フォーラム「世界大学ランキングと国際的研究評価を問う」に参加してきました。

大阪大学未来戦略フォーラムを開催します。(2015年2月6日)

 大阪大学未来戦略機構戦略企画室では大阪大学未来戦略フォーラム(スーパーグローバル大学創成支援事業)「世界大学ランキングと国際的研究評価を問う:現状・課題・展望」"Global University Rankings and Excellence Indicators Reexamined:Realities, Challenges and Prospects"を開催致します。

 大阪大学未来戦略機構主催のセミナーに参加してきました。会場には概ね100名以上の参加者がおり、北海道大学の方や外国人研究者の姿も見えました。セミナーは大学ランキング全般の問題や各国の対応について、日本人や外国人研究者が講演を行いました。

 正直、大学ランキングの論点は国内では概ね出尽くしていると感じていたのですが、各国の状況など新たな視点が得ることができ、知的好奇心をかなり刺激されました。かなり難しい話で私自身の理解が追いついていけないところもあったのですが、わからないながらも重要な話が展開されていることや初めて聞く話が目の前で展開されていることは感じられ、とても楽しかったです。やはり、たまに外国人研究者の講演を聞くのは良いですね。

 一部分だけですが、私の印象に残った発言を以下に記載します。なお、今回は概ね英語で進行されましたので、聞くだけならなんとかなったと思いますが、メモ取りは同時通訳の力を頼りました。そのため、まとめきれていない部分や一部意味が通じにくくなっている部分がある点に留意願います。

