教員免許状更新講習は受講希望者を受け入れられるのか。

 教員免許状更新講習は、現職教員にとって、法律にて受講が義務付けられているものです。

教育職員免許法

(効力)
第九条 普通免許状は、その授与の日の翌日から起算して十年を経過する日の属する年度の末日まで、すべての都道府県(中学校及び高等学校の教員の宗教の教科についての免許状にあつては、国立学校又は公立学校の場合を除く。次項及び第三項において同じ。)において効力を有する。

(有効期間の更新及び延長)
第九条の二 免許管理者は、普通免許状又は特別免許状の有効期間を、その満了の際、その免許状を有する者の申請により更新することができる。
2 前項の申請は、申請書に免許管理者が定める書類を添えて、これを免許管理者に提出してしなければならない。
3 第一項の規定による更新は、その申請をした者が当該普通免許状又は特別免許状の有効期間の満了する日までの文部科学省令で定める二年以上の期間内において免許状更新講習の課程を修了した者である場合又は知識技能その他の事項を勘案して免許状更新講習を受ける必要がないものとして文部科学省令で定めるところにより免許管理者が認めた者である場合に限り、行うものとする。

(免許状更新講習)
第九条の三 免許状更新講習は、大学その他文部科学省令で定める者が、次に掲げる基準に適合することについての文部科学大臣の認定を受けて行う。
(略)
2 前項に規定する免許状更新講習(以下単に「免許状更新講習」という。)の時間は、三十時間以上とする。

 制度開始から10年が経とうとしており、いわゆる新免許状取得者が更新講習を受講し始めるとともに2回の更新講習を受講する者もあり、さらに第10グループと言われる通常よりも受講見込み者数が多い集団が受講期間を迎えるなど、様々な要因を踏まえ、平成30年度以降全国的に受講者の増加が予見されているところです。文部科学省も、通知等により全国の講習開設機関に積極的な開設を呼びかけています。ただ、増加した受講希望者を教員免許状更新講習は受け入れることができるのでしょうか。 

 まずは、全国的な講習開催状況を整理します。文部科学省のホームページにて平成29年度免許状更新講習の認定一覧(平成29年9月現在)が公表されておりますので、対面講習について、必修領域講習、選択必修領域講習、選択領域講習に分け、講習開設数上位10位の開設機関を整理しました。なお、認定一覧は認定時の情報であり、定員等は実際とは異なる可能性があります。

必修領域講習

順位 講習開設機関 講習数 総定員
1 星槎大学 95 5,136
2 公益財団法人全日本私立幼稚園幼児教育研究機構 25 3,440
3 東京学芸大学 20 2,200
4 岐阜大学 19 2,230
5 熊本大学 16 960
5 北海道教育大学 16 2,910
7 長崎大学 13 1,470
8 和歌山大学 12 1,400
9 琉球大学 11 1,000
10 三重大学 10 845
10 新潟大学 10 950

 選択必修領域講習

順位 講習開設機関 講習数 総定員
1 星槎大学 95 5,136
2 北海道教育大学 68 3,507
3 琉球大学 37 1,245
4 東京学芸大学 31 3,190
5 鹿児島大学 30 1,930
6 熊本大学 28 1,225
6 秋田大学 28 1,160
8 兵庫教育大学 27 982
9 岡山大学 25 1,566
9 公益財団法人全日本私立幼稚園幼児教育研究機構 25 3,440
9 大阪教育大学 25 2,700

 選択領域講習

順位 講習開設機関 講習数 総定員
1 北海道教育大学 267 9,120
2 東京学芸大学 130 6,242
3 東京未来大学 120 5,760
4 岐阜県教育委員会 111 2,270
5 鹿児島大学 109 5,204
5 和歌山大学 109 4,347
7 秋田大学 105 2,540
8 岐阜大学 102 2,997
9 三重大学 101 2,402
10 琉球大学 99 2,252

 全体として、星槎大学東京学芸大学、公益財団法人全日本私立幼稚園幼児教育研究機構などが講習を多く開設していることがわかります。特に、星槎大学北海道教育大学は、全国各地や道内各地で講習を開設しており、他機関に比べても多く講習を開設しています。なお、これらの総定員ですが、実際には定員以上の受け入れを行っていることもあると聞いています。

