教員免許状更新講習は受講希望者を十分に受け入れられない。

 そろそろ夏季に開講される教員免許状更新講習の申し込みが終わりかけた頃でしょうか。本年度及び来年度は旧免許状所持者の第10グループが受講年度に該当しますが、第10グループは昭和59年4月2日以降に生まれた者全てを含むことや新免許状所持者が受講し始めるため、更新講習を受講する対象者が増加する見込みです。文部科学省からも講習の積極的な開講について各機関へ通知が来ているところです。例えば、YAHOO!リアルタイム検索で「教員免許状更新講習」「教員免許更新」などと検索すると、講習の定員がすぐに埋まるなどの発言が見受けられます。(不思議なのは、「教員免許状更新講習」ではなく「教員免許更新講習」と入力している方が多いことです。)

 弊BLOGでも、教員免許状更新講習が受講希望者を受け入れられるのか、懸念を示してきたところです。

kakichirashi.hatenadiary.jp

 平成30年4月10日付事務連絡にて、文部科学省から各大学や教育委員会等に対し、第3回までに認定された講習の状況と受講対象者推計との比較が連絡されました。各都道府県別に比較されていましたので、どの程度受講希望者を受け入れられる余地があるのか、検討してみます。なお、第3回までの認定ですので今後の講習が増えることが予想されますが、概ね夏季に行われる講習は第3回までに認定されることが多いと思いますので、とりあえずこの夏の状況であると考えてよいかと思っています。

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 必修領域講習、選択必修領域講習、選択領域講習に分け、都道府県別の状況を示します。青い棒が第9グループと第10グループの受講対象者数推計値の平均値(一年間の受講対象者推計)、赤い棒が第3回までに認定された講習の都道府県別の総定員、黒い線がその差です。なお、対面講習のみを表示しました。

 これらを見ると、黒い線が0より下にある都道府県、つまり受講対象者推計よりも講習の総定員が少ない講習が多いことがわかります。

  必修領域講習 選択必修領域講習 選択領域講習
"総定員>受講対象者推計の平均"である都道府県 14 19 18
"総定員<受講対象者推計の平均"である都道府県 33 28 29

 表で整理しても、過半数都道府県において受講対象者推計よりも講習の総定員が少ないですね。つまり、対面講習では、受講希望者を十分に受け入れられる余地がない都道府県が多いと言えます。

 さらに厄介な問題もあります。ここで言う第9グループと第10グループの受講対象者数推計がどのように算出されたものかはわかりませんが、もしこれが更新講習受講義務者である現職教員を中心とした数値であるならば、これ以外にも、受講可能者である保育所勤務者や教員勤務経験者、すでに修了確認期限を超過した者などが受講することも考えられ、受講者がさらに増加する可能性があります。

 特に、私の感覚では、保育所で勤務する幼稚園教諭二種免許状を所持する者の受講がかなり増加するのではないかと思っています。これらの者は、小中高等学校を中心とする学校教員とは職務内容や職場環境などが大きく異なり、従来の講習内容や対応等でこなすにはなかなか難しいところがあるのではないでしょうか。そもそも、幼保の専門家の数も小中高のそれほど多くないとも思われ、教育委員会も所掌範囲外である部分があるため、講習の開設自体が困難であることが容易に想像できます。

  必修領域講習 選択必修領域講習 選択領域講習
受講対象者数推計の平均(A) 125,131 125,131 125,131
対面講習の総定員(B) 96,389 107,600 106,221
通信・放送・インターネット等による講習の総定員(C) 54,730 195,340 130,768
受講希望者推計と総定員との差(B+C-A) 25,988 177,809 111,858

