授業目的公衆送信補償金制度のオンライン説明会に参加しました

 令和2年10月7日に行われた文化庁著作権課及び一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRAS)主催の授業目的公衆送信補償金制度のオンライン説明会に参加しましたので、記録を示しておきます。なお、私が理解できた範囲での記録ですので誤りが含まれる可能性があり、本記事の内容に起因する行為への責任は当方は一切負いません。

制度の概要説明(趣旨と目的など)【文化庁著作権課】

・ 授業目的公衆送信補償金制度は著作権法に定められた制度であり,著作物の利用円滑化と著作権者の利益保護のバランスを図ったものである。他人の著作物は無料で使用できるわけではなく,基本的には利用において対価が発生する。教育活動での利用においても,基本的には同様である。

著作権制度は,流通・利用と権利制限とのバランスが重要である。

・ 権利者であれば,利用条件を決めることができ,他人の無許可利用を禁止できる。他人の著作物を利用する際には,原則として,著作物の利用ごとに許諾を得ることが必要である。

・ 公益性の高い利用や権利者の利益に与える影響が少ないなど,一定の条件下において,権利者の権利が制限される場合がある。これは著作権法第35条に明示されている。

著作権法第35条では,対象施設・対象主体・目的限度・行為・権利者利益への影響を整理し,学校その他営利を目的としない教育機関であること,教員を担当する者と授業を受ける者であること,授業の過程における利用に必要と認められる限度であること,複製・公衆送信などが対象となっていること,著作権者の利益を不当に害しないことであれば,権利者の許諾を得ずに著作物を利用できる。

・ 平成30年度に改正された著作権法における授業目的公衆送信補償金制度により,従来は個別に許諾が必要であった非同期型の授業利用等においても,補償金を支払うことにより各権利者の許諾を得ることなく著作物を利用することができる。

・ 補償金制度では,あらゆる種類の著作物についてワンストップで一括処理が可能となっている。教育機関は指定管理団体に補償金を支払うことで,各著作権者に補償金が分配される。非営利の教育活動であっても,創作者の対価還元を維持することで,創作の活性化や質の高いコンテンツの産出につながることにご理解をいただきたい。補償金については,文化庁の定める審査基準にのっとり,料金が設定されることになる。

・ 本年度は補償金額を無料としているが,次年度は有償での制度運用としている。年内を目途に文化庁で金額の審査を行う予定である。各機関の補償金負担の軽減のため,政府方針にのっとり,概算要求への財政措置の計上など,支援に取り組んでいる。設置者においても,支払い義務を適切に果たすことが大切である。

制度の運用等(運用指針やライセンス,来年度からの補償金額案と規程案等)の説明【一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会】

・ SATRASは2019年1月に設立された日本で唯一補償金の収受が許可された団体である。教育分野の著作物等の利用の円滑化を図ることが目的であり,幅広い分野の著作者団体により構成されている。

・ これまではインターネットを用いた著作物の利用に大きな手間があったが,制度改正により補償金が設定され円滑な著作物の利用が可能となった。

・ 補償金額の算出根拠として,高等教育では学術論文の公衆送信時の使用料を,初等中等教育では教科書の使用料を参考にした。意見聴取を経て,当初の提案額から一律して80円減額することになった。大学等は「720円/一人・年」として文化庁認可申請を行った。

・ 補償金の支払いは教育機関の設置者が行う。また,支払う補償金額は,公衆送信を利用した人数によって包括的に算出する。全校生徒の数を必ず根拠としなければならないわけではなく,利用状況を把握してもらうことになる。公開講座の算出方法について,算出単位を変更し,30名1単位として10単位3,000円を算出単価としている

・ 補償金の権利者への分配について,教育機関への実態調査を行い,それに基づき権利者へ分配を行う予定である。教育機関の負担軽減を図ったうえで,サンプリング調査を行う。各機関への調査は数年に一度等の頻度で行うことを検討している。

・ 著作物の教育利用については,関係者でフォーラムを結成し,著作物の利用推進を検討している。運用指針も同フォーラムで検討している。

・ 補償金の対象とならない著作物の利用(教材の共有や授業外会議,履修期間終了後の学生に対する公衆送信など)についても,ライセンスを付与できるよう準備をしている。

・ 現在は文化庁に対して補償金の認可申請を行っている。認可審査により補償金の金額が上下することはないと思われる。12月には金額が認可される見通しであり,次年度から各機関からの申請を受け付ける予定である。5月1日時点の学生数を基準に申請してもらうことになる。

・ 今後ICTを利用した教育を推進するために著作物の利用環境を整備していく必要がある。

質疑応答

Q:設置者の判断により本制度を活用しないことはあり得るのか。

A:公衆送信を行う場合は,本制度の利用は法令上の義務である。

Q:従前は無償であった対面での著作物の利用も有償となるのか。

A:従前のとおりである。

Q:同一敷地内での配信は有償となるのか。

A:学校内部のサーバのみを介して行われる送信は本制度の対象外である。ただし,外部サーバやインターネットを利用する場合は,本制度の対象となる。

Q:外国の著作物の著作物やSATRASに参画していない著作者団体の著作物などは利用できるのか。

A:外国の著作物でも利用できる。参画していない権利者団体の著作物なども制度の範囲内で利用できる。

Q:補償金を支払えば制限なく利用できるのか。

A:運用指針等の範囲内で利用できる。一切制限なく利用できることではない。

Q:どのタイミングで著作権のことを考えなければならないのか。

A:第三者の著作物を利用する際に考えてほしい。

Q:講師自身の著作物を自身が使用する場合は制度の対象か。

A:自身の著作物を利用する場合は制度の対象外である。

Q:オンデマンド教育においてすでに全員が購入している著作物を公衆配信する場合も補償金の支払いが必要か。

A:必要である。

Q:運用指針の検討状況を教えてほしい。

A:来年度に間に合うように準備している。

Q:包括的なライセンスの検討状況を教えてほしい。

A:補償金制度を補完するライセンスは必要であり,検討を進めている。教材の共有や教職員会議などを対象としたい。

Q:本制度に罰則規定はあるのか。

A:罰則規定はない。ただし,民事的な責任は発生し,SATRASから損害賠償請求がなされる場合がある。

Q:法人単位ではなく学校単位で申請することは可能か。
A:教育機関の設置者(学校法人など)が支払いの義務者であることが法令で定められている。

Q:遠隔授業を行う学校のみの申請でよいか。

A:オンライン授業を全く行わない場合は対象に含める必要がない。

Q:オンライン授業を利用するクラスのみ申請すればよいか。

A:オンライン授業を利用する人数を申請してほしい。

Q:年度途中からの利用はできるのか。

A:年度途中から申請できる。補償金額は年額を12分割することになる。

Q:学生数の根拠はどうか?

