「SDについて、あらためて考える-大学行政管理学会の20年とSDのこれから-」に参加してきました。

中部・北陸地区 » Blog Archive » 大学行政管理学会創立20周年記念企画 中部・北陸地区研究会(2/27@愛知大学名古屋校舎)の開催について

JUAMは、その開設趣旨からも分かるように、SDの義務化が謳われる以前、SDという用語が確立する以前から、理論的かつ実践的に様々な形のSDに取り組んできました。そこで20周年を契機にこれまで実践してきたSDを振り返るとともに、SDが今後どのようにあるべきかを考えたいと思います。また20周年の統一テーマである「大学行政管理学の深化と発展‐高等教育の牽引を目指して‐」に照らし、JUAMの活動の中でSDがどのように位置づけられるべきかについてもあらためて考えたいと思います。

 大学行政管理学会(JUAM)創立20周年記念企画 中部・北陸地区研究会「SDについて、あらためて考える-大学行政管理学会の20年とSDのこれから-」に参加してきました。参加者は概ね100程度であり、事務局長クラスから若手まで幅広い方が参加していたようです。

 以下に、本会での発言を記します。なお、あくまで私が理解できた部分を一部のみ掲載していることに留意ください。

基調講演(福島 学校法人追手門学院理事・追手門学院大学副学長)

