独立行政法人通則法改正案に思う 〜国立大学法人の業務はどのように変わるか〜

稲田内閣府特命担当大臣記者会見要旨 平成26年4月15日 - 内閣府

 本日、独立行政法人改革に関して、独立行政法人通則法の一部を改正する法律案及び独立行政法人通則法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備に関する法律案を閣議決定いたしました。

 世間では学校教育法改正に対する反対キャンペーンなども行われているところですが、第186回国会には独立行政法人通則法の改正案及びそれに伴う国立大学法人法の改正案も提出されています。「この話、何年か前にも聞いたことがあるぞ」と思った方は、高等教育行政をよく追いかけておられますね。通則法改正案は、第180回国会(H24.1.24〜H24.9.8)に提出されましたが、審議未了により廃案になりました。確か引き続き成立を目指していくという方針だったと記憶していますが、各所での審議を経て再び内閣へ提出されたのでしょう。議員立法ではなく閣法ですし、恐らく成立するものと思います。

 国立大学法人の業務に直結することでもありますので、中身を確認しましょう。

国会提出法案(第186回 通常国会)

 法案は大きく分けて2つあり、独立行政法人通則法の改正案(通則法改正案)とそれに伴う各法律を改正する案をまとめたもの(整備法案)に分かれます。通則法改正案の概要を見ると、改正の目的として特に国立大学法人に関係がありそうな部分は以下の3点でしょうか。

  • 主務大臣の下での政策のPDCAサイクルを強化する
  • 総務省独立行政法人評価制度委員会を設置し各法人の取組等をチェックする
  • 監事の機能強化等により法人内部のガバナンスを強化する

 大学業界の最近の流行であるガバナンス強化に概ね即した内容だとも言えます。ちょっと順序が逆になりますが、まずは法人法改正案から見てみましょう。なお、法人法改正案の新旧対照表は、整備法案新旧対照表P266から示されています。

法人法改正案(抄)

(役員の職務及び権限)
第十一条 4 監事は、国立大学法人の業務を監査する。この場合において、監事は、文部科学省令で定めるところにより、監査報告を作成しなければならない。
5 監事は、いつでも、役員(監事を除く。)及び職員に対して事務及び事業の報告を求め、又は国立大学法人の業務及び財産の状況の調査をすることができる。
6 監事は、国立大学法人がこの法律又は準用通則法の規定による認可、承認、認定及び届出に係る書類並びに報告書その他の文部科学省令で定める書類を文部科学大臣に提出しようとするときは、これらの書類を調査しなければならない。
(役員の任期)
第十五条 3 監事の任期は、その任命後四年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する準用通則法第三十八条第一項の規定による同項の財務諸表の承認の時までとする。ただし、補欠の監事の任期は、前任者の残任期間とする。

 まずは、監事に関する条文が複数新設されています。各法人は、独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律施行令第12条への対応として、監事監査報告書をHPにて公開していると思います。報告書の作成根拠自体は法人法上明確だったわけではありませんが、それを法人法に明記するということでしょう。

 また、監事は文部科学大臣に提出する書類を調査しなければならないとあります。しかも、「提出しようとするときには」とあることから、提出前に調査しなければならないと解釈できます。対象となる書類は膨大な数に上ると思いますので、現実的にはどのように対応すべきなのか検討が必要でしょう。あらゆる書類の決裁欄に監事枠を設けるだけではとうてい対応できず、支援体制も含め、監事と各部局との業務の接続が課題になりそうですね。

 監事の任期についても、既存の2年固定から変化しています。財務諸表の承認時までとあるので、秋頃というイメージでしょうか。最後まで責任を持てるようにするために、任期を変更したものと思います。

法人法改正案(抄)

