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まち・ひと・しごと創生法に思う その3 〜大学は何をすべきなのか〜

大学一般

 前々回前回に引き続き、創生法に関連して今後5か年の目標や施策や基本的な方向を提示する「まち・ひと・しごと創生総合戦略(総合戦略)」について、大学に関連する部分を確認します。今回は、「(2)地方への新しいひとの流れをつくる(ウ)地方大学等の活性化」の達成を目的とした「地方大学等創生5か年戦略」を確認します。

【主な施策】

◎ (2)-(ウ) 「地方大学等創生5か年戦略」(以下の3つのプランを推進する。)

①知の拠点としての地方大学強化プラン(地方大学等の地域貢献に対する評価とその取組の推進)

 地域社会経済の活性化や地域医療に大きく貢献する大学等の教育研究環境の充実を図る。また、地元の地方公共団体や企業と連携し、地域課題の解決に積極的に取り組む大学を評価し、その取組を推進する。さらに、地域活性化の中核となる国立大学においては、第3期中期目標期間(2016年度〜2021年度)の評価に地域貢献の視点を採り入れるなど、大学の地域貢献に対する評価と資源配分が連動するようにしていく。また、経営改革や教育研究改革を通じて地域発展に貢献する地方私立大学の取組を推進する。これらを通じて、2020年には地域の企業等との共同研究を7,800件(2013年度5,762件)とするとともに、共同研究による特許出願数を大幅に増加させる。さらに、各事業において、地方公共団体や企業等による地元貢献度への満足度80%以上を実現する。

 3つあるプランのうち一つ目は地方大学強化に関する事項です。まさに現在のCOC事業が該当する部分ですね。ここのあたりは何となく現在の取組内容が想像できるところです。国立大学については、地域貢献を評価の視点に加え資源配分と連動させるとありますが、これは現在文部科学省で検討されている第3期中期目標期間における国立大学法人運営費交付金の在り方に関連することでしょう。

 地域の企業等との共同研究件数がKPIとなっています。「平成25年度大学等における産学連携等実施状況について」では、共同研究件数が近年増加傾向にあることが示されていますが、地域の企業等との共同研究件数については明記がないため、ちょっと状況がわからないところです。噂話程度では、最近件数、金額とも頭打ち傾向にあるということも聞きます。地域の企業は中小企業が多いため、金額ではなく件数をKPIにしたのは適切なのでしょう。

 KPIではないですが「共同研究による特許出願数を大幅に増加させる」という施策があります。ここでは特許件数ではなく出願件数となっているところに目がいきました。特許として権利化するためには出願後に審査請求が必要であり、新聞等でも言われる「大学の特許収入」とは権利化した特許の実施許諾料収入などが該当します。つまり、出願しただけではカネにならないということです。この件については、先日の日本経済新聞に記事が出ていました。

大学の特許収入、初の20億円超 13年度、産学連携が進展 :日本経済新聞

 全国の大学や研究機関で、保有する特許を活用した収入が増えてきた。2013年度の特許収入の総額は初めて20億円を突破。大学の知的財産部門が強化され、産学連携が進んだことが背景にある。年間の出願件数は近年、横ばいが続いており、大学が特許を選別して効率的に収入を得る動きが加速している。

 だからと言って、出願するだけの行動に意味がないというわけではありません。先使用権などを考慮した防衛出願という意義はありますし、弁理士による書類作成等のコストを無視すれば出願費用は低く抑えられ維持費もかかりません。実際、日本の審査請求率は60%〜70%と言われています。特許審査費や維持費はコストが高く権利化までの期間も2年強ですので、特許料等の減免措置もあるところですが、ハードルは低くないという印象を受けます。まずは出願件数を増やしましょうというのは、特許登録数をKPIにするよりは目指しやすいのでしょうね。なお、前述の「大学等における産学連携等実施状況について」によれば、大学の出願件数は近年増加傾向にあります。地域の企業等との共同研究による出願件数は不明ですが、「大幅に増加させる」と書かれている以上は、現状はそれほど多くないのではないかと推測します。

 これらの取組については、経済産業省が実施する「産学連携評価モデル・拠点モデル実証事業」が評価の役割を果たすのではないかと思っています。国は大学の産学連携をどのように評価するつもりなのかは、引き続き注視していきたいです。

②地元学生定着促進プラン(地方大学等への進学、地元企業への就職や、都市部の大学等から地方企業への就職を促進するための具体的な措置、学校を核とした地域活性化及び地域に誇りを持つ教育の推進)

