ジェネリックスキルの評価に関するセミナーに参加しました。

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 グローバル化した「知識基盤社会」の到来、少子化にともなう受験人口の減少と、日本の大学は変化への対応を迫られています。そうしたなかで、大学は、専門の知識の習得のみならず、ジェネリックスキルの育成が大きな課題になっています。また、教育の「質保証」が求められるなかで、データやエビデンスに基づいた教育改革の推進が求められています。本セミナーでは、そのような改革を加速させるために、どのようにジェネリックスキルを「育成」し、データをどのように「評価」「活用」するかについて、具体的な事例とともに考えていきます。

 河合塾等が主催するジェネリックスキルの評価に関するセミナーに参加してきました。(※大阪会場)そこそこ大きい会議室でしたが、結構ぎっしり参加者が入っていました。当日のアナウンスでも、北海道から沖縄まで参加者があったと言ってましたし、だいぶ盛況だなという印象を受けました。各大学にとっては切実な意味を持つセミナー内容だったからかもしれません。

 一部分だけですが、私の印象に残った発言を以下に記載します。なお、いつものとおり、正確に発言を書き取った訳ではなく、内容は全て私の私見が加わっている可能性がある点に留意願います。

第1部:【基調講演】「教学IRの立場からジェネリックスキルの成長に関わっている活動を可視化する」(京都大学高等教育研究開発推進センター教授 溝上慎一)
  •  なぜデータ収集が必要かということと、教育システムを改善することはどこが難しいのかということの2点をお話しする。
  •  なぜデータ収集や調査が必要なのか。実際のところ、面倒くさい。まだまだエビデンスベースに教育を改善するという理解は浸透していない。それを促進する活動としてIRがある。集めたデータを用いてどう改善していくのかは執行部等の役割であり、データを提供するのがIRの基本的な仕事という認識。
  •  データの意義はどこにあるか。①実態を明らかにすること、fact-findingであること。日本でも実態調査はたくさん行われてきた。ただ、その結果を実際の改善改革に資してきたのかが問題。改善に繋げることを意識していくことが大切。
  •  最近の流れは学修成果や教育の質保証にあり、大学の社会的責任も問われている。それらをやらないという選択肢はない状況にある。立命館大学はリサーチクエスチョンに基づいた調査を行っており、後々の分析を意識した調査・IR活動を行っている。これにより、学生の状況を浮き彫りにしている。
  •  教員からは、大学教育に対する現状肯定の発言をたくさん聞いてきた。教員の数だけ教育観がある。教員の中には、4年生のゼミ活動で優秀な学生が数人いるだけで教育活動はOKだという意識を持つ教員もいる。全学の委員会に出てくるのは基本的には意欲のある教員であり、それらに出てこない教員もいる。研究は皆よくやっているが教育は意欲の差が大きい。だからこそ、データがないと学生の実態がわからないし、それを示していかないといけない。
  •  最近は、大学と企業とのトランジションに関するデータも出てくるようになってきた。学生時代の活動と企業での活躍は、学習活動も含め、一定程度の関係性が見られる。逆も然り。学生時代のキャリア意識と職場での活躍には、特に影響があるという結果だった。
  •  京都大学では、三分の一から四分の一の学生は就活がうまくいっていない。内定を取った学生でも、半分程度しか第一志望に決まっていない。京都大学の名前だけでうまくいく時代は終わったことをデータで明らかにした。学部毎に見ても、これは同じ傾向であることがわかった。
  •  データを取っていくと比較分析ができるようになる。IRの機能の一つにも機関間比較がある。京都大学の学生と全国の学生を比較すると、授業外学習時間や自主勉強をどの程度行うというは問いに対する回答は同じ傾向にある。
  •  授業だけで1週間を過ごしている学生や学習していない学生などを分類すると、京都大学の学生の64%が授業外学習及び自主学習をしていない学生となる。また、三分の一の学生が、授業時間外に授業に関連する学習のみを行っている学生である。
  •  クロス集計など項目間の関連分析が一番やりやすい。大阪府立大学の学生のGPAの変化を見ると、学年が変わってもGPAのスコアはなかなか変わっていない。学習時間を見ると、授業でのみ学習している学生は65%である。ただ、これら学習時間とGPAのスコアはあまり関連性がない。
  •  GPAのスコアに関わっているのが、遅刻の有無や居眠りの有無など。まじめに授業を受けて勉強している学生のGPAは高いという結果になった。また、これらの結果から、初年次教育の重要性を認識している。一年生で問題をケアしないと、そのまま学年進行してしまう。
