国立大学の収入割合に思う 〜収入構造の黄金比〜

【12月号掲載】14年度入学生 学費増 | 関西大学タイムス

 学費は文系学部生で4年間4万円、理系学部生は6万円増加する。現在関大の収入はおよそ47%を学費が占めている。関大は毎年「3%の支出抑制」を目標にして、光熱費などを節約し、経費削減に励んでいる。しかし、今年9月末の理事会で「現在の教育研究費や学内環境の整備に対し、今年度の収入と支出のバランスを保つのは難しい」とし、大学を運営していく上での経費の不足分を学費で補うこととなった。

 関西大学の学費値上げに関する記事が出ていました。記事中にも「断腸の思いだった」とあるとおり、かなりの検討を重ねた結果なのでしょう。しかし、収入の47%が学費とは、私学にしてはだいぶ少ない割合ではないでしょうか。概ね、私立大学収入の8割程度が学費等学生納付金収入だと認識しています。

 翻って、国立大学はどうなのか、調べてみました。

 各国立大学法人がwebにて公開している「平成24年度決算報告書」を基に、収入決算額のうち、交付金等収入、附属病院収入、学生納付金収入、産官学収入、その他収入に分けた金額を示したのが表1です。収入単位は百万円です。

 なお、交付金等収入は「運営費交付金」から「国立大学財務・経営センター施設費交付金」までの和、附属病院収入は「附属病院収入」、学生納付金収入は「授業料、入学料及び検定料収入」、産官学収入は「産学連携等研究収入及び寄附金収入等」、その他収入はこれら以外の和で算出しています。また、web上から平成24年度決算報告書が見つけられなかった法人はその旨明記してあります。

 各法人は、国立大学法人評価委員会が定める「国立大学法人の財務分析上の分類」に従い、並べています。

分類法人名交付金等収入附属病院収入学生納付金収入産官学収入その他収入
A 北海道大学 33600 25800 9700 11500 7200
A 東北大学 102862 33941 9657 22284 18024
A 筑波大学 54208 22546 9274 8880 2888
A 千葉大学 20342 28434 8262 4376 1282
A 東京大学 127482 44018 14831 47000 49606
A 新潟大学 28228 23207 7039 5949 3616
A 名古屋大学 44485 32014 9058 12723 1455
A 京都大学 87751 32199 12514 31604 38056
A 大阪大学 67244 34234 13007 23491 22831
A 神戸大学 25565 28008 9461 7979 3109
A 岡山大学 23248 28190 7420 4499 5948
A 広島大学 31733 26787 8599 4767 4107
A 九州大学 54044 36285 10633 18866 4615
B 室蘭工業大学 3725 0 1811 347 72
B 帯広畜産大学 3204 0 722 539 338
B 北見工業大学 2671 0 1213 238 70
B 東京農工大 9111 0 3391 2296 496
B 東京工業大学 27224 0 5587 10934 1102
B 東京海洋大学 6332 0 1582 1288 268
B 電気通信大学 6629 0 2810 1572 286
B 長岡技術科学大学 4707 0 1369 831 414
B 名古屋工業大学 5191 0 3505 2121 192
B 豊橋技術科学大学 4780 0 1223 1615 255
B 京都工芸繊維大学 5158 0 2234 575 78
B 九州工業大学 5841 0 3452 986 263
B 鹿屋体育大学 1589 0 513 62 79
C 小樽商科大学 1233 0 1322 49 106
C 福島大学 4492 0 2352 505 158
C 筑波技術大学 2582 103 220 207 59
C 東京外国語大学 3599 0 2259 266 112
C 一橋大学 6206 0 3460 1118 786
C 滋賀大学 3584 0 2168 91 81
C 東京藝術大学 平成24年度決算報告書なし        
D 旭川医科大学 6782 18087 660 1027 873
D 東京医科歯科大学 16705 30584 1590 4198 1698
D 浜松医科大学 6147 17050 651 1615 2905
D 滋賀医科大学 7169 18900 636 1318 621
E 北海道教育大学 6200 0 3300 100 700
E 宮城教育大学 3290 0 908 96 34
E 東京学芸大学 8496 0 3588 402 292
E 上越教育大学 3344 0 851 194 146
E 愛知教育大学 5663 0 2352 156 421
E 京都教育大学 4699 0 1160 169 72
E 大阪教育大学 6726 0 2760 377 140
E 兵庫教育大学 4197 0 975 67 178
E 奈良教育大学 2705 0 787 31 73
E 鳴門教育大学 3800 0 674 125 106
E 福岡教育大学 3792 0 1771 83 221
F 総合研究大学院大学 2261 0 238 90 9
F 奈良先端科学技術大学院大学 6769 0 603 1613 135
F 政策研究大学院大学 平成24年度決算報告書なし        
F 北陸先端科学技術大学院大学 平成24年度決算報告書なし        
G 弘前大学 14212 17371 3866 2423 1291
G 秋田大学 12712 15188 2837 1343 3055
G 山形大学 19061 16027 4921 2880 2257
G 群馬大学 14784 23500 3698 2265 379
G 山梨大学 13916 15060 2800 2226 1872
G 信州大学 19312 21288 6503 2935 2049
G 富山大学 16169 15499 5270 1996 3444
G 金沢大学 23017 23379 5848 4505 709
G 福井大学 12495 14458 2892 1707 2234
G 岐阜大学 15309 17913 4193 2518 1001
G 三重大学 14566 18168 4266 2261 1419
G 鳥取大学 12855 18981 3638 1660 1708
G 島根大学 13529 12648 3452 1261 6241
G 山口大学 14797 19676 6397 2268 949
G 徳島大学 15812 19806 4212 2783 779
G 香川大学 11352 14803 3970 1564 1670
G 愛媛大学 17887 17940 5445 2980 1389
G 高知大学 12619 15138 3146 1514 1492
G 佐賀大学 10964 16862 4334 1990 2439
G 長崎大学 18939 23566 4974 3159 1648
G 熊本大学 17441 21713 6244 3708 2454
G 宮崎大学 12310 16156 3191 1251 4306
G 大分大学 12250 15856 3266 1275 4089
G 鹿児島大学 18906 18126 5978 2284 4349
G 琉球大学 14328 15172 4285 1523 661
H 岩手大学 10165 0 3352 1019 704
H 宇都宮大学 6880 0 2878 623 274
H 埼玉大学 7719 0 4974 1049 194
H お茶の水女子大学 5141 0 1772 514 179
H 横浜国立大学 9400 0 5822 1518 560
H 静岡大学 11337 0 5748 1252 701
H 奈良女子大学 3885 0 1592 201 124
H 和歌山大学 3947 0 2693 323 100
H 茨城大学 平成24年度決算報告書なし        

