島根大学の「市民パスポート会員」制度に思う 〜象牙の塔から象牙の広場への変容〜

市民向け講義受け放題の「パスポート」…島根大 : ニュース : 教育 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

 島根大は2014年度から、市民が同大学の授業を受けたり、付属図書館などの施設を利用したりできる「市民パスポート会員」制度を始める。同大学によると、こうした制度は国立大では初めてといい、「生涯学習の場としてぜひ活用を」と、会員を募っている。

 島根大学が市民に対し大学の授業・施設等を開放する制度を開始するというニュースが出ていました。なお、島根大学のHPにて同情報を確認することはできませんでした。

 島根大学は、島根県に位置する5学部7研究科(医学部含む)を2キャンパスに有する中規模総合大学です。最近では、法科大学院の募集停止のニュースが話題になりましたね。COC事業にも「課題解決型教育(PBL)による地域協創型人材養成」事業として採択されています。

公開授業 | 島根大学生涯教育推進センター

 島根大学では、一般市民の方々が、学生とともに大学の講義を受講できるよう一部の授業を開放します。これは、本学が生涯学習に対する社会的ニーズに応え、地域と大学との連携をますます深めていくために行う社会貢献の一環として、本学が開講している正規の授業を「公開授業」として地域の方々へ開放するものです。

 島根大学生涯教育推進センターHPによれば、これまでも「公開授業」として一般市民へ一部講義の開放を行っていたようです。ただ、

公開授業は、どの科目授業を受講されても、一律同額で、試聴講義と認定試験を除く14回の講義講習料として、7,000円となっています。

と、各授業あたり7,000円が必要でした。

 今回、市民パスポートを利用すれば、年会費5,000円で対象となっているどの授業でも聴講できるようですね。また、記事中にある

インターネットを使って家庭で受講できるコースもある。

というのも気になるところです。

 国立大学における授業開放は、基本的には授業1科目あたりの費用負担が発生する場合が多いと思っています。たとえば、信州大学では、市民開放授業を受講する場合、1科目9,400円の費用負担が発生します。

市民開放授業とは|信州大学 市民開放授業

 そのような形ではなく、ある意味で「定額制」のような形にした島根大学は、国立大学の中では先進的だという印象を受けました。各国立大学予算の少なくとも4割程度以上は、運営費交付金つまり税金で賄われているわけですし、(開放の範囲・程度やゾーニングはあるとは言え)国民に対して広く開放するというのは、基本的には原則なのかなと思います。

 そもそも、各大学では、学内であってもなかなかおおっぴらに講義開放と言えない状況もあるでしょう。まだまだごく一部だとはいえ、学外の者にも比較的ハードル低く授業を公開するという取り組みは、とても価値があると考えます。よほど協力的な教員がいたのでしょうか。また、今後どのように開放授業を増やしていくのかも気になります。

 冒頭記事中、

 大学憲章に「地域との共生」を掲げる島根大は島根県、松江、雲南など5市と連携し、様々な地域テーマを市民とともに考える課題解決型の授業を積極的に導入。一部の講義の公開も進めており、昨年12月に小林祥泰(しょうたい)学長が「さらに市民の参画を進めたい」と新制度の設置を決めた。

とあるとおり、COC事業をさらに発展させるためという意味合いが強いようです。特に、島根県は県内に大学が2つ(島根大学島根県立大学)しかありませんし、地域における生涯学習の推進ということは、島根大学にとって他国立大学よりも重い意味を持つのかもしれません。学長のリーダーシップがうまく働いた形なのでしょうが、本制度について学内でどのような議論があったのでしょうか。また、講義形式ならともなく、最近流行りのグループワークが含まれる授業はどのように対応するのか、市民からの授業評価は行われるのか、興味が尽きないところです。

 これまで大学は「象牙の塔」と言われてきました。延べ床面積に比べ入り口が狭く(少なく)、外から(あるいは少し入っただけ)では、まったく中身が見えない「塔」が、大学を揶揄する言葉として使われてきたのだろうと思います。そうではなく、「象牙」という学問の気質品格を保ちながらも、見通しのよい開かれた形がこれからの大学に求められるのだろうと感じています。いわば、「アテナイの学堂 - Wikipediaのような、「象牙の塔」から「象牙の広場」への変容と言ったところでしょう。