大学改革を巡る話のめんどうなところ。

 一時期よりも少し落ち着いたかもしれませんが、教育改革をめぐる話は常に何かしら聞くような状況です。最近ですと職業教育学校の話が新聞報道等されていましたね。

政府、ITに特化した高等教育機関 成長戦略の人材育成策 :日本経済新聞

 政府の産業競争力会議(議長・安倍晋三首相)は4日の会合で、成長戦略に盛り込む人材育成策を正式に決めた。IT(情報技術)など実務教育に特化した高等教育機関の創設や、企業で働く人の自己啓発に役立つ研修の導入促進が柱。産業界の求める能力を身につけた人材を育成し、生産性を高める狙いがある。 

  この話は、私自身興味のあるところであり、弊BLOGでも取り上げてきました(実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関に思う 〜大学は職業訓練を行うのか?)。本件については、新しい学校種ではなく既存の大学体系の一部に位置付けられるとのことで私の興味の大半がなくなったこともあり、改めては触れません。ただ、専門学校の一条校化から始まった話が、中教審キャリア教育・職業教育特別部会での議論を経て、このようなところに着地したことには感慨を覚えます。この話もいろいろと反応があるようですね。

 さて、人文社会科学系の話(人文社会科学系の再編騒ぎはどのような背景があるのか。)の際にも感じたことなのですが、大学改革の話ってめんどくさいですね。なんらか政府や行政からネタが放り込まれると、みんなてんでバラバラのことを言って、結局本質が何なのかよくわからないよねーということになりがちだと感じています。4年制大学が800近くある上に、各自の思う大学観が様々であり、往々にして事実や経緯に基づかない言説も展開されがちです。

 国や政府が大学改革のネタを出す際、800近くある全ての大学がそのようになれば良いと思っているわけではなく、隠されたターゲットがあるんだろうなと感じています。それは中教審の議事録や国会審議の議事録などから窺い知ることができるでしょう。キャリア教育が義務化された大学設置基準の改正のきっかけとなった「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について」(答申)について、それを審議していたキャリア教育・職業教育特別部会では一時期「中堅人材」という言葉が頻繁に出てきましたが、答申ではその言葉が出てきません。審議途中に何らかの理由で削除されたものと推測できますが、それにしても審議や答申のターゲットが中堅人材であったということです。(逆に言えば、そこが答申の限界でもあったわけですが。)

 では、国や政府が設定したターゲットのみに沿って取り組みを行えば成果があがるかと言えば、そういうわけでもないでしょう。なかなかうまく説明できないのですが、大学や社会がゆらぎ循環しているなか、一部分のターゲットのみに焦点をあてても、循環が停滞してしまうことが多いと感覚的に理解しています。このようなこともあり、冒頭の話に戻るのですが、大学改革の話もいろいろとめんどくさい人とめんどくさい話をして進めていくことが結局一番良いんだろうなということを感じています。

 特に最近では、少々極端に言うと、大学を分類しそれぞれに役割を自覚させましょうという勢力と大学とは等しく大学であるという勢力がせめぎあっているような感覚を覚えます。確かに、大学を機能別に分類してそれにあった取り組みを行うことは、システマチックで効率的であるように見えます。ただ、大学全体の質の向上、底上げということを考えると、スパンは長くなりますが、個々の大学が「大学」であることを目指した方がより効果があり国益に資することになるのではないかとも思えます。国費投入の効率性や回収性の話は常に付きまとうところですが。

 語弊を恐れずに言うと、分類し役割を持たせるという話は非常に「東京的」であるとも感じます。揃っているからこそ分類できるのです。しかし、それは全国で一般的な状況ではありません。むしろ、大学の設置状況等を見ると、東京こそが例外的な状況ではないかとも思えます。それぞれの地域において、高等教育機関としての大学を立脚させるためには、今言われているような地域貢献型というのも少し違うような気がしてしまいます。

 結論がでません。だからこそ「めんどくさい話」なのでしょう。