A:5月1日の在籍数となる。非正規生が1年を通じて利用する場合は,数に含める。

Q:来年度の申請は5月1日以降となるが,4月1日以降本制度を利用した授業を行っても良いのか。

A:本制度は、申請や補償金支払いが終わる前でも利用することができる。

Q:補償金の金額や徴収方法の時期を決定するのはいつか。

A:補償金額は2020年内に認可される予定である。各機関との契約業務は2021年度以降の対応になる。

Q:2021年度に改めて申請を行う必要があるのか。

A:年度ごとに申請を行ってほしい。自動更新は行わない。

Q:実態調査に備えて準備することはあるか。

A:実態調査はすべての機関に毎年行うのではなく,抽出して調査を行う。各教員に著作物の利用状況を確認(誰のどのような著作物をどの程度利用したか)することになるため,教員が著作物の利用状況を随時記録していれば対応しやすくなるだろう。

本年度後期や次年度の各授業科目の実施方法に係る留意点について

https://www.mext.go.jp/content/20200727-mxt_kouhou01-000004520_1.pdf

本年度後期や次年度の各授業科目の実施方法に係る留意点について

 文科省より、本年度後学期や次年度の授業に係る通知が出されました。いくつか気になる点がありますので、ここに明記しておきます。

1.大学設置基準第25条第1項について

 本年度後期や次年度の各授業科目の実施方法を検討するに当たっては,大学設置基準第25条第1項が,主に教室等において対面で授業を行うことを想定していることに鑑み,

 コロナ関係の通知でこの文言は初めて見た気がします。関連条文を確認します。

大学設置基準

(授業の方法)

第二十五条 授業は、講義、演習、実験、実習若しくは実技のいずれかにより又はこれらの併用により行うものとする。

2 大学は、文部科学大臣が別に定めるところにより、前項の授業を、多様なメディアを高度に利用して、当該授業を行う教室等以外の場所で履修させることができる。

3 大学は、第一項の授業を、外国において履修させることができる。前項の規定により、多様なメディアを高度に利用して、当該授業を行う教室等以外の場所で履修させる場合についても、同様とする。

4 大学は、文部科学大臣が別に定めるところにより、第一項の授業の一部を、校舎及び附属施設以外の場所で行うことができる。

 第2項から第4項まではできる規定であるため、原則としては第1項の対応であり、それは対面授業を想定しているとのことです。大学設置基準の解釈が通知に出てくることはそれほど多くないため、覚えておきたいところです。

2.面接授業の実施検討について

地域の感染状況や,教室の規模,受講者数,教育効果等を総合考慮し,今年度の授業の実施状況や学生の状況・希望等も踏まえつつ,感染対策を講じた上での面接授業の実施が適切と判断されるものについては面接授業の実施を検討していただき,授業の全部又は一部について面接授業の実施が困難と判断される際には,「2 遠隔授業等の実施に係る留意点」を踏まえた上で,遠隔授業等(面接授業との併用を含む。)の実施を検討いただくようお願いいたします。

 この文章からは、まずは対面授業の実施を検討し、実施が困難である場合は遠隔授業等の実施を検討するように読み取れます。

 前学期前に発出された「令和2年度における大学等の授業の開始等について(通知)」(元文科高第1259号令和2年3月24日)では、

面接授業に代えて遠隔授業を行う場合にも,大学は当該授業科目を履修した学生に対しては試験の上単位を与えることになるが,その方法は,一斉に実施する定期試験等に限られるものではなく,レポートの活用による学習評価等,到達目標に応じた適切な成績評価手法を選択することができること。

とあり、あくまで遠隔授業は面接授業の代わりであることとなっています。

 今回の通知ではそれが一層明確な印象を受け、面接授業の軸足を置くというコロナ以前の状態に回帰気味なのではないかと思っています。

 ちょっと気になるのは「学生の希望」という文言が含まれているところです。本来であれば、授業の実施形態は、最も教育効果の上がり到達目標は達成される方策を選択すべきだと考えますが、「学生の状況」はともかく、ここで「学生の希望」という文言が含まれた意味を考えてしまいます。

 この文言は、本通知中にもう一度出てきます。

ただし,感染の状況は日々刻々と変化しているものであることから,一度実施方針を決定した後においても,地域の感染状況や,学生の希望等も踏まえ,必要に応じてその実施方法の見直しや更なる改善に努めるようお願いいたします。

 「地域の感染状況」と「学生の希望」が並列で明記されています。この取り扱いは慎重に検討していきたいです。

3.受験生への情報提供について

以上を踏まえ,各授業科目の実施方法について御検討いただいた結果,本年度後期や次年度の授業の実施方法としては,面接授業のみ実施,面接授業と遠隔授業の併用実施,遠隔授業のみ実施等多様な授業の実施形態が考えられますが,いずれの場合も,授業計画(シラバス)等に明示し,学生に対して丁寧な説明に努めるとともに,その実施方針等については、受験生の進学先の参考となるよう,できる限り早めにインターネット等により公表していただくようお願いいたします。

 「受験生の進学先の参考」という言葉が出てきました。

 文章上は、「本年度後期や次年度の授業の実施方法としては,(中略)その実施方針等については、受験生の進学先の参考となるよう,できる限り早めにインターネット等により公表していただくようお願いいたします。」となるため、必ず各授業の形態を公表するというよりは、実施方針を公表するという取り扱いができると考えています。ただ、一度決定した後も見直しや改善に努めよとあるなかで、都度都度変更を公表することは、どの程度受験生の進学先の参考になるのか判断ができないと感じています。

4.レポート課題の不正防止措置について

その際,課題の提出や定期試験等の代替として行われるレポートの活用による学習評価等の際の不正防止対応方策を講じていること。

 レポート課題の不正防止対応方策が唐突に出てきました。当然、従前から何らか対応していると思いますが、ここでいう「対応方策」が個々の教員の努力で足りるものなのか、剽窃防止システムの導入など組織的な対応のみ該当するものなのかは判断が難しいところです。

大学は「授業科目を自ら開設」せずともよくなるのか

大学の授業科目の相乗りが可能に、再編にも影響か(ニュースイッチ) - Yahoo!ニュース

文部科学省は各大学の独自開設が原則の授業科目に対し、連携する他大学の科目をそのまま活用できる新たな仕組みを始める。この「連携開設科目」は1法人傘下の大学間か、新制度で文部科学相認定の「大学等連携推進法人」に参加する大学間が対象だ。

 大学等連携推進法人に関するニュースが出ていました。これは、7月15日に行われた中央教育審議会大学分科会(第115回)を受けての記事だと思います。今回は、この件について考えてみます。

1.現行法令

本件に関連する現行法令は、以下の通りです。

大学設置基準

(教育課程の編成方針)
第十九条 大学は、当該大学、学部及び学科又は課程等の教育上の目的を達成するために必要な授業科目を自ら開設し、体系的に教育課程を編成するものとする。

 ここにある通り、”大学は〜〜必要な授業科目を自ら開設し”とされており、基本的には授業科目は各大学にて開設するという前提で運営されています。今回のニュースは、この制限を緩和することと理解しています。

2.新たな仕組みの概要

 大学分科会の資料では、大学等連携推進法人や同一法人内の授業解説に関する特例は、以下の通り示されています。

一定の要件を満たす認定一般社団法人の社員が設置する大学(専門職大学及び短期大学を含む。以下同じ。)間及び複数大学設置法人が設置する大学間において、➀他の大学が当該大学と連携して開設する授業科目を当該大学が自ら開設したものとみなすことができる特例措置を設けるとともに、②共同教育課程を設ける場合の各大学で修得すべき単位数の緩和を規定。

①及び②いずれの教育上の特例にも共通する要件として認定一般社団法人及び複数大学設置法人に求める事項

(1).認定一般社団法人

 ア 法人の教学面の代表者が参画する組織(理事会)の設置

 イ 同理事会における大学等連携推進方針の策定・公表

 ウ イの大学等連携推進方針の文部科学大臣への届出

(2).複数大学設置法人

 ア 法人の教学面の代表者が参画する組織(連携推進管理体制)の設置

 イ (1).イの大学等連携推進方針に準ずるものの策定・公表

 ウ イの大学等連携推進方針に準ずるものの文部科学大臣への届出

①連携開設科目に係る規定等の整備

(1).認定一般社団法人の社員が設置する大学間及び複数大学設置法人が設置する大学間において、他の大学が当該大学と連携して開設する授業科目を当該大学が自ら開設したものとみなす特例措置を設けること

