一般社団法人「大学等連携推進法人(仮称)」は現状では空想上の産物であると言わざるを得ない。

地域別の新法人で国公私立大学を一体運営、文部科学省が提案 | 大学ジャーナルオンライン

文部科学省は、地域の国公私立大学が新法人を設立し、一体運営できる新制度案を中央教育審議会の将来構想部会に提示した。大学の強みや特色を生かした連携を実現するためとしているが、18歳人口の減少で地方の大学を中心に経営危機に陥るところが続出するとみられることから、大学の統合推進も視野に入れているもようだ。文科省によると、新法人は一般社団法人「大学等連携推進法人(仮称)」で、文科相の認定で設立される。各大学の学長らが理事として運営に参加し、事務の共同化や役割分担を進めて効率的な運営を目指す。

 少し古い話ですが、大学間連携の新たな形として一般社団法人「大学等連携推進法人(仮称)」が検討されている記事が出ていました。本記事は、岐阜大学名古屋大学との法人連携と同タイミングで公表されたため、大学間連携の様々な形が一気に出てきたなと感じたことを覚えています。なお、当該資料は、将来構想部会(第9期~)(第15回) 配付資料:文部科学省にて提示されたものです。

 本件については、すでに批判的な意見も見られます。

大学の連携強化方策はどこがおかしいか?(1): NUPSパンダのブログ

文科省が発表した「2020年大学改革」驚きの中身(ドクターZ) | 現代ビジネス | 講談社(1/2)

 私もかなり本件については懐疑的に見ています。何というか、空想上の産物だなという印象です。

 基本的には、NUPSパンダさんが述べていたことと同様の懸念を持っています。私も「なぜ一般社団法人なのか?」が非常に気になるところです。設置者を超えた連携がどこまで可能なのかなどの法令上の問題もありますが、特に一般社団法人の性質から本件を考えてみます。

一般社団法人とは

 一般社団法人とは、2008年に改正された改正前民法第38条に規定されていた社団法人の流れをくみ、2008年に施行された一般社団法人及び一般財団法人に関する法律に規定される非営利法人のことです。当時は、2013年の移行期間終了後までに全ての財団法人や社団法人が、公益法人か一般法人か解散かを選択しなけれならないと騒いでいたことを記憶しています。

 一般社団法人の特徴として、登記により簡便に法人格を取得できること、構成員は社員となり社員総会や理事が必置であること、非営利であるため利益や剰余金の分配ができないこと、基金制度があることなどが挙げられます。詳しくは、以下を参照ください。

一般社団法人とは? | 一般社団法人設立.net

法務省:一般社団法人及び一般財団法人制度Q&A

 対応すべき業務については、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律に定められている通り、社員総会に関する事務や会計処理に関する事務など、細かく規定されています。

一般社団法人における懸念

 前述の通り、一般社団法人は剰余金を分配することができません。そのため、社員(各大学法人等)からの拠出金は、当該一般社団法人が保持することになります。例えば、毎年度剰余金を分配して拠出金と相殺することは不可能です。資金が貯まるという事は、当然それを用いた事業を行わなければなりません。

 事業を行うとなると、対応すべき人員確保や種々の経費、手続きが生じます。さらに、前述の通り会議の手続きや作成・保管・公表すべき会計書類なども煩雑となります。つまり、一般社団法人を立ち上げるのみではなく、維持することも相当程度の人的経済的時間的コストが発生すると考えて良いでしょう。

 各大学等が厳しい環境に晒されているこのご時世に、効果があるかどうかわからない法人を設立し、相応のコスト負担することに何の意味があるのでしょうか。少なくとも、資料に例示されている事業は任意団体でもできるものばかりであり、法人化するメリットが感じられません。

大学間連携は優しさだけではできない

 将来構想部会の資料に書かれた事は、全体的に、地域における大学間連携を甘く見ているのではないかと感じました。各法人が「地域の高等教育の振興のためにここはうちが譲りましょう、撤退しましょう」などと言う全体最適を志向している様にも読み取れましたが、私の経験上からはそれは全くのファンタジーであると断言できます。

 もちろん、地域社会のために各大学が少しづつ負担し合い大学間連携に取り組んでいるところや事業もあります。ただ、費用や人員、補助金などの経営問題に関連した途端、各法人のエゴにより、各法人がいかに連携を利用するか、あるいは見捨てる(関与しないように立ち回る)かが表出化します。緩やかな連携は途端に弱肉強食化し、各法人は連携を無視してでも弱肉とならないような戦略を取ります。

 例えば、中央省庁が寄り合って業務調整を行う際、文科省が自ら「社会人基礎力を養成するため、高等教育の所管を経産省に渡します。観光収入を上げるため、文化財の所管を経産省に渡します。」と言うことがないのと同様です。法人同士の合併もありますが、それは個々の交渉の末生まれるものであり、全体の中から自然発生するものではないでしょう。

 本件が成功する可能性があるとすれば、大学等の所管を都道府県に移すことです。これにより、都道府県が自らの地域の高等教育をより真剣に検討しなければならないこととなり、各法人によってはより近しい位置からの外圧が生じることになります。ただ、現行の都道府県の体制などを見ると、それはほぼ不可能だろうとも思います。

 何にせよ、一法人複数国立大学制度や学部単位での譲渡に比べて、ちょっと空想が過ぎるんじゃないんですかね、と言うのは現在の私の印象です。