 地方大学等への進学、地元企業への就職や都市部の大学等から地方企業への就職を促進するため、奨学金(「地方創生枠(仮称)」等)を活用した大学生等の地元定着の取組や、地方公共団体と大学等との連携による雇用創出・若者定着に向けた取組への支援策等を講ずるとともに、都市部の大学生等が地方の魅力を実体験できる取組を推進する。さらに、大都市圏、なかんずく東京圏への学生集中の現状に鑑み、大都市圏、なかんずく東京圏の大学等における入学定員超過の適正化について資源配分の在り方等を検討し、成案を得る。これらにより、2020年までに地方における自県大学進学者の割合を平均36%(2013年度全国平均32.9%)、地方における雇用環境の改善を前提に、新規学卒者の県内就職の割合を平均で80%(2012年度全国平均71.9%)まで引き上げる。また、学校を核として、学校と地域が連携・協働した取組や地域資源を生かした教育活動を進めることにより、全ての小・中学校区に学校と地域が連携・協働する体制を構築するとともに、地域を担う人材の育成につながるキャリア教育や、地域に誇りを持つ教育を推進する。

 3つあるプランのうち二つ目は、学生を地方に定着させる取組です。これまで言及してきた奨学金やCOCプラス事業などが想像できますね(どうでもいいですが、「なかんずく」が近接して2回出てくる文章は初めて見ました。)。

 アクション・プランを確認したところ、ちょっとわからない部分がありました。

●現在の課題

○地方の若い世代が大学等の入学時と卒業時に東京圏へ流出しており、その要因には、魅力ある雇用が少ないことのほか、地域ニーズに対応した高等教育機関の機能が地方では十分とはいえないことがある。(P49)

 ここでは、東京圏への流出の課題として、魅力ある雇用の不足、地域ニーズに対応した高等教育機関機能の不足を挙げています。通常、ここで書かれた課題に対して、それを解決するために必要な対応が明記されます。まず「魅力ある雇用の不足」ですが、直接それに言及した箇所はありません。本項目は大学に関係する事項ですので、明記がないのは当然と言えば当然です。では、他項目の中ではどのように触れられているのでしょうか。アクション・プランを確認したところ、「魅力」というワード検索で以下の箇所が見つかりました。

(1)-(エ)-①若者人材等の還流及び育成・定着支援

●必要な対応

○地域における質の高い雇用、魅力的な職場の創出に向け、各地域での魅力あるしごとづくりと既存の枠組みにとらわれない人材育成や定着など地域の創意工夫を生かした先行的な取組等を、都市部からの人材還流を促すための取組とも連携して、強力に支援する。(P27) 

 ここで考えたいのが、若い世代にとって「魅力ある雇用」とはどのようなものであり、それをどのように実現できるかということです。そもそもなぜ地方には「魅力ある雇用」が少ないのか(少ないと思われているのか)、最低賃金の問題などいろいろ考えが及ぶところはありますが、その要因は必ずしも明らかではありません。この問題に対し学校がどれほど影響を与えられるかは分かりませんが、この「魅力ある雇用」を同定しない限り、課題の解決は難しいように思えます。

 もう一つ要因としてあげられているのは、「地域ニーズに対応した高等教育機関の機能の不足」です。従来、地域ニーズに対応した大学の機能と言えば、産学連携であったり、公開講座生涯学習機会の提供であったと思います。あるいは、医師養成、教員養成、法曹養成など専門職の育成供給という面も思い浮かびます。しかし、ここで読み取れる文脈は、従来の姿と異なり、「大学の機能が十分でないから東京圏へ流出している」というものです。ちょっとすぐには想像できないですね。「東京圏へ流出させないような大学の機能」とは一体どのようなものなのでしょうか。

 言うまでもなく、大学は教育研究を行う機関であり、地域に存在するモノやヒトなどを題材にした教育研究活動を行うことで地域との関係性を構築するものだと考えます。つまり教育研究が主で地域は従であり、地方大学といえども原則的にはこのような認識だと思います。例えば、地域団体とインターンシップ事業と行う、地域の交通状況について研究を行う、このような取組を行う事で「結果的に」地域に貢献できるものなのではないでしょうか。(余談ですが、最近、教育研究活動では「結果的に」ということが大切なのではないかと思っています。)