(各事業年度に係る業務の実績等に関する評価等)
第三十一条の二 国立大学法人等は、毎事業年度の終了後、当該事業年度が次の各号に掲げる事業年度のいずれに該当するかに応じ当該各号に定める事項について、評価委員会の評価を受けなければならない。
一 次号及び第三号に掲げる事業年度以外の事業年度 当該事業年度における業務の実績
二 中期目標の期間の最後の事業年度の前々事業年度 当該事業年度における業務の実績及び中期目標の期間の終了時に見込まれる中期目標の期間における業務の実績
三 中期目標の期間の最後の事業年度 当該事業年度における業務の実績及び中期目標の期間における業務の実績
国立大学法人等は、前項の評価を受けようとするときは、文部科学省令で定めるところにより、各事業年度の終了後三月以内に、同項第一号、第二号又は第三号に定める事項及び当該事項について自ら評価を行った結果を明らかにした報告書を、評価委員会に提出しなければならない。
国立大学法人等は、遅滞なく、前項の報告書を公表しなければならない。
第三十一条の三 評価委員会による前条第一項の評価は、文部科学省令で定めるところにより、同項第一号、第二号又は第三号に定める事項について総合的な評定を付して、行わなければならない。この場合において、同項各号に規定する当該事業年度における業務の実績に関する評価にあっては、当該事業年度における中期計画の実施状況の調査及び分析を行い、その結果を考慮して行わなければならず、同項第二号に規定する中期目標の期間の終了時に見込まれる中期目標の期間における業務の実績又は同項第三号に規定する中期目標の期間における業務の実績に関する評価にあっては、独立行政法人大学評価・学位授与機構に対し独立行政法人大学評価・学位授与機構法(平成十五年法律第百十四号)第十六条第二項の規定による評価の実施を要請し、当該評価の結果を尊重して行わなければならない。
評価委員会は、前条第一項の評価を行ったときは、遅滞なく、当該国立大学法人等(同項第二号に規定する中期目標の期間の終了時に見込まれる中期目標の期間における業務の実績に関する評価を行った場合にあっては、当該国立大学法人等及び独立行政法人評価制度委員会(第四項及び次条において「評価制度委員会」という。))に対して、その評価の結果を通知しなければならない。この場合において、評価委員会は、必要があると認めるときは、当該国立大学法人等に対し、業務運営の改善その他の勧告をすることができる。
評価委員会は、前項の規定による通知を行ったときは、遅滞なく、その通知に係る事項(同項後段の規定による勧告をした場合にあっては、その通知に係る事項及びその勧告の内容)を公表しなければならない。
4 評価制度委員会は、第二項の規定により通知された評価の結果について、必要があると認めるときは、評価委員会に対し、意見を述べることができる。この場合において、評価制度委員会は、遅滞なく、当該意見の内容を公表しなければならない。

 いわゆる国立大学法人評価に関する条文が複数新設されています。既存の法律では通則法を準用する形で国立大学法人評価を定めていましたが、その特殊性もあって、法人法上に明記することにしたのでしょうか。

 業務の実績等に関する評価については、第2期中期目標期間中は毎事業年度及び中期目標期間終了時に行われています。法人法改正案では、それに加え、中期目標期間の最後の事業年度の前々事業年度(つまり、6年間の中期目標期間の4年目)には、中期目標期間の終了時に見込まれる中期目標期間の業務の実績について評価を受けることになります。言葉がややこしいですが、要は、6年目終了時の見込みを4年目終了時に明らかにせよということです。さらに、同評価は独立行政法人大学評価・学位授与機構法第16条第2項に定める教育研究評価を含むようですので、管理運営に限らず教育研究社会貢献等全ての業務について、6年目終了時の見込みを4年目終了時に明らかにしなければならないと解釈できます。なかなか大変そうですね。

 このような定めにすると、中期目標・中期計画の設定時から達成見込み可能な目標計画が上がってくることになり、法人としてストレッチできる目標計画設定が困難になるのではないかという懸念があります。

法人法改正案(抄)

(中期目標の期間の終了時の検討)
第三十一条の四 文部科学大臣は、評価委員会が第三十一条の二第一項第二号に規定する中期目標の期間の終了時に見込まれる中期目標の期間における業務の実績に関する評価を行ったときは、中期目標の期間の終了時までに、当該国立大学法人等の業務を継続させる必要性、組織の在り方その他その組織及び業務の全般にわたる検討を行い、その結果に基づき、当該国立大学法人等に関し所要の措置を講ずるものとする。
文部科学大臣は、前項の規定による検討を行うに当たっては、評価委員会の意見を聴かなければならない。
文部科学大臣は、第一項の検討の結果及び同項の規定により講ずる措置の内容を評価制度委員会に通知するとともに、公表しなければならない。
4 評価制度委員会は、前項の規定による通知を受けたときは、国立大学法人等の中期目標の期間の終了時までに、当該国立大学法人等の主要な事務及び事業の改廃に関し、文部科学大臣に勧告をすることができる。この場合において、評価制度委員会は、遅滞なく、当該勧告の内容を公表しなければならない。
5 評価制度委員会は、前項の勧告をしたときは、文部科学大臣に対し、その勧告に基づいて講じた措置及び講じようとする措置について報告を求めることができる。

