長崎大学はBSL4施設の夢を見るか

 毎日数多くのニュースが流れる中、目をひくものというのはそんなに多くありません。そんな中、「おっ」と声が出てしまったニュースがこちらです。

“危険病原体”扱う実験施設 近く稼働へ NHKニュース

 塩崎厚生労働大臣は、エボラ出血熱など危険度の高い感染症の病原体を取り扱うことができる実験施設を巡って、施設がある東京・武蔵村山市の市長と会談し、国として安全対策を強化することなどを前提に、近く、施設を稼働させることで合意しました。

 日頃大学業界のことなどについて言及している弊BLOGには関係ない話題と思われるかもしれません。しかし、この話は国立大学にも関係があり、私自身は職員として採用された時からずっと注目しているテーマなんです。ついに長崎大学にBSL4施設が開設される道筋が見えてきました。

 2007年に旧結核予防法を統合する形で現感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)が施行され、管理すべき病原体及び毒素が特定病原体等として第1種から第4種まで定められるとともに、特定病原体等を扱う場合は各種別、BioSafetyLevelに対応した防護策を求められるようになりました。詳細な防護策等は、厚生労働省のホームページに掲載されていますが、例えば特定病原体等を扱う実験室には、扱う病原体等に合わせ、前室や通話・警報装置、フィルター排気設備などが求められています。その中で、最も危険度が高い第1種病原体等であるクリミア・コンゴ出血熱ウイルスやラッサウイルス、エボラウイルス、マールブルグウイルスなどは、BSL4として予備電源や監視室、シャワー室、インターロック、監視カメラ等の設置、実験室までの通行制限など、最も厳しい設備基準が義務付けられています。

 日本では国立感染症研究所理化学研究所がBSL4の施設設備を有していますが、周辺住民への配慮等により、長い間稼働していませんでした。そのため、日本の研究者がBSL4に該当する病原体等を研究する場合は、海外の稼働施設まで行って実験等を行っているという話を聞いています。今回のニュースは、感染研にあるBSL4施設設備の稼働に向けて地元自治体と合意に至ったということですね。

 国立大学でも、長崎大学が長年BSL4施設開設に向けて取り組みを行ってきました。長崎大学はその立地上歴史上から熱帯地域における感染症研究が盛んであり、熱帯医学研究所を設置するとともにケニアなどにも研究拠点を設置しています。長崎大学の片峰学長は感染症の研究者でもあり、学長の思いもあって感染症研究を特色として打ち出しているのでしょうし、実際その実績も蓄積されています。長崎大学のホームページによると、長崎大学は5年以上前からBSL4施設開設に向けて取り組んでおり、市議会や県議会への請願及び要望や、有識者会議の報告書などが公表されています。先日公表された有識者会議の論点整理資料では、

長崎大学のBSL-4施設の設置計画については、昨今の感染症を巡る諸情勢を踏まえれば、十分に理解できる一方、地域住民が不安や懸念を示されることも十分に理解できる。 したがって、長崎大学が引き続きBSL-4施設の設置計画を推進するのであれば、地域住民の声に謙虚に耳を傾けながら行うべきであり、何が何でも設置ありき、という姿勢で進めるべきではない。今後、長崎県長崎市との協議、地域住民との双方向のコミュニケーションなどを行いながら、進めてはどうか。 特に、

○ 国の関与のあり方

○ 施設の設置運営に伴い第三者に被害が発生した場合の補償対応

○ ヒューマンエラー対策やテロ対策を含む安全確保

○ 地域との共生

は、現時点における最低限の残された課題であり、今後、国や県、市の関与の下でその解決を図っていくべきである。言い換えれば、決して拙速に進めてはならないが、感染症の脅威が高まっていること、こうした施設の稼動までは長時間を要すること等を踏まえれば(長崎大学によれば、稼動開始までは最短でも約5年かかる。)、地域の方々その他関係者に情報を公開し、率直な意見交換をしつつ、歩きながら考えてはどうか。(P22)

とあり、大学と地域社会、国との連携について言及しています。本件は、大学と地域社会とのリスクマネジメントという面からも、注目すべきところは多いなと思っています。稼働開始までは最短でも5年とありますので、感染研の稼働開始の方がおそらく早いでしょう。感染研の動静が長崎大学のBSL4施設開設に与える影響はとても大きいとみています。

 本件については、学術研究問題のみならず政治問題にも踏み込むほど大きな動きになっています。逆に言えば、そうしなければ開設にこじつけられないほどの問題なのでしょう。開設の是非について触れませんが、学術研究と地域社会との折り合いなど、様々な観点が存在します。引き続き、今後の動きに注目しています。