 各グループの収入種別毎の平均割合を示したのが表2です。なお、平成24年度は、東日本大震災に伴う交付金や一部国立大学への出資金など、通常よりも収入構造が異なる可能性があります。

 交付金等収入附属病院収入学生納付金収入産官学収入その他収入
A 42.4% 29.1% 9.3% 11.4% 7.9%
B 61.6% 0.0% 23.1% 12.3% 3.0%
C 59.8% 0.5% 31.6% 5.1% 3.0%
D 25.5% 62.0% 2.5% 5.4% 4.7%
E 71.3% 0.0% 23.5% 2.3% 2.9%
F 80.6% 0.0% 7.9% 10.6% 0.9%
G 36.3% 42.7% 10.4% 5.3% 5.4%
H 61.4% 0.0% 29.7% 6.3% 2.7%

国立大学法人及び大学共同利用機関法人の各年度終了時の評価における財務情報の活用について:文部科学省

 Aグループ:学生収容定員1万人以上、学部等数概ね10学部以上の国立大学法人(学群、学類制などの場合は、学生収容定員のみ)

 Bグループ:医科系学部を有さず、学生収容定員に占める理工系学生数が文科系学生数の概ね2倍を上回る国立大学法人

 Cグループ:医科系学部を有さず、学生収容定員に占める文科系学生数が理工系学生数の概ね2倍を上回る国立大学法人

 Dグループ:医科系学部のみで構成される国立大学法人

 Eグループ:教育系学部のみで構成される国立大学法人

 Fグループ:大学院のみで構成される国立大学法人

 Gグループ:医科系学部その他の学部で構成され、A〜Fのいずれにも属さない国立大学法人

 Hグループ:医科系学部を有さず、A〜Fのいずれにも属さない国立大学法人 

 Dの学生納付金割合は著しく低いですね。病院費用として支出されている収入もあるため一概には言えませんが、医学系単科大学には学費に比べかなり高額の投資が行われていると考えられます。また、医学部を持たない区分において、学生納付金の占める割合が高くなっています。このように一覧表にすると、医学部つまり附属病院の経営状況上の重要性が再認識できますね。

 交付金割合で見ると、教育系単科大学大学院大学が高い割合を示しています。大学院大学は産官学連携が盛んとは言え、その規模感はそれほど大きくなく、収入全体に与える影響は限定的なのでしょう。

 さて、これら割合を基に、ざっくりとした認識を得るため、国立大学法人における収入構造の構成比を考えてみました

 

 交付金等収入附属病院収入学生納付金収入産官学収入・その他収入
大規模総合大学 4 3 1 2
理系大学(医学部なし) 6 0 2 2
文系大学 6 0 3 1
医学系単科大学 3 6 1  
教育系単科大学 7 0 2 1
大学院大学 8 0 1 1
総合大学(医学部あり) 4 4 1 1
総合大学(医学部なし) 6 0 3 1

 この構成比から、国立大学においては学生納付金が少ないのだから主たるステークホルダーは学生よりも国民だ、と言うつもりはありません。ただ、このような情報を、簡単にでもよいので、頭に入れて仕事をした方が、何らかの選択を迫られた際に役に立つかもしれません。すぐに業務に活かせなくとも、大学を取り巻く状況を大局観として把握することは大切だと思いますし、このような情報がすぐに出てくる職員の方が学生や教員等から信頼を得やすいかもしれませんね。