The University of PeopleのAccreditationに思う 〜学費無料のオンライン大学〜

大学通信教育設置基準の改正に思う 〜後続は現れるのか〜 - 大学職員の書き散らかしBLOG

 先日、大学通信教育設置基準の改正について、弊BLOG記事でも触れました。それに関連して、アメリカで興味深い動向がありましたので、紹介します。

http://www.nytimes.com/2014/02/14/education/free-online-university-receives-accreditation-in-time-for-graduating-class-of-7.html

Just in time for its first graduates, the University of the People, a tuition-free four-year-old online institution built to reach underserved students around the world, announced Thursday that it had received accreditation. 

 非営利で学費無料のオンライン大学であるthe University of People(以下、「UoP」と言う。)がアメリカの大学団体の認定を得たという内容です。UoPは

University of the People accredited

University of the People (UoPeople) is the world's first non-profit, tuition- free, accredited online university dedicated to opening the gates to higher education for all individuals otherwise constrained.

のとおり、非営利・学費無料の大学であり、高等教育の門戸を広く世界中に開くというミッションの下、142カ国700人の学生がビジネスアドミニストレーションとコンピューターサイエンスの2つの学士課程プログラムにて学んでいます。NYTの記事によれば、入試検定料に$100、入学料に$0〜$50発生する以外は無料だということであり、それらは他大学教員のボランティアにより担保されているようです。2つのプログラムのプログラム長(学部長)も、ニューヨーク大学コロンビア大学のボランティアと記載されています。ガーディアン紙には、もう少し詳しい記事が出ています。

An online university - with no fees | Education | The Guardian

 さて、その大学が認定を得たとはどういう意味を持つのでしょうか。記事の内容に入る前に、アメリカの大学設置等制度について、簡単に触れておきましょう。

大学評価・学位授与機構学術機関リポジトリ

アメリカの大学・学位制度(溝上ら,学位と大学,(1),233-263 (2010-07))

 高等教育に限らず,アメリカの教育を管轄する権利はアメリカ合衆国憲法によって州に留保されている(合衆国憲法修正10条)  。したがって高等教育機関の設立や認可の方法は州により大きく異なっている。しかし,就学年限や課程等に大きな違いはみられない。一般的に学位授与権を有する機関が,いわゆる「大学」として位置づけられるが,同時にアクレディテーション団体から適格認定されていない機関は,自ら「大学」を名乗り,学位を授与していても,社会的には「大学」としては認知されていない。

 非常に簡単に言うと、アメリカでは大学設置の権限は州政府が有しておりその基準も州により異なりますが、質保証として各地及び各専門分野別アクレディテーション団体の適格認定が大きな役割を果たしているということです。上記論文中から抜粋すると、

  •  このようにして,設置された大学は,アクレディテーション団体から適格認定されるまでは,非認定機関(unaccredited institution)として扱われ,通商・消費問題省の管轄におかれる。(P241)
  •  学位授与権の認可は原則として州が行う。また州によっては地域アクレディテーションを受ける準備があることが州による認可の前提条件であったり(ロード・アイランド州),あるいは州の認可を受けた地域アクレディテーション団体による適格認定が州による認可を代替するもの(モンタナ州)であったりする場合もある。(P246)
  •  また,すべての州で法的拘束力があるわけではないが,授与する学位の正統性を担保するためには,新たなレベルでの学位の授与は州と同様に地域アクレディテーション団体に申告し,適切と認められなければならない場合もある。(P247)
  •  これ以外に教育機関が独自に設立して相互にメンバーシップを承認することによって質の維持(あるいは向上)にかかわる役割を担っているアクレディテーション団体は,160年余の歴史を持っている。表4「アメリカのアクレディテーションの種別」に示したように,このうち機関規模では地域アクレディテーション団体と全国アクレディテーション団体が,または専門分野ごとには専門アクレディテーション団体が教育と研究を内容面と環境面から適格認定して学位の質保証につなげている。(P251)

 このアメリカのアクレディテーション制度は、日本の認証評価制度とは比べものにならないほど複雑性多様性に富んでおり、とても一言で表現できません。上記論文や(独)大学評価・学位授与機構が公表している「諸外国の高等教育分野における質保証システムの概要(アメリカ合衆国)」などに詳しく書かれています。

大学評価・学位授与機構 | 世界の高等教育に関する質保証機関

 なお、適格認定が遅れた場合、以下のように記事になることがあります。記事中では、アメリカにあるHusson UniverisityのThe School of Pharmacyが、開学後5年経過してもFullAccredictationを受けていないと記されています。(コメント欄ではいろいろやりとりされていますが。。。)

Five years after it opened, Husson University pharmacy school still seeking full accreditation — Bangor — Bangor Daily News — BDN Maine

The Husson University School of Pharmacy is in its fifth year of operation and is still working to meet the national standards necessary for the school to become fully accredited.

