横浜国立大学APフォーラムに参加してきました。

大学教育再生加速プログラム (AP) 推進フォーラム

 横浜国立大学は,平成26(2014)年度公募の大学教育再生加速プログラム(AP)テーマII「学修成果の可視化」の採択を受けました。学修成果の可視化においては,各種データを用いて学修成果の可視化を行い,その結果を基にして教育内容,方法等の改善を行うことによって学生の主体的な学びのデザインに繋げることが重要であると考えられます。学生の学習意欲や学力などが多様化している今,学生の主体的な学びの確立に繋げるアクションを展開するためには,大学の主人公であり学習者である学生の声や意見を踏まえることが重要です。そこで,本フォーラムにおいては,学生が予測困難な社会を生き抜き活躍していくために,学生の主体的な学びの確立をめざして,「学生のための,学生を成長させる「学修成果の見える化」へ」をテーマとしました。教職員だけでなく,学生の声,思いも踏まえて,根本論として「大学における主体的な学び」とは何なのかを考え,主体的な学びの確立に向けて, 学生を成長させるための「学修成果の見える化」について検討します。興味,関心のある教職員,学生の方々の参加をお待ちしております。

 横浜国立大学のAPフォーラムに参加してきました。230名程度の参加という規模が大きいことに加え、参加者には学生もかなりの数含まれており、近くの参加者同士意見交換する時間が設けられていたりと、いわゆるフォーラムとはちょっと違う感じでした。あまり学生の声を聞くポジションではない身からすれば、学生が表明した意見がどの程度一般性があるものなのか空気感を推測できないところはありつつも、学生がどのような点を問題と感じているのか聞けて良かったと思っています。

