地域における国立大学の役割に思う その1

一般社団法人 国立大学協会 <What's New> 「政策研究所 研究報告書「地域における国立大学の役割に関する調査研究(Web版)」(12/12)

「政策研究所 研究報告書「地域における国立大学の役割に関する調査研究(Web版)」を公開しました。

 一般社団法人国立大学協会が、地域における国立大学の役割に関する報告書を公表しています。4県の有識者及び自治体と2県の住民に対し、当該県に設置された国立大学に関する意識等を同様の質問票を用いて調査を行ったものであり、同様の調査票を用いるという点ではなかなかない調査であるという認識です。立地や規模の異なる地方国立大学に共通するあるいは異なる住民意識はあるのでしょうか。報告書から見えてくる地方国立大学の実状を検討します。

 まず、調査の方法についてです。本報告書は、平成24年10月から平成26年3月にわたって行われた4 県(広島県長崎県香川県岩手県)の自治体と有識者及び2 県(広島県長崎県)の住民調査に対するアンケート調査の結果を考察したものです。有識者及び自治体への調査については、

  • 有識者:各県の教育関係者(小中・高等学校長)、医療・福祉関係者(病院長)、企業関係者(経営者)、政治関係者(県会・市会議員)、NPO関係者(代表者)
  • 自治体:各県及び市の中堅幹部(課長)

に対し、アンケート調査を行ったようです。自治体調査については、自治体の相違ではなく、課長に対し回答を求めたようですね。そのため、教育関係部署の課長のみならず、総務系や健康福祉など様々な部署から回答が亜たまったようです。なお、回収率等については、報告書P11をご確認ください。

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 今回の調査で対象とした国立大学は、広島大学長崎大学香川大学岩手大学の4大学です。当然、各大学の設置学部等が異なりますので、自治体等の意識にもそれが現れてくるはずです。そのため、まずは各大学の状況を確認します。表1に、各国立大学の基本的な情報を示します。なお、表1は、報告書P9の「表2-2 4 大学のプロフィール」に一部加筆修正を行いました。

 ここで押さえておきたいことは、調査対象の中で広島大学で最大規模であるとともに県内に複数公立大学が設置されていること、岩手大学は医学部を設置していないこと、全ての大学に教育学部が設置されていることです。また、H26科研費配分金額から、広島大学が最も研究活動が盛んであることが推測できます。大学の活動状況や私自身の感覚から言っても、4大学で比較すると広島大学が比較的研究に力を入れている大学であることは間違いないでしょう。

 本報告書は、大学毎に結果分析が行われていますが、大学間の比較は行われいません。私自身の興味としては立地等が異なる各大学に共通部分などがあるのかですので、回答者母体等が異なるというまとめるには無理がある前提ではありますが、報告書から各大学の結果を抽出し、それを大学毎に比較することで傾向を探っていきます。

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 まずは、有識者調査の結果について、設問毎に比較していきます。注視しなければ
図1に当該大学との関わりについての回答結果を示します。まずわかるのが、各大学との関わりについて有識者の回答がほぼ同一だということです。対象大学の立地や状況、回答者やその内訳も異なる中でこのように回答が同一ということは、本調査の結果が地方国立大学に対する意識におけるある程度の相場観を示しているということが示唆されます。その中で比較的大学によって異なる回答であったのは、「職場には当該大学の卒業生が多くいる。」という設問です。この場合は、回答した有識者の職場に当該大学の卒業生が就職しているのかという趣旨ですね。回答を見ると、規模の大きい大学になるほど、職場に卒業生がいる割合が減少しています。

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 感覚的には、特に地方においては、大規模になるほど就職先が全国的になるかもしれないなと感じています。図2に当該大学学部卒業生の平成25年度県内就職率を示します。数値は各大学の概要やホームページから抽出しました。図2から、やはり大学の規模が大きくなると県内就職率が低下していることがわかります。今回回答した有識者の周りに新卒者がいるとは限りませんのでこの県内就職率が直接の論拠にはなり得ませんが、この大学間の傾向は過年度においても同一であろうとも思いますので、有識者の回答と実際の数値は比較的適合しているものと考えます。

