会計検査院に思う ~経費執行の「最後の砦」~

平成25年度「公的研究費の管理・監査に関する研修会」資料:文部科学省

 研究機関における公的研究費の運営、管理について、モニタリング責任者や運営、管理の責任者が担うべき役割や、今後機関に対して要請させて頂く事項を説明。

  以前、記事「研究費の不正使用防止に思う」でも書きましたが、種々の事件もあり、研究費の使用に対するルールが厳しくなっています。まさに、スキャンダル対応と言ったところでしょうか。一方で、繰り越し手続きの簡素化や調整金の導入など、使用しやすい枠組みへの変化も生じています。そんな中、公的研究費に限らず、経費執行についてその用途等を拒否された際、「会計検査院の検査に対応できない」旨のことを言われた方もいるのではないでしょうか。今回はそんな会計検査院についてのお話しです。

会計検査院 Board of Audit of Japan

日本国憲法 第90条
 国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。会計検査院の組織及び権限は、法律でこれを定める。
会計検査院法 第1条
 会計検査院は、内閣に対し独立の地位を有する。

 根拠法から確認しましょう。会計検査院は憲法にその明記があり内閣から独立した組織であることがわかります。つまり、ひどく簡単に言うと、単独で他省庁に手が出せるということです。

 そんな会計検査院はどんな視点で検査を行っているのでしょうか。

会計検査院法 第20条第3項
    会計検査院は、正確性、合規性、経済性、効率性及び有効性の観点その他会計検査上必要な観点から検査を行うものとする。

 会計検査とは? | 会計検査院 Board of Audit of Japan

「正確性」の観点
    検査対象機関の決算の表示が予算執行など財務の状況を正確に表現しているかという観点です。
「合規性」の観点
    検査対象機関の会計経理が予算や法律、政令等に従って適正に処理されているかという観点です。
「経済性」の観点
    検査対象機関の事務・事業の遂行及び予算の執行がより少ない費用で実施できないかという観点です。
「効率性」の観点
    検査対象機関の業務の実施に際し、同じ費用でより大きな成果が得られないか、あるいは費用との対比で最大限の成果を得ているかという観点です。
「有効性」の観点
    検査対象機関の事務・事業の遂行及び予算の執行の結果が、所期の目的を達成しているか、また、効果を上げているかという観点です。 

  5つの観点から検査を行っているようです。ただし、これらは方針であり、実際の検査結果には、その観点がどの程度満たされていたのか、どの程度欠損していたのかということは書かれていません。

最新の検査報告 | 検査結果 | 会計検査院 Board of Audit of Japan

 検査結果はどうかというと、国立大学については「保有している土地・建物の処分及び有効活用」や「教員等個人宛て寄附金の経理」などについて、指摘があります。

 そういえば、万城目学の「プリンセス・トヨトミ」は、会計検査院の職員が主役でしたね。

プリンセス・トヨトミ - Wikipedia

 冒頭に記載した繰り越し手続きの簡素化などは枠組みの緩和であり、実際の使用方法や使途は会計検査院も検査を行います。研究費の使いやすさという観点からは会計検査院の意向も重要なのですが、会計検査院が検査コストと成果の関係についてどのように考えているのか、また教育研究業務と会計検査の関係が述べられた先行研究などを見つけることができませんでした。この間行われたScienceTalksなど、研究費使用について議論する場はちょこちょことできていると思うのですが、それらに会計検査院の者が出席したという話は聞いたことがありません。独立した組織のため、外部の声等が反映されにくくなっていることも考えられます。

 もちろん、会計検査は憲法に書かれるほど重要であり、結果として不正やムダを発見したことも数多くあります。しかし、公的資金によるコストと成果の関係を考えるときには避けて通れない「最後の砦」であることも間違いなく、どのような意向を持ちどのような改善を図っているのかはとても気になります。

 最近私の周りでも、出張の飛行機のキャンセル料について、「会計検査院対応がありますし~~~」と教員に言っている人がいました。その基準水準が曖昧なとき、職員が安全側に立つのは当然のことと理解できます。逆に言えば、基準水準がある程度明確であれば、それに従った対応が取れます。研究費の使用緩和が話題になる際、会計検査院についての言及がほとんどないことは、ずっと気になっていました。独立した存在である「最後の砦」にどれほど攻め込めるのか、攻め込まずに存在を無視するのか、注目しています。