シンポジウム「大学改革とケイパビリティ」の議事メモ

 東京大学政策ビジョン研究センターと慶應義塾大学SFC研究所が主催する政策シンクネット第1回シンポジウム「大学改革とケイパビリティ/イベント/東京大学政策ビジョン研究センター」に参加してきました。

 総じて、目新しい発言は少なく焦点も散漫になった部分があると感じましたが、色々と考える材料は与えてもらったかなと思っています。Dr. Donald Kennedy元スタンフォード大学長が、体調不良のため来日できず、ビデオ講演になったのは残念でした。パネルディスカッションに対する彼のコメントが聞きたかったです。

 一部分だけですが、私の印象に残った発言を以下に記載します。なお、正確に発言を書き取った訳ではなく、内容は全て私の私見が加わっている可能性がある点に留意願います。(聞き取りにくかった部分もあるため、正確性はあまり高くないという自己評価です。。。)

開会挨拶:松本 東京大学理事・副学長
  • 大学にとって特に重要なのは、各分野の理論体系やエビデンスに基づいた中で、政策の選択肢を掲示していくことだと考えている。政策の選択肢を提示する課題とは大学改革や人材育成である。そのテーマで今回のシンポジウムを開催する。
  • シンクネット構想の説明:城山 東京大学政策ビジョン研究センター長
  • 大学として、社会における政策選択肢の議論をどのように行うのかということを考えている。大学が特定の政策を押すのかという反論がある恐れもあるが、選択肢の幅を広めることが重要。最終的に何を選択するのかは、別の問題。
  • 社会課題の可視化のプロセスが重要。大学も社会の窓である。社会課題における課題設定をしていくことが大学の重要な役割。
  • 大学の社会における役割を議論するのが本シンポジウムの趣旨。幅広く役割があると思うが、なにが重要なのかを整理したい。
基調講演:Dr. Donald Kennedy元スタンフォード大学

