課外活動の事故に思う 〜大学はどこまで責任を負うのか〜

野尻湖飛び込み死 駒沢大生の両親が大学を提訴 : ニュース : 教育 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

 長野県信濃町野尻湖で5月、合宿中の駒沢大学吹奏楽部の部員2人が湖に飛び込んで死亡した事故で、学生に対する安全配慮義務を怠ったとして、死亡した千葉県市川市大野町、1年野呂千賀子さん(当時18歳)の両親が、大学や当時の吹奏楽部長の男性教授、副部長の女性職員を相手取り、約7100万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。 

信濃毎日新聞[信毎web] 野尻湖事故、大学側を提訴へ 学生の遺族「安全配慮怠る」

  上水内郡信濃町野尻の野尻湖で5月、合宿中の駒沢大(東京)吹奏楽部員が湖に飛び込み、千葉県市川市の1年野呂千賀子さん=当時(18)=ら男女2人が死亡した事故で、大学側は事前に飛び込みなどをしないよう学生に注意、警告などをせず、安全配慮義務違反があったなどとして、野呂さんの両親が近く、同大を運営する学校法人駒沢大学(東京)と吹奏楽部の部長(当時)の男性教授、副部長の女性職員を相手に、7100万円余りの損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こすことが28日、分かった。

  半年ほど前、課外活動中に痛ましい事故が起こりました。犠牲者のお二人にご冥福をお祈りいたします。そんな中、犠牲者の遺族が大学を相手取り訴訟を起こすようです。

 当該事故について、6月20日に大学が設置した調査委員会の報告書が公表されているようですが、現時点でリンクが「file not found」となっています。そのため、どのような状況で事故が発生したのか、確認することができません。ただ、一般的に大学の課外活動で起こった事故について、大学はどの程度まで責任を負うのでしょうか。

 「国立大学法人総合損害保険」(国大協保険)の取扱い業務を行っている「国大協サービス」のHPには、「大学と損害保険」というページがあり、その連載18号「賠償事故と保険(4)(課外活動中の事故)」には、以下のとおりの記述があります。

国大協サービス | 大学と損害保険〜大学教職員の基礎知識としての保険のはなし〜

 基本的には、大学や顧問教員が関与していない活動では大学や教員に賠償責任が発生することはなく、大学や顧問教員に事故の予見可能性があった場合に賠償責任が発生するものと考えられます。 

 実際の事故への対応においては、大学に賠償責任が発生しない場合でも教育機関としての大学の責任を放棄することはできません。そのような観点も踏まえて大学としての対応を決めることになります。 

  また、以下の論文において、課外活動と大学の責任が整理されています。

「課外活動中の事故と大学の責任(一)」 (南川,修道法学,26巻2号,2004)

広島修道大学学術リポジトリ

 ここでは、過去の判例を紐解きながら、大学の安全義務の範囲や顧問の責任について論じています。そんな中で、

 裁判例も、クラブ活動であっても、大学側は一般抽象的なレベルにおいては、確かに安全を負うとするものではあるが、(中略)原則的に、大学当局に対し、個別具体的な安全義務を課さないという方針を繰り返し述べている。

とあります。

 また、顧問の責任についても、

 個別具体的安全義務に関しては、後述の一例を除いて、原則的に、顧問には個別具体的安全義務自体がそもそも存在しないとする。

とあります。ただし、

 裁判例の舞台となった大学における顧問の実情であり、当然のことながら、直ちに一般化できるものではない点に注意が必要である。

とも書かれています。

 何にせよ、事故が起こり被害があったのは事実であり、個別の事情に合わせ、今後裁判が進行するものと思われます。その過程も含め、二度とこのような事故が起こらないような取組も検討されていくことと思います。

 いろいろな大学の職員の方にお話しを伺っていると、母校の職員になり出身サークル等の指導をされている方も多いと聞きます。国立大学では、そのような例はほとんど聞いたことがありませんので、恐らく私立大学特有のことではないかと思います。そのような土壌があるのであれば、サークルに関わっている大学職員がこのような事故の発生を未然に防げるように指導や助言をするということは不可能ではないのかな、と考えています。大学として、サークル活動の危機管理をしている例では、以下の取組があります。

三重大学 | 課外活動の概要(クラブ・サークル顧問教員指針、クラブ・サークル代表者指針)

サークル活動|早稲田大学(サークル幹部の心得)

サークル説明会 | 金沢大学 学生支援サイト K-WING(サークル説明会)

 私自身、学生支援系の業務を行ったことがなく、課外活動の位置づけについてまだ整理できていないところがあります。このあたりはまだ勉強が必要だと、今回の記事を書いていて痛感しました。