(2).(1).の場合において、大学は、以下のア及びイの要件を満たさなければならないものとすること

 ア 当該大学が自ら開設したものとみなす授業科目(以下、「連携開設科目)」が、大学等連携推進方針(複数大学設置法人が設置する大学間の場合にあってはこれに準ずるもの)に沿って開設されていること

 イ 連携開設科目を自ら開設したものとみなす大学及び当該科目を開設する大学等は、当該連携開設科目を開設し、実施するため、以下に掲げる事項の協議の場(教学管理体制)の設置を義務付けること

  (ア) 授業の方法及び内容並びに年間の授業計画

  (イ) 学修の成果に係る評価に当たっての基準

  (ウ) 連携開設科目の履修に係る学生の利便及び移動等への配慮

  (エ) その他連携開設科目の開設・実施に必要な事項

(3).大学は、学生が他の大学等において履修した連携開設科目について修得した単位を、当該大学における授業科目の履修により修得したものとみなすものとすること

(4).卒業の要件として修得すべき単位数のうち、連携開設科目の履修により修得したものとみなす単位数の上限は、30単位とすること

(5).当該大学以外の大学が開設する授業科目を連携開設科目として当該大学が自ら開設したものとみなす場合には、当該大学は、連携開設科目に係る以下の事項を公表しなければならないものとすること

 • 授業科目、授業の方法及び内容及び年間の授業の計画

 • 学修の成果に係る評価

②共同教育課程の修得すべき単位数の緩和について

(1).共同教育課程の全ての構成大学の設置者が同一である場合、又は認定一般社団法人の社員である場合であって、当該設置者又は認定一般社団法人が上記の要件を満たすときは、共同教育課程に係る授業科目の履修によりそれぞれの大学で修得すべき単位数について、学士課程で「31単位」又は「32単位」とされているものを「20単位」とするものとすること

(2).それぞれの大学において当該共同教育課程に係る授業科目の履修により修得すべき単位数のうち、連携開設科目の履修により修得した単位は除くこととする。

 緩和の特例(連携開設科目)を受けるためには、まずは、体制の整備や方針の策定が必要です。さらに、会議体で検討しなければならないこともあります。ただ、上記の文言だけ読むと、それほど難易度が高いとは思えません。むしろ、既存の教育課程にどのように連携開設科目を位置付けるかが難しそうだと感じます。

3.懸念

 まだあまり詳細な内容が明らかになっていないところもありますが、本件についていくつか懸念があります。

3−1.他の条文との関係はどうなるか

 大学設置基準には、第19条の他にも、教育課程に関する条文があります。

(授業科目の担当)
第十条 大学は、教育上主要と認める授業科目(以下「主要授業科目」という。)については原則として専任の教授又は准教授に、主要授業科目以外の授業科目についてはなるべく専任の教授、准教授、講師又は助教(第十三条、第四十六条第一項及び第五十五条において「教授等」という。)に担当させるものとする。

 第10条では、主要授業科目は原則として専任の教授又は准教授に担当させるとしています。この点は連携開設科目と相容れないものになる可能性がありますので、第10条も改正されるのでしょうか。個人的には、大学には教授が多いという批判は第10条に影響されているとも感じていますので、第10条の改正には注目しています。

 併せて、連携開設科目の内容によっては運動場や校地校舎の基準が緩和されるのか、(おそらくないでしょうか)気になります。

3−2.適用範囲はどうなるか

 すでに、各大学にて、他大学の授業を履修してその単位を認定する単位互換が行われています。ただ、選択科目として認定されている場合が多いのではないかと思っています。

 今回の連携開設科目については、必修科目まで他大学の開設科目で代替できるのか、その適用範囲は気になるところです。

3−3.質保証はどうなるか

 他大学の授業科目を流用するわけですので、その質保証をどのように行うのかは難しいと感じています。「協議の場」にて行うのでしょうが、教育課程は「みなす大学:授業流用大学」が、当該授業は「みなし大学(みなされる大学):授業開設大学」が責任を持つことになるのでしょうか。

一応、大学分科会の資料では、以下の通りとなっています。連携開設科目の開設に自ら開設したものとみなす側の大学の強い関与を法令上担保する観点から、連携開設科目の実施状況に係る自己点検・評価や認証評価における適切な指針となるよう、大学間の協議事項を告示で要件化するとともに、みなす側の大学に連携開設科目の情報公表を義務付けること。一方、みなし側の大学数の上限については法令上一義的に決定することが困難であること、他の類似する制度(共同教育課程等)において規定していないことから法令上上限を設けることはしないが、施行通知等において上限の目安を示すことを検討。

 また、「みなす大学」が学修の成果に係る評価を公表となっている点は気になります。評価の基準ではなく評価を公表となると、成績評価の分布などを公表するということでしょうか。

3−4.設置申請等が大変そう

  実際に連携開設科目を用いて設置申請や課程認定申請などを行うとなると、他大学との調整が必要なので、結構大変そうだなと感じました。

3−5.学生への配慮をどうするか

 他大学の授業科目を授業するため、学生への説明や理解を得ることがどこまでできるのかという点も気になります。特に、遠隔授業が(予期せぬ事態により)普及しているとは言え、図書館などの施設面も含めてどこまで学生の学修に配慮できるかは考えなければなりませんね。

「「法人化」を言い訳にする残念な人々」という記事を残念な思いで眺める。

国立大学の能力低下、法人化は失敗だったのか? NFIからの提言(10)「法人化」を言い訳にする残念な人々(1/5) | JBpress(Japan Business Press)

その中で、日本が抱える課題をどのように解決していくべきか。データを活用した政策形成の手法を研究するNFI(Next Generation Fundamental Policy Research Institute、次世代基盤政策研究所)の専門家がこの国のあるべき未来図を論じる。国立大学の法人化の是非を理事長の森田朗氏が問う(過去9回分はこちら)。

 非常に腹の立つ記事を見つけたので、あまり論考できていませんが、いろいろ言いたいことがあります。久しぶりに書き散らかし感があるエントリーとなりましたが、本来弊BLOGは都内某所への怒りから始めたところもありますので、初心を思い出しました。
 ちなみに私は、「”新たな価値により新たな資金を稼ぎそれを原資にさらに新たな価値を生みだし新たな資金を稼ぎ法人全体を成長させる”ということを”経営”と呼ぶならば、国立大学法人は制度上経営はできないようになっている」派なので、そもそも「国立大学の能力低下、法人化は失敗だったのか?」というタイトル自体が失当だと思っています。経営をするのは国立大学ではなく国立大学法人ですしね。

法人化と予算削減は分けて考えなければならない

これまで、予算は支出費目を指定されていたが、法人化後は使途を指定しない運営費交付金として付与する。ただし、大学自身で内部の効率化を図ることができるし、競争的研究資金を含め外部資金の導入も認められることから、運営費交付金に関しては毎年1%削減することとされた。

要するに、大学が「自由」と「カネ」を希望しても両方得るのはムリである。そのときの情勢からしてカネを増やすことは期待できない以上、自由を選択するのは合理的な選択であった。

 平成16年度から効率化係数が導入されたのは事実です。ただし、それと法人化を分けて考えなければ何が問題だったのかが整理できないと感じています。特に、国立大学法人法制定時の国会付帯決議は、

