中教審制度・教育改革WG審議まとめ(案)への2,3の所感

制度・教育改革ワーキンググループ(第19回) 配付資料:文部科学省

 中央教育審議会大学分科会将来構想部会制度・教育改革ワーキンググループの審議まとめ(案)が公表されています。本件は、平成29年3月の文科大臣諮問を受けて審議が行われているものです。今後の大学行政を左右するものだと思われますので内容を確認していたのですが、2,3疑問や感じたことがありましたのでここに記しておきます。

将来が予測できるのか

「第4次産業革命」が進展し、産業構造の変化が激しくなる中、必要とされる分野の中長期的な予測に基づいて学部等を設置することが困難な時代になっていることから、将来生まれるニーズに応じて新たな学部等を迅速かつ柔軟に設置できるようにすることが必要となっている。(P4) 

 ここでは、学部等の設置の迅速さが必要であることが強調されています。ただ、"中長期的な予測は困難"としつつも、"将来生まれるニーズに応じて"とあり、結局将来が予想できないと考えているのかできると考えているのか、明確ではないなと感じました。

 一般的に、4年制学部の設置には、構想段階から卒業生輩出まで7年ほどを要すると考えます。今流行っていること・流行りつつあることを踏まえて学部等を設置しても、最初の卒業生が卒業する頃には当該事項は廃れているかもしれません。このタイムラグと社会環境の変化との関係をどのように考えるのか、十分に検討しなければならないですね。

主語が不明瞭ではないか

 全般的に文章の主語が明確ではないと感じました。特に、

IT技術等の進展に伴う産業構造の変化や長寿命化社会の到来といった経済・ 社会の急速な変化に応じて、職業や働き方の在り方が様変わりしている中で、一人一人の国民が生涯を通して社会で活躍できる社会や、また我が国の労働生産性の向上を実現するためには、すべての国民が社会に出た後も学び続けることにより、新たに必要とされる知識や能力、技術を身に付け、またそれを更新していくことが、これまで以上に求められている。(P10)

では、"すべての国民が社会に出た後も学び続けることにより、新たに必要とされる知識や能力、技術を身に付け、またそれを更新していくこと"という非常に大変なことが一体誰から求められているのか不明であり、学び続けなければならないということへの説得力が少ないですね。おそらく、"一人一人の国民が生涯を通して社会で活躍できる社会や、また我が国の労働生産性の向上を実現する"という目的なのでしょうか、それが"すべての国民が社会に出た後も学び続けること"により達成されるという関係性は自明ではありません。

各大学の状況は把握できているのか

大学教育改革については積極的に改善の努力を行っている大学と努力が不十分な大学に二極化しているのではないかという指摘もあり、一律に取り組まれているとは言い難い状況にある。(P24)

 ここである"二極化している"という指摘が果たして正しいのものなのか、現状が適切に把握できているのか、疑問に感じました。一般的に良いもの・悪いものはマスコミ等に取り上げられやすいと思われますが、逆に言えば、最もボリュームが多いであろう中間層はあまり表に出ることはありません。"積極的に改善の努力を行っている大学と努力が不十分な大学に二極化しているのではないか"ということは、つまり、マスコミや書籍、講演会等レベルでしか大学の現状を把握できていないのではないか、単なる印象論に終始しているのではないかという疑念すら抱かせます。

 もっと言うと、"大学教育改革に〜〜一律に取り組"む必要があるのか、と言う点も必ずしも是とは言えないでしょう。ここで言う"大学教育改革"が何を指すのか、本審議まとめ(案)にはどこにも明記されていませんが、まるで「改革は全て善である悪い改革などない」と言っているようです。

教学マネジメントに係る指針はどのようなものか

今後、各大学の教学面での改善・改革に係る取組を促していくために、必要な制度改正に加え、各大学における取組に際してどのような点に留意しどのような点から充実を図っていくべきかなどを網羅的にまとめた教学マネジメントに係る指針を、大学分科会のもとで作成し、各大学へ一括して示す必要がある。(P24)