  • 本日は、JUAM創設の趣旨、学士課程答申におけるSDの言及、SDプログラム提言のポイント、高等教育のユニバーサル段階を踏まえたSDの実践論についてお話をする。
  • 一つ目。1996年のJUAM開設趣旨には「職員自体の自覚と意欲に関しても、また、それを担うに必要な資質・能力の点でも、問題なしとするには程遠い」と書かれているが、今もまだこのような状況であると言える。設立時は350名程度であり、第1回の研究集会で発表したのは会長と私だけだったことを記憶している。2007年5月には中教審の小委員会で大学教職員の職能開発について発表をした。
  • 二つ目。2008年12月に公表された学士課程答申では、職員の能力開発について小委員会で報告をした内容がほとんどそのまま掲載されている。学会設立10年で答申に取り上げられたことになり、大きなトピックであった。
  • 三つ目。JUAMとしてSDについてプログラムをまとめた。これからの大学職員にはどのような能力が必要なのか、実践事例の調査や大学職員検定制度、SDに関する連携のあり方などを検討した。この中では、SDの目的とは大学が複雑多岐にわたる課題を自律的に解決し社会的な存在として発展していくこととし、大学改革実現へのマネジメント業務ができる職員の能力開発をSDと位置づけ、職員への権限移譲が不可欠であるとした。職員出身の理事や理事長、教学部門の管理職も増えてきたが、そういう立場に立たされてば能力開発は一生懸命やることになる。これは対等な教職協働の条件である。
  • 四つ目。トロウによる高等教育システムの段階的以降では、大学在籍者率50%以上はユニバーサルアクセス型としているが、併せてトロウはユニバーサルアクセス型になるとどのようなことが生じるかを検討している。ユニバーサルアクセス型になると、高等教育の機会は万人の義務になり、高等教育の目的観は新しい広い経験の提供となる。
  • 今、大学の本務事務職員は全国で8万6千人程度であり、ここ12年間で1万5千人程度増えている。一方で、学生数はここ12年間でほぼ変わっていない。職員一人あたりの学生数は少なくなっており、私立大学における職員一人あたりの学生数はここ12年間で44人から36人となっている。
  • 日本の中高生は自己肯定感が乏しく、そういった者が大学生になる。また、中学校教師の勤務時間は長く、特に事務仕事が多いことが調査結果から読み取れる。併せて、教員の自己効力感は低いことは気になっている。生徒も教師も自信がなく、そういった中で大学に入学していることは留意する必要がある。
  • 大学生は第一希望で入学してきている者ばかりではなく、自ら不本意入学だと言う学生も多い。自分の大学の状況を押さえておく必要がある。また、自大学の授業の実態も押さえておく必要がある。初年次教育などもやっているが、学生はそもそも大学での学習や生活をしっかり考えられおらず、あまり効果が上がっていない場合もある。そのため、入学時点からしっかり大学で学ぶことを考えてもらうため、新しい仕組みを導入した。まず、学生の実態がどうであるかをしっかり見る必要がある。学力を問わない入試による入学もあり、履修という言葉が理解できない学生もいる。その対応について職員が考えないといけない。
  • 大学改革とは何か。それは、学生の実態を踏まえて彼らが主体性をもって成長することができるような教育内容・システムを開発することである。いかに主体性を引き出すかということが大切であり、そのためにガバナンス改革やIR、FD・SDなどが必要である。派手な改革が大学改革であるわけではない。本質的な改革に正面から向き合える人材の育成が不可欠である。
  • 大学経営の責務とは、大学の永続性を担保し学生を成長させることができる教学を支えるための財務・人事・企画・総務・ガバナンスである。また、教学の責務とは、経営実態を踏まえたうえで学生実態を的確に把握し学生が主体的に成長できる教育内容・システムを開発・実践することにある。経営の実態を踏まえ、計画的に行うことを教員と一緒に考えていかなればならない。教学なき経営は害悪であり、経営なき教学は幻想である。手間暇をかけることと効率化することを分けて考える必要がある。高校生が大学で学ぶ意味を考えさせること、学生に自発性を持たせることには手間暇がかかる。
  • 目標と達成度による職員評価と処遇制度が必要である。また、職員組織内の相互批判もとても意味がある。真正面から物を言うとちゃんと考えるようになる。他流試合、たくさんの人たちと言葉を交わしたことも仕事にも活きてくる。他職場からの人材移入やトップミドル現場担当者の三位一体チームも大切。特に、三位一体となったチームは大きく仕事が前進する。これらの上で、企画・開発から実践までできる専門職の育成が可能になる。
  • 事務職員から大学職員への変化として、教育サービスの本質を理解し発達支援原理に基づいた教学改革の開発・実践ができる人材に変化することが挙げられる。学生は教育の対象であり、彼らを自律させる過程において大学が提供する様々な教育サービスがあるという位置付けである。学生が発達していく段階を見ながら、取組をしなければならない。大学の外部・内部の環境を的確に分析できミッションやビジョンを描いて具体化することができる人材への変化も、大学職員への変化として挙げられる。実務処理ができるのは当たり前であり、事務職員から大学職員への飛躍が必要である。
  • 自発性原理から発達支援原理への転換も必要である。昔は自発性に基づいたシステムだったかもしれないが、今は学生たちの発達を見ながら、90分授業からの転換やセメスター制の再検討、試験を受ける前から考えさせる入試改革などが必要ではないか。学生たちの様子を見ながら、どうしていくのかを考えていかなければならない。
  • 「どこまでやるのか」とよく聞かれるが、若者をきちんと社会に送り出せるようにするのが大学の責任であると考えている。目の前の問題解決だけではなく、学生の成長を信じてその力を引き出す支援が必要である。生徒学生にとっては自主判断よりも管理される方が楽であり、例えば入試などは偏差値で選択することも多い。主体的に学んで生きるということに対する支援をしなければならず、それは各大学の学生の実態に合わせて対応することになる。
  • どうやったら偏差値やランキングではない視点で高校生が大学を選ぶことができるのかという思いで、読売新聞の「大学の実力」に関わっている。主体的に学ぶ・生きるということをいろんな場面で学生たちができるように仕向けるにはどうしたら良いのかを考えなければならない。
  • アドミッションポリシーは学生や教職員の何人が知っているのか。言葉を覚えるのではなく、議論をしていく中で頭に叩き込まれているものである。生きるポリシーにするためにも、自分の大学が欲しい学生を理解しやすい言葉で記載する必要がある。職員は建学の理念を言えるのか、学生の名前が言えるのか。たくさんの学生の名前を言えるようになって欲しい。具体的な業務の改善や改革をしたことがある職員はどの程度いるのか。いくつ他の大学に行き、その大学の職員と交流したことがあるのか。
  • プロフェッショナルな大学職員像として、1.コミュニケーション能力が高い2.戦略的プランニングの手法を持つ3.政策を実現できるマネジメント能力がある4.新たな価値創造ができる5.複数の業務領域での知見がある6.教職員・学生から信頼される人格と大学リテラシーを含む教養が豊か7.使命感と勇気の7つを掲げる。組織的にやらなければならないこともあるが、職員個人としてできることもある。評論ではなく変革の立場で考えて欲しい。他流試合や自大学自身を相対化できる立場に身を置くこと、学生の実態把握、学ぶ目的を明確にした大学院進学、経験値の理論化手法化(学会誌への投稿などを通じ文章にすること)などが大切である。

講演(船橋 一般社団法人日本能率協会学校経営支援センター)