  •  キャリア意識も深刻であり、学年進行しても変化しない者がいる。一年生にキャリア教育はまだ早いという者もいるが、一年生に適合したキャリア教育をしないとそのまま学年進行してしまう。このような学生には、選択科目であるアクティブラーニング科目を履修していない学生も多い。キャリア教育と学習は関連していることはデータを分析してわかった。
  •  教育改善を考えていく時にいつも思っているのが、新しい要素を加える際には、従来要素との関係を全体のシステムの中で機能させることを併せて考えないといけないということ。新しい要素を加えると既存要素の意味が変わる。新しい要素と既存要素が連関できているのかを定期的に検証していくためにも、データが必要。
  •  システムを稼働させていくことを考えると、状況論的アプローチが必要。システムは、作っただけで稼働するということはない。例えば、講義にクリッカーを導入した際、シラバス等その他要素を全く変えなかった結果、学生達は盛り上がったが、授業が表面的になったという意見が出たり説明等時間が短くなったりと、様々な影響が出た。大学のシステムや組織を変えるとなるとだいぶ難しくなるが、だからこそデータを用いることが必要だと考える。
  •  ジェネリックスキルの有無は学生生活における様々な選択に影響を与える。学生が昔のような自律的存在から変化していることは間違いない。ジェネリックスキルをどこに繋げていくのかを考えないといけない。
  • (筆者補足)本基調講演で用いられた京都大学生の自学自習等調査結果は、教育・学習実態調査 - 自学自習等実態調査 - 京都大学 FD研究検討委員会にて公表されています。
第2部:ジェネリックスキル測定テスト(PROG)の紹介
  •  教育評価をする際、その妥当性や信頼性はどうかのかという話は良く出てくる。妥当性とは、育てたい力を評価できているかということ。信頼性とは、計りたいことがきちんと計れているのかということ。一方で、評価の実行可能性も大切であり、実行可能性が低ければ評価疲れにも繋がる。これはつまり、継続可能性と同義である。妥当性と信頼性を保ちつつ、継続可能性をもった評価をどのように形成していくかということが課題。
  •  大学で育成すべき能力は、Barnettが提唱した高等教育のスキルで分類できる。特定的−般的、学術的—職業的の4象限に分けると、ジェネリックスキルとは、汎用的スキル(一般的かつ職業的能力)に分類される。 ジェネリックスキルをどう評価するか。金沢工業大学シラバスが優れた取組として紹介されることが多い。シラバスの中に評価する能力やそれをどのように評価するかが書かれており、シラバスの段階でジェネリックスキルの評価フレームが設計されていることが分かる。
  •  授業のデザインができた上で、どのように評価するかという評価方法の話が出てくる。評価の方法の例を挙げると、①成長のエビデンスとして、ポートフォリオがある。ポートフォリを通じて、学生と教員のコミュニケーションが発生する。②間接評価として、学生の自己評価がある。これは、個人の認知に基づく主観的評価である。主観的であるからダメという話ではなく、自分の成長をどう評価するかという点では重要である。③直接的評価として、成果・活動そのものの評価がある。プレゼン等パフォーマンス評価や標準化テストによる評価。アメリカやオーストラリアには、CLAやMAPP、GSAなどの標準化テストがあるが、正確に計ろうとすると数時間のテストになる。ただ、これらは教育プログラムがうまくいっているかを評価するものであり、学生にはフィードバックがなく、受験する学生のモチベーションは高くないという話も聞く。
  •  PROGテストはリテラシーコンピテンシーを評価するが、各大学の教育プログラムを評価するとともに、受験した学生へのフィードバックも行っている。PROGは、客観性を保ちながらも、実行可能性を考慮し簡便にできるように意識している。
  •  評価の妥当性について。PROGは、リテラシーコンピテンシーの2つの観点から、ジェネリックスキルを評価する。この2つに分けたのは、知識を学ぶことと経験から学ぶことは異なるという考えからである。OECDのキーコンピテンシー(自律的に活動する力、異質な集団で交流する力、道具を相互作用的に活用する力)でも同じようなフレームを採用している。学習指導要領の改正でも、OECDのキーコンピテンシーを意識しているようで、リテラシーに関する力が新しく入ってきている。また、PROGで測定するコンピテンシーは、社会人基礎力や学士力とも親和性がある。
  •  偏差値の高い大学は、リテラシー評価の結果は高いがコンピテンシー評価の結果が低いということもある。逆も然り。PROGによるコンピテンシーの評価が高かったことにより、受験した学生の自信がついた例もある。
  •  持続可能性を考え、90分間でテストを終了できるようにしている。各大学で育成する能力を定めている場合もあると思うが、それら能力とPROGが測定するリテラシーコンピテンシーを対応させることも可能であり、各大学で育成する能力を測定することもできる。
