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まち・ひと・しごと創生法に思う その2〜KPI目標は達成されるのか〜

 前回に引き続き、創生法に関連して今後5か年の目標や施策や基本的な方向を提示する「まち・ひと・しごと創生総合戦略(総合戦略)」について、大学に関連する部分を確認します。今回は、まさに大学のことが中心に語られている「(2)地方への新しいひとの流れをつくる(ウ)地方大学等の活性化」を細かく見ていきます。

(2)地方への新しいひとの流れをつくる

(ウ)地方大学等の活性化

【施策の概要】

 地方の若い世代が大学等の入学時と卒業時に東京圏へ流出している。その要因には、地方に魅力ある雇用が少ないことのほか、地域ニーズに対応した高等教育機関の機能が地方では十分とはいえないことが挙げられる。このことを踏まえ、地方大学や高等専門学校専修学校等において、地域とのつながりを深め、地域産業を担う人材養成など地方課題の解決に貢献する取組を促進する必要がある。

 また、地方大学等への進学、地元企業への就職や都市部の大学等から地方企業への就職を促進するため、奨学金(「地方創生枠(仮称)」等)を活用した大学生等の地元定着や、地方公共団体と大学等との連携による雇用創出・若者定着に向けた取組等を推進する。さらに学校を核として、学校と地域が連携・協働した取組や地域資源を生かした教育活動を進めるとともに、郷土の歴史や人物等を採り上げた地域教材を用い地域を理解し愛着を深める教育により、地域に誇りを持つ人材の育成を推進し、地域力の強化につなげていく。

 人材育成の観点から、大学や高等専門学校専修学校、専門高校をはじめとする高等学校における、地元の地方公共団体や企業等と連携した取組を強化することにより、地域産業を担う高度な専門的職業人材の育成や地元企業に就職する若者を増やすとともに、地域産業を自ら生み出す人材を創出する。また、地域に根ざしたグローバル・リーダー育成の取組を推進する必要がある。

 こうした観点から、国が2020年までに達成すべき重要業績評価指標(KPI)を以下のとおり設定する。

  •  地方における自県大学進学者の割合を平均で36%まで高める(2013年度全国平均32.9%)
  •  地方における雇用環境の改善を前提に、新規学卒者の県内就職の割合を平均で80%まで高める(2012年度全国平均71.9%)
  •  地域企業等との共同研究件数を7,800件まで高める(2013年度5,762件)
  •  各事業において、地方公共団体や企業等による地元貢献度への満足度80%以上を実現する
  •  大学における、地元企業や官公庁と連携した教育プログラムの実施率を50%まで高める(2013年度39.6%)
  •  全ての小・中学校区に学校と地域が連携・協働する体制を構築する

 施策の概要に書かれた内容は、前回言及してきたCOC事業文部科学省事業を想像させるものです。ここで注目すべきはKPIでしょう。6つの指標が示されていますが、まずはこれらについて確認していきます。

 しかし、これらの指標はそもそもどのようなデータベースや統計資料の数値を基にどのように算出したのかが示されておらず、その妥当性の検証や数値向上への協力すらできないようになっています。これはKPI提示のあり方としてはかなりまずいやり方ですね。ただでさえ数値化することにより文脈が失われているうえに、その数値の意味すら明らかではないとしたら、手の出しようがありません。国のKPIであるとはいえ、実際に活動し数値を上げていくのは各大学や各団体であり、それらの理解を得られない以上は実益を伴った形でのKPIの向上は非常に困難でしょう。今後各省庁の施策へのブレークダウンしていく中で、指標の内容が明らかになることを望みます。併せて、各KPI目標値についても、設定根拠を明らかにしてほしいですね。

 そんな中でも、一部KPIについては内容を想像することができます。一つ目の自県大学進学者の割合ですが、平成25年度学校基本調査の値を用いた結果、(各都道府県の高校から同一都道府県の大学へ入学した者)/(各都道府県の高校から大学へ入学した者)の値について東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県を除いた各都道府県の平均値が32.0%となり、KPIに示されている2013年度全国平均32.9%と概ね一致しました。よって、地方における自県大学進学者の割合とは、各都道府県の高校から大学に入学した者のうち同一都道府県に入学した者の割合であると推測できます。

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 この計算式を採用した場合のKPIについて、図1に平成25年度学校基本調査における高校からの大学入学者数を横軸に、そのうち同一道府県の大学に入学した人数を縦軸におき、各道府県の値をプロットした散布図を示します。散布図中の線分は、KPIの目標値である36%のラインを示しており、プロットがこの線分よりも上に来れば36%以上であることを意味します。また、プロットからは東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県は除外しています。

