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「文科省の言うことを聞かなければ交付金を減らされる」は本当か?

大学一般

 様々な場面でよく聞くのが「文科省の言うことを聞かなければ交付金を減らされる」ということです。これって本当でしょうか。私個人としては、少なくとも国立大学においては都市伝説と同程度の信憑性だと考えてます。

 冒頭の文章を二つに分けてみましょう。前段の「文科省の言うことを聞かなければ」ですが、この「文科省の言うこと」とは法的根拠がある指示と行政指導に近い有象無象な任意の指導等に分けられます。前者はともかく、任意の指導等に従うかの決定権は大学にあるはずなのに強制のようになっている現状もあり、だからこそ「文科省の言うことを聞かなければ」というフレーズには悲観的なニュアンスが含まれているのでしょう。学内での十分な検討を経ずに任意の指導等に従わざるをえないことは現状でも生じていると思いますし、このようなニュアンスになることも理解できます。後段の「交付金を減らされる」について、これは国立大学運営費交付金文科省により恣意的に削減されるということを意味するのでしょう。このような状況が生じる可能性があるのか、運営費交付金の構造を確認します。

 弊BLOGでは、以前から国立大学運営費交付金の構造について言及してきました。国立大学運営費交付金は、大まかに分けると一般運営費交付金、特別運営費交付金、特殊要因経費の3つに区分できます。なお、平成28年度予算案では各区分の名称や性質が平成27年度と若干変化しています(下図参照:出典は「平成28年度文教・科学技術予算のポイント」(平成27年12月 奥主計官))が、恣意的な運用が可能かどうかを検討するに際し大きな変化ではないこと、また実際の運用が未だ不明であることから、この3区分で検討を行うこととしました。その他、文科省から国立大学に措置される比較的大きな補助には施設整備費補助金などがありますが、これも今回のフレーズにある交付金という性質とは言い難いため、検討から除外しています。

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 まず特殊要因経費ですが、これは教職員の退職手当に相当する経費(年俸制導入促進経費を含む)やPCB処理経費などが含まれています。これらは通常の教育研究活動とは異なる特殊な処理のために措置された経費であり、文科省担当者が恣意的に削減するということは考えにくいです。シラバスをちゃんと書いていないからといって退職金が減額されないのと同じだと考えればいいでしょうね。(現状では国立大学法人は継承職員分の退職金の積立はできませんので、この「文科省から退職金を措置される」ということになんとも言えない感情を抱きます。)

 次に特別運営費交付金ですが、これは各国立大学が行う特別な教育研究等活動に措置される、いわゆる競争的なプロジェクト分の経費です。これの選定過程は明らかになっていませんので、調書以外の文科省担当者の過度に恣意的な判断が生じる可能性は否定できません。ただ、特別運営費交付金はプロジェクト型ですので、「減らされる」というよりも「つく/つかない」という方が正しく、ニュアンスが異なる気がします。また、要求額の査定も行われるため大抵減額措置になると思いますが、査定自体はどこでも行われていることなので、減額措置を以て直ちに「交付金を減らされた」と判断するのはちょっと違う感もありますね。なお、平成28年度予算からは後述の一般運営費交付金の一定割合(機能強化促進係数の割合)を捻出し特別運営費交付金に加える形になりますので、より特別運営費交付金(機能強化分及び共通政策課題対応分)の獲得が重要になるのだろうと思います。

 最後に一般運営費交付金ですが、通常運営費交付金や国立大学の基盤的経費と言うとこの一般運営費交付金を指すことが多いという印象ですね。既にご承知の通り、法人化以降目に見えて削減され続けているのがこの一般運営費交付金です。これはざっくり言うと予定費用(人件費や教育研究経費)から予定収入(学生納付金)を引いて算出されます。そのため、恣意的に削減され得る余地はないと考えています。なお、平成28年度予算からは、この一般運営費交付金の中に新たに学長裁量経費分が設定されますので、今まで学内に機械的に配分していた分が削減され各大学ごとに何らか一定の配分ルールが設けられる可能性が高いでしょうね。

 ここまで運営費交付金の構造を確認しましたが、確証を持って「必ずない」「ありえない」というほどは断言できないながらも、文科省の担当者が恣意的に運営費交付金を削減できる可能性は極めて低いと考えています。私個人の勝手な感覚としては「ある研究分野の御大の悪口を言ったらその分野に出した科研費に落ちた」と同程度の信憑性ですね。100%ないとは言えないけどまぁないよねーという感じです。

 今の状況を見ていると、文科省の言うことを聞こうが聞くまいが、良いことをしようが悪いことをしようが何もしないでいようが運営費交付金は削減されると考えた方が無難です。その上で、特別運営費交付金や各種補助事業、外部資金等でどのように取り返していくのかということが大切になるのでしょう。それが大学の質向上になるとは必ずしも思えませんが、今あるいは近い将来までの状況を鑑みると、そのように考えた方が現状認識としては合っている気がしています。

 平成28年度予算では前年度並みの予算が確保される見込みですが、これは以前弊BLOGでも言及した平成23年度予算編成と全く同じ状況です。もし同じような展開を辿るのであれば、優しさの揺り返しとしての厳しい政策が平成29,30年度に来るはずです。また、第3期中期目標期間では4年目までの業務実績をもとに国立大学法人評価があり、その結果を踏まえ、平成32,33年度には国立大学法人法第31条の4にある文部科学大臣による中期目標の期間の終了時の検討が行われるはずです。

(中期目標の期間の終了時の検討)

第三十一条の四  文部科学大臣は、評価委員会が第三十一条の二第一項第二号に規定する中期目標の期間の終了時に見込まれる中期目標の期間における業務の実績に関する評価を行ったときは、中期目標の期間の終了時までに、当該国立大学法人等の業務を継続させる必要性、組織の在り方その他その組織及び業務の全般にわたる検討を行い、その結果に基づき、当該国立大学法人等に関し所要の措置を講ずるものとする。

 つまり、第4期に各国立大学法人がどのような形で存続できているのかは、それまでに実績をもとに平成32,33年度に決まるということですね。

 最後の方は冒頭の提示から離れた話になりましたが、なんにせよ、「文科省の言うことを聞かなければ交付金を減らされる」という言説が流布していることは配分者側にとって有利な状況であることは間違いないと思っています。