衆議院
六 運営費交付金等の算定に当たっては、公正かつ透明性のある基準に従って行うとともに、法人化前の公費投入額を十分に確保し、必要な運営費交付金等を措置するよう努めること。また、学生納付金については、経済状況によって学生の進学機会を奪うこととならないよう、適正な金額とするよう努めること。

参議院
十二  運営費交付金等の算定に当たっては、算定基準及び算定根拠を明確にした上で公表し、公正性・透明性を確保するとともに、各法人の規模等その特性を考慮した適切な算定方法となるよう工夫すること。また、法人化前の公費投入額を踏まえ、従来以上に各国立大学における教育研究が確実に実施されるに必要な所要額を確保するよう努めること。

となっていることは忘れてはなりません。付帯決議の実効性はさておき、国会審議をないがしろにするようなことは、仮にも当事者を自認するのであればするべきではないでしょう。言い方を借りるならば、知ったような顔をしてスマートぶったなことを言うよりは、「自由」も「カネ」も手に入れるように行動するほうがなんぼか役に立ちますよ。

競争的資金は大学経営に使えるとは限らない

すなわち、上手に経営を行うことができる大学は限られた資金であっても有効に使い、さらなる資金を獲得して研究も教育も発展させることができるであろう。他方、経営能力に欠ける大学は衰退し、将来的には統廃合の対象となるかもしれない。

 さも基盤的経費がなくとも競争的資金により大学経営が成せるように書かれています。しかし、使途の制限がない基盤的経費に比べ、競争的資金は一般的に使途が極めて限定的であり、必ずしもなんでも使えるとは限りません。

 例えるなら、Aという商品が売れたとしてもその売り上げはA'という商品の開発にしか使えず、赤字になっているBという商品には使えないようなものです。幅広い大学の業務の中でごくごく一部の事業のみ潤ったとしても、その根幹となる部分(人件費や整備費など)が貧弱なままであれば、運営すらおぼつかなくなりますね。

改革をすればうまくいくという論拠が不明

このため、法人化に際しては、大学トップである学長の選出は、外部の人材も加えた学長選考会議に委ねる仕組みが採用された。ただ、新設大学はともかく、伝統ある国立大学では教員の信任なきトップがリーダーシップを発揮することは難しい。その結果、多くの国立大学で、従来と同様の構成員による意向投票の制度が維持されたが、従来の慣習から脱却できないがゆえに、思い切った改革ができず、ジリ貧状態に陥りつつあるといえるのではないか。

その意味で、国立大学も、そろそろ腰を据えて自ら思い切った改革に取り組むべきときだと思う。学内の研究能力や事務運営の厳格な評価を行い、ムダを削減し効率性を高め、発展の可能性のある分野に資源を振り向けるべきである。

 さも改革すれば経営がうまくいくといった論調ですが、論拠は不明です。むしろ、改革を重ねることにより、構成員のフォロワーシップが低下し、大学全体の活力が低下する可能性もあるのではないでしょうか。教育政策に限らない話かもしれませんが、政策の方向性がよくないのか、政策の運用がよくないのか、どちらなのかはなかなか難しいなと感じています。

結局、財務当局と同じことしか言っていない

その結果、運営費交付金の削減はおかしい、法人化は間違いだったという主張になっているように思われる。しかし、現状の経営体制のまま、運営費交付金の増額を求める主張は納税者に対して説得力を欠くといわざるをえないだろう。

 突然「納税者」という言葉が出てきました。なるほど確かに総体としての国立大学法人の経常収益のうち、34%は運営費交付金収益です*1。ただ、納税者たる国民が国立大学の経営についてどれほど興味関心があるのでしょうか。たしかに気にすべき点ではあり無視はできませんが、どちらかといえば「納税者」という言葉を隠れ蓑にした財務当局のことでしょうね。となると、この記事で書かれていることは財務当局の主張と同じように感じてきます。

とは言え、最後の一文はそのとおり

いま必要なのは、大学人が大学を取り巻く環境について認識すること、すなわち大学人の意識改革だ。それなくして、ただただ財源の不足を指摘し、法人化は間違いだったと主張しても、国立大学の教育・研究の質が改善されるとはとても思えない。

 ここまでいろいろと指摘してきました。ただ、「意識改革」という中身のない言葉は嫌いですが、最後の一文はまぁそれもあるよねと思っています。私は法人化後の採用ですが、この10年間で国立大学の中は結構変わってきたと感じています。しかし、それ以上に様々な要求が国立大学に寄せられ、変化のメリットをはるかに上回る改革要求のデメリットが生じているのかもしれません。とは言え、この元記事に書かれたような内容を世間も認知しているのだとしたら、自分にはどのようなことができるのか考えてしまいます。

 本来ならば、改革に夢を見ず地道な変化を積み上げていくことが望ましいと思いますが、当の行政当局が改革に夢をみて恋焦がれている状況では、それをうまくいなしながら自分たちの道を作っていなかければならないと改めて感じました。

まち・ひと・しごと創生基本方針2020の大学関連個所について

関係法令・閣議決定等 - まち・ひと・しごと創生本部

 まち・ひと・しごと創生基本方針2020が閣議決定されました。骨太の方針2020と関連する箇所がありますが、骨太の方針2020と同じように、大学に関連する箇所を以下に示します。

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/info/pdf/r02-07-17-kihonhousin2020hontai.pdf

第2章 政策の方向

<今後の取組の進め方>

Ⅲ 強靭な経済構造の構築~危機に強い地域経済~

感染症の克服と強い地域経済の構築を進めるため、「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」(以下「地方創生臨時交付金」という。)の活用や、地方大学の産学連携強化と体制の充実、リモートワーク推進等による移住の推進等に取り組むとともに、結婚・出産・子育ての希望の実現に向けた取組を推進する。

2.新たな日常に対応した地域経済の構築と東京圏への一極集中の是正

(2)地方への移住・定着の推進
①地方大学の産学連携強化と体制充実

東京圏の大学に進学する者のうち、東京圏外からの進学者は減少傾向にあるものの依然として約3割を占めており、また、地方大学に進学・卒業した者についても、地域によっては半数以上が地域外に就職する傾向があるとの調査もあることから、進学・就職それぞれのタイミングで、地方定着を促していくことが必要である。
地方大学には、地域「ならでは」の人材を育成・定着させ、地域経済を支える基盤となることが求められており、地域の特性やニーズを踏まえた人材育成やイノベーションの創出、社会実装に取り組む地方大学の機能強化を図ることが重要である。また、若者を惹きつけるような魅力的な地方大学を実現するためには、このような地方大学の特色を活かした優れた取組を重点的に支援することが重要である。
このため、地域の課題やニーズに適切かつ迅速に対応できる魅力的な地方大学の実現に向け、地方公共団体や産業界を巻き込んだ検討を行い、地方においても今後更にニーズが高まるSTEAM人材等の育成等に必要な地方国立大学の定員の増員やオンライン教育を活用した国内外の大学との連携等を盛り込んだ、魅力的な地方大学の実現とともに魅力的な雇用の創出・拡大のための改革パッケージを早急に取りまとめる。また、複数の高等教育機関地方公共団体、産業界等が恒常的に連携する「地域連携プラットフォーム(仮称)」の構築や、これを活用した地域産業の推進等に資するエコシステムの構築を推進する等、若者をはじめ地域の様々なステークホルダーにとって魅力的な地方大学を目指す。あわせて、地方大学・地域産業創生交付金により地域の中核的産業の振興に向けた研究開発や人材育成の取組に対して重点的に支援を行い、「キラリと光る地方大学づくり」を進めていく。
また、地方のサテライトキャンパスの設置の促進や、地方における魅力的なインターンシップを推進すること等により、就職先を決める前の段階で地方や地方企業の魅力を知る機会を創出するとともに、奨学金返還支援の取組を更に広げていくことで、若者の地方への定着を強力に促す。

