学校基本調査に思う 〜国立大学の事務職員は減っているのか?〜

学校基本調査-平成25年度(確定値)結果の概要-:文部科学省

 文部科学省は、学校教育行政に必要な学校に関する基本的事項を明らかにすることを目的として、標記調査を昭和23年度より毎年実施しています。今般、平成25年度学校基本調査(確定値)を取りまとめたので、公表します。

 文部科学省HPに平成25年度学校基本調査の確定値が公表されていました。

 学校基本調査とは、統計法の定める基幹統計であり、適切に報告されない場合には罰則規定が存在します。

統計法(平成十九年五月二十三日法律第五十三号)

(定義)

第二条 

4  この法律において「基幹統計」とは、次の各号のいずれかに該当する統計をいう。

一  第五条第一項に規定する国勢統計

二  第六条第一項に規定する国民経済計算

三  行政機関が作成し、又は作成すべき統計であって、次のいずれかに該当するものとして総務大臣が指定するもの

イ 全国的な政策を企画立案し、又はこれを実施する上において特に重要な統計

ロ 民間における意思決定又は研究活動のために広く利用されると見込まれる統計

ハ 国際条約又は国際機関が作成する計画において作成が求められている統計その他国際比較を行う上において特に重要な統計

(報告義務)

第十三条  行政機関の長は、第九条第一項の承認に基づいて基幹統計調査を行う場合には、基幹統計の作成のために必要な事項について、個人又は法人その他の団体に対し報告を求めることができる。

2  前項の規定により報告を求められた者は、これを拒み、又は虚偽の報告をしてはならない。 

第七章 罰則 

第六十条  次の各号のいずれかに該当する者は、六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

一  第十三条に規定する基幹統計調査の報告を求められた者の報告を妨げた者

二  基幹統計の作成に従事する者で基幹統計をして真実に反するものたらしめる行為をした者

第六十一条  次の各号のいずれかに該当する者は、五十万円以下の罰金に処する。

一  第十三条の規定に違反して、基幹統計調査の報告を拒み、又は虚偽の報告をした者

二  第十五条第一項の規定による資料の提出をせず、若しくは虚偽の資料を提出し、又は同項の規定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、若しくは同項の規定による質問に対して答弁をせず、若しくは虚偽の答弁をした者

 幼稚園から大学院まで、広く教育活動に関するデータが集積されていますが、今回はその中から国立大学の本務職員数の推移を確認します。

 国立大学が法人化して以降、「事務職員が減った。業務が多忙になった。」とはよく言われることですが、それは果たして事実なのでしょうか。

 学校基本調査の高等教育機関《報告書掲載集計》表番号32に「職務別職員数」があります。これを基に、国立大学の本務職員(事務系、教務系、技術系、医療系、その他)の法人化前である平成15年度からの推移を図1に示します。また、平成15年度の数を100とした場合の推移を図2に示します。

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 図1から、平成15年度以降、国立大学の本務職員数が増加していることがわかります。また、図2から、その増加の内訳として医療系職員が大幅に増加していることがわかります。平成18年度以降、医療系職員がより増加傾向にあるのは、診療報酬における7対1入院基本料の改正に伴い、医療系職員の雇用が増加したためと考えられます。他にも図2からは、事務系職員は平成15年度に比べ平成25年度に微増していること、技術・教務系職員は平成15年度以降減少しており、平成25年度の技術系職員は83、教務系職員は72と、平成15年度に比べ大幅に減少しているころがわかります。

 ここから、全法人が取り組んでいる(と言うよりは取り組まされている)人件費削減について、職員に関しては、教務・技術系職員の削減及び単価の減少により成されているとも考えられます。なお、医療系職員については、附属病院の医業収入によりまかなわれている場合が多いと思いますので、人件費削減から除外して考えています。

 図2を見ると事務職員は減るどころかむしろ増えており、冒頭に示した「事務職員が減った。」という言葉とは矛盾します。これはなぜなのでしょうか。一つめとして、実際に教務・技術系職員が減少しており、そのため事務職員も減少したかのように錯覚していることが考えられます。二つめとして、法人化以降に新規に発生した業務により既存の事務職員の業務負担が増加し、相対的に事務職員が減少したという感覚を得ていることが考えられます。

 私としては、後者の方が要因として強いのではないかという印象です。法人化により事務職員が新たに対応するようになった業務は、パッと思いつく限り以下のとおりです。

  • 会計基準への対応
  • 企画、計画、評価
  • 職員採用
  • 訴訟
  • 産官学連携
  • 労使交渉等労働関係

 これ以上にあるでしょうし、既存の業務も法人化に伴い変容していることは間違いありません。新しい「国立大学法人」像について(平成14年3月26日国立大学等の独立行政法人化に関する調査検討会議)には、以下のとおりの記載があり、そのとおりに新しい業務が発生しているのでしょう。

 事務組織が、法令に基づく行政事務処理や教員の教育研究活動の支援業務を中心とする機能にとどまらず、また、日常の大学運営事務に加えて、教員と連携協力しつつ大学運営の企画立案等に積極的に参画し、学長以下の役員等を直接支えるなど、大学運営の専門職能集団としての機能を発揮することが可能となるよう、組織編制、職員採用・養成方法等を大幅に見直す。(P18)

 実際、東京大学大学経営・政策研究センターが実施した全国大学事務職員調査では、法人化の影響として「業務量が増えた」と回答する国立大学事務職員が、「そう思う」「ある程度そう思う」合わせて8割以上になっており、業務量が増加しているのは間違いなさそうです。

全国大学事務職員調査 - 大学経営・政策研究センター(CRUMP)

 法人化に関する項目のうち、『業務量が増えた』について設置形態別にみると、「そう思う」という確定的な意見を示す人は国立大学に 47.1%と多く、これに「ある程度そう思う」を合わせた率では 82.1%と、公立大学の 53.3%を大きく上回っている。(P84)

つまり、

  • 事務職員は減っていない。
  • これまでになかった内容の業務は増えている。
  • そのため、一人当たりの平均担当業務量が増加し、事務職員が減ったように感じている。

という状況だと推測できます。

 このような条件では、既存の業務を既存のやり方でやっていてはキャパシティオーバーを招くことは間違いなく、既存の業務をどうにかするという解しかありません。業務改善に対する考え方についての記事でも少し触れましたが、既存の業務のやり方を変えるか業務そのものをなくすことが必要だと考えています。

業務改善のジレンマ - 大学職員の書き散らかしBLOG