 教学マネジメントに係る指針を作成し、公表するようです。ただ、"単に在るべき姿を提示するのではなく、各大学の取組の実態を考慮した提示の仕方を考える必要""教学マネジメントに係る指針は特定の取組を大学に強制するものではないこと、各大学が創意工夫を行い学士課程の質的転換に向けた取組を確立することが重要"とあります。

 国立大学への対応や私立大学等改革総合支援事業の調査票などを見ていると大学へのマイクロマネジメントが進展していると考えており、このように言いつつも、当該教学マネジメントに係る指針がどの程度の実質的拘束力を持つものなのか、気になります。教職課程コアカリキュラムのようにたくさん内容を詰め込んで、結果として大学側はコスト的に指針に示された内容しかできないようにならなければ良いのですが。

リカレント教育に関する諸々

 全般的に、審議まとめ(案)で書かれている「リカレント教育」は学部教育を想定しているのか、大学院教育を想定しているのか、その他プログラムを想定しているのか、明確ではないと感じました。なお、大学院への社会人入学者は入学者全体の18%程度はおり、一定程度の結果は上がりつつあるものと考えています。

 また、

そのためにも、企業等は、どのような知識やスキルを社員に求めているのかを具体的に明らかにし、高等教育機関と連携してプログラムの開発・実施に結びつけていくことを進めていくことが必要である。(P11)

とある通り、リカレント教育については教育関係者のみで議論しても効果的な施策は打ち出せないようにも感じます。

多様な大学は実現されるのか

カレッジマネジメント【212】Sep.-Oct.2018「進学ブランド力調査2018」|カレッジマネジメント|リクルート進学総研

 カレッジマネジメント212では、蛯名高等教育企画課長が「今後の高等教育の将来像の提示に向けた中間まとめ」について寄稿しています。その中では、

高等教育機関は、今まで以上に「多様な価値観を持つ多様な人材が集まることにより多様な価値が想像される場」=「多様な価値観が集まるキャンパス」となることが求められる。

とあり、これ自体には異論はありません。ただ、審議まとめ(案)やその他の状況を踏まえると、多様な価値観を持つたくさんの大学ではなく、単独の価値観や特定の方向性を持った大学観が透けて見えます。

 これまでの大学教育の運営が各機関により差が生じているため、一定程度の指針を打ち出すという趣旨はわからないでもありません。ただ、ここに書かれたことを全て過不足なくできる大学は多くはないでしょう。研究や社会連携、学生支援などを全て投げ打って取り組めばあるいは、と言ったところでしょうか。

 同じくカレッジマネジメント212では、吉武公立大学法人首都大学東京理事が「政策を見据えつつ 現場主導の改革を」の中で

 学長・副学長は政策の背景や目的を理解するとともに、それに対する自身の考えを持ち、政策をどのように運営に活かせば大学をより良い方向に向かわせることができるか考え、学内の理解を得ながら実際の活動に落とし込んでいかなければならない。

 その一方で、政策担当者と対話する機会を持ち、大学改革を進める上で真に必要な政策の提言も積極的に行うべきであろう。自校の中で進む具体的な取り組みを示し、成果と課題を明らかにしながら、如何なる支援があれば、その活動レベルを引き上げ、学内に広く展開できるかを説明する。それらは政策立案に資する貴重な材料になるであろう。

 政策に対して受け身の姿勢に終始することなく、ある時は学内改革に巧みに活用し、ある時は政策形成に積極的に働きかける。学長・副学長がそのような役割を果たすことで、政策と現場を繋げることができる。

 学生を基点に、政策を活かし、政策に働きかける。今の大学に必要なのは、このような姿勢ではなかろうか。

と述べており、基本的にはこのようなスタンスで臨むことになるだろうなと感じています。