国際教養大学の職員確保に思う 〜給与と報酬と年俸制〜

河北新報 東北のニュース/秋田・国際教養大 事務職員の確保に苦心 高い英語力が壁

 国際教養大(秋田市)で、大学の屋台骨となる管理職級の事務職員の確保に苦心している。採用条件として高い英語力が必要な上、私立大の引き抜きなどで中途退職が多く、職員育成がままならないためだ。大学設置者の県からの派遣も縮小方針が決まり、自立した職員確保が迫られている。

 国際教養大学の事務職員の確保に関する記事が出ていました。記事中は管理職級の事務職員とありますが、管理職級以外にも当てはまることではないのかな、と感じています。

 記事中、

給与面などで雇用条件のいい私立大による引き抜きもある。

とあります。現在、国際教養大学HPで確認できる事務職員採用情報では、待遇について以下のとおり記載があります。

事務局職員(職務経験者)募集について | 公立大学法人 国際教養大学

公立大学法人国際教養大学 事務局職員(職務経験者)公募 募集要項

6 雇用条件 

 (2)給与は年俸制で、各月の等分支給です。

・若年層は概ね年額300万円~550万円、中堅層は概ね年額550万円以上の 想定ですが、初年度の年俸は、職務経歴、経験年数等を勘案し、本学規程により 決定されます。

・2年目以降については、勤務実績等の人事評価に基づいて決定されます。

・時間外勤務手当、通勤手当、住居手当制度あり。社会保険付与。退職金制度なし。

 国際教養大学では、全教職員に年俸制を導入しており、もちろん新規採用の職員にもそれが適応されます。

 同じ秋田県の県職員の年収は、以下のようです。

秋田県職員の月収・年収を知る(2010年)|給料.com

一般行政職 年収試算 649.3万円

 私立大学の職員の年収は、きちんと調査した定量的なデータを見つけられませんでした。以下は参考に。

これが有名私大の職員の年収だ! - これでも大学職員のブログ

 年俸制で退職金がないということは、ある程度退職金を配慮した金額が年俸に含まれているはずです。しかし、通常、退職金は税制優遇がありますので、退職金がない年俸制は、たとえ額面が同じであっても生涯賃金で見ると比較的低く見積もれる可能性があります。国際教養大学の細かい給与支給等は明らかではありませんが、もしかしたら大学の給与規程を策定する際秋田県の給与規程を基に策定したため、年俸制により色々不具合が出ているのかもしれないな、と思っています(この点、リサーチ不足ですので、見当違いかもしれませんが。。。)。そもそも、年俸制自体、流動性を含んだ制度ですので、今の状況はある意味で予想できる結果なのかもしれません。

無題ドキュメント

 私が国際化について検討する際は、上記リンク先の「大学の国際化の評価指標策定に関する実証的研究」最終報告を参照しています。2006年という少し古いレポートながら、概論から具体的指標まで、幅広くカバーされています。その中でも、職員の処遇については、以下のとおり記載があります。

第5章第2節 指標を使った調査(評価)プロセス

  •  国際関連業務における専門性とは何か。語学力だけでなく、比較教育や国際教育にかかわる全般的な経験や知識 を要する業務を遂行するうえでの専門性である。日本語教育、言語教育、語学力の評価(標準テストの運用)、単位互換、ビザを含む入国管理システム、異文化適応、大学間協定やコンソーシアムの運用、危機管理など、多方面での知識と経験を集積していくことが求められる。これらの業務を専門性のある職種として大学が認知し、専門性のある教職員として処遇に反映させているか、も重要な評価項目となりうる。(J-113)
  •  FDやSD(スタッフ・デベロップメント)の実施状況と効果に関する分析をおこなう。同時に、国際連携・交流活動に教職員が参画した場合の人事考課などインセンティブについても評価対象とする。このインセンティブの評価対象は、ボーナスなどの金銭的報酬に加えて、非金銭的な報酬も含めることとする。(J-114)

 ここでは、専門性のある教職員を認知し、金銭的報酬・被金銭的報酬など、処遇に反映させていく方針が書かれています。国際教養大学で、職員の能力に応じた報酬がどの程度支払われているのか、そもそもそのような報酬制度があるのか、気になるところです。

モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか

 一時期、話題になった「モチベーション3.0」(著・ダニエル・ピンク/訳・大前研一)は、信賞必罰による動機づけという既存のやり方から、自身の内面に基づく動機づけという新しいモチベーションの枠組みを提示しています。その中で、話の本質とは離れた部分で私がどうしても気になった部分があります。少し長いですが、以下に引用します。

  •  もちろん、職場のモチベーションに関する議論は、人生における避けがたい純然たる現実、つまり生計を立てなくてはいけないという基礎事実から始まる。給与、契約料、給付金、何がしかの特典などは、「基本的な報酬ライン」だ。これが適切でなかったり、公平でなかったり、被雇用者は、不公平さや不安定な状況ばかり意識する。それでは、本来予想可能なはずの外的な動機づけも、理解しがたい奇妙な内発的動機づけもうまれない。結局、食うために生きている、というレベルでは、モチベーションは全く上がらない。(P62)
  •  当然ながら、ますは基本的な報酬ライン-賃金、給与、給付金など-が適切で公平でなくてはいけない。これが健全でなければ、どんな種類の動機づけも難しくなり、不可能となる。(P95)

 「基本的報酬ライン」とはどのように定めるのか、それは本書の本質ではありませんが、その答えは提示されませんでした。今も、被雇用者がこのラインをどのように定めるか、意識するかという点が気になっています。国際教養大学では、このラインをどのように定めているのか、また、それは被雇用者にどのように捉えられているのか、気になるところです。

 「とりあえず報酬などは既存とおりで良いから、やりたいことをやらせろ」と言って、成果を上げ続ける人もいます(どちらかと言えば、私もこの志向に寄っています。)。ただ、この動機づけは人を選びます。報酬ではない動機づけを要望する者が人事異動等でいなくなったとしても、良い取組を継続して行うためにこそ、雇用者は被雇用者の能力や取組に対し、一義的には報酬等金銭的にフォローを行うべきでしょう。また、被雇用者も、そのようなことを意識して、必要に応じて要望等を出していければと思っています(本来的には、職員組合等の領分かもしれませんが。。。)。

 ただ、人件費の総額(枠)が決まっているというゼロサムゲームでは、誰かをプラスにするためには誰かが同額マイナスになるか、当該者以外の全員を薄くマイナスにする必要があります。人事制度ではなく、資金配分の問題にもなってきます。そのような状況下では、様々なしがらみの基、結局あまり差がつけられないということも容易に想像できます。もちろん、それに至るまでの評価をどうするかという問題があるのは、言うまでもありません。なかなか答えがでない問いです。

国立大教員に年俸制 文科省、競争を導入・退職金廃止:朝日新聞デジタル

 国立大学の教員の給与について、文部科学省は、年功序列を改めて退職金を廃止し、業績を反映させる年俸制への転換を進める方針を決めた。「競争がなく、ぬるま湯体質だ」との批判もある国立大の組織全体の活性化を進めるのが狙いで、26日にまとめた「改革プラン」で示した。当面の目標として、理工系を中心に2015年度末までに1万人を年俸制に切り替えるとしている。

 最近、国立大学教員への年俸制の導入というニュースがありました。国(もしくは財務省)から見たこの年俸制の本質は、現在特殊要因経費として運営費交付金削減対象外になっている退職金分を、年俸制という人件費、つまり一般運営費交付金に回すことで、より大きく運営費交付金を削減することだと考えています。また、前述のとおり、方法にもよるかもしれませんが、年俸制教員の生涯賃金は恐らく低下するのではないかとも思っています。基本的には、大学側(あるいは年俸制教員)が損することが多い制度でしょう。

 前述のとおり、私自身金銭的報酬志向ではないため(もちろん貰えるのであれば喜んで貰いますが)、ちょっと考えがまとまらないところもあります。ただ、同僚や後輩達のことを考えると、もっと考えを深めて主張していかないなと思っています。また、国立大学の場合は、一昔前に比べ新入事務職員の高学歴化が進んでますので、彼ら彼女らを満足させられるような業務体系や人事給与体制により、楽しいことができる職場にしていくことも考えていかなければとも思っています。