大学での起業家教育に思う ~学内リソースの有効活用~

日本にスタートアップブームがやってきた | The New York Times | 東洋経済オンライン | 新世代リーダーのためのビジネスサイト

 日本のトップクラスの大学は長い間、成功とはすなわち一流企業や中央官庁への就職だと定義してきた。それが今や学内にインキュベーターベンチャーファンドを設ける大学もあれば、起業を推進するためのカリキュラムを考えている大学まである。(中略)一方、日本でスタートアップが根付くにはまだ時間がかかるという意見もある。起業学を専門とする武蔵大学教授の高橋徳行によると、社会の起業家に対する許容度を調べた国際比較調査で、日本は欧米やアジアの主要経済国のなかで最低の水準にある。(中略)東大のベンチャー支援施設「東京大学アントレプレナープラザ」には25社が入居している。早稲田大学も2013年からスタートアップ支援に乗り出し、すでに5社が起業した。その程度では少ないと感じられるかもしれない。しかし、東大で経営学を教える各務茂夫は「こういうことが起きているということ自体、日本にとって大きなチャンスになる」と言う。

 大学発の起業に関する記事がありました。記事中にはユーグレナやグノシーの名前があります。両者とも東京大学の卒業生が起こしたベンチャー企業です。ベンチャーとしては比較的有名だと思いますので、名前を聞いたことがある方もいるかもしれません。

http:// http://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/edu.html

 大学での起業家教育も少しずつ浸透してきたかな、と思っています。経済産業省の「産学連携人材育成事業(起業家人材育成事業)報告書(平成22年3月)」では、2010年に企業家教育のある大学・大学院は、国立大学で48校、公立大学で22校、私立大学で191校あります(「企業家教育のある」とは、恐らく、関連する講義等が開講されている大学のことでしょう)。また、起業家教育の講座数も、過去10年間で3.5倍以上になっています。起業家教育に関する情報サイトもあり、事例や教材等が公表されています。

起業家教育ひろば

小樽商科大学大学院商学研究科(OBS) | 小樽商科大学ビジネススクール

 国立大学で起業家教育と言えば、小樽商科大学大学院商学研究科アントレプレナーシップ専攻が真っ先に思い浮かびます。アントレプレナーシップ、つまり企業家精神の名の下に、実務と理論を架橋した専門職大学院として良い教育を行っているという印象です。小樽商科大学の事務職員も入学していると聞いたことがあります。また、九州大学にはロバート・ファン/アントレプレナーシップ・センターがあり、学生に対し先進的なアントレプレナーシップ関連教育が提供されているようです。

 そんな起業家教育ですが、学問的には経営学の一分野であるという理解です。起業家教育単体で学士の学位を与えるというのはあまりイメージがわかず、学位プログラムのオプション的なコース対応や専門職大学院(所謂ビジネススクール)での対応が良いのではないか、と個人的には考えています。

The Innovative and Entrepreneurial University

 アメリカではどうなのでしょうか。2013年に出されたアメリカ商務省イノベーション・起業室の報告書を大まかに和訳したサイトがありました。各大学の特徴的な取組が紹介されていますが、特に気になったのは、イリノイ大学特許クリニックの「法学を学ぶ学生に対し、学生発明家が行った発明の特許申請書を作成する機会を提供するもの」というものです。報告書本文では、以下のとおり記載があります。

University  of  Illinois’  Patent  Clinic  provides  law  students  the  opportunity  to  draft  patent applications for student inventors. Student-innovators with potentially patentable inventions are referred to the Patent Clinic by the Technology Entrepreneur Center (TEC) at the College of Engineering. The Patent Clinic then reviews the innovations, searches for relevant prior art, and selects one innovation for each law student. Each law student then proceeds to work with the inventors to draft a patent application on their innovation in consultation with an instructor.
(拙意訳)
 イリノイ大学特許クリニックは、法学を学ぶ学生に対し、学生の特許出願書類を起草する機会を提供しています。特許クリニックは、エンジニアリング・カレッジの技術起業センター(TEC)の紹介により、特許出願できる可能性がある発明をした学生を把握します。その後、特許クリニックは当該発明内容を検討し、先行技術を調査し、各発明につき1人の法学学生を割り当てます。その後、各法学学生は、インストラクターと相談しながら、特許出願書類の起草に向けて発明者である学生とともに行動します。

 学内のリソースを有効活用しながら、なおかつそれが教育活動に関連している良い事例だなという印象を持ちました。

 特に、学内のリソースを活用することについては、もっと気を配った方が良いなと常々考えています。例えば、規程の改正等で困ったことがあれば、学内で行政法等を研究している教員に相談するなど、各分野の専門家である教員の力を大学運営にちょっとだけ貸してもらうことはできるのではないでしょうか。もちろん、協力して割を食ったということにならないよう、範囲を限定して簡単に聞いてみるなど、配慮は必要ですが。職員にとっても、気軽に意見が聞ける教員というのは重要な存在であり、そのような者を少しずつ増やしていくことは大切かなとぼんやり考えています。