将来構想部会(第8回)の議事録はおもしろい。

将来構想部会(第9期~)(第8回) 議事録:文部科学省

 中央教育審議会大学分科会将来構想部会の第8回の議事録が公表されました。本部会では、先日、今後の高等教育の将来像の提示に向けた論点整理が公表されたところですね。中教審の議事録はテープ起こし業者から事務チェック、委員チェックを経るため、公表が遅くなる傾向にあります。今回公表された第8回も11月8日に開催されたものであり、論点整理の初期段階といったところです。この議事録、眺めてみると結構おもしろいですね。各委員の大学観や現場での所管などが、いろいろと話されています。

 特に気になった個所を委員名とともに引用します。

(有信)連携ということは非常に重要だと思うのですけれども,ここに挙げられた個別の現状や論点を見ていると,何となく少し視点が違うような気がしています。基本的には,大学の自律性・自主性ということをどのように考えるのかということが非常に重要だと思うのです。(略)もう少し学生と大学との間の関係で,学生が複数の大学で自分が身に付けたい資質や能力についての学びの設計ができて,それをきちんと身に付けられるという視点を実現するような形でのフォーメーションも考えるべきではないかと思います。

(村田)地域における高等教育機関をどう保つかという話だと思うんですが,そこのところは連携では難しいのではないかと思っております。現在私は,大学コンソーシアムひょうご神戸の副理事長,そして,西宮市大学交流協議会の議長をしております。実際,複数の大学の連携というのは,確かに緩い形ではできるのですけれども,学生一人一人の教育に責任を持つのは,やはりそれぞれの大学でしかないわけです。それを連携によって救えるというのは単なる夢物語でしかなくて,失敗するのが目に見えていると私は思っております。

(金子)この専任教員という考え方自体が,社会における大学の地位にかなりそぐわないものになってきているということは事実で,これをどのような形で編成し直すのかということがこれから問題になるのだと思うのですが,まず,第一に申し上げたいのは,この問題の出し方について,教員は一つの大学に限り専任になるという原則が問題だということですけれども,一方で,社会,企業と大学を兼任する場合はどうなのかという問題もあると思うのです。(略)そういった意味で,大学教員がどこに属するのか。それはどのような仕事を与えられるかというのと同時に,どのような権利を与えられるのかということとも関連しているので,かなり幅広に考えなければいけないということを申し上げておきたいと思います。

(前野)国立の場合,独立行政法人という形で機構が置かれており,国立大学法人とは異なる形態になっております。(略)ただ,一方で,独立行政法人の場合,予算がどんどん切られますので,高等専門学校は非常に厳しい状態でございまして,理工系の高等専門学校でありながら,人件費が非常に高い割合を占めています。大学に負けずに外部資金は取っているんですが,やはり厳しい状態にあります。そうしますと,長期の視点から見ると,理工系の設備をどのように更新して維持していくのか。そして,教育研究をどうやって維持するのかということは非常にシビアになっております。

(福田)設置基準は一つの中で,例えば統合にしましても,連携にしましても,大阪では大阪府立大学大阪市立大学が議会の承認を得て一緒になっていくスケジュールになっていますけれども,これが私立大学でどこまでできるのか。それを一つの基準でやっていくと,非常に難しいと思います,片方は完全につぶれるまでは統合ではなく吸収しかないかと思います。品位がない話かもしれませんが,経営ありきなのです。経営をよくするためにはどのような学生サービスをするのか,どのような教育をしていくのか,どのような研究を発表していくのかという,全て経営につながるのが私立大学だと思っております。

(両角)私立大学が統合した事例について何件もインタビューをしたことがあるのですが,実際,これまでに統合したところは,いわゆる対等合併の例は余りなく,吸収合併が多かったのです。その理由を聞いていくと,もともと連携の歴史があるとか,建学の精神が近いとか共通の土台があるのですが,それだけではなくて,やはり吸収される側(がわ)というのは,経営が厳しくなっている大学であることが多く,例えば少なくとも,施設の更新などは全然できていないような状態なのです。吸収する側(がわ)に経済的な負担が相当にかかっています。(略)あと,このような私立大学の統合の話をされるときに,私立大学の経営が厳しくなったところをどうするかという話が出てくるんですけれども,実際,厳しくなるのは地方の小規模な大学であることが多いのです。そうすると,それを吸収するような学校というのはその地域にはどこにもない。それだけの体力がある学校は都市部にあるので,そういったところがわざわざ吸収するメリットというのはあまりないわけです。ボランティアではないのだとおっしゃる大学さんもありまして,もっと強くなるための統合の制度で改善すべき点はたくさんあると思うのですが,経営の危機といったものを統合で何とかしようというのは,少し厳しいのではないかというのがこれまで見てきた印象です。

(黒田)複数の大学を持つことになれば,法人の長(おさ)と学長は別にした方がいいと思います。たまたま複数の大学の中の一人が法人の長(おさ)になってもいいわけですけれども,責任が全く違うと思いますので,分けるべきであると私は考えます。そうしていくことによって,国立大学は地方においても活性化してくると思うのです。今,それぞれの国立大学がそれぞれの立場でどこかのまねをしているという状態です。独自性が全く国立大学にないわけですから,そういうことをしっかりとやっていただきたいと思います。

(金子)私は国立大学法人に複数大学を置くというのは,やって意味がある例が本当にあるのか,ないのか,非常に疑問に思っています。需要があるならば,議論すればいいのですけれども,その形を私立大学とそろえるというのは,ほとんど意味がないと思います。それから,アメリカの州立大学システムの制度は,やはり歴史的な事業があって成立したのであって,要するに半分は文部科学省みたいなシステムなのです。そのような行政的な機能を政府との間に一つかませているだけで,それを日本でやる意味は私はないと思います。一法人が複数大学を持つというのはほとんど日本だけなのです。アメリカの州立大学制度も性格が異なるものであると思います。それについては,本当にやりたいところが出てくれば議論すればいいと思いますが,私は今,何で議論するのかということが余りよく分かりません。

 黒田委員の発言の趣旨はちょっとわかりませんね。同部会の第6回では、同委員は、

(黒田)国立大学は国立としての役割があります。公立大学は公立の役割があるだろうと思います。そのことをしっかりとやっていただくことが必要だと思います。

と発言しています。一般的に国立大学の役割の一部として、その成立過程を踏まえると、国内各地にあまねく高等教育を行き渡らせることだとも考えられますので、独自性なく真似事をしているという批判は、過去のご自身の発言を踏まえるとちょっと一貫性に乏しいなと思えます(あくまで、浅学の徒である私個人の印象です)。もちろん、それにおごることなく、法人化以降、ミッションの再定義などを踏まえ、個性の伸長に資する取り組みを各国立大学とも推進してきたところだと認識しています。その成果の一部は、ほかでもない同部会において事例紹介の形で開陳されているはずです。逆に言えば、すべての私立大学が確固たる独自性のもとに唯一無二の取り組みを行っているわけでもないだろうと推測します。

 これに対し、金子委員は極めて否定的に国立大学一法人複数大学制に対する意見を述べています。弊BLOGでも、メリットが不明確である点を指摘しましたね。

kakichirashi.hatenadiary

 本部会は、平成30年秋ごろの答申に向け、今後も検討を進めていく予定です。引き続き注目していきたいですね。