 一応、通信・放送・インターネット等による講習を含めれば、受講対象者推計を大きく上回る数の定員が確保されています。ただし、通信・放送・インターネット等による講習の多くは、講習受講ではそれらの手段を用いますが、評価試験はどこかしらの現地で行います。つまり、通信・放送・インターネット等による講習と言えども全国どこからでも受講できるわけではなく、受講者にとってはある程度地理的な制約が課せられます。単純に通信・放送・インターネット等による講習があるから大丈夫という話ではないでしょう。評価試験の開催場所を踏まえ、通信・放送・インターネット等による講習を受講希望者に対して案内する必要があります。

 受講希望者と話をすると、近場の対面講習での受講を望まれる方が多いという印象を受けます。特に、大都市圏以外でその傾向が顕著なのではないかとも思います。講習の担い手は大学や教育委員会が多いですが、特に大学においては様々な事情により本務である教育研究等活動に対するコストが上昇しており、そのうえで更新講習を拡充するというのはかなり困難なところがあります。

 本年度来年度あたりが受講者数のピークかとも思いますが、学校教員の定年延長の話もあり受講者は常に一定数以上存在します。各大学が今後も受講希望者数に見合った一定数以上の講習を提供し続けられる保証はどこにもないと思っていますし、更新講習により免許を更新する現在の制度も厳しい局面に入ったのではないかと考えています。

一般社団法人「大学等連携推進法人(仮称)」は現状では空想上の産物であると言わざるを得ない。

地域別の新法人で国公私立大学を一体運営、文部科学省が提案 | 大学ジャーナルオンライン

文部科学省は、地域の国公私立大学が新法人を設立し、一体運営できる新制度案を中央教育審議会の将来構想部会に提示した。大学の強みや特色を生かした連携を実現するためとしているが、18歳人口の減少で地方の大学を中心に経営危機に陥るところが続出するとみられることから、大学の統合推進も視野に入れているもようだ。文科省によると、新法人は一般社団法人「大学等連携推進法人(仮称)」で、文科相の認定で設立される。各大学の学長らが理事として運営に参加し、事務の共同化や役割分担を進めて効率的な運営を目指す。

 少し古い話ですが、大学間連携の新たな形として一般社団法人「大学等連携推進法人(仮称)」が検討されている記事が出ていました。本記事は、岐阜大学名古屋大学との法人連携と同タイミングで公表されたため、大学間連携の様々な形が一気に出てきたなと感じたことを覚えています。なお、当該資料は、将来構想部会(第9期~)(第15回) 配付資料:文部科学省にて提示されたものです。

 本件については、すでに批判的な意見も見られます。

大学の連携強化方策はどこがおかしいか?(1): NUPSパンダのブログ

文科省が発表した「2020年大学改革」驚きの中身(ドクターZ) | 現代ビジネス | 講談社(1/2)

 私もかなり本件については懐疑的に見ています。何というか、空想上の産物だなという印象です。

 基本的には、NUPSパンダさんが述べていたことと同様の懸念を持っています。私も「なぜ一般社団法人なのか?」が非常に気になるところです。設置者を超えた連携がどこまで可能なのかなどの法令上の問題もありますが、特に一般社団法人の性質から本件を考えてみます。

一般社団法人とは

 一般社団法人とは、2008年に改正された改正前民法第38条に規定されていた社団法人の流れをくみ、2008年に施行された一般社団法人及び一般財団法人に関する法律に規定される非営利法人のことです。当時は、2013年の移行期間終了後までに全ての財団法人や社団法人が、公益法人か一般法人か解散かを選択しなけれならないと騒いでいたことを記憶しています。

 一般社団法人の特徴として、登記により簡便に法人格を取得できること、構成員は社員となり社員総会や理事が必置であること、非営利であるため利益や剰余金の分配ができないこと、基金制度があることなどが挙げられます。詳しくは、以下を参照ください。

一般社団法人とは? | 一般社団法人設立.net

法務省:一般社団法人及び一般財団法人制度Q&A

 対応すべき業務については、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律に定められている通り、社員総会に関する事務や会計処理に関する事務など、細かく規定されています。

