大学教育再生加速プログラム選定状況に思う 〜今までと異なる選定状況〜

平成26年度「大学教育再生加速プログラム」の選定状況について:文部科学省

 平成26年度「大学教育再生加速プログラム」について、日本学術振興会で運営される「大学教育再生加速プログラム委員会」において審査が行われ、選定結果を取りまとめましたのでお知らせします。

 大学教育再生加速プログラム(以下、「AP」という。)の選定結果が公表されていました。申請状況が公表された段階ではかなり多くの大学の名前が挙がっていましたが、採択状況はどのような傾向が見られるのでしょうか。申請状況及び採択状況を比較しながら、どのような大学がAPに採択されたのか確認します。

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 図1に、各テーマの申請件数、採択件数及び採択割合を示します。ここから、テーマⅠ(アクティブ・ラーニング)及びテーマⅠ・Ⅱ複合型の申請件数が多くテーマⅢの申請件数が少ないこと、採択割合が10%〜40%とテーマにより異なることがわかります。なお、全てのテーマを合計した数は、申請数250件、採択件数46件であり、採択割合は18.4%でした。

 採択件数は公募要領に記載された予定採択件数と異なっています。

平成26年度「大学教育再生加速プログラム」公募要領(P3)
○ 選定件数は以下のとおりとするが、申請の状況等により予算の範囲内において調整を行うことがある。
・テーマⅠ8件
・テーマⅡ 8件
・テーマⅠとⅡの複合型 16件
・テーマⅢ(入試改革) 8件
・テーマⅢ(高大接続) 4件

 恐らく、テーマⅢ(入試改革)の採択件数や金額が予定よりも少なかったため、その他のテーマに充足したのでしょう。

 図1は大学、短大及び高専を含めた数ですが、論点を明確にするため、以降は大学に限定して数値等を計上します。

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 図2に、設置者別の申請件数、採択件数及び採択割合を示します。ここから、設置者間の採択割合が15%〜25%と近しい値であることがわかります。以前弊BLOG(COC事業の申請状況に思う 〜公表資料から申請・採択傾向を探る〜)にて平成26年度COC事業の採択結果について言及しましたが、その際、国立大学の採択割合が40%以上、私立大学の採択割合が10%以下であることを指摘しました。設置者間の採択割合が大きく異なったCOC事業に比べAPはその差がかなり小さくなっており、COC事業と異なる観点で審査が行われたと言えます。

 研究が関連するとどうしても国立大学有利になりがちですが、大学教育という分野であれば大学の規模や歴史等にあまり影響されることなく、大学全体としてどれほど教育に対して本気を出せるのかという点が問われたためとも考えられます。「大学全体」という観点からすると、むしろ小規模大学の方が有利なのかもしれません。その点も後ほど検証します。

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 図3に、テーマ別設置者別の申請件数及び採択件数を示します。ここから、テーマⅠ(アクティブ・ラーニング)及びテーマⅠ・Ⅱ複合型の私立大学の申請件数が突出していること、テーマⅢの申請件数は設置者に関わらず少ないことがわかります。入試改革及び高大接続については、全ての大学において手が出しにくかったということでしょうか。

 特に入試については各学部等で行われている場合も多いと想像でき、APの趣旨である「大学全体」という観点では語りにくいところがあったとも推測できます。予定採用件数では入試改革は他テーマとほぼ同数の8件であったことから、国としてもっと入試改革を進めたい、あるいは進めようと思っている大学があると想定していたのでしょうが、現実は少し違う結果になったとも言えるでしょう。

 続いて、大学規模別の採択状況を確認します。

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 図4に、平成26年度学部入学定員別の申請件数、採択件数及び採択割合を示します。また、図5に、学部等数別の申請件数、採択件数及び採択割合を示します。図5の学部等とは、学類等学部以外の設置形態を含むという意味です。なお、平成26年度学部入学定員及び学部等数は、平成26年度全国大学一覧から抽出しました。

 図4及び図5から、特に入学定員や学部数が少ない大学の申請が多いこと、採択は規模によらず比較的一様に分布していること、採択割合が規模により異なることがわかります。審査要項には、「学校種や設置形態、大学の規模、学問分野等のバランスや他の補助金の選定状況を踏まえ、特定の大学に集中することのないよう配慮する」とあり、そのため分布が一様になった可能性がありますね。もちろん、その前提として、規模や知名度があまり大きくない大学において非常に良い事業申請があったのだろうと思います。

 必ずしも小規模大学が有利という結果にならなかったことは、申請内容がわからない以上なんとも言えませんね。書面審査と面接審査でどれほどセレクションが行われたかにもよるかもしれません。

 国立大学の状況も確認しましょう。

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 表1に、国立大学に置けるAPとCOC事業の採択、不採択、未申請状況を示します。COC事業は平成25,26年度と2回申請・採択が行われていますが、両年度のどちらかに申請・採択されていれば1と計上しています。ここから、COC事業は採択、不採択、未申請が全国立大学でほぼ同程度であることに対し、APへ申請しなかった国立大学は半数以上であることがわかります。以前弊BLOG記事(スーパーグローバル大学創成支援事業の申請状況に思う 〜切実な国立大学〜)でも言及したとおり、国立大学はAPよりもCOC事業により積極的に申請したと言えます。

 このような状況に対し、プログラム委員会委員長である河田悌一は、所見として以下の文書を公表しています。

 採択された大学の内訳は、過去実施されたGP事業に比べると国公立の割合が低く、私立の割合が高くなっており、あらゆる層の大学で教育改革が着実に行われていることを示している。また、比較的財政基盤が弱いと考えられる小規模校も数多く採択された。このような教育改革の広がりを確認できたことは、長く高等教育に関わるものとして、極めて感慨深いものがある。

 小規模大学の申請数が多かったことから、教育改革が広まっているというのは恐らく事実なのでしょう。

 なお、所見文書で気になったのは、以下の部分です。

 大学改革は本来、大学の自助努力によって行われるものである。しかし学生の受け手である地域社会や産業界が大学に求める期待は過去とは大きな違いがあり、この変化に大学の自助努力のみで対応することは限界がある。
(略)
 社会において求められる人材は高度化・多様化しており、採択・不採択校更には未申請校の別なく、大学教育の質的転換に取り組み、これまで以上に教育内容を充実させ、学生が徹底して学ぶことのできる環境を整備する必要がある。

 ここで言う「地域社会や産業界が大学に求める期待は過去とは大きな違いがあり」という点は、すでに中央教育審議会によって以下のように示されています。

「予測困難な時代において生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ」(審議まとめ):文部科学省

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 所見の文章は、「大学の自助努力のみで対応することは限界がある」と言っておきながら、「これまで以上に教育内容を充実させ、学生が徹底して学ぶことのできる環境を整備する必要がある」と繋げているというちょっと不自然な構成になっていると感じました。「まずは大学自身ががんばれ」ということでしょうね。

 今後各事業の概要やwebサイトが公表されると思いますので、それを確認し、自大学に応用できる点を探っていきたいと思っています。