※バイドール法や利益相反に関する話が多かったです。本件はアカデミック・キャピタリズムを超えて アメリカの大学と科学研究の現在に詳しく書かれています。

  • 大きな変革が日本の国立大学制度に起こっているが、どの国にもおなじような状況が生じている。
  • 国と大学との関係は新たな問題が生じている。例えば、研究倫理や研究助成など。国からの研究助成の代償として、大学は統制を持ちつつ研究を進めないといけない。
  • 教職員は学生に対する良きメンターでなければならない。そのためには、共感が必要である。学生に対し、どのようなことが期待されているのか、明確に提示できなければならない。
  • 経済界も大学に対して概して批判的である。しかし、新たなガバナンスのパターンを決めていくために、その批判は重要なポイントである。
  • アメリカの私立の大学は、公共目的を達成しようと判断されているため、州から権限を与えられている。カリフォルニア州には公立大学も私立大学もあるが、公立と私立は共存していることに価値がある。競争しているところもあるし、済み分けているところもある。カリフォルニア州に2種類の大学があることで、州政府は多大な恩恵を受けている。日本では私立と国公立の違いをどう捉えるのか。
  • 日本の大学について。日本は科学技術の適応を得意としており、政府の助成の基で研究機関が出来上がってきているという印象。スタンフォード大学シリコンバレーとの関係が参考になるかもしれない。両者が協同し、デザイン・スクールという新たな取組を行っている。
  • 大学はどのように社会から見られているのか。社会に出るタイミングに向けて学生を準備させているのか。イギリスでは、社会に出た際に他者とともに仕事が出来るのかということが問われている。大学がどのように扱われるかは、どれだけ一般市民やパトロンに信頼されているかということに左右される。
パネル1:大学改革とケイパビリティ
  • (上山)国立大学の法人化が10年前から始まった。そこからは、幸福な時代は終わり、激流の時代が始まった。過去、アメリカの大学も15-20年ほどかけて大学改革に取り組んできた。その意味では、日本も同じ状況である。
  • (神田)日本の大学は多様性や敏捷性などが不足しているという印象がある。日本の大学は、
  1. 資金面でのディシプリンが弱い。研究費は増加しており、研究費の基金化も併せ、制度的にも優遇してきたところ。成果が出ないというのは、国費投入を続ける際には辛い。モラルハザードも心配。過去に国際競争力を失ったセクターと酷似しているところもある。人口減少など、大学関係者の間で危機感が共有されているとは言えない状況ではないか。
  2. 評価ができていない。各専門分野が細分化され、他専攻等に干渉しない様子は良くない。幅広く目利きをする機能がなくなっている。納税者にアカウンタビリティを示せていない。
  3. 資金やポストが固定化している。資源の最適分布ができない。国際共著論文も低迷している。いろいろ予算は付けてきたが、本体の改革にまで至っていないという印象。成果が出ていないので、年俸制など直接的な手段まで手を付けざるを得ない。
  • (神田)国際化と民間恊働がポイント。民間の目利きで研究成果をスクリーニングすることによる、新たな研究成果の活用を期待している。企業と大学は互いに良くなることができる。研究に関する資金源を多様化することは、セーフティネットの構築に繋がる。
  • (神田)学長のリーダーシップは重要。学内調整コストが高すぎて、学長が疲弊している。学長室に経営に強い実務家も必要。大学経営は学長が行い、教授会は教育研究の質強化に努めればよい。
  • (神田)パトロンに対して、大学の取組をどのように説明をしていくのか。学問の自由を守るためにも、大学は強く生まれ変わる必要がある。日本の大学には、改革の余地があり、つまり世界と戦っていける余地がある。
  • (北山)産学連携の在り方について。
  1. 企業は自前主義に依る研究開発を基本としており、大学との連携は限定的である。また、大学側も、ビジネス感度低く学術研究を行っている。アメリカやドイツでは、大学の知見を実業に活かしているが、日本は企業大学ともまだまだ十分な連携ができていない。
  2. 大学は、たこつぼ的かつ自己満足的な研究活動が多く、分野横断的学際的な研究活動が不足している。沖縄科学技術大学院大学(OIST)では、学際的な研究環境を作るために、施設面など様々な面で、研究者間の交流促進を図っている。文理の学問分野融合を進めれば、イノベーション創出にも繋がる。
  1. 実業を展望した産学連携にパラダイムシフトを図る。大学は産学連携活動の成果を業績評価に加えるなど、産学連携活動をきちんと評価することが大切。産学の人材交流を促進し、大学発ベンチャーが整備される土壌を整える。
  2. 大学のガバナンスを改革する。教育のみではなく、学際的な研究環境を生み出すため、学長のリーダーシップによる学部横断的な組織改編を含めたガバナンスの発揮が大切。
  3. 国家が支援する。他国では国家がイノベーション創出に大きな役割を果たしている。国家の更なるコミットメントも必要。
  • (上山)日本の研究者のコストパフォーマンスは高い。ただ、イノベーションに繋がっているか不明。民間の方が、イノベーションになる種を見つけやすいのではないか。