一般社団法人における懸念

 前述の通り、一般社団法人は剰余金を分配することができません。そのため、社員(各大学法人等)からの拠出金は、当該一般社団法人が保持することになります。例えば、毎年度剰余金を分配して拠出金と相殺することは不可能です。資金が貯まるという事は、当然それを用いた事業を行わなければなりません。

 事業を行うとなると、対応すべき人員確保や種々の経費、手続きが生じます。さらに、前述の通り会議の手続きや作成・保管・公表すべき会計書類なども煩雑となります。つまり、一般社団法人を立ち上げるのみではなく、維持することも相当程度の人的経済的時間的コストが発生すると考えて良いでしょう。

 各大学等が厳しい環境に晒されているこのご時世に、効果があるかどうかわからない法人を設立し、相応のコスト負担することに何の意味があるのでしょうか。少なくとも、資料に例示されている事業は任意団体でもできるものばかりであり、法人化するメリットが感じられません。

大学間連携は優しさだけではできない

 将来構想部会の資料に書かれた事は、全体的に、地域における大学間連携を甘く見ているのではないかと感じました。各法人が「地域の高等教育の振興のためにここはうちが譲りましょう、撤退しましょう」などと言う全体最適を志向している様にも読み取れましたが、私の経験上からはそれは全くのファンタジーであると断言できます。

 もちろん、地域社会のために各大学が少しづつ負担し合い大学間連携に取り組んでいるところや事業もあります。ただ、費用や人員、補助金などの経営問題に関連した途端、各法人のエゴにより、各法人がいかに連携を利用するか、あるいは見捨てる(関与しないように立ち回る)かが表出化します。緩やかな連携は途端に弱肉強食化し、各法人は連携を無視してでも弱肉とならないような戦略を取ります。

 例えば、中央省庁が寄り合って業務調整を行う際、文科省が自ら「社会人基礎力を養成するため、高等教育の所管を経産省に渡します。観光収入を上げるため、文化財の所管を経産省に渡します。」と言うことがないのと同様です。法人同士の合併もありますが、それは個々の交渉の末生まれるものであり、全体の中から自然発生するものではないでしょう。

 本件が成功する可能性があるとすれば、大学等の所管を都道府県に移すことです。これにより、都道府県が自らの地域の高等教育をより真剣に検討しなければならないこととなり、各法人によってはより近しい位置からの外圧が生じることになります。ただ、現行の都道府県の体制などを見ると、それはほぼ不可能だろうとも思います。

 何にせよ、一法人複数国立大学制度や学部単位での譲渡に比べて、ちょっと空想が過ぎるんじゃないんですかね、と言うのは現在の私の印象です。

教職課程の共同運営はうまく機能するのか〜単位互換授業の運用を踏まえて

教員養成課程を共同運営 金沢・福井・富山大が検討 :日本経済新聞

少子化で教員需要の減少が予想されていることを踏まえ、金沢大と福井大、富山大が小中学校や高校などの教員養成課程を共同運営できないか検討していることが2日、各大学への取材で分かった。近隣大学間で連携し、運営を効率化するのが狙いだが、慎重論もあり方策は具体化していない。

 教職課程の共同運営に関する記事が出ていました。現時点では具体的なところまでは決定していないようですが、検討を進めているようです(逆に、なぜこのタイミングで記事が出たのかは気になります)。

 本件については、教育職員免許法施行規則に該当する規定があります。

教育職員免許法施行規則(抄)

第22条 3 認定課程を有する大学は、教育上有益と認めるときは、大学設置基準第二十八条第一項(大学院設置基準第十五条において準用する場合を含む。)、専門職大学設置基準第二十四条第一項、短期大学設置基準第十四条第一項又は専門職短期大学設置基準第二十一条第一項の規定により大学が定める他の大学の授業科目として開設される各教科の指導法に関する科目、教育の基礎的理解に関する科目等及び特別支援教育に関する科目を前二項の規定により開設する授業科目とみなすことができる。この場合において、当該みなすことができる授業科目の単位数は、第二条第一項、第三条第一項、第四条第一項、第五条第一項、第七条第一項、第九条及び第十条の表に規定する当該科目の単位数のそれぞれ三割を超えないものとする。

