々で構成が不明

 全体的に、大学規模や将来構想といった大きな話と、大学教育の手法や教育情報公開といった細かい話が同一に語られており、構成のレイヤーに統一性が無いように感じました。恐らく、審議会の中であった様々な話を詰め込んだ結果なのだろうと思います。

 答申案が示された段階で、委員から「多様な議論をまとめていただきありがとございます」のような発言が出ることがありますが、答申として多様な意見をただ”まとめる”ことが良いことなのかは、私にはわかりません。

些細な点ですが

教学マネジメントの確立に当たっては、個別の教育改革に係る手法を効果的に活用しつつ、各大学が学長のリーダーシップの下で、卒業認定・ 学位授与の方針、教育課程編成・実施の方針、入学者受入れの方針(以下「三つの方針」 という。)に基づく体系的で組織的な大学教育を、学位を与える課程(プログラム)共通の考え方や尺度(アセスメント・ポリシー)を踏まえた点検・評価を通じて、不断の改善に取り組むことが必要である。(P28)

とありますが、「尺度(アセスメント・ポリシー)」と言う言葉の使い方には非常に違和感があります。

 質的転換答申の用語集では、

【アセスメント・ポリシー】

学生の学修成果の評価(アセスメント)について、その目的、達成すべき質的水準及び具体的実施方法などについて定めた学内の方針。英国では、高等教育質保証機構(QAA:Quality Assura nce Agency for Higher Education)が中心となって質保証に関する規範を策定し、各大学が満たすべきアセスメントの質的水準や手法などについて規定している。各大学では、これを踏まえて学内の方針を定めている。

とあり、これを尺度と捉えるには無理があると感じます。せめて、評価の方針(アセスメント・ポリシー)や学修成果の点検方針(アセスメント・ポリシー)でしょうか。