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大学での知的財産教育に思う 〜多様な専門職大学院〜

大学一般

知財立国へ大学、人材育成 山口大、入門編 全学部で必修化 東京理科大、院で経営視点から講座 :日本経済新聞

 大学が特許や著作権など知的財産を担う人材の育成に力を入れ始めた。山口大学は全学部で入門講座を必修とし、他大学にも教材やノウハウを提供できる体制を整えつつある。東京理科大学は大学院で経営戦略を語れる専門家の養成を目指す。知財戦略は企業の国際競争力を左右するだけに、教育体制の拡充が「知財大国」を目指す日本の課題だ。

 日経新聞に大学における知的財産教育についての記事が出ていました。大学における知的財産教育については、国の知的財産推進計画においても言及されているところです。

知的財産戦略本部

(大学などにおける知的財産教育の推進)

・ 大学などの理系学部や法学部、芸術学部や経営学部といった将来の知財専門人財や知財創出人財・マネジメント人財を育成する学部・学科などにおいて、例えば知的財産に関する科目の必修化を採用する大学での取組などの事例を参考にしつつ、知的財産に関する科目の開設などの自主的な取組を進めていくことを促す。(短期・中期)(文部科学省経済産業省)(P17)

 実際の大学現場における知財人材育成の現状については、日本弁理士会が発行している「パテント」2013年1月号に関連記事が掲載されています。

「パテント」2013年01月号目次|日本弁理士会

大学における知財人財育成

 こうした要請に応えるべく,多くの大学において知的財産教育の取り組みが始まっており,それぞれの大学・大学院の特徴を活かして様々な方法により,知的財産に関する教育が行われるようになった。これらは,大別すれば,以下の3態様に分けられる。

(1) 大学の学部教育における知財教育の導入

(2) 大学の大学院教育における知財教育の導入

(3) 高度専門職業人を育成する専門職大学院における知財教育

(パテント2013 Vol.66 No.1 P56)

 冒頭記事中では山口大学東京理科大学の事例が紹介されていますが、なぜ両大学はこのような知的財産教育に関する取組ができるのでしょうか。それは、両大学が知的財産系専門職大学院(厳密に言えば、山口大学はMOT系専門職大学院)を設置しているためだろうと思います。特に、山口大学は知的財産系科目を全学部必修としているようですし、大学として力を入れているという印象を受けます。

 前置きが長くなりましたが、今回は専門職大学院についてのお話です。

専門職大学院:文部科学省

 専門職大学院は、科学技術の進展や社会・経済のグローバル化に伴う、社会的・国際的に活躍できる高度専門職業人養成へのニーズの高まりに対応するため、高度専門職業人の養成に目的を特化した課程として、平成15年度に創設されました。特徴としては、理論と実務を架橋した教育を行うことを基本としつつ、1:少人数教育、双方向的・多方向的な授業、事例研究、現地調査などの実践的な教育方法をとること、2:研究指導や論文審査は必須としないこと、3:実務家教員を一定割合置くことなどを制度上定めています。

 専門職大学院とは、理論と実務を架橋した教育を行うために制度づけられた学校教育体系の一つの形です。学校体系としては大学院の修士課程に相当しますが、修士課程とは主に以下の点が異なります。

  1. 修了要件に修士論文の作成が必須ではない。
  2. 必置専任教員数が多い。
  3. 実務家教員を一定割合配置しなければならない。
  4. 学位は〇〇修士(専門職)や法務博士(専門職)、教職修士(専門職)
  5. 5年以内に一度、専門分野別認証評価を受審しなければならない。

 3.にある「実務家教員」とは、一定程度の実務経験を有した教員のことです。

平成15年文部科学省告示第53号(専門職大学院に関し必要な事項について定める件):文部科学省

(専攻分野における実務の経験及び高度の実務の能力を有する教員)