 中期目標期間中において、法人の業務継続の検討を行う条文が新設されています。前述した中期目標期間の終了時に見込まれる中期目標期間の業務の実績に関する評価を基に、中期目標期間終了までに法人の業務継続の必要性や組織のあり方等検討を行うとあります。ここから、前述の通り、達成見込み可能な目標計画しか設定されなくなるという懸念が強くなります。

 法人の改廃にまで踏み込まれるのならば、安全率を高めるのが当然です。よっぽど適切な評価の運用(達成見込みがなくとも目標計画が優れていれば低評価しないなど)をしない限り、法人全体のパフォーマンスが低下する可能性があります。このあたりは運用上どのようにクリアしていくの、気になるところです。

 法人法改正案において、大きく気になったところは以上です。その他、違法行為等の是正や罰則規定が新設されています。さらに、従前、文部科学大臣の認可の際に事前に国立大学法人評価委員会の意見を聴くということになっていた以下の事項について、条文から削除されています。評価委員会の機能を評価関係に特化させるためとも考えます。

  • 技術に関する研究の成果の活用を促進する事業であって政令で定めるものを実施する者に出資すること
  • 長期借入金及び債券発行
  • 長期借入金及び債券発行の償還計画

 通則法改正案については、興味深い条文がいくつか新設されていますので、一つ一つ確認していきます。なお、特別な明記がない限り、読み替えて準用した条文案を示しますが、私個人による読み替えでありその正確性を担保するものではありません。

通則法改正案

(役員の忠実義務)
第二十一条の四 独立行政法人の役員は、その業務について、法令、法令に基づいてする文部科学大臣の処分及び当該独立行政法人が定める業務方法書その他の規則を遵守し、当該独立行政法人のため忠実にその職務を遂行しなければならない。
(役員の報告義務)
第二十一条の五 独立行政法人の役員(監事を除く。)は、当該独立行政法人に著しい損害を及ぼすおそれのある事実があることを発見したときは、直ちに、当該事実を監事に報告しなければならない。第二十五条の次に次の一条を加える。
(役員等の損害賠償責任)
第二十五条の二 独立行政法人の役員又は会計監査人(第四項において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、独立行政法人に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
2 前項の責任は、文部科学大臣の承認がなければ、免除することができない。
文部科学大臣は、前項の承認をしようとするときは、総務大臣に協議しなければならない。
4 前二項の規定にかかわらず、独立行政法人は、第一項の責任について、役員等が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がない場合において、責任の原因となった事実の内容、当該役員等の職務の執行の状況その他の事情を勘案して特に必要と認めるときは、当該役員等が賠償の責任を負う額から独立行政法人の事務及び事業の特性並びに役員等の職責その他の事情を考慮して総務大臣が定める額を控除して得た額を限度として文部科学大臣の承認を得て免除することができる旨を業務方法書で定めることができる。

 役員の忠実義務等に関する条文が新設されています。なお、条文中「独立行政法人」とあるのは、明確な読み替えはありませんが、「国立大学法人等」を考えてよいでしょう(以下、同様。)。損害賠償責任については、国家賠償法との関連も気になるところです。役員の任務怠慢により国家賠償法上の賠償請求が生じた場合、まずは法人が損害賠償を行い、その後役員が法人へ損害賠償を行うという流れなのでしょうか。(門外漢なので完全に想像でしかないですが。。。)

通則法改正案

(評価結果の取扱い等)
第二十八条の四 独立行政法人は、国立大学法人法第三十一条の二第一項の評価の結果を、同法第三十一条第一項に規定する中期計画(以下、「中期計画」という。)及び第三十一条第一項の年度計画並びに業務運営の改善に適切に反映させるとともに、毎年度、評価結果の反映状況を公表しなければならない。

 評価結果を中期計画、年度計画及び業務運営の改善に反映させるとともに、その反映状況を毎年度公表しなさいという条文が新設されています。文章にすると簡単に見えますが、なかなか大変です。そもそも現状においても適切に計画等へ反映できるうような評価結果ではないという問題がありますし、秋頃に公表される評価結果をどのように反映させるのかという点も課題だと感じます。各法人において運用上どのように取り扱うのか気になるところです。

通則法改正案

(財源措置)
第四十六条 2 独立行政法人は、業務運営に当たっては、前項の規定による交付金について、国民から徴収された税金その他の貴重な財源で賄われるものであることに留意し、法令の規定及び国立大学法人等の中期計画に従って適切かつ効率的に使用するよう努めなければならない。