 講習にはそれ相応の労力がかかるため無闇に多く開設すれば良いと言うものではありませんが、受講義務者だけではなく受講可能者(保育士、教員勤務経験者など)の受講もあり講習ニーズが読みにくいため、基本的には講習を多く開設すると言うことが無難なのだろうと思います。

 さて、先日文部科学省から各講習開設機関に依頼のあった開設予定調査では、第10グループの対象教員数推計が記載されていました。これまでで最も多い人数であるこの集団を用い、都道府県別の更新講習のキャパシティを算出しました。平成29年9月認定時点の開設都道府県別講習総定員を第10グループの対象教員数推計で除し、google chart geomapを用いて都道府県別にプロットしたものを以下に記します。100以上であれば、現時点の総定員にて第10グループの対象教員数を受け入れられる、つまり、将来的に増加する受講希望者を受け入れられる可能性が現時点であると言うことです。なお、選択領域講習については、講習を18時間受講しなければならないため、一人が3講習受講すると仮定し、対象教員数推計を3倍した数値を用いてキャパシティを算出しています。

必修領域講習

 

選択必修領域講習

 

選択領域講習

 

 3つの講習区分全てにおいてキャパシティが100%を超えている都道府県は、岐阜県京都府岡山県、鹿児島県のみです。京都府は高等教育機関が多いためと推測されますし、岐阜県は県内でコンソーシアムを結成しニーズに合わせ開講数を調整しているようです。岡山県、鹿児島県とも、地元の高等教育機関が積極的に講習を開講しており、特に鹿児島県教育委員会は独自に必修領域講習などを開講していることが見て取れます。

 前述した通り、定員を超えて受講生を受け入れている例もあるでしょうから、これらの数値が絶対という訳ではないでしょう。ただし、文部科学省の対象教員数は学校教員(認定こども園を含む)のみの推計値であり、保育士や教員勤務経験者、非常勤リスト掲載者などを含んでいません。つまり、実際の受講希望者数は推計よりも多くなる可能性が十分にあります。そのため、基本的には、一人でも多い総定員の設定を目指すべきだと考えます。

 とはいえ、状況は芳しくありません。キャパシティが50%前後の都道府県がある中、増加するであろう講習受講希望者をどれほど受け入れられるのか、非常に不安を感じています。その手段としては、2つほど思いつくところです。

 1つは、通信教育・インターネット配信を用いた講習の受講です。これらの手段により講習を開講している機関もあり、全国的に受講者を受け入れています。ただ、文部科学省は受講者確認を厳格に行うように通知を出しており、通信教育・インターネット配信であっても、修了認定試験は決められた日に決められた試験会場へ出向き試験を受けることになります。つまり、通信教育・インターネット配信は無尽蔵に受講者を受け入れられるのではなく、ここにも実質的には定員の上限が発生していることが多いと思います。(桜美林大学ではwebカメラを用いた試験を行うなど、一部例外があります。また、大学セミナーハウスでは、試験をセミナーハウスにある端末で行うことで、その日のうちに修了証明書を受領することができます。)

 もう1つは、文部科学省が全国各地で更新講習を開講することです。需要と供給のミスマッチは行政の不作為が一因でもあると思えるため、責任の一端として自ら講習開講を検討いただきたいと思っています。ただ、教育職員免許法では文部科学省は講習開設機関となり得ないため、独立行政法人教職員支援機構(旧教員研修センター)が開講することが現実的な線でしょうか(改正された教育職員免許法では、教員免許状更新講習の認定は教職員支援機構に委託されているため、同機構が講習を開講できるかどうか、私はまだ理解できていません)。

 もし、現職教員が定員超過により講習を受講できず失職した場合、訴訟を起こされる可能性はあるのでしょうか。その場合、被告は国なのか、文部科学省なのか、都道府県教育委員会なのか、講習開設機関なのか、どうなるのでしょうか。一人一人の職業人生がかかった制度であるにも関わらず、その安定性や将来性は非常に不安定だと感じています。このような状況にあって講習開設機関にできることは、多様な講習を開講し、1人でも多くの受講希望者を受け入れ、適切に講習を運営することでしょうね。