  • 能率協会は設立以降企業職員への教育活動を行なっているが、その成果を活かし大学・学校に対する人材育成事業にも取り組んでいる。大学とも協力して研修を行なっているが、ある程度の人数がいなければ効率的に行えないため、職員規模で100人オーダーの大学と協力することが多い。2002年以降開催している大学経営評価指標研究会では、大学経営評価指標の開発や大学教育力向上の調査研究、大学改革リーダー養成コース開発、私立大学ガバナンスコード開発など、実務に伝える成果を出している。
  • 大学経営とは資源をどのように配分していくかということであり、経営力を最大化していくこととは、教育研究力の向上と運営効率化・合理化の追求のバランスをとっていくことである。これには職員の力が重要である。従来の維持管理の視点から、問題課題を発見して改革改善をしていかなければならない。組織人として、仕事をやるという業務機能、周辺の人とやっていくという人間機能の2つの機能がある。併せて、維持機能と改革機能があり、4象限のマトリクスで考えることができる。今後より求められるのは改革機能であり、業務改革や部下指導育成が大切になってくる。そのためには、意識能力スキルを積み上げていく必要がある。
  • 学士課程答申の中では、職員も段階的に専門家としてのキャリア形成をしてスペシャリストになる者やジェネラリストとなる者が分かれるなど、複線型の人事が提案されている。これは、大学の事務組織の規模感にもよる話であり、スペシャリストのキャリア形成の問題なども思い浮かぶところである。
  • 2012年に能率協会が行った調査では、職能要件基準が定められている大学は半数程度であり、これは大規模大学で整備が進んでいた。また、目標管理制度を適用している大学は6割程度であり、国立は8割程度の導入率であった。9割の大学では、業務の効率化や管理職のマネジメント能力開発が重視されていた。
  • SDはマネジメントや人事システムとの連動が重要である。やるべきことを明確にする仕組みややったことを評価する仕組みなどを整備することが広義のSDになる。最も影響が高く時間が多く成果が上がるものはOJTである。シャドーイングやノウハウの聞き取り、コーチング、メンタリングなどが該当する。動機意欲と基礎としてスキルや知識を学んでいくという話もある。
  • 能率協会では、階層別研修を縦軸とし、企画・改革力、人間力、業務知識・遂行力を横軸に取ったマップをSDに用いており、カッツの理論に基づき、階層が上がるにつれ企画・改革力の範囲が増加するとともに業務知識・遂行力の範囲が減少していくと考えている。これに基づき、能率協会ではJMA大学SDフォーラムを開催している。
  • 理論と実務を缶詰にしてやるのが、SDとして一番いい。知識をその場で覚え実務をその場で取り組むことで、追い詰められる環境ができる。例えば、新棟の整備計画をテーマとして、プロジェクトマネジメントを学びチームで実際の計画立案やリスク分析などを行う研修を行った大学がある。その場でやることが大切である。
  • 能率協会はKAIKAというプロジェクトを立ち上げ組織開発に貢献することに取り組んでいる。組織が発展することで個人や社会との関係性を広げるものであり、大学に合う考えだと思っている。行動評価変容アプローチを取ることで行動を変えることができる。
  • Q:文科省の調査ではSDの内容として「戦略的な企画能力の向上」が最も低い実施状況だが、その要因はどう考えるか?
  • A:研修がやりにくいことも要因であると思う。
  • Q:プレイヤーやマネジャーの転換をどのように考えれば良いか?OJTは上司次第のところもあり、どのように育っていけば良いか?
  • A:自分の職階の一段上二段上の目線に立って、実務はその立場で行うことが大切である。OJTは上司により異なることも多く、異動を待つことも一つの手である。後輩には同じことをしないようにすれば、中長期的に組織が変わっていくことにつながる。

事例報告1

  • 本学ではキャリアビジョンシートを導入したが、これは愛媛大学で行なわれているスタッフポートフォリオを参考にしたものである。本事例報告では、導入経緯やその内容等について報告をする。
  • 自分自身の移動歴等を振り返ると、個々人の将来の職員像や志向、能力と大学組織の考えをすり合わせる機会があったも良いのではないかと思っている。SDに取り組む先は、学んだことを自分自身に落とし込み、参加後に実践を行うことなどを意識している。他流試合や経験値の理論化手法化は大切であると感じている。
  • 数年前に現役職に配属された際、本学には人事異動の方針や業績記録がなく、職員が職場で輝いて欲しいと思っていた。また、個々人の強みを把握して大学として伸ばして欲しいと思っていた。この思いも踏まえ、JUAMで勉強していた際に、愛媛大学のスタッフポートフォリオに出会い、これをさらに学ぶためSDコーディネーター養成講座に参加した。
  • SDC養成講座参加後に職員像の明確化や人材育成方針の策定などを提案し、大学として進めていくことになった。本学の第3次基本構想内に中期計画として明記し、結果としてキャリアビジョンシートの導入までには1年2ヶ月かかった。この際、中堅・若手が案を作るとともに、職員全体で議論する場を設けた。振り返ってみると、大学の計画として明文化すること、計画を組織化して検討すること、検討結果を皆で議論すること、事務局長がリーダーシップを取ることの4点が重要だった。
  • キャリアビジョンシートには、今後担当したい業務や今後5年間のキャリアビジョンなどを記載する。今後は、愛媛大学のように入職時の思いから将来の職員像までが記載するような、過去から未来へつながるような改善を行っていきたい。キャリアビジョンシートを踏まえた人材育成として、同シートを踏まえた上司との面談などを開始した。併せて、作成ワークショップも開催している。
  • 管理職の面接スキルの向上を目指した研修の継続実施や他目標管理業務との連携、諸制度等の整理、能力開発プログラムの整備や内部人材の研修講師としての育成、長い目で考えられる意識改革などは今後の課題である。

事例報告2

  • 本学では、自己研鑽費として年15万円まで使用することができる。JUAMでの勉強会企画や大学職員人間ネットワークへの参加に取り組んできた。
  • 友達が欲しかった思いもあり、様々な場に顔を出してきた。学外に出ていくことで、大学職員としてのロールモデルが見つかり真似ができることが大切だと感じている。実務へつなげることは難しい。