専門学校に思う 〜高等教育研究の隙間〜

教育再生実行会議の有識者が日本工学院を視察…学制の在り方を就職学習に問う (リセマム) - Yahoo!ニュース

 学制の在り方について検討している政府の教育再生実行会議は11月12日、日本工学院(東京都大田区)を視察し、職業教育や産学連携などについての意見交換、同校の実践的教育設備の見学などを行った。

 教育再生実行会議の委員が専門学校を訪問したというニュースが出ていました。○○専門学校という名前はTVや町中でよく見ると思いますが、今回はそんな専門学校について。

 そもそも専門学校とは何なのでしょうか。学校教育法によれば、専修学校のうち専門課程を置く学校を専門学校と呼べるとあります。

第百二十四条  第一条に掲げるもの以外の教育施設で、職業若しくは実際生活に必要な能力を育成し、又は教養の向上を図ることを目的として次の各号に該当する組織的な教育を行うもの(当該教育を行うにつき他の法律に特別の規定があるもの及び我が国に居住する外国人を専ら対象とするものを除く。)は、専修学校とする。

一  修業年限が一年以上であること。

二  授業時数が文部科学大臣の定める授業時数以上であること。

三  教育を受ける者が常時四十人以上であること。

第百二十五条  専修学校には、高等課程、専門課程又は一般課程を置く。

3  専修学校の専門課程においては、高等学校若しくはこれに準ずる学校若しくは中等教育学校を卒業した者又は文部科学大臣の定めるところによりこれに準ずる学力があると認められた者に対して、高等学校における教育の基礎の上に、前条の教育を行うものとする。

第百二十六条 

2  専門課程を置く専修学校は、専門学校と称することができる。

 つまり、専修学校の枠組みの中の一部を専門学校と呼ぶということです。詳しい説明等はwikipediaにわかりやすく書かれています。

専門学校 - Wikipedia

 また、文部科学省HPで専修学校関係のことが掲載されているのは、以下のページです。

専修学校・各種学校教育の振興:文部科学省

 さてそんな専門学校ですが、実は専門学校は学校ではありません。いきなり何を言っているんだというところですが、正確に言うと専門学校は学校教育法第1条に定める学校(所謂1条校)ではありません。たかが条文に書かれていないだけだと思うところですが、実は1条校であるかないかには結構な違いがあります。例えば、1条校は無条件に受けられる通学定期の発行に学校毎の指定が必要になりますし、資格取得などでも免除科目や受験資格など差異があります。さらに、激甚災害法が適用されず、災害で被害があったとしても国からの財政支援が受けられないというのも特徴でしょう。そんなわけで、専門学校の1条校化は業界の悲願でした。ただ、最近はあまり1条校化へ向けた動きを聞かず、そのハードルの高さから、別の道を模索しているのかもしれません。「新しい学校種」や「職業実践専門課程」の話もありますし。

 さて、教育分類上、専門学校は高等教育に分類されます。ただ、専門学校に関する研究等はほとんど進んでいないという印象です。その理由は2つあると思っています。

 1点目として、専門学校に関する網羅的継続的な調査が行われていないことです。学校基本調査では、専修学校についての項目がありますが、大学に比べればその調査項目は貧弱と言えるでしょう。このような状況を、日本の職業教育研究を牽引してきた九州大学教育学部長の吉本圭一は、以下の通り記述しています。

特に,文部科学省「学校基本調査」にしても,専門学校の進路動向について,極めて簡便な印象的なデータしか収集しないのはどういう事情であるのか,理解しにくいところである.(吉本(2003).専門学校の発展と高等教育の多様化 高等教育研究,6,83-103)

専門学校の発展と高等教育の多様化 : Kyushu University Institutional Repository (QIR)

 2点目として、大学以上にピンキリの幅が大きく、研究対象として取り上げられられにくいのでないかということです。学校基本調査(平成25年度速報値)によれば、専門課程を置く専修学校は全国に2,812校あり、これは全大学数782校の約3.6倍です。さらに、その分野も大学の区分よりもより細かいものになっており、専門学校総体としての実態が把握しにくい状況にあると想像できます。

 そんなわけで、高等教育研究において専門学校は完全に隙間になっていると感じています。経験上、「高等教育」と名前がついた書籍や学会等で専門学校の話はあまり聞かず、また「日本の高等教育は〜〜〜」と話す者の内容は4年制大学のことしか言っていないこともままあり、専門学校など職業教育にも興味がある私としては「なんだかなぁ」と思っています。事実、高校卒業者の16%程度は専門学校に進学してますし、大学や短大、高専を卒業後、専門学校に入学する者は2万人程度います。日本の高等教育において専門学校が一定程度のマスを占めていることは間違いありません。

 さらに、文部科学省もあまり専門学校に対して支援を行っていないという事情もあります。文部科学省専修学校を所管しているのは、生涯学習政策局に置かれた専修学校教育振興室ですが、概ね10人程度の人員です。大学や短大、高専という他の高等教育機関を所管しているのが、100人以上いる高等教育局であることを考えると、いかにも心もとない人数です。もっとも、専修学校は都道府県所管なので、そんなものだと言われたらそんなものなのかもしれませんが。。。

 日本全体の職業構造が変わり、ジョブ型など新しい職業感や職種が出てきているなか、専門学校が果たす役割も以前とは異なってくるのではないかと考えています。また、大学や短大、専門学校はその立場や役割、実質的状況が重なっている学校が少なからずあり、それらの連携や場合によってはコンバートのようなことも起こりうるのではないかと思っています。今後とも専門学校には注目していきます。