第3章 各分野の政策の推進

1.稼ぐ地域をつくるとともに、安心して働けるようにする

(1)地域の特性に応じた、生産性が高く、稼ぐ地域の実現
地域資源・産業を活かした地域の競争力強化
ⅳ地域発イノベーション等の創出と地域産業の新陳代謝促進退
【具体的取組】
(a)地域発のイノベーションの創出の促進

地方公共団体と地方大学が緊密に連携して、中長期的な見通しの下、その地域の活性化及び地域社会課題の解決に必要な研究シーズの社会実装や、そのために必要な人材を将来にわたって確保するために必要な取組を進めることを支援し、もって地方創生に資する科学技術イノベーションが地域において自律的・継続的に創出されるエコシステムを構築する。(文部科学省科学技術・学術政策局産業連携・地域支援課)

・企業ネットワークのハブとして活躍する大学等を選抜して伴走支援する「地域オープンイノベーション拠点選抜制度」において、新規市場の開拓や専門家の紹介等を支援する。また、地域企業によるイノベーション創出・生産性向上が進むよう、公設試験研究機関・大学等による企業支援体制を強化する。(経済産業省経済産業政策局地域経済産業グループ地域企業高度化推進課、産業技術環境局技術振興・大学連携推進課大学連携推進室)
・IoT・ビッグデータ・AI等の先進技術を活用して地域課題の解決を実現するとともに、地方の経済発展を推進する取組を「地方版IoT推進ラボ」として選定し、新事業の創出等を支援する。また、地域の中小企業・IT企業・大学等と高度なITスキルを有する人材をマッチングさせ、新たなビジネスモデルを創出する仕組みを構築する。(経済産業省商務情報政策局情報技術利用促進課)
(b)創業支援

・産学金官の連携により、地域の資源と資金を活かした創業や既存事業の新分野展開を後押しするローカル10,000プロジェクトを、事業の効果検証及び優良事例集の周知や効果的な広報を通じ、強力に推進する。(総務省自治行政局地域政策課)

・起業経験者の講師派遣等により教育現場での起業家教育の導入を推進するほか、学生を含む潜在的創業者を対象としたイベントを開催するなど、将来の創業者の育成や起業家となる人材の輩出に向けた創業機運を醸成する。(中小企業庁経営支援部創業・新事業促進課)
・外国人起業活動促進事業に関連する制度・運用の拡充や外国人留学生の大学卒業後の起業促進について、入国・在留管理等に係る制度・運用の見直し等を行い、留学生による我が国での起業の円滑化を実現する。(出入国在留管理庁政策課、経済産業省経済産業政策局産業創造課新規事業創造推進室)
③魅力ある地方大学の実現と地域産業の創出・振興等 【具体的取組】

(a)特色ある地方創生のための地方大学の振興

・「キラリと光る地方大学づくり」を進め、地域における若者の雇用機会の創出を促進する。2018年度に採択された事業については、取組が地域に根付いたものとなるよう資金面の自走化も含めて事業推進を加速する。また、新設した地方公共団体における計画作成の段階から支援する申請枠を通じ、製造業のみならず農林水産業、観光業、情報通信業、文化産業、スポーツ産業等において、特色ある取組を促す。(内閣府地方創生推進事務局)

・大学と産業界・地方公共団体との連携強化を推進し、地域のニーズを踏まえた人材育成等を促進するため、各地域における地域連携プラットフォーム(仮称)の構築や、これを活用した地域産業の推進等に資するエコシステムの構築を推進する。(文部科学省高等教育局高等教育企画課、科学技術・学術政策局産業連携・地域支援課)
・地方大学において、地域の特性やニーズを踏まえた人材を育成し、地域に着実に定着させるとともに、イノベーションの創出や社会実装により地方における新たな産業や雇用の創出を更に推進するため、STEAM人材の育成や分野融合の教育研究推進とその成果の社会実装等を強化する地方国立大学の定員の増員を含め、今後の地方大学の望ましい在り方を実現するための大胆な改革に向けた検討を速やかに行う。(内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局、文部科学省総合教育政策局地域学習推進課、高等教育局高等教育企画課、大学振興課、専門教育課、国立大学法人支援課、科学技術・学術政策局産業連携・地域支援課)

(b)学生等のUIJターンや地元定着の促進

奨学金返還支援事業に係る特別交付税措置の拡充等の支援策について情報発信等を行い、地域産業の担い手となる学生等のUIJターンや地元定着を促進する。また、各地の支援制度の活用を促すため、効果検証に係る調査研究を行うとともに、独立行政法人日本学生支援機構等とも連携し広報活動を強化する。(内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局、総務省自治財政局財務調査課、文部科学省高等教育局学生・留学生課)

・東京圏の大学等の地方へのサテライトキャンパスの設置を推進するため、地方公共団体と大学等との連携の強化等に取り組む。また、地方創生インターンシップに係る情報発信を行うとともに、質の高いインターンシップの実施に向けて研修会を開催し、学生が就職前に地方の魅力を知る機会を設ける。(内閣府地方創生推進室、文部科学省高等教育局専門教育課、私学部私学助成課)
(c)地域の専門人材の育成

高等専門学校の教育の高度化とともに、高等専門学校のシーズを地域の大学等及び地元企業等が活用できるようにすることで、地域課題の解決や地域産業の活性化を推進する。また、専門職大学専門職短期大学専門職学科について、開設する分野や地域の拡大を進め、実践的な職業教育や地域産業の振興を担う人材の育成を行う。(文部科学省高等教育局専門教育課)

・スーパーグローバル大学創成支援事業及び大学の世界展開力強化事業を通じて、地域の大学と海外の大学等との連携・交流を促進し、グローバルな視点を持ち、地域の振興に貢献できる人材を育成する。(文部科学省高等教育局高等教育企画課国際企画室)

4.ひとが集う、安心して暮らすことができる魅力的な地域をつくる

(1)活力を生み、安心な生活を実現する環境の確保
地域資源を活かした個性あふれる地域の形成
【具体的取組】
(d)スポーツ・健康まちづくり
・地域のプロスポーツチーム等と企業、大学等が連携したまちづくりや新たなサービスの創出を目指す地域版のスポーツオープンイノベーションプラットフォーム(地域版SOIP)の構築を促進する。また、地方公共団体を含む関係者との協働により、生活の中で多様なスポーツ機会を提供するための体制構築や、総合型クラブの登録・認証制度の整備、障害者、生活習慣病や運動器疾患等を有する住民等でもスポーツができる環境整備を行う。(スポーツ庁健康スポーツ課、参事官(地域振興担当)、参事官(民間スポーツ担当)、厚生労働省健康局健康課、社会・援護局障害保健福祉部企画課自立支援振興室、経済産業省商務情報政策局商務・サービスグループサービス政策課、国土交通省都市局まちづくり推進課、公園緑地・景観課、観光庁観光地域振興部観光資源課)

5.多様な人材の活躍を推進する

(1)多様なひとびとの活躍による地方創生の推進

・各省庁や大学、民間企業の協力の下、人材の派遣を行うとともに、派遣協力企業の専門分野等の情報をまとめた協力情報リストを拡充する。(内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局、内閣府地方創生推進室、総務省自治行政局地域自立応援課)