4 認定課程であり、かつ、共同教育課程である教育課程を編成する大学(以下この項において「構成大学」という。)は、当該構成大学のうちの一の大学が開設する当該共同教育課程に係る授業科目を、当該構成大学のうちの他の大学が第一項の規定により開設する授業科目とそれぞれみなすものとする。

 方法としては、施行規則第22条第3項に該当する単位互換により行うか、第22条第4項に該当する共同教育課程を構築するか、どちらかでしょう。共同教育課程とは、大学設置基準第43条に定める課程のことです。

大学設置基準(抄)

(共同教育課程の編成)

第43条 二以上の大学は、その大学、学部及び学科の教育上の目的を達成するために必要があると認められる場合には、第十九条第一項の規定にかかわらず、当該二以上の大学のうち一の大学が開設する授業科目を、当該二以上の大学のうち他の大学の教育課程の一部とみなして、それぞれの大学ごとに同一内容の教育課程(通信教育に係るもの及び大学が外国に設ける学部、学科その他の組織において開設される授業科目の履修により修得する単位を当該学科に係る卒業の要件として修得すべき単位の全部又は一部として修得するものを除く。以下「共同教育課程」という。)を編成することができる。ただし、共同教育課程を編成する大学(以下「構成大学」という。)は、それぞれ当該共同教育課程に係る主要授業科目の一部を必修科目として自ら開設するものとする。

大学における教育課程の共同実施制度について:文部科学省

 共同教育課程の構築には設置審査が必要となりますので、非常に手間がかかります。おそらく、単位互換授業を開講することにより対応するのだろうと思われます。実習系以外の授業科目の一部を単位互換科目として解放し、他大学の学生も受講できるようにするのでしょう。ただ、私も単位互換授業の運用を経験したことがありますが、学習成果が上がる仕組みを担保した上で実現することはなかなか難しいのではないかと思っています。

 単位互換授業には、大きく分けて以下の4つの運用方法があると考えます。当然、これらを組み合わせた形での開講も考えられます。

  1. 学生が授業開講大学へ移動し授業を受講する
  2. 教員が他大学へ移動し授業を行う
  3. 遠隔同時配信により他大学へ授業を配信し学生が同時受講する(遠隔配信方式)
  4. 授業を録画等しインターネットにより配信する(e-Learning方式)

 金沢大学福井大学富山大学間の距離はそれぞれ以下表の通りであり、1及び2は現実的ではないと考えます。

大学間 距離(車での最短の道のり) 東大本郷からほぼ等距離の大学
金沢大学-福井大学 85.5km 小田原短期大学
金沢大学-富山大 62.2km 慶應大学SFC
福井大学-富山大学 138km 群馬大学

 となれば3及び4の方法となりますが、単純に授業を配信あるいは録画するだけでは、学生のモチベーションや学習成果も上がりにくいのではないかと思われます。中澤(2012)*1では、受講者へのアンケート調査により遠隔講義が進むにつれ集中力の減退が見られ、遠隔講義においては学習の持続性が維持される仕組みが必要であるとしています。

 例えば、授業中に学生同士で討論を行う授業方法をe-Learningでそのまま導入することはできません。配信を行うこと前提に、授業方法を検討し直すとともに、e-Learning環境等インフラを整備することも必要です。あるいは、普段はe-Learningで受講しつつ複数回のスクーリングを行うBlended-Learningとすることもありえますね。何にせよ、いままで通りのやり方を以って他大学の学生を受講させるというだけではうまく機能しないことが考えられます。

