「研究力向上改革2019」への2,3の所感

研究力向上改革2019:文部科学省

我が国の研究力の現状は、論文の質・量双方の観点での国際的な地位の低下、国際共著論文の伸び悩み等にみられるように、諸外国に比べ研究力が相対的に低下していることが課題となっています。

このような現状を一刻も早く打破するため、文部科学省では、2月1日に公表致しました高等教育・研究改革イニシアティブ(柴山イニシアティブ)を踏まえ、省内に研究力向上加速タスクフォース(座長:永岡副大臣)を設置し、我が国の研究力の向上を図るための具体的方策を検討してまいりました。  

このたび、当該タスクフォースの審議を経て、研究「人材」「資金」「環境」の改革を「大学改革」と一体的に展開する「研究力向上改革2019」を取りまとめましたので、お知らせいたします。

 文部科学省から「研究力向上改革2019」なるものが公表されています。高等教育・研究改革イニシアティブ(柴山イニシアティブ)のもとに策定されたもののようです。研究関係は継続的にウォッチできていないのですが、大学運営にも関係する事項ですので、この機会に内容を確認します。

1.気になる取り組み

 おおむねどこかで聞いたことのある内容だと感じています。構造的には、柴山イニシアティブと同じように、既存の施策をまとめたのでしょう。個人的には、以下の点が気になる(評価できる)取り組みだと思っています。

1-1.一定割合を自らの研究や教育研究・マネジメント能力向上のための時間へ充当可能に(専従義務の緩和)

 特定の財源で雇用されている者が科研費などに応募しようとする際、専従義務との関係がむつかしかったところもあると思います。その点で、専従義務の緩和は期待できるところです。

1-2.・ファイナンシャルプランの提示

 修士・博士課程の学生に対して、ファイナンシャルプランを提示することで、経済的不安の解消を果たすとしています。4月23日に開催された中央教育審議会大学分科会大学院部会では、大学院設置基準の改正として、経済的支援や学費等に対する見通し(ファイナンシャル・プラン)を示すことの努力義務化が示されています。

大学院は、学生の経済的負担の軽減を図るための措置及び授業料、入学料その他の大学が徴収する費用に関する情報を整理し、学生及び入学を志望する者に対して明示するよう努めるものとする。

 個人的には、研究者になった場合の一般的な意味のファイナンシャルプラン(収入支出を踏まえた人生設計)をいくつか例示してもよいのではないかと思っています・

1-3.競争的資金の直接経費から、研究以外の学内業務の代行経費(人件費等)の支出を可能に(バイアウトの導入により、研究専任教員や教育専任教員等の配置も可能に)

 PIが研究に専念できる環境の整備(研究時間の確保)として施策が示されています。実際に人が雇用できるほど競争的資金を獲得できるのかという点もありますが、使途が多様化するのは(煩雑化する処理もありますが)良いのではないかと思っています。

2.いまいち内容が不明な点

 無理やり数枚のポンチ絵に押し込んだため、いまいち内容が不明な点や整合性がない点が散見されると感じています。

2-1.誰がどのように作ったのか

 このプランは文科省内に設置された研究力向上加速タスクフォース(座長:永岡副大臣)が策定したようです。ただ、誰が参加したのか、どのような手順で策定されたのかは明らかにされていません。現状では、現場を見ずに内輪で作ったと言われても仕方がない状況でしょう。

2-2.「不断の見直し」が研究力低迷の一因ではないか

 P1の左下に小さく「産学官を巻き込んだ不断の見直し→進化し続けるプラン」とあるのを見て、安穏たる気持ちになりました。この「不断の見直し」こそが研究力低迷の一因であることを作成者は理解していないのでしょう。

 言うまでもないことですが、年々変わる文部科学行政の施策により、大学の教育研究経費や環境は安定的に運用できていない状況です。これにより、学生への教育環境の提供や若手研究者の雇用などが困難になっている一面もあります。「不断の見直し」を止めなければ、同じページにある「若手研究者の「安定」と「自立」の確保」は困難でしょう。せめて、「中長期的な研究環境や研究成果の向上状況を踏まえ、産学官により、更にプランを進化させる」程度の記載が適切ではないでしょうか。

2-3.「日本の研究者を取り巻く主な課題」の原因がわからない

 P1には「日本の研究者を取り巻く主な課題」として3区分10点が挙げられており、それを解決することで研究力向上に資する基盤的な力の更なる強化を果たすこととしています。ただ、「日本の研究者を取り巻く主な課題」の原因は書かれておらず、本当に提示されている解決策に効果があるのかは不明です。

 特に国立大学における研究力低迷の大きな原因は、研究成果産出のインフラである安定的な運営経費(何もせずとも決まった金額が毎年配分される経費)の削減であろうと思います。それに言及しない中での施策は、足場の悪いところで全員がアクロバティックなダンスを踊ることと同義だと感じています。

 

 とりあえずよくわからない点を3つだけ挙げてみましたが、そのほかにも、文系の研究力向上にはあまり言及されていないことや大学院教育との関連が不明なこと、民間企業における研究力向上との関係や「ラボ改革」「ラボ革命」が混在していることなども気になりますね。
いずれにしろ、今後、科学技術・学術審議会等で個別具体な施策の検討が進められていくことでしょう。