 図1から有識者の意識傾向を大まかに読み取ると、「当該大学のことに関心がないわけではないが積極的に情報収集するほどではない。また、職場や身内に出身者や関係者がいることは認識している。」といった程度でしょうか。

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 図3に、各大学から有識者に対して行った協力要請への対応状況を示します。図3から、各大学が概ね同様の傾向を示していること、各質問項目において「協力できなかったもしくは要請がなかった」が90%以上であること、「インターンシップ・実習生の受け入れ」という質問において長崎大学の「全面的にもしくは部分的に協力した」と回答した割合が他大学よりも大きくなっていることがわかります。

 長崎大学以外の大学の報告書では、当該質問項目において「協力できなかった」「要請がなかった」と回答した者が別々の数で記されています。これを確認すると、「協力できなかった」と回答した者は各大学の各質問項目で!%以下であり、ほとんどが「要請がなかった」と回答しています。ここから、そもそも各有識者に対して協力要請が行われていないということがわかります。一言で有識者と言ってもその内実は様々ですので、これを以て一概に大学の協力要請姿勢がなっていないとは言い難いですね。

 「インターンシップ・実習生の受け入れ」という質問において長崎大学の「全面的にもしくは部分的に協力した」と回答した割合が他大学よりも大きくなっています。これについて、

唯一、インターンや実習生の受け入れについて、教育関係と医療・福祉の割合が5割程度で際だって高いのは、教育学部と医学部の受け入れ先になっているからである。(報告書P46)

を解説されています。ただし、これが正しいのであれば、同じく教育学部や医学部を持つ他大学についても同様の傾向が現れるはずです。報告書表2-7では回答があった有識者の分野が示されていますが、これを見る限り特段長崎大学が教育関係・医療関係者から回答があったとは言えない状況です。そのため、長崎大学の傾向については、長崎大学が特に実習に力を入れているのか、回答があった有識者個々の特性に依存している可能性が考えられます。

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 図4に、有識者における各大学の総合評価を示します。なお、長崎大学は独自の集計方法で記載されており他大学との比較が困難であったたため、除外しています。図4から、各大学の回答が同様の傾向である設問と異なる設問があることがわかります。設問1,3,6は各大学で同様の回答傾向を示しており、ここから各大学とも有識者からは地域社会に貢献していると認識されていると言えるでしょう。一方で、設問2,4は、広島大学岩手大学香川大学の順でポジティブな回答の割合が低下しています。

 問1と問2、問3と問4は対応した設問になっています。問1では「当該大学は優れた学生が地域から集まってきている。」、問2では「当該大学は優れた学生が全国から集まってきている。」という設問ですが、広島大学は共にポジティブな回答が高い割合です。ここから、有識者としては、広島大学は地方からも全国からの優れた学生が集まってきていると認識していることがわかります。

 一方、香川大学は「当該大学は優れた学生が地域から集まってきている。」はポジティブな回答が高い割合ですが、「当該大学は優れた学生が全国から集まってきている。」は低い割合です。回答は「全国」にかかっているのか、「優れた」にかかっているのかは不明ですが、恐らく「全国」にかかっているのではないかと考えます。現在の香川大学は入学者の半数以上が香川県及び岡山県の出身のようですし、有識者からは「ローカルな」大学であると認識されているのかもしれません。問3「卒業生は地域の第一線で活躍している。」と問4「卒業生は全国の第一線で活躍している。」についても、同様の傾向を示しています。

 問5「研究のレベルは全国的にみて高いほうである。」について、広島大学だけが高いポジティブ回答を示している点は、研究志向大学である点が広く共有されているということでしょうか。

(続く)