 学生の多様な学びを保障すると言えば聞こえは良いのですが、一部の通信制大学等を除き、現時点では単位互換制度はオプションサービスとして運用されていることが多いのではないかと思っています。細川ら(2015)*2では、学生に対しカリキュラムや単位互換制度に対するアンケート調査を実施し、カリキュラムの自由度が高い大学の学生ほど交通便が良い場所で自大学にはない内容の単位互換授業を受講したいという結果となりました。まず自大学のカリキュラムがあり、その上で、余裕があり受講しやすく内容に興味があれば単位互換授業を受講するというイメージが想起されます。

 最近では大学の共同経営などの話も頻発していますが、経営問題の解消が第一目的であり、よっぽど隣接している大学間などでない限り、学生へのメリットはあまりないのではないかと思っています。特に移動時間や手段などに起因するコスト問題は学生に対する過剰な負担になりかねません。国立大学でこのような話が発生するのは様々な事情を考慮した結果であることは想像に難くありませんが、特に地方国立大学間の距離は都道府県をまたぐほど大きなものであり、学生への負担や説明をしっかりと考えていかなければと感じました。

*1:地方大学における遠隔講義の実践とその可能性について,会津大学短期大学部研究紀要(69), 133-152, 2012)ただし、本稿では高校生を受講者とした講義等を対象としている点に留意が必要。

*2:単位互換制度にみる学生の学習に対する意識,秋田大学教養基礎教育研究年報(17),99 -106,2015

再課程認定申請書作成に関する2,3の所感

 教職課程の再課程認定申請書の提出期間が終わりました。担当者の皆様におかれてはお疲れ様でした。

 再課程認定申請書作成時に感じた2,3の所感という名の愚痴をここに書き記しておきます。「嫌なら認可申請するな」「文科省に文句を言うなんて」と言う声もあるでしょうか、声を上げなければ大学側に不満はないものと認識される可能性があります。私も文科省で働いていましたが、東京にいると日本各地の大学の状況を「わかったつもり」になりがちです。私には教職員課へのチャンネルはありませんので、健全な業務関係の構築の為にも、この場にて記録しておきます。

 「文科省がクソ」とか言う話ではなく、業務において互いに幸せとなるような持続可能な教職課程認定申請業務を構築していく為には、どのように省察と改善を繰り返していくかと言うことだと認識しています。教職課程認定申請の書類作成は単なる事務仕事であり、ある程度誰にでもできるようにしておく必要性を感じているところです。

1.様式の困難さ

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 上記の図は、再課程認定申請書の様式における各記載の関連を示したものです。線でつながっている箇所は同一内容を記載するところです。一目見て分かるとおり、様式を跨いで各事項が互いに関連し合う非常にリレーショナルな形式になっています。

 これに対して申請書の様式はそれぞれ独立して設定されており、緻密な関連性を維持することに苦労した担当者も多かったのではないでしょうか。作成者に多大なコストが発生するということは、それを確認する者にも同様のコストが発生するということです。関連性の緻密化は作成・確認コストが高まるだけですので、様式の簡略化やパッケージ化により大学側と文科省側のコストを下げる取り組みが必要なのではないかと感じました。申請書作成業務自体は教職課程の質向上にはほぼ寄与しませんので、その分のコストを別の業務に充てたいところです。

 そのほか、様式第4号(教員個人に関する書類)の作成が地味に厄介でした。

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 担当する授業科目に対応する業績を記載する欄が一つの行で形成されているため、各列の高さを合わせるためにはエンターキーやデリートキーを連打するしかありません。全国各地で教員や事務職員がキーを連打していたかと思うと、どれほどの時間が消費されたことでしょうか。大学教育の質向上が叫ばれる中、5年,10年後にも教職員がキーを連打しているのだとしたら、涙が出てきそうです。なお、私は様式を改変し、行を追加して一業績一行とするとともに罫線を無色にすることで、高さの調整等を少しでも容易にしていました。