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 「魅力的な」「キラリと光る」「個性的な」などの文言が踊ります。文部科学省科学技術・学術政策局産業連携・地域支援課(いわゆる産地課)が「「組織」対「組織」の本格的な産学連携」とか言い出したときもそう思いましたが、何が「本格的」か、何が「個性的」か、何が「魅力的」かなどをお前らが決めるなよ、と感じますね。

経済財政運営と改革の基本方針2020(骨太の方針2020)の大学関連個所について

経済財政運営と改革の基本方針2020 - 内閣府

令和2年7月17日、「経済財政運営と改革の基本方針2020~危機の克服、そして新しい未来へ~」(骨太方針2020)が経済財政諮問会議での答申を経て、閣議決定されました。

 骨太の方針2020が閣議決定されました。すでに報道されている各論もありますが、今後の政策にも大きく影響を与えるため、大学に関連する箇所を抜粋して示します。

https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2020/2020_basicpolicies_ja.pdf

第1章 新型コロナウイルス感染症の下での危機克服と新しい未来に向けて

4.「新たな日常」の実現

(ⅲ)「人」・イノベーションへの投資の強化

「新たな日常」の実現に向けた社会変革の推進力となる人材が従来に増して必要となっていることから、教育の充実により、課題設定・解決力や創造力を発揮できる人材育成を推進する。また、科学技術・イノベーションを加速し、生産性向上を通じた経済成長を実現する。

5.感染症拡大を踏まえた当面の経済財政運営と経済・財政一体改革

(2)感染症拡大を踏まえた経済・財政一体改革の推進

感染症拡大により東京一極集中のリスクが認識され首都圏において地方移住への関心が高まっているこの機を捉え、スマートシティの社会実装、地方大学のSTEAM人材育成や二地域居住・就業の促進など地方への新たな人の流れの創出により、多核連携型の国づくりを行う。

教育の質の向上に向けて、予測不可能な未来を主体的に切り拓くことができるよう、アクティブ・ラーニングや学びのデジタル化、外部人材の活用等を通じ、個別最適化された深い学びを実現し、課題設定・解決力や創造力のある人材を育成する。このため、教育研究の定量的成果等に応じた財政支援のメリハリ付けの強化を進める。また、科学技術・イノベーション政策では、創薬研究、デジタル化・リモート化やAI・ロボットなどの社会課題解決に資する分野を中核に据えて取り組む。その際、予算の質の向上を図りながら、官民連携による戦略的な研究開発投資を促進し、「世界で最もイノベーションに適した国」の実現につなげる。

第2章 国民の生命・生活・雇用・事業を守り抜く

(2)雇用の維持と生活の下支え

新卒者については、感染症の影響を踏まえ、多様な通信手段を活用した説明会・面接等の実施、柔軟な日程設定や秋採用・通年採用等による一層の募集機会の提供に加え、第二の就職氷河期世代を生まないとの観点から、中長期的視点に立った採用を進めるよう経済界等に対し積極的に働きかける。あわせて、自衛隊員の新規採用を積極的に行うほか、都道府県警察や消防本部の行う採用募集活動を積極的に支援する。

低所得のひとり親世帯や、子供たちの学びの保障、家計急変など経済的に困窮する高校生・大学生等に対する支援を着実に実施するとともに、不安を抱える妊産婦に寄り添った支援を行う。

第3章 「新たな日常」の実現

1.「新たな日常」構築の原動力となるデジタル化への集中投資・実装とその環境整備(デジタルニューディール

(3)新しい働き方・暮らし方

③ 教育・医療等のオンライン化

高校・大学の遠隔教育について、単位上限ルール等の見直しを検討する。また、義務教育段階の遠隔教育やデジタル教科書・教材の整備・活用を促進するとともに、デジタル教科書が使用できる授業時数の基準の緩和を検討する。

2.「新たな日常」が実現される地方創生

(1)東京一極集中型から多核連携型の国づくりへ

① スマートシティの社会実装の加速

人口が集積し、大学も立地している政令指定都市及び中核市等を中心にスマートシティを強力に推進し、企業の進出、若年層が就労・居住しやすい環境を整備する。

② 二地域居住、兼業・副業、地方大学活性化等による地方への新たな人の流れの創出

また、地方回帰に資するテレワークの推進、地方移住にもつながるサテライトオフィスの設置、デジタル産業等の起業、地方での兼業・副業支援を強化する。地域おこし協力隊等を強化し、若者、民間・専門人材の地方移転、産学金官の地域密着・経済循環型事業を促進する。大企業等から中小企業への経営人材等の移動の促進に取り組む。

魅力ある学びの場と地域産業を地方に創り、若者の地方定着を推進するため、理工系の女性を含むSTEAM人材の育成等に必要な、地方国立大学を含めた定員増や地域雇用向けの地元枠の設定、若手・実務家教員の別枠定員での登用、大学間のオンライン教育での連携等、魅力的な地方大学の実現等のための改革パッケージを年内に策定する。首都圏の大学の地方サテライトキャンパスの設置を促進する。

3.「人」・イノベーションへの投資の強化 ― 「新たな日常」を支える生産性向上

感染症による学校の臨時休業により、公教育のオンライン対応の遅れが顕著になり、学びを止めないことが課題となった。学びにおけるデジタル化・リモート化を推進し、優れた取組の横展開とPDCAの実行により、教育の質の向上と学習環境の格差防止に取り組み、子供たちの学びを保障する。ICT化は子供たちに世界の扉を開き、可能性を広げ、教師が教え子に向き合いやすくする。経済社会の変化とその形成に積極的に対応できる資質・能力を育成する観点から、一つの正解を導き出す画一的・横並び的な教育を脱し、その自由度を高め、学習者第一の視点に立って、課題設定・解決力や創造力のある人材育成を強化する。

(1)課題設定・解決力や創造力のある人材の育成

② 大学改革等

STEAM人材の育成に向けて、教育・研究環境のデジタル化・リモート化、研究施設の整備、国内外の大学や企業とも連携した遠隔・オンライン教育を推進するとともに、データサイエンス教育や統計学に関する専門教員の早期育成体制等を整備する。医工連携をはじめとする分野融合人材の育成、高等専門学校の高度化・国際化、専門職大学、専門学校、大学院等における企業等と連携・協働した社会のニーズに応える実践的な職業教育や博士課程教育をはじめとする高度人材教育の構築等を推進する。

優秀な人材を日本に惹きつける国際的な頭脳循環、トビタテ!留学JAPAN、大学間交流協定による単位互換や共同研究、教育プログラムの国際連携などを拡大する。

国立大学法人改革について、戦略的な大学経営を可能とする新たな法的枠組みを検討し、年内に結論を得る。国と新たな自律的契約関係を結ぶ国立大学法人は、グローバルな評価・処遇制度の下、人事の独立性を確保し、学生定員を自律的に管理、デジタル化を活かした質の高い教育を実践、リモート留学生・教員も含めたグローバルキャンパスを実現する。あわせて、戦略的経営を促す財務・会計の在り方等について具体的な検討を行う。国立大学法人運営費交付金の客観・共通指標による成果に基づく配分対象割合・再配分率を順次拡大しつつ、第4期中期目標期間の新たな配分ルールを検討する。

