中期目標・中期計画の変更に思う 〜舵をきった文科省〜

国立大学法人評価委員会(第45回) 議事録:文部科学省

 平成26年2月18日に開催された国立大学法人評価委員会の議事録が掲載されています。その中で気になる点がありました。

 本題に入るまでに、まずは国立大学の評価について、法令等から見てみましょう。

国立大学法人法

国立大学法人法(平成十五年七月十六日法律第百十二号)抄

(定義)

第二条

5  この法律において「中期目標」とは、国立大学法人及び大学共同利用機関法人(以下「国立大学法人等」という。)が達成すべき業務運営に関する目標であって、第三十条第一項の規定により文部科学大臣が定めるものをいう。

6  この法律において「中期計画」とは、中期目標を達成するための計画であって、第三十一条第一項の規定により国立大学法人等が作成するものをいう。

7  この法律において「年度計画」とは、準用通則法(第三十五条において準用する独立行政法人通則法 (平成十一年法律第百三号)をいう。以下同じ。)第三十一条第一項の規定により中期計画に基づき国立大学法人等が定める計画をいう。

第九条  文部科学省に、国立大学法人等に関する事務を処理させるため、国立大学法人評価委員会(以下「評価委員会」という。)を置く。

2  評価委員会は、次に掲げる事務をつかさどる。

一  国立大学法人等の業務の実績に関する評価に関すること。

二  その他この法律によりその権限に属させられた事項を処理すること。

(中期目標)

第三十条  文部科学大臣は、六年間において国立大学法人等が達成すべき業務運営に関する目標を中期目標として定め、これを当該国立大学法人等に示すとともに、公表しなければならない。これを変更したときも、同様とする。

(中期計画)

第三十一条  国立大学法人等は、前条第一項の規定により中期目標を示されたときは、当該中期目標に基づき、文部科学省令で定めるところにより、当該中期目標を達成するための計画を中期計画として作成し、文部科学大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。

独立行政法人通則法

国立大学法人法第三十五条において読み替えて準用する独立行政法人通則法

第三十一条 国立大学法人は、毎事業年度の開始前に、国立大学法人法第31条第1項の認可を受けた同項に規定する中期計画(以下「中期計画」という。)に基づき、文部科学省令で定めるところにより、その事業年度の業務運営に関する計画(次項において「年度計画」という。)を定め、これを文部科学大臣に届け出るとともに,公表しなければならない。

第三十二条 国立大学法人は、文部科学省令で定めるところにより、各事業年度における業務の実績について、国立大学法人評価委員会の評価を受けなければならない。

2  前項の評価は、当該事業年度における中期計画の実施状況の調査をし、及び分析をし、並びにこれらの調査及び分析の結果を考慮して当該事業年度における業務の実績の全体について総合的な評定をして、行わなければならない。

(中期目標に係る業務の実績に関する評価)

第三十四条  国立大学法人は、文部科学省令で定めるところにより、中期目標の期間における業務の実績について、国立大学法人評価委員会の評価を受けなければならない。

2  前項の評価は、当該中期目標の期間における中期目標の達成状況の調査をし、及び分析をし、並びにこれらの調査及び分析の結果を考慮するとともに,独立行政法人大学評価・学位授与機構に対し独立行政法人大学評価・学位授与機構法(平成15年法律第114号)第16条第2項に規定する国立大学及び大学共同利用機関の教育研究の状況についての評価の実施を要請し、当該評価の結果を尊重して当該中期目標の期間における業務の実績の全体について総合的な評定をして、行わなければならない。

 文部科学大臣は、6年間を区切りとして「達成すべき業務運営に関する目標」を中期目標として定め、各国立大学法人へ公表します。その中期目標に基づき、「当該中期目標を達成するための計画」を中期計画として作成し、文部科学大臣の認可を得なければなりません。さらに、その中期計画に基づき、「その事業年度の業務運営に関する計画」を年度計画として定め、文部科学大臣に届出ます。大まかに図にすると、下図のとおりです。

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 大抵の国立大学法人では、6年間の年度計画を実施することで中期計画が実施され、それにより中期目標が達成される設計になっていると思います。(少なくとも、そのような設計を意識しているはずです。)

 その中期目標・中期計画及び年度計画の実施状況及び達成状況について、国立大学法人国立大学法人評価委員会の評価を受けることが義務づけられています。国立大学法人法第35条において読み替えて準用する独立行政法人通則法32条及び第34条より、評価は毎事業年度及び中期目標期間終了時に受けることがわかります。大まかに図にすると、下図のとおりです。