Keynote Lecture1 “World Class” University and World “Class Struggle” (David Post,UNESCO and Penn State University)
  •  今回はランキングシステムの話や複合スコアに関する問題点等を話す。THEランキングでは研究被引用度が重要であり、英語での研究大学が上位に来ている。これは上海交通大学のランキングでも同様である。
  •  大学ランキングの背景として、市場占有率の競争が高まっており、共通の尺度が必要だという考え方が生まれた。このような考えにより、世界全体において共通の学生のクラスがあると考えられており、それは文化などを超越した存在である。このような学生のクラスにより、ワールドクラス大学という新たな大学が生まれた。それは成果を国際的に利用できる大学である。
  •  そのような状況の中で、大学はより質に対して気を配るようになった。また、質に対して再考が行われ、比較できないものは価値がないと思われるようになった。研究は世界的に比較できるからこそ、研究大学が重要と考えられている。
  •  理系と人文社会科学系の方向性が異なっており、共通のランキングは困難であるという話もある。単独の複合測定で両者を比較することがほとんど不可能である。研究だけでなく全ての分野を含めたランキングを作るべきだという話もある。
  •  ランキングでは言語も問題となる。特定の言語が強い役割を果たす研究分野もある。このような分野の教員もプレッシャーを受けている。グローバル化により接点が増えるなど良い点もあるが、一部の雑誌への集中や均質化のリスクを生じている。このような状況による予期しない結果として、英語化できない研究分野が奨励されにくくなっている。
  •  ワールドクラス大学とは、人材の集中、豊富な資金、良好なガバナンスの3要素で構成されているという話がある。ほとんどのランキングのスケールは特定の分野にフォーカスを当てているが、なんらかの尺度が目標化してしまう懸念がある。その場合、そもそも要素間にあった関係性がなくなってしまう。
  •  一つの重要な指標としては留学生の数であり、大学がどの程度国際化されているかということである。どのような学生を排出すれば良いか、大学はどのように定めているのか。米国の有名なランキングでは教育に関する言及もある。
  •  教員とは単なる傍観者であって良いわけはなく、知の商品化に対して批判的にならなければならない。自分たちの知のために知識を更新すべきである。学者たちが階級闘争し均質化に抵抗するということである。米国では論文数よりもスポーツチームで有名な大学もある。ユニバーシティではなくスクールにしたほうが良いような大学もある。
  •  ランキングシステムが我々の仕事をどのように変えているのか。高等教育の目的を考えた時に、個人として、集団としてどのようなことができるのか考えていきたい。
Keynote Lecture2 The Chinese University 3.0? (Li Jun,Chinese University of HongKong)
  •  グローバル大学は方向性のジレンマに直面している。グローカリゼーションとはローカルには意味があるものであり、他所の国からローカルに役に立つものを持ってくるものである。なんらかのグローカリゼーションは行われるが、それはグローバリゼーションには意味がないものである。グローバル大学化することで質を高める意図があるが、測定できない質が過小評価されてしまう。
  •  中国は2003年以来巨大な高等教育システムを持つようになり、香港の大学は大学ランキングにランクインしている。ランキングの推進力となっているのは、中国では追いつけという意識、香港ではグローバルな競争力を高める意識である。中国では留学生の数が10年間で3倍になっている。
  •  ランキングとは政策作成者にとって便利なツールである。数値で正当性を証明することができる。中国の大学は3.0の時代に入っている。中国や香港においてランキングゲームのインパクトを調査したところ、論文数は大きく増加している。中国ではワールドクラス大学を一つ選んだ。ランキングによって学生を誘致している。
  •  SSCI(Social Sciences Citation Index:Journal Search - IP & Science - Thomson Reuters)は教員の評価指標に使用されているが、それは昇進にも影響を与えている。教員に話を聞くと国際的な評判よりも地元での評判を重視している例もあった。SSCIの低迷により教員が降格した事例もあった。香港でも論文数は教員の昇進に影響を与えている。香港は中国に比べ若い教員は国際的な影響を気にしている。20年間で論文数は5倍になっている。言語については、中国語で書かれた論文はあまり増えていないが、英語論文は急激に増加している。
  •  ランキングゲームとは、中国と香港とも存在するが、文脈が異なる。ローカルなトピックも重要だと思われているが、英語の重要度も高まっている。ランキングのランキングも必要かもしれない。
Keynote Lecture3 The Impact of World University Rankings and the Global SSCI Syndrome (Chuing Prudence Chou,National Chengchi University)
  •  台湾の大学では、SSCIのデータのみを用いて評価を行うことをやめるように政府に進言した。多くのアジアの国はワールドクラス大学を作ろうと躍起になっており、基準となっている定量的な指標に敏感になっている。予算カットの問題もある。各国では政府から大学へプレッシャーをかけており、それはSCI(Science Citation Index:Journal Search - IP & Science - Thomson Reuters)やSSCIへの貢献ということである。このように評価指標である論文出版に対して発生するプレッシャーをSSCIシンドロームと呼んでいる。
  •  どこへどれだけ出版したかはdatabaseによりすぐにわかる。このdatabaseが、今や尺度であり目標になっている。SSCIシンドロームは台湾のみならず香港や中国でも出てきている。
  •  大学ランキングの問題の背景には、ネオ・リベラルなイデオロギーや評判向上に向けた成果可視化、資金減少、商業的機会の提供がある。併せて、質保証も各国で進展している。
  •  自然科学と人文社会科学のギャップがあるため、大学間もギャップを生じている。リンゴとオレンジを比べるようなものである。teachingの時間も自然科学系は人文社会科学よりも少なく、問題だと感じている。
  •  SSCIシンドロームにより、学術界の協調性が低下し、書籍での評価の低下、ローカルなトピックの研究論文低下などが生じている。ワールドクラス大学を目指す政策は批判的に見なければならない。
Keynote Lecture4 University Rankings, Research Assessment, and Humanities and Social Science Research in Australia(Anthony Welch,University of Sydney)
  •  我々が収集しているDATAにどんな問題があるのか、現在20年間の論文傾向等を確認している。特定の言語論文のみ計上していること、国内雑誌と国際雑誌の境界が曖昧になっていること、共著文献の定義などが問題。
  •  オーストラリアでは、学生の23%が留学生であり、国際比較で最も高い割合である。管理主義が研究にも及んでいる。管理のプロセスが学術的な成果を侵食しており、管理しなくても良いものまで管理しようとしている。マネージャーが多くなり、より少ないリソースでより多くのことをやらなければならない。また、州予算が低下し、高等教育費用をより多く学生に負担させることになる。研究中心と教育中心で教員が2分化されつつある。国は目的のために大学を競争させようとし、そのために大学側は多大な準備が必要とされている。基盤的な人材育成が侵食されており、今は現実的なカリキュラムが増えている。教育学部は職業自体が女性化している。