 一部分だけですが、私の印象に残った発言を以下に記載します。なお、学生の意見表明については、特に印象に残っている部分をまとめて記載しています。

趣旨説明(上野 横浜国立大学大学教育総合センターFD推進部門長)
  •  本フォーラムは、学生の主体的な学びに焦点を当てている。課題を解決するために自主的に考えられる人間が社会から望まれているところである。今までは「自主的に学ぶ」だったが、これを「主体的に学ぶ」に変えていきたい。ただ、主体的な学びとは何かという点は曖昧なところがある。
  •  成績評価が曖昧で学生から見ると不透明な部分があり、何を学んだら良いか分からず主体的に学べないという問題点がある。それについても話題提供をいただく。
  •  二日目は、学士力や就業力に焦点を当て、3つの分科会を行う。学生が多数参加するところが本会の大きな特徴である。ぜひ、学生の声を聞いてほしい。
基調講演「学生の主体的な学びについて考える-学生が「学修」する仕掛け-」(橋下 富山大学大学教育支援センター教授)
  •  学びの対象は日常の中に隠れている。学びに関する固定概念をまず壊すことが主体的学びの第1歩。最初の入りが大切。
  •  学習成果の可視化ではなく、学修の可視化が大切なのではないか。一つ一つの授業が学修として成立していることが重要。データに固執するよりも、学生の行動変容に注目すべき。
  •  教職員のための可視化ではなく、学びの主権者たる学生のために可視化を進める必要がある。なんのための可視化か?学習意欲の低い学生も含め学生が自然に主体的に学ぶことが目的。うまく学生を巻き込んでいかなければならない。
  •  どのようにすれば学生が主体的に学修するようになるのか。「橋下メソッド」としてのライト・アクティブラーニングを提唱している。競争原理やゲーム感覚を利用した学びであり、学びたいことを中心に学んでいくこと。このようなやり方に批判もあるが、逆に言えば今のやり方で良いのかとも思う。
  •  「橋下メソッド」では、授業構成の可視化(補足シラバス)、得点の明確化、競走結果の明確化(落選理由書)、授業公開(全ての回を公開)を行っている。また、「半見える化」として、シャトルカード(30−40時間をかけて肉筆返信)、TASAを使わず教員自身での授業準備を行っている。こうすることで教員の努力を学生に見える化することになり、その結果学生と教員の信頼関係が高まることになる。
  •  様々なデータを見ると、学生は主体的な学修を望んでいないことがわかる。アクティブラーニングに対する学生を負担をもっと減らして学生が楽に受講できるようにすれば良い。「橋下メソッド」では、やる気の乏しい学生の学習意欲を引き出すことを主眼としている。
  •  学生参画型FDも進めてきた。学生発案授業(富山大学:教養科目「新聞投稿に挑戦」)などを行ってきた。岡山大学では教員を募集するところから始める。徐々に広まっている。
  •  アクティブラーニングは授業が能動的なものかどうかがポイントであり、成果ではなく学生がどう取り組んでいるかが重要である。
話題提供「教員と学生の共通理解を促すために-ルーブリックによる評価基準の可視化を通じて-」(井上 帝京大学高等教育開発センター教授)
  •  客観的で公正な評価が求められる背景として、中教審答申で学士力が言及されたことがきっかけである。カリキュラムが増加していく中で学生が追い込まれるような状況が生じているのではないか。質的転換答申では学生の学修時間の増加や学習成果の把握などたくさんのことが言われているが、大学のディプロマポリシーの達成及びそのためのカリキュラム構築が大切である。これにより、ステークホルダーに対して大学として存在意義や役割を示すことができる。
  •  成績評価について、以前は各教員に責任があったが、個人の責任だけでは語れない時代になった。プログラムとして成績評価を厳格にやること、学生に基準を示すことが法令整備等により進められてきた。学校に対して説明責任が求められるようになってきたこともあり、学習者中心の授業や学習者が得るべき力も変化してきた。併せて、評価手法・方法の開発も進められてきた。現実社会で使える力を身につけているかという評価こそが「真正の評価」であり、パフォーマンス評価やポートフォリオ評価の客観性と一貫性を担保するためにも、ルーブリックが必要である。
  •  評価とは、学習者の学びの値踏みではなく、学生に対して改善点を示すことや勇気づけをするという役割がある。学生が一歩前に進める評価も考えていかなければならない。評価の構成要素は、目的、主体、対象、基準、方法である。教育目標により、それを評価できる手法が限られてくる。目標にあった評価のタイミングも考慮すべき。目標に準拠した評価とは、意外性が測定できないことなどの留意点もある。ルーブリックとは、大規模な講義には有効であり、教員間の調整や成績のブレ防止に役にたつ。
  •  ルーブリックとは、ある課題、目標について、学習者に望む状態を示した表であり、数値化できない部分を測定するのに有効な手法である。レポートの評価などに使用できる。アメリカではValueRubricsが用いられている。評価時間はあまり短縮されないが、一貫性や公正性の確保、学生との共有によるコミュニケーションが促進される。学生に対してはどう評価しているのかが明確になる。組織にとっては、コミュニケーションのツールになる。
  •  ルーブリックは数値化できない部分に対応できるが、全ての科目や課題について作成すると非常に煩雑になる。また、教員の主観もある程度含まれるという前提で、ルーブリックの明示共有、評価者間での共有、場合に応じた見直し、教員間の事例共有、評価者のトレーニングを行い、客観性を確保していく必要がある。
  •  学習成果を可視化する意義とは何なのか。各大学の使命を明確にし、評価をどのようにするのか考えなければならない。欧米では学習者が世の中に貢献できる力をつけさせることも言われている。学生にどのような教育を施し能力を身につけさせるのか、ステークホルダーにどのように大学の役割を示していくのかが問われている。
学生の意見表明
  •  能動的に学生がディスカッションをしても、教員にやらされているという意識では主体的な学びではない。たくさんの知識を与えるような座学であっても、与えらえた知識を自分自身の学びに生かせれば主体的な学びである。主体的な学びかどうかは学生の意識による。
  •  主体的な学びとは応用力だと思う。熱い教員の存在、具体的な成績評価、前のめりに学ぶ学生の存在の3点があれば、応用力の身につく授業が展開できる。
  •  前のめりな学生を育てるためには外的刺激が必要。外的刺激を与えるためには、大学外では他大学生とのマッチングの場、大学内ではチャレンジの場の設定があればいいのではないか。このような大学内での仕組み作り、大学外での仕組み作りにより、主体性の循環が生じる。この循環に学生をうまく乗せることにより、授業に積極的に参加できる学生が増えるのではないか。
  •  受動的な授業とは講義中心の授業、単位が容易に取れる授業、課題や狙いがはっきりしない授業などが考えられる。何をどのように学べば良いか分からず、ただ単位が取れれば良いとなる。能動的な授業とは課題・狙いが明確な授業、自ら課題を設定・意識して臨む授業、実践的な活動などが考えられる。
  •  授業以外の場面での主体的な活動は予習・復習や課外活動が考えられる。これらには、課題がはっきりしていること、必要性・実用性があることの2点が共通している。ここから、主体的な学修を導く条件として、課題・狙いが明確であること、必要性・実用性が感じられるころの2点が挙げられる。学生はまずシラバスを見るため、シラバスに課題や狙いが明確となっていれば良い。授業の課題や狙いは教員の研究の中から生まれる。教員の研究における必要性や実用性を授業目標にも明らかにすれば良いのではないか。
  •  現在の成績評価は評価結果を1文字で表現しているが、これでは主体的な学びにはつながらない。なぜこの評価結果なのかわからない。授業における到達目標の明確化、定期試験の記述問題の評価観点の明確化、レポートの評価観点の明確化の3点が必要である。
  •  到達目標が具体的に複数書いてあれば、何を理解すれば良いのか何ができるようになるのかわかる。また、記述問題では何が間違えているのかよくわからないことがあるため、到達目標との関係や授業からの発展性を明確にしてほしい。さらに、レポート課題では様式や記述の観点など評価の対象となるものを明確にするとともに、課題返却後には到達目標や成績との関係性を明らかにしてほしい。
  •  到達目標を明確にすると、どこがなぜ評価されたのか明らかになる。記述問題の評価理由を明らかにすると、どこが評価されたかだけではなく自身の理解度もわかる。レポート評価基準を明確にすると、評価の根拠を知ることができる。
  •  教員側の環境を整備し評価方法以外で負担を軽減することも重要である。
  •  学生が授業を選ぶときには、どのように成績をつけるかに注目している。しかし、成績が返ってきても何が良かったのか何が悪かったのかがわからない。学生は取れた単位のことはあまり思い出さない。教員には何を以てその成績がついたのか知らせる義務がある。
  •  主体的な学びとは、「学びたいから学ぶ」ことである。毎回のレポート結果の全員共有や試験の記述式などを行い、無意識に学生のやる気を削ぐことは避けてほしい。期末試験期末レポートの返却により、学生へのフィードバックやコメントをほしい。