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 中期目標期間における業務の実績にかかる評価については、「中期目標の達成状況の調査及び分析」と「中期目標期間における業務の実績の全体について総合的な評定」を以てなされるようですが、各法人から見ると基本的には中期計画の実施状況、つまり各事業年度の年度計画の実施状況及びその6年間分の実施状況によってなされると思って良いでしょう。

 現在は、第2期中期目標期間(平成22年度〜平成27年度)の5年目であり、来年度で第2期中期目標期間が終了します。その評価をどのように行うか、国立大学法人評価委員会及び教育研究評価を行う(独)大学評価・学位授与機構で検討が進んでいます。(独)大学評価・学位授与機構では、既に教育研究評価の実績報告書作成要領などが公表されています。(大学評価・学位授与機構 | 国立大学法人等の教育研究評価)

国立大学法人評価委員会の概要:文部科学省

 評価を担う国立大学法人評価委員会は、大学長、企業社長、公認会計士など20名の委員で構成されています。冒頭の議事録はこの委員会の議事録であり、国立大学の評価をどのように行うか話し合われた内容が記載されています。なお、第1期中期目標期間の評価結果については、運営費交付金の配分に影響を与えました(文科省、国立大に初のランク付け 交付金に反映 :日本経済新聞)。政府資料や文部科学省資料、報道などを見ていると、評価結果の配分額及び配分方法への影響は高くなる可能性があるなと感じています。

 そんな中、冒頭議事録から以下の発言を確認できます。

【事務局】中期目標・計画の変更につきましては、これまでどちらかというと、最初に目標・計画を決めますと、それで6年は大体進むのだと、途中で度々変更するような性格のものではないと、そのような意識が各大学にも、我々文科省の側にもあったのかもしれません。

 改革をどんどん進める中で、先ほどの中教審での御議論の中にも書いてありますけれども、新しいことについてはどんどん中期計画を変更していこうと、それが具体的な記述につながるかどうかということが一番ポイントだと思っております。目標・計画の達成度が評価されるということですので、これまでは点数が悪くならないような目標・計画になる嫌いがございましたが、結果だけではなく、プロセスを評価するという仕組みも取り入れ、今回、予算と連動させている部分もありますけれども、重点的な配分をしたところにはかなり具体的に目標を掲げていただき、それをまた、プロセスも含めて評価をしていくというサイクルを作っていきたいと思っております。また、第3期に向けて、目標・計画の具体的な記述について、どういう形で評価委員会として各大学に示していけるのかという御議論を、まさにこれからしていただきたいと思っているところでございます。

 中期計画をどんどん変更していっても良いと読みとれます。なお、中期目標の変更については、明確に言及がありません。目標を変えずに、その達成方法を状況によって変更しましょうということでしょうか。

 実際の中期目標・中期計画の変更については当該議事録冒頭に記載されていますが、特に昨年度COC事業に採択された法人などは概ね中期目標・中期計画を変更しています。ここまで揃った動きということは、文部科学省側から中期目標・中期計画の変更について要請があったと考える方が自然です。(そもそも中期目標は文部科学大臣が作成するので、文部科学省側から要請がある程度でないと変更できないのかもしれません。)文部科学省も、これまでと異なり、中期目標・中期計画を変更する方向に舵をきったということでしょう。

 状況が変化をする中、計画を変更するのは自然な流れだと思います。ただ、あくまで国立大学法人評価は6年間の業務実績の基に行われますので、達成度判定の指標となる中期目標・中期計画が頻繁に、あるいはコア部分が変更されるとなると、そもそも評価制度・評価結果の妥当性が問われることにならないか、とも思っています。これだけ大学に多様なことが要求され、しかもそれが毎年増えている状況の中、6年前の目標・計画がどれほど有効なのかはわかりません。ただ、本件は法律改正の事案であり、法律改正には国会審議を要します。少なくとも、平成28年度からの第3期中期目標期間は、現在の仕組みのまま評価等が実施されるのではないかと考えています。

 法人にとっては、様々な要請に応えるために、中期目標・中期計画を変更しても対応できるような余裕を準備しておく必要があります。中期目標・中期計画は、謂わば「国民との約束」であり、作成・公表された以上は、基本的には必ず達成されなければいけない性質であるものだと思っていた方が無難です。そのため、新規に追加、あるいは変更するということは、基本的には法人に新たなコストが発生することになりますし、法人自らがそのコストを負担することを決意するということです。ということは、中期目標・中期計画は大学の目的を達成するために特に力を入れる最小限の事項に留め、平常業務に近い事項は項目立てしないということも一つの戦略であるなと思っています。