  • (合田)大学も進化・変化しているところはある。大学評価について、評価システムは20年前から始めたが、その当時は大学を評価できないという共通認識だった。今は、曲がりなりにも、評価を導入することまではこぎ着けた。そこから先は制度論のみでは進めないということだと思っている。国の予算が増える見込みや、大学独自の基金が意味のある金額まで増加する見込みもない。予算獲得等を諦める訳ではないが、熾烈な競争段階になっていることは間違いない。行政としては、単に競争関係にあるということが良いのではなく、競争環境をデザインすることが大切という認識。各大学の長には、単に競争に流されるのではなく、きわめて高度な経営能力が求められている。文部科学省と大学は、信頼関係と競争関係を築くことが大切。
  • (上山)私立大学は、フリーハンドにも関わらず動かないという印象を持っている。国立大学よりも私立大学の方が動かしにくいのではないか。
  • (フロア)グラントの国際化はどのように行うつもりか。
  • (神田)評価がたこつぼ化するのはそのとおり。国際化を見据えると、いつになるかわからないが、いずれは英語の申請書類にシフトするのではないか。
  • (北山)大学では、権限と責任が一致していないことは多々ある。民間企業では細かく全部決まっている。大学はリスク感覚が欠如している。
  • (上山)日本の大学長は、法律上は何でもできるが、実態は何にもできないことがある。
  • (神田)部分最適ではないリソースの最適化を行う際には、トップダウンで行わなければならないことも多いだろう。
パネル2:人材とケイパビリティ
  • (鈴木)トロウの大学モデルの面では、日本はユニバーサルモデル化に遅れを取っている。そのため、産業構造の転換に乗り遅れる結果にも繋がっていると考えられる。博士号取得者割合も、日本は他国に比べると少ない。日本の研究力の弱さにも繋がっているのではないか。文系についても、企業の経営者部長級を見ると、日本は他国に比べ博士号取得者は少ない。他国の閣僚・官僚もPhD保持者が多く、日本の官僚は国際会議でなかなかchairをすることができない。有効な資源配分ができないのは大学だけではなく、日本国も同じ。産業構造の高度化に対する対応も遅れている。この問題は、高卒人材や専門学校などと併せて考えなければならない。
  • (広井)世代間の支援の配分を見直すべき。若い世代への支援が手薄になっている。若い世代のリスク要因が以前に比べ増加している。高度成長期のモデルのまま来ているため、20-30代の対応が不足しており、アンバランスな公的支援状況になっている。
  • (橘)企業の成功にとって一番重要なのは、適材適所+適所適財。日本企業は適財が不足している。適財とは、
  1. 国境を超えて活躍できる人。特に、マインドセットを変えられる人。
  2. 汎用性の高いスキルを持つ起業家的人。渡りの料理人のようなイメージ。インフラが異なっても力を発揮できる人。
  3. 変革のための創造的問題解決能力を持つ人。プロフェショナルとは、スペシャリスト+ジェネラリスト。コアのスキルを持ちながら経営能力を持つ人財。
  • (橘)経済同友会では、大学に対し、留学生の増加やTOEFLの導入、経営者の経験を活かす教育などを望んでいる。
  • (松本)「大学の実力調査」における「実力」とは、学生の可能性を引き出せること。学長と社会に対し「大学は社会の期待に答えているか」という問いをしたところ、真逆の答えになった。社会から見れば、大学は社会の期待に応えていない。一方、入学させた学生に対し、しっかり力を付けて卒業させている大学はある。社会の「目」が曇っているのか?大学の発進力に問題があるのか?社会は偏差値や知名度で大学を判断しており、社会の評価は大学の教育力とは関係がないとも言える。大学の発信力も下手すぎる。大学名を隠したらパンフレットなどの違いがわからない。大学改革はどこに向かうのか。
  • (鈴木)受験勉強をまじめにやっている者に対するスキル教育とそうではない者に対するスキル教育に分ける必要がある。後者は、基礎学力を確保する必要がある。前者は、PBLを重視したい。実技実験実習をやっている教育はそんなに悪くないが、ゼミ等がない文系教育はうまくいっていない。少人数教育でスキルが磨かれることになるが、うまく回すためにはコストがかかる。
  • (広井)最近の学生は昔よりも物事をよく考えているという印象。むしろ二極化しているかも。大学がそういった学生に応えられていないのではないか。
  • (松本)今のような18歳人口のためだけの大学であれば、もはや未来はない。どんな年齢の人でも出入りできるようになれば、大学はダイナミックに変わる。大人が授業に出るようになれば、キャンパスが変わる。大学がもっと開かれた場にできれば良い。
  • (城山)課題設定として2つ考えている。一つは、大学を多様性のプラットフォームとしてどのように作っていくのかということ。もう一つは、他国との大学進学率との違いがどのような意味を持つのか考えるということ。
閉会挨拶:國領 慶応義塾大学常任理事
  • 日本における政策の決まり方が、感覚的な議論になりがちで、深い議論にはなっていないのではないかという問題意識があった。議論を起こし、政策に使ってもらえるようなものが世の中に提供できるような成果を出していきたいということもあり、今日のシンポジウムを行った。大学人だけ分かる形ではなく、より広い政策決定に携わる者に提示できるアウトプットを出していきたい。