ここ最近の大学改革の流れと今後の国立大学。

 ふと「そういや、今騒がれてる国立大学改革の話ってどこから始まったんだっけ?」と思ったので、改めて今に至る流れを図で表してみました。大学全体の改革の話ならば1991年の大学設置基準大綱化から、国立大学ならば1996年の行政改革会議から話し始めるのが筋だと思いますが、あまり長々としても仕方ありませんので、近視眼的にここ5年程度の関係を整理しました。その上で、どこから始めるのかというのは難しい話ですが、以前に弊BLOGでも言及(国立大学改革プランに思う 〜質の低い効果想定〜)したとおり、私個人としては平成23年度予算案策定時に文部科学省と神田主計官(当時)との間でなされた「合意」がきっかけなのではないかと考えています。

平成23年度予算政府案 : 財務省

「平成23年度文教・科学技術予算のポイント」(平成22年12月)

大学改革について文部科学省と以下の合意がされた。

 時代の要請に応える人材育成及び限られた資源を効率的に活用し、全体として質の高い教育を実施するため、大学に於ける機能別分化・連携の推進、教育の質保証、組織の見直しを含めた大学改革を強力に進めることとし、そのための方策を一年以内を目途として検討し、打ち出すこと。(P37)

 他にも、産業競争力強化法など各種法令や中教審以外の会議体の話、補助金周りの話、研究振興関係の話なども盛り込みたかったのですが、スペースの都合や私の分析不足もあり、代表的なものをポンポンと配置したのみに留まっています。

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 こうしてみると、国立大学にとってはちょうど一年前の平成26年6,7,8月に大きな動きがあったんだなと改めて感じます。改正学校教育法(及び改正国立大学法人法等)の成立、「今後の国立大学の機能強化に向けての考え方」の策定、「国立大学法人の組織及び業務全般の見直しに関する視点」の公表と、各国立大学法人のカタチに関する方針等がこの時期に立て続けに示されています。弊BLOGもこの時期に様々な記事を書いてきましたが、未だにアクセスをいただいているところです。

 今取りざたされている人文社会科学系の話は、国立大学改革プランからの由来と国立大学法人評価委員会からの由来の二つあることが分かります。前者の中では、

第3期の中期目標・中期計画の検討に当たっては、各大学のミッションを踏まえ、計画的に教育研究組織の再編成、学内資源再配分を最適化

とされていますが、これはあくまで方針でありこれ自身には法的根拠がないものと整理しています。やっかいなのは後者であり、国立大学法人法第31条の4にある中期目標期間終了時の組織等見直しに先立った通知である理解しています。

(中期目標の期間の終了時の検討)

第三十一条の四  文部科学大臣は、評価委員会が第三十一条の二第一項第二号に規定する中期目標の期間の終了時に見込まれる中期目標の期間における業務の実績に関する評価を行ったときは、中期目標の期間の終了時までに、当該国立大学法人等の業務を継続させる必要性、組織の在り方その他その組織及び業務の全般にわたる検討を行い、その結果に基づき、当該国立大学法人等に関し所要の措置を講ずるものとする。

 これらの作成主体は文部科学省内の同一部署ですので、結局は同じ話をしているということですね。

 「国立大学法人の組織及び業務全般の見直しに関する視点」とその9ヶ月後に作成された「国立大学法人の第2期中期目標期間終了時における組織及び業務全般の見直しについて」はほぼ同一の内容となっており、組織改組等の方針については今になって国立大学側に突然示されたものではないと考えます。もっと言うと、平成26年4月の養成分野ごとのミッションの再定義の際には、既に暗示されていたと考えた方が良いのかもしれません。

 これらについては各国立大学法人にて対応を検討してきたはずであり、文部科学省に第3期中期目標・中期計画の素案を提出する今月を見据え、既に何ヶ月も前から目標・計画を考え、文部科学省への事前相談や(良心的な執行部ならば)部局長や教授会、学内各所にて意見交換を行い、意見への対応等を経て、第3期中期目標・中期計画を作り上げてきたはずです。文部科学省からは中期計画にかなり具体的な記載を求められたという話も聞きますので、各法人とも比較的わかりやすい中期計画になるのではないかと期待しています。

 世間では少子化に伴う2018年問題という話もあり、国立大学もその影響は例外ではないでしょう。ただ、国立大学にとっては、それ以上に「高齢化」の方が大きな問題であると考えています。高齢化に伴う社会保障費の増大は、中期財政フレームによる予算枠の上限設定により、国立大学運営費交付金を逼迫します。先日経済財政諮問会議で審議された「経済財政運営と改革の基本方針 2015(仮称)」骨子案についても、歳出・歳入改革を進めプライマリーバランス正常化を目指す従来の方針は変わっていないように感じます。

 国立大学においては、「国立大学経営力戦略」の策定など、資金調達の手段が拡大する傾向にあり、それはそれで結構な話だと思います。ただ、どちらかと言えば、資金資産の使い方をもっと緩和すべきでしょう。法人の自主的な資産等運用を妨げる財務省協議の廃止や国立大学法人会計基準の簡素化、現行の積立金制度の適用範囲拡大など、収入=支出の自転車操業を堅持する状態から脱却しなければイノベーションなど産まれようがありません。インセンティブ付与のため収入=支出の対象外となっている外部資金については、教員からの訴えもあり、ここ数年でだいぶ使い勝手がよくなったと聞きますが、一般運営費交付金を始めとした会計制度全般は法人化以降大きく変わってはいないはずです。税金投入の倫理性や会計原則としての継続性もあり、平成25年度の学校法人会計基準改正は実に40年ぶりだったということからも推測できるとおり、国立大学法人会計基準等を変えることは相当に困難であると理解しつつも、なんとかできないかと思っています。

 なお、現行の制度下では、例え学部を廃止し教員を削減したとしてもその分の予定費用も減少しますので、学部を削減し浮いた資金を法人が何にでも使用できるわけではありません(実際にそのような事例を聞いたことがないため想像です。間違っているかもしれません。)。つまり、国立大学にとって学部の廃止には経営上のメリットが少なく、むしろスケールメリットを考えると、うまいこと分野の転換を図りつつ大学全体の規模を維持(もしくは拡大)するのが経営陣からすれば合理的な判断だろうと考えています。正論を通すためには清濁併せ呑むしかないのでしょう。

 もうこの話を書くのはやめようと思いつつ書いてしまうのは、私自身も今後の国立大学にとても不安を抱いているからかもしれません。