 税金が投入されているため適切かつ効率的に使用するようにという条文が新設されています。当たり前のことですが、条文に明記した点に意味があるのでしょう。ただ、「使用」にのみ着目してその「成果」について言及されていない点は、少し気になります。

通則法改正案

(役員の報酬等)
第五十条の二 国立大学法人等の役員に対する報酬及び退職手当(以下「報酬等」という。)は、その役員の業績が考慮されるものでなければならない。
国立大学法人等は、その役員に対する報酬等の支給の基準を定め、これを文部科学大臣に届け出るとともに、公表しなければならない。これを変更したときも、同様とする。
3 前項の報酬等の支給の基準は、国家公務員の給与及び退職手当(以下「給与等」という。)、民間企業の役員の報酬等、当該中期目標管理法人の業務の実績その他の事情を考慮して定められなければならない。

 第五章人事管理については、かなりの条文が新設されています。まず、役員の報酬はその業績が考慮されるものであるという明記があります。この場合、「役員の業績とは何なのか」という点が明らかでない限り、その考慮も不可能であろうと思います。また、誰がそれを評価するのかも不明です。国立大学法人の場合は、教員出身の役員も多いと思いますが、教育研究業績ではなく役員としての業績となると、これまで以上に役員としての立場・働きを明確にしていかなければなりません。役員に対しては学長や監事がその業績を評価することが一つの方法かなと思っています。

通則法改正案

(他の中期目標管理法人役職員についての依頼等の規制)
第五十条の四 国立大学法人等の役員又は職員(非常勤の者を除く。以下「国立大学法人等役職員」という。)は、密接関係法人等に対し、当該国立大学法人等の他の国立大学法人等役職員をその離職後に、若しくは当該国立大学法人等の国立大学法人等役職員であった者を、当該密接関係法人等の地位に就かせることを目的として、当該他の国立大学法人等役職員若しくは当該国立大学法人等役職員であった者に関する情報を提供し、若しくは当該地位に関する情報の提供を依頼し、又は当該他の国立大学法人等役職員をその離職後に、若しくは当該国立大学法人等役職員であった者を、当該密接関係法人等の地位に就かせることを要求し、若しくは依頼してはならない。
2 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
四 国立大学法人法第三十一条の二第一項の評価(同項第二号に規定する中期目標の期間の終了時に見込まれる中期目標の期間における業務の実績に関する評価を除く。)の結果に基づき国立大学法人等の業務の縮小又は内部組織の合理化が行われることにより、当該国立大学法人等の組織の意思決定の権限を実質的に有しない地位として文部科学大臣が指定したもの以外の地位に就いたことがない他の国立大学法人等役職員が離職を余儀なくされることが見込まれる場合において、当該他の国立大学法人等役職員を密接関係法人等の地位に就かせることを目的として行うとき。
五 国立大学法人法第三十一条の四第一項の規定による措置であって文部科学省令で定める人数以上の国立大学法人等役職員が離職を余儀なくされることが見込まれるものを行うため、当該国立大学法人等役職員の離職後の就職の援助のための措置に関する計画を作成し、文部科学大臣の認定を受けている場合において、当該計画における離職後の就職の援助の対象者である他の国立大学法人等役職員を密接関係法人等の地位に就かせることを目的として行うとき。

 いわゆる渡りや天下りに関する規制について条文が新設されています。特に、第二項第四号及び第五号において、国立大学法人評価の結果に基づき業務の縮小又は内部組織の合理化が行われる際の想定をしている点は、これまでになかったことだと思います。学校法人の解散命令等の法的整備に続き、国立大学法人においても同様の道筋ができあがりつつあることを感じますね。

 以上、通則法改正案及び法人法改正案を見てきました。ざっと見たところ、特に大学本部における業務について、監事業務や評価業務、人事管理など、業務のやり方を大きく変えなければならない部分があるなという印象を持ちました。同法案は平成27年度からの施行予定ですので、各法人においては、随時業務の見直しを行わなければなりません。

 また、中期目標の期間の終了時に見込まれる中期目標の期間における業務の実績について評価受けそれを基に業務の縮小等が検討されるということは、第3期中期目標・中期計画をどのように設定するかが非常に重要になると感じています。第3期中期目標・中期計画は、来年度平成27年度に設定されます。各法人がどのように目標計画を設定するのか、今までのように総花的なのか、かなり絞ったものなのか、文部科学省としての目標計画の設定の指針等と併せて、注目しています。