大学の連携・統合の推進、地域に貢献する公立大学への地方財政措置を含めた支援の実施、私学助成のメリハリある配分の強化を図る。

感染症による影響を含め、高等教育無償化等の実施状況の検証を行い、中間所得層における大学等へのアクセス状況等を見極めつつ、その機会均等について検討する。

リカレント教育

遠隔・オンライン学習、働く個人向けの教育訓練給付や事業主向けの人材開発支援助成金の活用、大学等によるプログラムの拡充も進めながら、例えば40歳を視野にキャリアの棚卸しを行うことにも資するよう、いくつになっても再チャレンジできるリカレント教育を全国的に推進する。産業界との連携・接続を強化した幅広い分野の実践的プログラムやデジタル・デバイドを防止する生涯を通じたe-ラーニングを強化する。機械やAIでは代替できない価値創造人材を育成するため、最新のIT・テクノロジーや教育手法を駆使した教育プログラムの開発を支援する。STEAM・デジタル人材の育成に向けた人材投資を促進するインセンティブ措置を強化した制度の検討を進める。

(2)科学技術・イノベーションの加速

「世界で最もイノベーションに適した国」に向けて、人文科学の知見も活用して未来を変革し、世界を先導していく。

次期「科学技術・イノベーション基本計画」において、これまでの取組の進捗・評価を踏まえ、デジタル化等の社会課題解決に資する分野を中核に据えて、人材育成を含めた優先順位付けやインセンティブ措置の強化を行うとともに、リーマンショック後の投資停滞を繰り返さないよう、新たな社会課題に応えるイノベーションの促進に資する指標を設定し、官民で連携し、研究開発投資の拡大に取り組む。関係司令塔の一層の機能強化・相互連携を図り、以下の取組を推進する。

世界トップレベルの研究力を実現するため、博士課程の処遇の向上、大学における安定的ポストの確保、産業界のキャリアパスの拡大等により、博士課程学生を含む若手研究者支援を強化する。研究の人材・資金・環境の改革と大学改革を一体的に展開し、基礎研究をはじめとする研究力の更なる強化を目指す。世界に比肩するレベルの研究開発を行う大学等の共用施設やデータ連携基盤の整備、若手人材育成等を推進するため、大学改革の加速、既存の取組との整理、民間との連携等についての検討を踏まえ、世界に伍する規模のファンドを大学等の間で連携して創設し、その運用益を活用するなどにより、世界レベルの研究基盤を構築するための仕組みを実現する。女性研究者の支援や研究者の移動の促進も重点化し、多様性を活かして人的資本を高め、国際協力を強化する。ムーンショット型研究開発及び創発的研究の支援により、破壊的イノベーションにつながる成果を創出する。知的財産利活用等の知財戦略を推進するとともに、官民が連携し、先端技術・システム等の機動的・戦略的な国際標準化に取り組む体制を強化する。また、官民連携による戦略的な研究開発投資について、企業による外部研究資源の活用や目利き人材によるマッチングなどの取組の支援、官民連携主体の外部化の検討、スタートアップ企業への投資促進支援、大企業とスタートアップ企業の契約適正化やスピンオフを含む事業再編を促進するための環境整備などを通じて、オープン・イノベーションを推進するとともに、イノベーション・エコシステムの維持・強化に向けた取組を推進する。

最先端の基盤的技術であるデジタル化・リモート化、AI・ロボット、量子技術、再生医療、バイオ、マテリアル革新力、革新的環境エネルギー、アルテミス計画等の宇宙探査、準天頂衛星等各省連携による衛星開発や基幹ロケット開発等の宇宙分野、北極を含む海洋分野の研究開発を戦略的に進める。効果的な治療法・治療薬やワクチンの研究開発等の感染症対策、防災・減災等の国及び国民の安全・安心に資する重要な技術分野への予算や人材等に重点化を図るとともに、シンクタンク機能を含む新たな体制の検討を進め、SDGs等の社会課題に対応した戦略的で質の高い研究開発を官民挙げて推進する。

研究開発への更なる民間資金の活用、世界の学術フロンティア等を先導する国際的なものを含む大型研究施設の戦略的推進、最大限の産学官共用を図るとともに、民間投資の誘発効果が高い大型研究施設について官民共同の仕組みで推進し、予算を効果的に執行する。また、科学研究費助成事業などの競争的研究費の一体的見直し、研究設備・機器等の計画的な共用の推進、研究のデジタル化・リモート化・スマート化の推進に向けた基盤の構築等を図る。

 国立大学においては、

  • 地方国立大学を含めた定員増や地域雇用向けの地元枠の設定、若手・実務家教員の別枠定員での登用、大学間のオンライン教育での連携等、魅力的な地方大学の実現等のための改革パッケージ
  • 戦略的な大学経営を可能とする新たな法的枠組みを検討
  • グローバルな評価・処遇制度の下、人事の独立性を確保し、学生定員を自律的に管理、デジタル化を活かした質の高い教育を実践、リモート留学生・教員も含めたグローバルキャンパスを実現
  • 戦略的経営を促す財務・会計の在り方等について具体的な検討
  • 国立大学法人運営費交付金の客観・共通指標による成果に基づく配分対象割合・再配分率を順次拡大しつつ、第4期中期目標期間の新たな配分ルールを検討

などと勇ましい言葉が並びます。定員増については、増加分の予算措置がなされるのかどうかが気になるところです。

「課題で大変」という学生への複雑な感情

 新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため、各大学では遠隔授業が進められています。その際、学生からは「各授業で課題が出されるので、その対応で大変」ということをよく聞きます。これは、文部科学省からの通知*1等も踏まえ、遠隔授業への出席や理解度確認のために各授業で課題が出されているものと思います。

 率直に言って、この未曽有のコロナ状況下で他者との協力もなかなかできずに課題を進めていくことは実際に大変だろうと思いますし、何とかしてあげたいとも思います。一方で、そもそも大学での学びとはこのようなものだと思う気持ちもあり、複雑な感情を抱いています。

法令上の学習時間

大学設置基準の定め

 授業を履修し成績が評価されればその授業の単位が授与され、単位を集めることで卒業できるようになります(単位以外の卒業要件もありますが)。一部の例外を除き、多くの学生にとっては、ある意味では、授業は単位を取得するために履修していると言っても過言ではありません。

 大学設置基準第21条では、単位について以下のとおり定められています。

第二十一条 各授業科目の単位数は、大学において定めるものとする。

2 前項の単位数を定めるに当たつては、一単位の授業科目を四十五時間の学修を必要とする内容をもつて構成することを標準とし、授業の方法に応じ、当該授業による教育効果、授業時間外に必要な学修等を考慮して、次の基準により単位数を計算するものとする。

一 講義及び演習については、十五時間から三十時間までの範囲で大学が定める時間の授業をもつて一単位とする。

二 実験、実習及び実技については、三十時間から四十五時間までの範囲で大学が定める時間の授業をもつて一単位とする。ただし、芸術等の分野における個人指導による実技の授業については、大学が定める時間の授業をもつて一単位とすることができる。

三 一の授業科目について、講義、演習、実験、実習又は実技のうち二以上の方法の併用により行う場合については、その組み合わせに応じ、前二号に規定する基準を考慮して大学が定める時間の授業をもつて一単位とする。

3 前項の規定にかかわらず、卒業論文、卒業研究、卒業制作等の授業科目については、これらの学修の成果を評価して単位を授与することが適切と認められる場合には、これらに必要な学修等を考慮して、単位数を定めることができる。

必要な自学自習時間

 "一単位の授業科目を四十五時間の学修を必要とする内容"とは、講義であれば、1回1時間×15週=15時間の授業時間に対し、事前事後学習1回2時間×15週=30時間(もっと単純化すれば予習1回1時間×15時間、復習1回1時間×15時間と言うこともできます。)を含むと考えられます。つまり、法令上は、単位の取得のためには講義時間と同じ時間の予習時間及び復習時間が必要になります。