 このような前提に立つと、東京圏へ流出しないというのもあくまで結果論でしかなく、まずもっては各大学で地域のリソースを用いた教育研究活動を行うことが重要なのでしょう。少なくとも私が学生であれば、「この授業は皆さんが今後この地域で生きていくことに役立ちます」とか言われてもヒクだけで、たぶんその授業は受講しないでしょうね。やはりちょっと「若者定着」という言葉には違和感をもちます。

③地域人材育成プラン(大学、高等専門学校専修学校、専門高校をはじめとする高等学校の人材育成機能の強化、地域産業の振興を担う人材育成)

 地域の企業や地域社会の求める人材ニーズの多様化に対応し、地元の地方公共団体や企業等と連携して、地域産業を担う高度な地域人材の育成に取り組む大学の取組を推進することにより、2020年までに大学における地元企業や官公庁と連携した教育プログラムの実施率を50%(2013年度39.6%)まで高める。また、地域産業の振興を担う高度な専門的職業人材の育成を行う高等専門学校専修学校、専門高校をはじめとする高等学校の取組を推進する。さらに、地域の人材育成においては、職業教育は極めて重要であり、今後、関係府省庁において総合的に推進を図ることが必要である。こうしたことを踏まえ、専門高校等においては、職業能力等を高める質の高い教育を充実するとともに、卒業生が地元企業等の求める職業能力等を有していることを明らかにする取組を進めることで、地元企業等の適切な評価につなげ、育成された人材の地域社会での認識向上を図る。併せて、大学・高等学校等における地域に根ざしたグローバル・リーダーの育成や外国人留学生の受入れを推進するため、官と民とが協力した海外留学支援制度(「トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム」等)の推進や地域における留学生交流の促進のほか、グローバル化に対応した教育を行うとともに、国際的に通用する大学入学資格が取得可能な教育プログラム(国際バカロレア36)の普及拡大を図り、2020年までに国際バカロレア認定校等を2014年の33校(候補校を含む。)から200校以上に増やす。

 3つあるプランのうち三つ目は、大学や高専等における人材養成の取組です。アクション・プランを確認しても若者定着という言葉がたくさん出てくるため、前述のとおりちょっと違和感があります。個人的には、ここでは職業教育の重要性が指摘されている点に着目しており、専修学校や専門高校は頑張ってほしいと思っています。ただ、いくら職業教育に力を入れたとしても、それを受け入れる雇用先がなければ、結局は東京圏へ流出ということになるでしょう。このように考えると、少なくとも若者にフォーカスを当てる限り、それは経済活動が課題になると感じています。恐らく、カネのないところに若者は来ないと思った方が無難なのでしょうね。

 そういえばこのプランにはグローバル化に関する取組が含まれています。企業の海外進出や居住外国人対応など地方のグローバル化も考えられるところですが、ちょっと不自然にも感じます。なにかしらの理由があって組み込まれたのでしょうか。

 ここまで3回にわたり、創生法に関連した大学への言及を確認してきました。概ね今までの取組から想像できるものではありましたが、一部はちょっと理解しがたいものもありました。特に、若者の地方定着という目標に対し大学がどのように参画できるのかは未だイメージできないところです。もちろん、地域をテーマとして教育研究活動を行うことはできますし現在も行われていますが、大学の主体的な取組としてそれ以上のものが為し得るのかはちょっとわかりませんね。今回は大学に言及された部分のみ取り上げましたが、それ以外の部分でもアクション・プランからなかなかおもしろそうな取組が見受けられます。ICTの利活用やインフラ整備など、大学として関わって行けそうな部分もありますので、そのほかも部分も時間があるときに確認したいと思っています。

 弊BLOGでは、たびたび様々な法令に言及してきました。以前にも言及したかもしれませんが、比較的丹念に、時には条文ずつ細かく見ているのは、それが施策として実施されるつまり国として動きがあり予算が付く可能性があるからです。各省庁・国会などの動きも見ながら、予想されうる将来に適切に大学として参画するためには、収集した情報の中で大学としてマッチできる部分はどこなのか考えることがまず大切だと思っています。今回の創生法や関連戦略等は閣議決定を経た規模が大きいパッケージですし、今後の国の施策を考える上で一つの大きな柱になり得ると考えています。もっと言うと、努力義務ではありますが、各都道府県・市町村でも総合戦略を策定することとなっています。大学としてターゲットとしている地域の方針にどれほど大学のことが言及されるのか、大学として参画できるのか、地方大学は考えられるところがありますね。