組織運営部会審議まとめ(素案)に思う 〜50年経っても変わらないこと〜

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中央教育審議会大学分科会組織運営部会審議まとめ(素案)に関する意見募集の実施について

 中教審大学分科会組織運営部会審議まとめ(素案)に対する意見募集が開始されました。行政手続き法に基づくパブリックコメントではなく、任意の意見募集ですので、募集期間が12月1日までの約10日間となっている点に注意が必要です。

行政手続法

(意見公募手続)

第三十九条  命令等制定機関は、命令等を定めようとする場合には、当該命令等の案(命令等で定めようとする内容を示すものをいう。以下同じ。)及びこれに関連する資料をあらかじめ公示し、意見(情報を含む。以下同じ。)の提出先及び意見の提出のための期間(以下「意見提出期間」という。)を定めて広く一般の意見を求めなければならない。

2  前項の規定により公示する命令等の案は、具体的かつ明確な内容のものであって、かつ、当該命令等の題名及び当該命令等を定める根拠となる法令の条項が明示されたものでなければならない。

3  第一項の規定により定める意見提出期間は、同項の公示の日から起算して三十日以上でなければならない。

 (素案)の内容については、きっとたくさんの皆さんがお話しされるでしょうから、あまり触れません。今回は教授会に関する歴史的な背景について簡単に記します。

 「教授会」という言葉が初めて法令に現れたのは、明治19年制定の帝国大學令が明治26年に改正された時です。

近代デジタルライブラリー - 東京帝国大学一覧. 明治44-45年

第14條 各分科大學ニ教授會ヲ設ケ教授ヲ以テ會員トス

第15條 教授會ハ左ノ事項ヲ審議ス

第1 分科大學ノ學科課程ニ関スル件

第2 學生試験ノ件

第3 學位授興資格ノ審査

第4 其ノ他文部大臣又ハ帝國大學總長ヨリ諮詢ノ件

 これ以降、大正11年の官立大学官制や昭和22年の学校教育法、昭和24年の教育公務員特例法、平成11年の国立学校設置法など、各法令において教授会に関する規程が定められています。この辺りの変遷は、文部科学省の資料に詳しいです。

組織運営部会(第4回) 配付資料:文部科学省

 なお、法人化に伴い、国立大学は国立学校設置法の適用除外となりましたが、同法に書かれた教授会の役割は継承されているようです。

第156回通常国会 参議院 文教科学委員会(平成15年5月29日)

(答弁:遠藤文部科学省高等教育局長)

 現在、教授会につきましては、国立大学については、国立学校設置法におきまして、学部又は研究科の教育課程の編成に関する事項、学生の入学、卒業又は課程の修了その他その在籍に関する事項及び学位の授与に関する事項、その他当該教授会を置く組織の教育又は研究に関する重要事項を審議すると、こういう規定をされておるわけでございますが、法人化後も引き続きこうした役割を担うというふうに理解をしておるわけでございます。

 そんな教授会ですが、何と昭和38年に出された答申でその役割等についてすでに批判されています。

大学教育の改善について(答申) (第19回答申(昭和38年1月28日)):文部科学省

 現在の学内管理体制は、必ずしも分明でない。よつて、大学の学内管理機関の基本体系としては、全学の総括的な責任者を学長、学部の責任者を学部長とし、評議会は全学の、教授会は学部の重要事項をそれぞれ審議する機関とし、それらの職務権限について学長、学部長との関係を明らかにすべきである。

(4) 教授会

 教授会は、学部における教育研究について管理運営上の重要な機関である。現行の制度においては、その職務権限、構成、設置、学部長との関係等が明確でない。よつて、そのあり方を次のようにすべきである。

ア 職務権限

 現在、教授会の審議事項に関する規定は、必ずしも明らかでなく、大学によつては、本来教授会の審議事項とは考えられないような事項をも審議している場合もある。教授会は、教育研究の計画、学生の教育指導および学業評価、学部長・教員の候補者の選出、学位・称号に関する事項等について審議にあたるものとすべきである。

 50年前に既に現在と同様の指摘がなされている訳です。つまり、法令に明文化しても、法人化しても、50年経っても、状況は変わっていないわけです。この事実を知った時はかなり愕然としました。50年経って変えられなかったことを、どのように変えようと言うのでしょうか。何と言うか、もう出口が見えません。

 (素案)の内容は、教授会の権限を弱めて学長のリーダーシップを発揮させましょうという、事前に報道等があったとおりの内容になっています。ただ、私の周りの印象では、教授会の権限はそんなに言うほどないのではないか、教授会の権限が強いから物事が進まないというのは短絡的すぎるのではないかと思っています。

 どちらかと言えば、法人化以降の複雑化した大学経営・大学運営に多くの学長が対応しきれていないのではないか、法人化以前の既存の学長イメージを引きずっているのは他ならぬ学長自身なのではないかと感じることがあります。その意味で、(素案)では学長の資質に対しあまり触れられていないことは大変残念です。是非、中央教育審議会には、「理想の学長行動モデル」を示してもらいたいと思っています。

大学設置基準

(学長の資格)

第十三条の二  学長となることのできる者は、人格が高潔で、学識が優れ、かつ、大学運営に関し識見を有すると認められる者とする。

  さらに言うと、本意見募集を行っていることをHP上に全く明記していない文部科学省も、如何なものかと思っています。