 多くの大学では、90分又は100分で2単位の講義を展開しています。この場合、予習復習時間は180分(3時間)又は200分(3時間20分)となります。1回の講義を受ければ、講義とは別にその日のうちに(とは限りませんが)3時間以上の学習が必要です。これが、いわゆる「単位の実質化」の法令根拠です。このため、様々な調査にて大学生の学習時間が着目されています。

履修できる単位数の制限

 1日2コマの講義を受ければ6時間以上、3コマの講義を受ければ9時間以上の学習が必要です。実際にこの時間数を学習しようと思えば寝る間もないでしょうし、履修する授業の数によっては計算上一日24時間を超えてしまいます。そのため、各大学では、各学期等に履修できる授業の数を制限し、学生に過剰な学習時間を発生させないようにしています。これが履修単位制限(CAP:キャップ)です。例えば玉川大学では半期16単位のCAP制度を導入*2していますが、除外科目が多いとは言え、これはかなり厳しい(履修できる単位数が少ない)制度でしょう。

学習時間の実態

 一方、全ての大学の全ての大学生が全ての授業において法令上の1単位の学習時間を満たしているかと言われれば、そうとは言い難い状況が明らかになっています。文部科学省国立教育政策研究所が行った「大学生の学習実態に関する調査研究」(平成26年度調査実施)の報告書では、以下のように書かれています。

1〜3年生では,大学の授業の予習・復習などの平均時間はいずれも5時間程度であった。1・2年生では授業への出席時間の4分の1,3年生でも3分の1程度の時間にとどまっている。

同様の調査票を用いて2007 年度に全国の大学生を対象に東京大学大学経営・政策センターが実施した調査(東大CRUMP 調査)の結果によれば2,1年生の授業に関連した自律的学習時間は,「0時間」が10.9%,「1〜5時間」が57.5%,「6〜10 時間」が16.4%であり,今回(2014 年度)の結果とほぼ同じである。今回,国立教育政策研究所が実施した調査(NIER 調査)と東大CRUMP 調査では,調査対象者の抽出方法,調査の実施時期(実施月)が異なるので,厳密な意味での比較をすることはできないが,この7年間で授業に関連する自律的学習時間が大きく変化したとは言えないと解釈しても良いと思われる。

 また、昨年度に実施された文部科学省全国学生調査(試行実施)では、学部3年生(医学など6年制課程は学部4年生)の平均的な1週間の生活時間として、授業への出席が平均17時間、予習・復習などの授業に関する学習時間が平均5時間であることが報告されています。

 1単位の学習時間が不足していることは明確であり、国や各大学とも法令に応じた学習時間を確保しより学生の資質能力を高め、ディプロマ・ポリシー(卒業認定・学位授与の方針)に応じた人材育成を加速しようとしています。

課題による学習時間の増加

 今回のコロナ状況下においては、結果として課題による自学自習時間が増加していると推測でき、1単位の学習時間が法令上の値に近づいていると思われます。ある意味では、法令で想定されている大学での学びに近づいているのでしょう。

 また、課題が多いのでなく、履修単位数が多すぎる可能性があります。小中高のように空き時間(1限から5限まで)を埋めるように授業を履修する「お弁当箱型履修モデル」では、前述の学習時間が飽和してしまいます。大学への学びの接続がなかなか難しいですね。

そうは言いつつもこの状況はどうにかしなければならない

 そうは言っても、コロナ状況下の遠隔授業やそこで出される「課題」の問題は、どうにか学生に寄り添った対応をしなければならないと考えています。その理由は以下の3点です。

1.突如としてこのような状況になったため

 大学教育における学習時間の確保については、それを徐々に学内に浸透させつつ、教育課程や各授業内容に合わせた形で段階的に進めていくべきものだと認識しています。そんな中、今回のコロナ禍が突如として起こり、特に新入生は大学への学びの接続や転換が全くできないまま、遠隔授業に突入しています。課題についてもただ宿題のようにこなすだけではなく、なんとか「大学教育はどのようなものか」を体感できる仕組みを設けなければならないと考えています。

2.学生の環境やそれへの支援が不十分であるため

 遠隔授業ではそれを受講する情報機器・通信環境も重要な要素ですが、必ずしもすべての学生が十分な環境のもとに遠隔授業を受講できているとは言えないかもしれません。また、情報機器・通信環境に限らず、学生で相談する環境構築の支援がなければ、孤立して学習を進めざるを得ず、普段よりも課題の学習に時間がかかるかもしれません。各種アンケート*3を見ても、遠隔授業において孤独感を持ちながら学習していることに不安を感じる学生が一定数見受けられます。十分な学習環境を提供できるよう、物的心的経済的を問わず、何らかの支援を考えなければなりません。

3.課題の量や質等を制御できていないため

 課題の量は多ければ多いほうが良いというわけではなく、やはり量や質、締め切りなどをある程度コントロールできることが望ましいでしょう。ただ、当然ながら各学生より履修している授業は異なるため、総体として課題をコントロール(マネジメント)することは至難の業(というかほぼ不可能)です。どちらかと言えば、各教員に必要な注意喚起を行いつつも、まずは課題を指示・提出するプラットフォームの整備や学生自身が課題取り組み状況を自己マネジメントできる方法の開発などを考えていきたいと思っています。

 

 これらの状況は、多くの大学で生じているのではないかと思っています。考えているうちにあっという間に前学期が終わってしまうため遅きに失した感は否めませんが、後学期や将来のデジタルトランスフォーメーションに向け、検討を進めていきたいと思っています。

いくつかの所感

45、124という悪魔の数字

 常々、大学設置基準にある1単位45時間の学習や卒業に必要な単位数124単位は、大学教育が縛られる悪魔の数値だなと感じています。特に、45時間の学習時間は「大学は、この省令で定める設置基準より低下した状態にならないようにすることはもとより」とあるにも関わらず、ほとんどの大学が到達できていないのではないかとも思います。

 前述した複数の学生調査においても、2007年、2011年、2019年と授業時間数に対する自学自習時間の比率は大きく変わっていないように見えます。この10数年間で大学教育はそれなりに変容してきたのではないかと思っていますが、にも関わらず自学自習時間は増えていないように見えるのは、そもそも大学生の生活様式上この程度の数値が上限値なのではないかとも感じてしまいます。全国大学生活協同組合連合会が毎年実施している学生生活実態調査を分析すれば、何か傾向がわかるかもしれません。

授業を詰め込むと安心するのかも

 履修する授業の数については、教育課程や学年進級、各種免許の教育課程との関係もありますが、なにより日本の雇用慣行(いわゆる就活)との関係が重要だと感じています。就活の各種行事や選考は平日に開催されることもあり、3年生になるまでに早めに単位を取得しておきたいと思い、授業を詰め込んでいるのかもしれませんね。

学習時間の確保には経済的支援が欠かせない

 学習時間を確保するためには、それまで何かに費やしていた時間を使用する必要があります。アルバイトをせずとも良いように、経済的支援は欠かせないでしょうね。

学生の居場所はどこにあるか

 今回のコロナ禍に限らず、履修する授業数を制限した場合、学生には授業がない時間帯(いわゆる空きコマ)が生じることが想定されます。その場合、学生はどこに居場所を確保すればよいのでしょうか。ラーニング・コモンズやワークスタディなど、学生がキャンパスに滞留できる仕組みも併せて考えたいと思っています。