 図1より、平成25年度の時点においてたいていの道府県が36%を下回っていることがわかります。36%を上回っているのは、北海道(69.2%)、宮城(57.6%)、石川(43.2%)、愛知(72.0%)、京都(49.0%)、大阪(55.2%)、兵庫(45.3%)、岡山(43.7%)、広島(52.2%)、徳島(37.4%)、福岡(64.6%)、熊本(45.4%)、沖縄(56.2%)の13道府県です。

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 KPIの達成可能性検討のため、図2に、平成25年度の自県大学進学者割合36%を下回った県の平成17年度から26年度までの自県大学入学者割合の推移を示します。ここから、各県とも過年度において大きな動きはないものの、徐々に増加する傾向にあることがわかります。それでは、東京圏以外の全体の傾向はどうでしょうか。

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 図3に、東京圏を除いた道府県の平成17年度から26年度の割合を箱ひげ図及び平均値を折れ線で示します。ここから、東京圏以外の道府県を俯瞰しても、平均値や中央値が徐々に上昇していることがわかります。

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 また、図4に、平成17年度から26年度にかけて割合がどの程度増減したのかを図に示します。数値は平成17年度の割合と26年度の割合の差を、線分はKPI目標値である3%増加のラインを表します。ここから、自県大学進学者割合は10年間で平均2%近く増加していること、各道府県により傾向が異なるが多くの道府県で割合が上昇していることがわかります。PKIの目標値は7年間で約3%の向上です。10年間で2%向上してきた現状を鑑みると、よっぽどの施策をしないと達成は難しいかもしれません。なお、論じてきたKPI算出式はあくまで推測ですので、本来はもっと違う計算式である可能性に留意が必要です。まだ、なんにせよ、容易に達成できないことは間違いないでしょう。

 これに関連して、昨年秋に、大都市圏の私立大学の定員超過率の運用を厳格化する報道がありました。

私大の定員超過抑制へ 文科省検討、大都市で助成厳格化:朝日新聞デジタル

 文部科学省は、大都市圏の私立大学について、入学定員を超過して学生を集めた場合のペナルティーを厳しくする方向で検討に入った。大学生全体の4分の3を占める私大生のうち、5割程度が首都圏に集中している現状を変え、地方の過疎化に歯止めをかけるのが狙い。

 これは経営にも影響を与えるのではないかと思いますが、私立大学団体の見解はすぐに見つけられませんでした。ただ、元々定員は100%が原則であると思いますので、なかなか反論できないのかもしれませんが。。。

 自県大学進学者の割合を高めるということは、分子である自県大学進学者数を増加させるということです(理論上は分母である大学進学者数を減少させることも考えられますがそれは無理筋でしょう。)。つまり、自県の大学の収容力や設置学部等が重要になると考えます。この面から、地方の私立大学は比較的小規模で設置学部も限られているため、対応がなかなか難しいなと感じています。地域のニーズに合った教育といっても専門領域としては既存の学部教育がベースになりますし、その地域にあるというだけで専門分野を度外視して入学してくる学生もそう多くないでしょう。新たな奨学金制度などを用いればある程度カバーできるところはあるかもしれませんが、結局は受験生の意志の受け皿があるかどうかだと思っています。(一つのKPIを論じるだけでこれだけ長くなってしまいました。。。)

 もう一つ気になる点である「各事業において、地方公共団体や企業等による地元貢献度への満足度80%以上を実現する」について、これをそのまま読むと各事業の満足度調査を行うように見受けられます。この場合の「各事業」は何を指すのか明らかではありませんが、国からの各委託・補助事業でアセスメントを行うのはちょっと大変かもしれないかと感じています。あるいは、各事業の報告書様式中に満足度調査の結果の記載欄が設けられるのかもしれません。

 教学IRなどでよく言われるアセスメントは学生の学修成果などを対象としたものであり、社会貢献活動のアセスメントは従来大学教育の文脈で言われてきたアセスメントとはまた違った観点があり得るのだろうと思います。どちらかと言えば、より社会調査法に基づいた調査設計が必要だと感じています。また、関連データがたくさんある教学アセスメントと異なり、関連データが乏しい中でアセスメント結果を次に活かすためにも、単純な満足度調査ではなく調査票等様々な仕掛けを検討した方が良いですね。個人的には、この「満足」という言葉にはどうも大学がサービス機関であるような意識を感じるためあまり好きではなく、満足したかではなく有効だったなどの問の方が今後に活かせるのではないかと思います。

 どうも指標やKPIなどが出てくると追求せずにはいられない性分なため、またしても長くなってしまいました。主な施策である「地方大学等創生5か年戦略」及びそのアクション・プランについては、次回に続きます。