  •  研究評価はERA(Excellence in Research for Australia)が広まっているが、なかなか合意できないこともある。自然科学系では論文数や被引用数を指標にしているが、社会科学系では審査委員全員が出版論文を読んで評価した。G8と呼ばれる大学群が研究評価で高い評価を得ている。
  •  国際的な研究ネットワークにおいて、対外的なネットワークはオーストラリアと中国との関係が成長している。中国からの学生が多いことが一因として考えられる。シドニー大学では英語論文が多いが、研究テーマやデータについては英語だけとは限らない。オーストラリア政府は投資をせずにワールドクラス大学を求めているが、これは正しいのかと思っている。
Keynote Lecture5 岐路に立つ日本の研究大学:求められるアカデミアの戦略(上山隆大,慶應義塾大学)
  •  日本の研究大学が強化されるためにはfunding、financeの問題を避けて通れない。日本と欧米の大学の差は大きく、限られたリソースのみで対応することは困難である。
  •  論文数やtop10%論文数は日本は低下している。日本の研究者はコストパフォーマンスが良い。日本の研究大学は帰路に立っている。昨今は日本の国立大学を3つの層に分けることを検討されているが、世界最高水準の大学への資金が集中することが予想される。卓越した大学院への出資も検討されている。Excelennceを競わせることは間違っているという話もある。
  •  グローバルランキングはイギリスや中国から出てきた。当初のランキングは各分野のランキングだった。アメリカの大学への対抗としてグローバルランキングが出てきた。
  •  米国政府資金が低下する中で、1970年代に米国大学は管理運営の改革が行われた。特にPresident OfficeとProvost Offiveへ権限強化がおこり、学内におけるリソースを中央に集中してきた。その結果、外部の資金をより多く得るようになった。スポンサーがついた分野がある中で全体としての資金も増えてきている。人文社会科学系の研究はその他スポンサーが付いた分野の資金を用いて育てられてきた。
  •  グローバルランキングの考え方そのものを大学の枠組みに入れないといけない。国内の研究大学のランキングは固定されている。法人化の時に日本独自のグローバルなランキングを作らなかったのは、政府関係者がランキングの本質を理解していないからだと思っている。東大と京大と阪大のランキング順位が毎年交代するような在り方がよく、そのようなマネジメントをする必要がある。これまでは政府から要求がくるだけでマネジメントをする必要はなかった。
  •  高度成長期と異なり、現在は大学でしか新しい知識が生まれる場はない。リスクを取れるアカデミアを開拓していくことが、日本の産業構造を変革していくことになる。マネジメントを変えることが大切。
  • Q:日米大学の大学の執行部のあり方はそもそも異なるが、どのようなリーダーシップがとれるのか。
  • A:日本にはプロの大学執行部がいない。学長は選挙で決めているし任期も短い。選び方から考えないといけない。
  • Q:国立大学の法人化は良い方向に進んでいるのか。国の強制力はどこまであるべきか。
  • A:国立大学はfinanceのベースが保証されておらず、autonomyを持っていない。政府のfundingから離れる体制を構築する必要がある。Office of PresidentへIndirectCostを集中させてマネジメントしないといけない。
Panel Discussion
  •  日本の評価制度は認証評価と国立大学法人評価がある。日本の大学評価は大学の比較を嫌っており、fundingとの直接の結びつきを避けてきた。
  •  第1期の法人評価結果で提出された研究業績を見ると、Web of Science(WoS)収録率は医師薬学や生物学が多く、人文学が少ない。基本的な情報を押さえた上でビブリオメトリクスを利用しないといけない。
  •  英国と日本を比べると日本の方がWoS収録論文が多いが、これは英国は人文社会系の研究業績が多いため。第1期中期目標期間の日本の国立大学の人文社会科学系の研究業績を見ると、社会経済文化的な貢献が高いという自己評価が確認できる。人文社会科学系の研究分野はどの領域をターゲットとしているのか考えないといけない。
  •  現在は各分野ごとの指標を検討している。人文社会科学系は、内容面に入り込んだ受賞歴などが言及されることが多い。人文社会科学系は量的な弱さがある。人文社会科学系の国際化を進めるとともに、分野としての意義を考えた上での指標のあり方も検討されるべき。
池田雅夫(大阪大学
  •  予算面での縛りがなくなれば日本の大学はもっと良くなる。
  •  大学間の競争と大学ランキングは違っているという認識を持った方が良い。論文databaseには全ての論文が収録されているわけではない。ランキング順位に過度の価値を見出すことは良くなく、その意味を理解しながら自分を見ることが大切。
Discussion
  • Q:大学の現在の状況の中で学生への影響はどうか。
  • Post:米国の大学において運営費は学費で賄われている。問題点もあるが、良い点もある。学生やその親の大学に対する意識が高まる。米国の中流家庭は論文数に興味を持っておらず、学生がどのような体験をするかに興味がある。教員学生比やクラスサイズなどを見ている可能性がある。学費が増えるということは学生の声をより効くということだと思う。
  • Welch:オーストラリアの政府は大学への資金を減らそうとしているが、ワールドクラスの大学を増やす目標とは相反する。足りない部分は学費負担させようとしている。巨額の寄付があれば大学は運営できるかもしれないが、学生の負債という問題もある。学生ローンのスキームはあるが、学生への負担を増やすことは間違いない。
  • Q:国内のジャーナルの国際化はどのように進んでおり、研究の発展にどのようにつながっているか。
  • Chuing:ランキングの競争により、富める者はますます富んでいく。ローカルな雑誌は投稿数が減少している。世界的な標準化が進んでいるが、大学は複雑であり、レビューは大学側が行うべきという話もある。研究生産性を高めることのみやっていても、それが学生の模範となるのか疑問である。コミュニティに対するサービスも必要。
  • Li:様々なランキングゲームが行われているが、それぞれ文脈が異なる。私が関与しているローカルな雑誌は英語と現地語で対応しているものや英語のみになったものなど、さまざまある。2ヶ国語での管理は難しい。
  • 上山:大学間の競争やランキングの話をするとシンプルな競争をさせられると思われるが、本来の競争とは多様な組織が多様なものを維持しながら自分たちのポジションがどこにあるかを見つけていくプロセスである。米国は自然に競争環境が起こっているが、他国はそれに合わせるように競争しなさいと言っているように見える。単純に競争はダメだという話ではない。スケールは様々な形であって良く、その中でどういうことが起こっているのかを見つけるのが良い。政府から押し付けられているからダメだという話である。競争を財の取引だけで考えるのはまちがっている。多様なディシプリンを学内に保持しないといけない。資金を与えないと競争できないという話は正しい。原資による果実があれば、大学はだいぶ違うようになる。
  • Q:大学が本来持っている崇高な使命と大学ランキングの話はどのように考えれば良いか。
  • Post:競争には反対ではなく良いものが生まれるのならば良い。競争ということがあるために、協力関係が生まれていることもある。大学のミッションとして何が大切なのか考えれば良い。
  • 池田:大学とは学問及び学問を通した人材育成をする場である。学問とは一人一人の競争である。良い教員良い学生を集めるためにはランキングが上でなければならない。目標設定としてもシンプルであり、意味を理解しながら象徴として使うことが良い。まちがった競争にならないように注意をすべきである。