第二条 前条第一項の規定により専攻ごとに置くものとされる専任教員の数又は同条第二項及び第三項若しくは同条第四項の規定によりそれぞれの専門職大学院に置く当該教育課程を編成する専攻に置くものとされる専任教員の数を合計した数のおおむね三割以上は、専攻分野におけるおおむね五年以上の実務の経験を有し、かつ、高度の実務の能力を有する者とする。

 また、専門職大学院は、その特殊性から、他専攻や学部との必置教員の兼務が大幅に制限されています。ただし、教職大学院においては、この制限が時限付きで緩和されています。

専門職大学院設置基準における専任教員に関する特例措置の終了に伴う制度改正について(平成24年11月19日):文部科学省

 このたび、専門職大学院設置基準の一部を改正する省令(平成24年文部科学省令第38号)が平成24年11月19日に公布され、平成26年4月1日から施行されることとなりました。専門職大学院設置基準上必ず置くこととされる数の専任教員について、同設置基準附則第2項に基づき、専門職大学院の教員を他の学位課程に必要な教員数に算入できることとする経過措置が平成25年度末に終了することを受けて,特例措置終了後は、今回の改正により専門職学位課程に必ず置くこととされる数の専任教員については、博士課程(前期及び後期の課程に区分する博士課程における前期の課程を除く。)を担当する教員が兼ねることができるようになりました。

教職大学院における専任教員関係の特例措置に係る省令改正について(平成26年2月19日):文部科学省

 このたび、専門職大学院設置基準の一部を改正する省令(平成26年文部科学省令第8号)が平成26年2月19日に公布され、平成26年4月1日から施行されることとなりました。今回の改正は、平成24年8月の中央教育審議会答申「教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策について(答申)」に基づき教職大学院の発展・拡充を推進するため、新設等が集中することが見込まれる平成30年度までの間は、優秀な教員を確保する必要があることから、教職大学院に必ず置くこととされる専任教員について、教育上支障を生じない場合には、引き続き、他の課程の教員がこれを兼ねることができるとするものです。

 そんな専門職大学院ですが、規模感や知名度などから「法科大学院」「教職大学院」「その他の専門職大学院」に分類できると考えます。法科大学院教職大学院についてはニュース等で言及されることも多いですが、その他の専門職大学院はあまり存在が知られていません。そんな中、冒頭記事にある山口大学東京理科大学専門職大学院は、「その他の専門職大学院」に分類される専門職大学院であり、このような言及があるのは珍しいなと思った次第です。それでは、「その他の専門職大学院」はほかにどのようなものがあるのか見てみましょう。

 「その他の専門職大学院」も、分野により設置学校数が異なります。

 最も多いのが、ビジネス・MOT系専門職大学院です。冒頭の山口大学大学院技術経営研究科技術経営専攻や東京理科大学大学院イノベーション研究科技術経営専攻はここに分類されます。ビジネス系とは、いわゆるMBAを出す専門職大学院です。MBAについては、幣BLOGでも言及してきたところです。(薬学とMBAのダブルディグリーに思う ~二重学籍への挑戦~ - 大学職員の書き散らかしBLOG)

 修論の非必修や実務家教員など、ビジネスマンを相手にするような大学院と相性が良い制度だからこそ、規模感も大きいのかもしれません。(と言いつつも、国内MBA大学院の中でもっとも有名な大学院の一つである慶応大学ビジネス・スクールが一般の修士課程であることを考えると、研究科等の方針次第なのかもしれませんが。。。)

 MOTという言葉はなかなか聞きなれないかもしれませんが、Management of Technologyの略称であり、技術経営とも呼ばれます。

技術経営 - Wikipedia

 「技術経営」という名称は「技術を駆使した経営」という意味に取れなくもないが、技術経営が扱うのはそうではなく、主に製造業がものづくりの過程で培ったノウハウや概念を経営学の立場から体系化したものである。すなわち、技術を使って何かを生み出す組織のための経営学である。そのため技術版MBAと説明されることも多い。その目的は、産業界、または社会にあって、イノベーションの創出をマネジメントし、新しい技術を取り入れながら事業を行う企業・組織が、持続的発展のために、技術を含めて総合的に経営管理を行い、経済的価値を生み出していくための戦略を立案・決定・実行することにある。

