情報伝達の齟齬をどのように防ぐか 〜区分すべき3つの事柄〜

 そろそろ夏期休暇が明けた方も多いかもしれません。どうにも夏らしくない天気が続きましたので、そろそろ晴れてほしいところですね。さて、今回は、私が業務上気をつけているある考え方についてです。

 当たり前ですが、自分一人では業務はできず、他者と連絡・協力等しながら日々の業務に取り組むことになります。他部署の職員や教員、学外者などに対し、説明をしたり依頼をしたり、逆に説明を受けたり依頼を受けたりということは日常茶飯事ですね。あるいは、以前弊BLOG(会議の事務局としての裏方ファシリテーションの手法 )で言及したような会議を通じた業務ということもあると思います。

 このように他者との情報伝達が業務の基本になるからこそ、伝達の齟齬や思い違いなどが発生し、かつそれが業務の妨げになるということはきっと誰もが体験したことがあるでしょうし、私自身も何度も経験があります。どのような情報を伝達齟齬を避け、適切に自分自身の考えを相手に伝える、あるいは相手の考えを把握するためには、どのような点に注意すれば良いでしょうか。

 日頃、自分が何かを説明したり依頼したり、あるいは説明を受けたり依頼を受けたりする際に意識していることは、「事実、考え、思いを区分する。」ということです。当然のことと言われそうですが、意識しないとなかなか難しいことなんですよね。

 「事実」とは、例えば学校基本調査の数値やアンケート結果などある特定の方法・調査等により把握した実態や公式文書、電子メールなどある程度形に残っており解釈の余地が入らない一次情報だと考えています。「だれだれさんがいついつにこういうことを発言した」という過去の言動も(確認性が低い場合もありますが)事実と判断して良いと思います。

 一方、「考え」とは、事実を基に思考した結果だと認識しています。例えば、学校基本調査の結果を経年で並べ「一定で推移している」というのは「考え」です。結果を経年で並べただけならば「事実」ですが、それを見て何かを考え判断し外化するというプロセスは事実を基に思考した結果と言えますね。場合によっては、複数の事実を基に考えが導かれる場合もあります。ただ、あくまで事実のみから判断するという限定的な前提が大切であり、学内事情など無象の情報を含めないことに留意が必要です。そうしないと、事実と考えの関係性が不明になり、他者から見たときにどのような理由でその考えに至ったのかがわからなくなります。

 「思い」とは、「考え」で明らかにした思考結果に加え、「事実」以外の無象な情報、感覚・勘、あるいは気分など様々な情報を加味し、「〜〜したい」「〜〜が良い」などの判断に至ることです。具体的な行動に繋がるという点では、客観的だった前2つのプロセスよりも、より主観的な判断だと思って良いでしょう。

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 これら3つを図に示します。自分が伝えている情報、相手から伝えられている情報はどの属性のものなのかということを認識し、説得力をもって提案等に繋げていきたいですね。

 もう少し具体的に、例えば規程を変更する場合を考えてみます。

 まずは、自大学の規程と国の規制、他大学の規程を比較することが必要ですね。各条文において比較表を作成すれば、より違いが分かりやすくなるでしょう。また、規程で想定される業務工程・スケジュールと実際の工程・スケジュールを並べて表示しても良いかもしれません。何にせよ、ここではあくまで実態をわかりやすく並べて表示しているだけですので、「事実」ということですね。

 このような比較表を作ると、どの点が同じで違うのかがはっきりします。「本学は〜〜大学に比べて〜〜という視点が欠けている。」「規程での想定に比べ、〜〜という工程がスムーズに流れていないようだ。」ということが考えられます。

 ここまで考えてさぁどうしようとなったとき、単純に他大学に合わせるという理由だけでは規程を変更することはできないのは想像に難くありません。大学の特性やリソースも違うでしょうし、自大学に合った形を見つけなければなりません。例えば、前段で明らかになった相違点を解消するための変更もあり得るでしょうし、あるいは何も変えないこともあり得ます。「考え」の結果に従うだけではなく、様々な情報を加味して主体的に判断を行うということが「思い」になります。

 このような意志決定に至るプロセスは、有効に働けば非常に説得力を持った言説を展開できます。ただ、特に「考え」から「思い」に至るプロセスにおいては、判断に影響を与えた「事実」とは異なる事象が何なのかを可能な限り明確にした方が良いでしょう。そうしないと、他者に対し説得力を持った提案ができないでしょうね。

 会議等で提案する場合、「事実」段階の資料をどれほど出すかは考える余地があります。会議資料の量と様々なコストは、多くの場合トレードオフの関係にありますし、数値や文言が羅列された資料を出してもどれほど意志決定に資するのかということも疑問です。手持ち資料として質問に備えるか、出すにしても重要なポイントが分かるよう色づけするなど工夫が必要でしょう。

 提案を行うのではなく、依頼を受ける場合においては、特に「事実」の確認が大切だという認識です。使い古されたフレームワークですが、まずは5W1Hの事実を確認するということでしょうか。

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 例えば、何らかの依頼事項に対する事実確認のフレームワークの例を示します。その他、類似のフレームワークは、5W1Hは実務の友 六何・八何の原則(5W1H,5W2H,6W1H,6W2H)が国語力,発想力,問題解決力を高めるに様々掲載されています。

 弊BLOG記事においても、特にグラフ等を含むものについては、極力この「事実・考え・思い」を区分して書いてきたつもりです。逆に言えば、BLOGを書くことにより、このこの考え方を実践するトレーニングができたとも考えています。これに関連して、米国国務大臣を務めたコリン・パウエルが著した「リーダーを目指す人の心得」では、以下の言及があります。

 情報収集プロセスに対し私と担当者でおなじ見方になるように、また、担当者の説明責任を軽減してあげるため、私は、次に示す4ケ条のルールを設定した。(略)

  • わかっていることを言え。
  • わかっていないことを言え。
  • その上で、どう考えるのかを言え。
  • この3つを常に区別しろ。

(略)ルールの最後は「この3つを常に区別しろ」。(略)事実、意見、分析、勘、直感などをそれぞれ異なる適切な箱に入れてもらわなければ、正しい決断は不可能だ。(P153)

 以前弊BLOG(IMRADに思う 〜思考のフレームワークとしての有効性〜)でも言及しましたが、円滑な業務のためにも、自分自身のフレームワークはしっかりと持ち、かつ常にそれが最適な状態になるようアップグレードを心がけたいと思っています。