地域における国立大学の役割に思う その2

(前回から続く)

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 図5に、大学と地域との交流の障害について大学側に問題があると回答した要因の割合を示します。概ね各大学が同様の傾向を示し、問5「教員の研究分野・研究課題が分かりづらい・PR不足」が3大学との高いポジティブ回答割合を示しています。国立大学の広報については常にいろいろと意見をいただいているところであり、大学側も頑張っているとは思うのですがまだまだということなのでしょうか。しかし、このような意見を目にするたび、一体どのような状態になれば大学側のPRが十分だと判断してもらえるのか考えてしまいます。業務で広報活動に関わることがあるのですが、そのたびにどれだけ頑張っても埋まらない溝があるのではないかと感じているところです。

 さて、一部設問において異なる傾向を示す大学があります。問1「地域交流のビジョンが十分でない」問3「教員に地域交流への関心が低く、必要性がないと思われている」について、岩手大学は他大学よりもポジティブな回答の割合が少なく、比較的有識者からは地域交流のビジョンを持ち各教員も関心を持って地域交流に参加してもらっていると思われているようです。前回に述べたとおり、岩手大学の地域交流の取組が浸透している可能性を示唆すると考えます。

 また、広島大学については、問6「地元から見てまだ敷居が高いと思われている」のポジティブ回答の割合が高く、敷居が高いと思われていることがわかります。一般的な傾向として、大規模・研究志向になるについて敷居が高いと思われていくことは容易に想像できますので、広島大学もこのような観点から敷居が高いと思われているのでしょう。一方で、問4「地域のニーズに応えるような特色ある研究が少ない」については、広島大学はポジティブ回答が低い割合を示しており、広島大学のシーズを評価していることがわかります。有効性は理解しているけれども、敷居は高いと感じているのでしょうね。

 なお、問8「立地的に遠い」については、広島大学がダントツに高いポジティブ回答割合を示しています。3大学の中では岩手大学が最寄り駅から最も近く来るまで10分間程度、広島大学香川大学はキャンパスが複数ありますがどこも車で15~30分間程度であり、広島大学だけがものすごく遠いわけではありません。これは、過去に行われたキャンパス移転の影響ではないかと考えます。広島大学の東広島キャンパスは、平成7年に広島市街にあった学部等が段階的移転して形成されました。年配の有識者にとっては、広島市内にあった広島大学というイメージが強く、現在の広島大学が非常に遠く感じているのかもしれません。広島大学を訪れた際は駅からバスで20分程度という若干遠いかなと思ったぐらいでしたが、以前の姿を知っている方にとってはかなり遠く感じるのでしょうね。

 その他、全般的に香川大学のポジティブ割合が比較的高く、有識者からは地域交流に課題があると認識されている可能性が示唆されます。前回言及したとおり有識者からは香川大学はローカルな大学であると認識されているようですが、その評価を得るためにはまだまだ課題は多いと認識されているのかもしれません。

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 図6に、大学と地域との交流の障害について地域側に問題があると回答した要因の割合を示します。図6から、各大学ともほぼ同じ傾向を示していることがわかります。地域側の問題は大学が変わろうとも有識者は同じように認識していることが示唆されます。中央の大学や公立大学があるからと言って地方国立大学を必要としていないわけではないと思いつつも、ビジョンや予算、ノウハウの面で地域側が抱える課題は大きいといったところでしょうか。

 図5及び6から、各大学が概ね同様の傾向が見られるものの、一部設問については各大学の状況が影響していることが分かります。また、地域交流について有識者は、大学側の課題だけではなく、地域側にも課題があると認識していることが分かります。総じて見ると、各大学の回答割合が同一の傾向を示しており、地方国立大学に対する有識者の認識の相場観を図れることが示唆されます。

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 図7に、当該大学の今後の在り方について有識者の回答割合を示します。(A)が地域を考慮した在り方、(B)が地域を考慮しない在り方です。図7から、各大学同じような傾向を示しているものの、一部設問において広島大学だけが特有の傾向を示していることが分かります。具体的には、問1、2、3は(B)寄りの回答が多く、有識者広島大学に対し地域だけではなく大学の独自性や全国への展開も望んでいると考えられます。これは大学自体の規模感にもよるところが大きいのでしょう。ただ、問6「教員は、積極的に地域と交流すべきだ」についても高い回答割合を示しているため、地域レベルと全国・世界レベルとの両立を求められているとも読み取れます。

 (A)と(B)両方を行うべきと回答した割合が最も高かったのは、問3「(A)地域に貢献できるユニークな研究領域を開発するべきだ(B)地域社会にとらわれることなく、全国的・世界的な研究を発展させるべきだ」の香川大学でした。研究活動において地域や全国・世界を明確に分けられるものでもないと思いますが、それにしても幅広い研究活動を求められていることが分かります。香川大学のような学部数5〜10で医学部を持つ地方国立大学はたくさんありますが、それらについてはその中規模感故に様々な機能が求められており、現実のポテンシャルを超える要求に苦慮しているという話も聞きます。運営費交付金の配分方式が大学の機能別分化に基づいていくなかでどのような選択が取れるのか、難しい問題だと感じています。

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 図8に、有識者が当該大学に将来期待することの回答割合を示します。図8から、概ね各大学同じような傾向を示していることが分かります。問5「大学の情報をより広く開示する」が全大学もっと高いポジティブ回答を示しており、問5「教員の研究分野・研究課題が分かりづらい・PR不足」と合わせて、大学のことをもっと発信してほしいと要求されていることがわかります。ただし、前述の通り、何がどのようになればそれが達成されるのかはちょっとイメージできないところです。

 問8「研究大学として大学院教育を充実させる」については、やはり広島大学のポジティブ回答が比較的高い割合を示していますね。また、同設問に対し岩手大学香川大学も比較的高いポジティブ回答の傾向を示しており、地域に一つの国立大学として大学院教育、研究活動も期待されていることが伺えます。

 前回と合わせ、ここまで各地方の有識者が各地方国立大学をどのように見ているのか検討してきました。異なる分野の有識者をまとめて比較するという若干無理矢理な方法ながら、4大学や3大学の比較から、対象大学が異なっていても有識者の回答の傾向がほぼ同一であること、一部回答の傾向には大学の特色が現れることが確認できました。個人的には、回答の傾向がかなり同一であること、有識者は大学側のみならず地域側にも交流の阻害要因を認識していることが意外でしたね。地方国立大学がどのように見られているのかは案外どこも同じであり、本報告書の内容がその相場観を示しているかもしれないという感触が得られたことは収穫でした。

 次回は、本報告書中自治体調査の結果を分析してみます。