 技術をマネジメントするからこそ、MOTの中でも知的財産が重要な意味を持つという認識です。

 ビジネス・MOT系の次に数が多いのは、会計専門職大学院です。特に、会計専門職大学院を修了すれば、公認会計士試験の一部科目が免除になるというのは、大きな特徴の一つでしょう。そんな会計専門職大学院ですが、かねてからの公認会計士受験者減少に関連する形で、入学者数が減少しているという話をきいたことがあります。(現在の状況を示す総括的な資料は見つけられなかったため、状況は変わっているかもしれませんが。。。)

【ビジネスの裏側】就職難で公認会計士「受験者急減」、金融庁「会計士5万人計画」破綻で世界から疑われる「日本企業の会計監査の質」(1/4ページ) - MSN産経west

 公認会計士試験(国家試験)の受験者が減っている。平成18年度から試験制度が改革され、合格者が大幅に増加したものの、その“受け皿”となる就職先が見つからなかったためだ。25年度の受験者はピークだった22年度の6割程度まで減少。現在、試験合格者の「就職浪人」は少なくなったとはいえ、受験を躊躇(ちゅうちょ)する人は多く、関係者は合格者の質の低下を招きかねないと気をもんでいる。

 法科大学院など他分野の専門職大学院でもそうですが、専門職大学院は国家資格等と密接に結びついている場合もあり、資格取得者の状況などに大きく影響を受けることになります。

(そういえば、企業財務会計士なんてものもありましたね。。。「企業財務会計士」は幻に、振り出しに戻った就職難問題 - IFRS 国際会計基準フォーラム

 「その他の専門職大学院」で、規模感が大きいのはこの2分野です。その他、公共政策、公衆衛生等、知的財産、臨床心理などが、複数の大学に設置されています。臨床心理系専門職大学院は、昨今の臨床心理士国家資格化の動きもあり、どのように対応するのか注目しているところです。

 一大学にのみ設置されている専門職大学院の分野もあります。特に珍しいものを紹介しましょう。

東京大学大学院工学系研究科 原子力専攻(専門職大学院)

 原子力系の専門職大学院です。原子力系の大学では福井大学京都大学などが名前が出てくるところですが、東大専門職大学院でも研究がつづけられています。(個人的には、もう少し取り上げられてもいいかなと思っています。)

兵庫県立大学 University of Hyogo(大学院緑環境景観マネジメント研究科緑環境景観マネジメント専攻)

 緑環境系専門職大学院です。都市や里山、庭園など、自然環境の景観に関する教育研究を行っています。

天使大学大学院 - 助産研究科助産専攻ホーム

 助産について教育研究を行う専門職大学院です。

ファッションビジネス研究科 | BFGU(文化ファッション大学院大学ファッションビジネス研究科)

ビューティビジネス研究科|学校法人メイ・ウシヤマ ハリウッド大学院大学(ハリウッド大学院大学ビューティビジネス研究科ビューティビジネス専攻)

 ファッションや美容に関する専門職大学院です。ともに、専門学校を母体とする学校法人が設置しており、かなりしっかりとした実践教育が行われているという印象があります。

 ここまで、専門職大学院の設置状況を、特に「その他の専門職大学院」について見てきました。これらの専門職大学は、それぞれ個性的な教育研究活動を行っており、ぜひ社会人の学び直しとともに広まっていってほしいですね。ただ、どの専門職大学院も、個性的であるが故の教育カリキュラムや実務家教員の質の問題を抱えていると思います。「理論と実務を架橋する」というのは、なかなか難しいなと改めて感じました。