第3部:【事例報告】「長崎大学の教育改革推進戦略」(長崎大学学長 片峰茂、同大大学教育イノベーションセンター助教 川越明日香)
  •  長崎大学の学士教育について、大きく2つの改革を行った。まずは、新しい教養教育を開始した。教育の仕方を抜本的に全て変え、アクティブラーニングの全面導入を行うとともに、教養教育をモジュール化した。また、学内の資源を再配分し、新しい学部である多文化社会学部を作った。
  •  教養教育改革の発端は、平成20年に遡る。当時、卒業直前の学生を集め話を聞いたところ、全ての学生が教養教育のことを覚えていなかった。これではいけないと思い、WGを結成し教養教育煮関する検討を行った。その結果、教養教育の理念の明確化や長崎大学ならではの教養教育の実現という結論になった。新学部については、人文社会系の教養教育を基にした学部であることや既存の資源を基に再配分するという方針を決めた。そのため、既存学部の改革も同時に行うことにした。
  •  学士教育共通の理念の設定について。当時、法人化されても国立大学は何も変わっていないという外部の声があったことが印象に残っている。たしかに、学部毎に違いがあっても法人全体では変わっていなかった。長崎大学モデルの教養教育は、教養教育とは学問のカタであるという思いの基、カタとは学士力でありそれを教授する必要があることを意識し、幅広い教養教育の在り方からの転換を目指した。だからこそ、教養教育のモジュール化を推進した。
  •  地方総合大学の存在意義はどこにあるのか。長崎大学の存在意義は、長崎ならでは多様性を持った人材を育てることだと考えた。それを基に、共有学士像の構築やそれに根ざした教養教育の実施を検討した。
  •  教養教育をどのように変えたのか。単位数も増やしたが、一番変わったのが選択科目をモジュール化したこと。今までは教養教育科目のカテゴリー化をしていただけだが、科目の集合体としてモジュールを形成し、学生がそれらモジュールを選択することとした。モジュール化して最も評判が悪く、また弱点であるのは、選択の幅が狭いことである。この点はなんとかしていきたいと思っている。
  •  現在は、1モジュール当たり平均70名の学生で構成している。モジュール化の意味は、一つのテーマの基に科目を学ばせることであり、各学部の専門科目群に対しサブメジャー的な位置付けである。また、もう一つの大切な意味として、モジュール毎に決まった学生、教員及びモジュール責任者というリーダー的教員の三者により、学びのコミュニティを形成することである。その中で、アクティブラーニングを実践していく。これが、長崎大学の教養教育の戦術戦略である。
  •  教育支援策と一つとして、アクティブラーニングができる教室を6つ設置するとともに、LACS(学習支援システム)を構築した。LACSは、最終的にはIRにまで到達できる仕組みであると考えている。 このような取組により、学生教員とも、e-Learningシステムへのログイン時間が大幅に伸びた。また、授業評価結果について、新しい教育を始めた直後は低下したが、その後回復した。アクティブラーニングに関する学生授業評価も、年を経る毎に高くなっている。教員へのアンケート結果からは、アクティブラーニングが上手くいったと感じる教員が増加していることがわかった。
  •  新しい学部である多文化社会学部について、これは総合大学としてのリベラルアーツという学問領域である。また、しがらみがない学部でもある。ここでは、理想だと考える教育を全て実現できるという思いがある。
  •  入口から出口まで、英語に特化した学部でもある。教員の3割は外国人であり、専門教育科目の半分は英語で行う。徹底的なアクティブラーニングも行う。また、ポスドクのようなポジションであるコーチング・フェローを10名の学生当たり1名設け、学生の学習をフォローしている。 多文化社会学部の入学試験は、通常の国立大学の入学試験とは全く異なる科目構成にしている。その内訳は、センター試験300点のうち外国語200点を配点するとともに、個別学力検査も英語と思考力テストである。学生が集まるのか心配していたが、結果として、全国から入学者があり定員を満たすことができた。同学部の学生に対する教員からの評価も高い。
  •  大学教育改革は、学長が旗を振ってもダメであり、教員がその気にならないといけない。そうでないと、学生に不利益を生じさせるリスクが発生する。そのため、改革を行う際は、大学はリスク・マネジメントやセーフティネットを構築しないといけない。そのためにも、客観的なデータが必要である。また、実際にやってみせることやロールモデルの提示も必要である。
  •  平成24年度に教養教育を改革した際、学生による授業評価の公表方法を変更した。授業評価結果の公開の範囲を、それまでの紙媒体による担当教員への送付から、学内webでの受講学生への公開とし、昨年度から学外にもwebにて公開している。