 本当に多様な話がされました。SSCI Syndromeとは今回初めて聞きましたが、中国や香港、台湾などでは認知が広まっているようです。書籍(The Ssci Syndrome in Higher Education: A Local or Global Phenomenon)も出ていました。ちょっと調べてみようかなと思います。また、David Postは大学ランキング 2015 (週刊朝日進学MOOK)を手に持ち、これだけ多分野でランキングされているのは素晴らしいと言っていました。国外から見るとそういった視点もあるのだなと認識の違いを面白く感じたところです。併せて、David Postが言及していたのは、Jamil SalmiのCharacteristics of a World-Class University Alignment of Key Factorsのことです。

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http://www.iiep.unesco.org/sites/default/files/strategic_seminar_j_salmi_wcu.pdf

 これも不勉強で知らなかったため、押さえておきたいところです。(どうでもいいですが、トップ大学を目指す日本の各大学は、このような世界の高等教育の動きをおさえているのでしょうか。)

 特に上山先生が国立大学のfundingの話をしていたのは全く同意です。弊BLOGでも度々言及してきましたが、今の国立大学の問題はカネに帰結するものが多く、それを解消するために国立大学法人会計基準など対国の財務会計の仕組みを変える必要があると考えています。その意味では、今回の講演により自分自身の検討の方向性を再確認できました。