 冒頭記事に戻ります。このようなアクレディテーション制度により、UoPに適格認定が与えられ、名実共に「大学」として認められたということです。なお、適格認定を与えたのは、アクレディテーションカウンシルや連邦政府に認可されたDistance Education and Training Council Accrediting Commissionという職業関連アクレディテーション団体であり、特に遠隔教育、通信教育プログラムについて審査を行っています。同団体から認定を得たことは、UoPのHPにも掲載されています。

Accreditation

University of the People has been accredited by the Distance Education and Training Council (DETC) since February 2014.

 HPでは、これにより、非営利で学費無料のオンライン大学として世界で初めて適格認定を得たとしています。つまり、無料のオンライン大学であり、その教育により授与する学位(学士)の正当性が保証されていることになります。

 なお、アメリカには、学費無料のCollegeがいくつかあるようです。

Eight Tuition-Free Colleges - WSJ.com

1. College of the Ozarks

2. Deep Springs College

3. UC Irvine School of Law, Class of '12

4. Berea College

5. Olin College of Engineering

6. Cooper Union

7. Curtis Institute of Music

8. Alice Lloyd College

 College of the OzarksやBerea Collegeなどは、キャンパス内での労働により学費が無料になるという、ちょっと想像できない制度になっているようです。これ以外にも、日本の省庁大学校に当たるU.S. Academies(U.S. Military Academy,U.S. Air Force Academy,U.S. Naval Academy,U.S. Coast Guard Academy,U.S. Merchant Marine Academy)は学費無料のようです。

ついに降参:アメリカ唯一の「無料」私立大学、来年から有料に : アゴラ - ライブドアブログ

 ニューヨーク大学やグリニッチ・ビレッジの直ぐ東側にある、この小さな大学は、1879年の開校以来、学生から授業料を徴収した事がない事で、米国では良く知られた大学である。残念な事に、先日「2014年度からは授業料無料制度は継続せず、年間2万ドルの授業料を徴収する」と言う発表があった。これで、150年近く続いた伝統もこの世から消えることになる。

 6.にあるCooper Unionについては、詳しい記事が出ていました。これまで学費無料だったのですが、2014年度から学費を徴収するようにしたようです。検索すると詳しく書かれたNYTの記事がいくつか見つかりましたので、地元にとってはそれなりのニュースバリューを持った出来事だったのでしょうか。

http://www.nytimes.com/2013/02/16/nyregion/cooper-unions-tradition-of-free-tuition-may-be-near-end.html

 無料の大学講座と言えば、MOOCsが最近の話題であり、弊BLOGでも取り上げたことがあります。

MOOCsの修了率に思う 〜学びの選択性〜 - 大学職員の書き散らかしBLOG

JMOOCSにおもう - 大学職員の書き散らかしBLOG

 MOOCsとUoPの違いについて、UoPのHPでは以下のとおり説明しています。

FAQ University of the People

Q:How does the educational model of UoPeople differ from the MOOCs?

A:(略)MOOCS do not currently offer the opportunity to earn a full associate or bachelor degree, something which is an important part of UoPeople's educational model and its mission to open the gates of higher education globally. UoPeople offers full structured degree programs complete with Arts & Sciences courses to complement chosen programs of focus, while MOOCs are stand-alone courses that are sporadically selected by students.

 学位を授与する点がMOOCsと異なるという記述があります。MOOCsは基本的に1講座単位ですが、UoPはあくまで学位プログラムに沿ったオンライン教育を提供するということですね。

 今はまだ他大学との単位互換ができない等十分に整備できていない部分があるようですが、将来的には他大学との単位互換や修士課程の設置などを見込んでいるようです。財務状況等詳しくチェックしたわけではありませんが、このようなモデルが持続可能なのか、後続は現れるのかなど興味は尽きません。