  •  モジュール教育における授業評価について、ある授業の授業評価を見ると、評価結果は前年度より向上しているが、これは①授業の流れを明確に伝え予習レポートの趣旨を徹底したこと、②グループ作業の役割分担を授業毎に変え責任体制を明確化したことが要因であると考える。つまり、学生の実態把握をもとに授業の方針が立てられるようになったことが大きい。
  •  長崎大学のPROGの結果について、1年生のリテラシー評価結果を見ると、偏差値と同様に医歯薬系が高いという傾向があるが、年を経る毎にリテラシー評価が下がってきている。これは全国の国公立大学の1年生と同じ傾向であるが、全入時代ということもあり、全国的に学生の学力が低くなっているかもしれない。一方、コンピテンシー評価の結果は年々向上している。アクティブラーニングを実施する高校が増加してきている影響かもしれない。
  •  全般的に、リテラシー評価の結果に違いは見られないが、活動が活発な学生ほど、コンピテンシー評価の結果が高くなる傾向にある。 コンピテンシー評価の結果が低い学生と高い学生では、学習態度に大きく違いがある。周当たりの活動時間等も、授業の関連する活動をするかという点で、PROGの評価結果と相関があった。うまく学生生活に適応している学生は、コンピテンシー評価の結果が高い。 高校3年生時の学習経験を3つのタイプにわけると、やはり、コンピテンシー評価の結果に違いが現れた。
  •  学修成果の可視化に向け、①大学での評価と社会での評価を一致させること(大学での学修成果を社会で通用させる)、②ジェネリックスキルを可視化すること、③教員の評価力とフィードバック力を高めることの3点が大切だと思っている。③については、測定した結果と教員の印象とが一致することが大切であるが、それは教員自身が適切な評価能力を持っているかという点にも左右されるためである。
  • Q:アクティブラーニングを全面的に導入する際に、教員へのサポートはどのようなことを行ったのか。
  • A:FDや事例報告はたくさん行っている。そもそも何がアクティブラーニングかは様々であり、各教員が何を行っているかは把握しているが、これをやれとは強制をしていない。一方で、学生の満足度はクラスによってだいぶ異なることも把握している。満足度が低いクラスに対してどのように対応するかは、今後の課題である。モジュール責任者である教員にも大切な役割がある。改善の余地はまだまだたくさんあるという認識。
第4部:【分析報告】「PROGの2年間からみえてきたもの−分析と活用の可能性−」
  •  PROGは2012年以降10万人が受験している。教育改善の目的でPROGを使用している大学が多い。
  •  設置主体別に見ると、リテラシー評価は国立大学が優位になっている一方、コンピテンシー評価の差は国公私間でそれほど大きくない。コンピテンシー評価は、基本的に個人の能力によるものであり、偏差値等よりもばらつきが大きいためと思われる。ただ、若干ではあるが、コンピテンシー評価は概ね国立大学が高い。
  •  入学難易度で見ると、各難易度によってリテラシー評価の差が大きく、それほど大きな差ではないがコンピテンシー評価にも同様の傾向が見られる。ただ、特定のコンピテンシーについては、入学難易度によらない結果がある。コンピテンシーは個人の能力によるところもあるためだと考える。
  •  学年進行により、リテラシー評価・コンピテンシー評価ともに向上している。コンピテンシー評価は、3年生までは停滞しているが、4年生になると向上する。個人の主観に基づいた調査であるため、外的要因により自信がなくなるなどがあれば、コンピテンシー評価の結果は変化する。
  •  教員向けアンケートにより、授業のタイプを抽出し、リテラシー評価・コンピテンシー評価の伸び率との関係を明らかにすることもできる。授業のタイプによって、狙いとしていた能力が伸ばせているかいないかということも分かる。
  •  国立大学の学生の方が大企業に就職している数が多いが、PROGの結果、国立大学と公私立大学のコンピテンシー評価の結果にそれほど違いはない。PROGと就職との関係について、ある大学にて4年生の4月に内定を出ている者を見ると、リテラシー評価コンピテンシー評価とも高い者、リテラシー評価は低いがコンピテンシー評価が高い者、リテラシー評価は高いがコンピテンシー評価が低い者、リテラシー評価コンピテンシー評価とも低い者の順で、内定を得た者の割合が異なる。また、業界毎に見ても、内定者のリテラシー評価コンピテンシー評価について、業界毎の違いがあることがわかる。
  •  グローバル人材におけるコンピテンシー評価の結果を見ると、親和力や統率力、感情制御力が高いことがわかる。また、ある大学の教員のコンピテンシー評価を行うと、職階毎に違いがあることがわかる。