2.情報提供の不正確さ・不親切さ

 今回の再課程認定においては、一年ほど前から説明会が開催され、質疑応答集や手引き、メールでの連絡などにより文科省から情報が提供されてきました。特に、提出時に多い注意点として2度程メールでの連絡があったのはありがたかったです。しかし、手引きに記載された例示等が適切ではなく、メールでの連絡においても「手引きを熟読してください」と言いつつも手引きに記載された例示は無視するような記載があり、何かのコントかと思いました。また、手引きの記載自体も決してわかりやすいものばかりではないと感じました(私は未だに手引きP8-17の表がいまいち理解できていません)。かなりの機関の申請書が再提出になったことはその証左であると考えています。

 基本的には、当該業務に関するエフォートが高い者や理解度・当事者性が高い者から低い者へ適切に情報が提供されることで、円滑な業務が可能になるのだろうと考えています。その意味では、文科省から各機関への情報提供は命綱であったとも言えます。官僚の無謬性もあるのでしょうが、手引きに関する不正確な記載箇所の正式な訂正連絡や差し替え文書等が送付されていないことは残念です。弊ブログでも私が理解できる範囲で情報提供をしてきましたが、少しでもお役に立っていたのならば幸いです。

3.大学側との意見交換の有無

 私が記憶している限り、説明会等で「大学側と意見交換しながら進めていきたい」という発言を何度か聞いたように思います。ただ、今回の申請にあたり、それがどれほど成されたのかを私は知りません。単なるリップサービスだったのか、実際に何かしら意見聴取等が行われたのか、教職課程においては教職員課とパイプを持つ職員もいるとは思いますので彼らと意見交換を行ったのかもしれません。なんにせよ、申請側と認定側が適度な距離感を保ちつつ、互いに業務を高度化させていくこということが大切だと思いますので、大学側との意見交換が行われたのか、それがどのように反映されたのかは気になるところです。

免許更新制における旧免許状所持者と新免許状所持者の違い

勘違いで教員免許失効、失職 滋賀の小学校女性教諭 : 京都新聞

県教委によると、教諭は1995年に小学校の教員免許を取得した。この教諭の場合は2018年3月が免許更新の期限だったが、17年に特別支援学校教諭の免許を取得したことから、手続きをすれば27年10月まで取得済みの免許の有効期限を延期することができた。教諭は、特別支援学校の免許を取得すると自動的に有効期限が延長されると誤認。念のために相談した所属先の校長も同様に誤認したことから、延期の手続きをしなかったという。

 教員免許の失効に関するニュースが出ていました。期限の延長は、平成20年度以前に初めて免許状を取得した旧免許状所持者と、平成21年度以降に初めて免許状を取得した新免許状所持者で対応が異なります。その点が混同された結果として、このような事態が生じたのでしょう。

 以下に、旧免許状所持者と新免許状所持者の違いを整理します。なお、茨城県教育委員会のWebページには、旧免許状所持者と新免許状所持者の違いに関する資料が掲載されています。

教員免許> 教員免許更新制の概要 | 茨城県教育委員会

また、新免許状所持者と旧免許状所持者では、取扱いに違いがあるので注意が必要です。

新免許状所持者と旧免許状所持者の考え方【PDF:107KB】

  旧免許状所持者 新免許状所持者
初めて免許状を取得した日 平成21年3月31日以前 平成21年4月1日以降
期限 生年月日に応じた「最初の修了確認期限」が設定されている 免許状に「有効期間の満了の日」が記載されている
更新に有効となる講習 修了確認期限の2年2ヶ月前から2ヶ月前までに修了した講習 有効期間の満了の日の2年2ヶ月前から2ヶ月前までに修了した講習
更新できる免許状 複数の種類(教諭・養護教諭栄養教諭)を所持していても一括して更新する
ただし、選択領域講習において、いずれかの種類の履修認定対象職種の講習を18時間以上修了する必要がある
複数の種類(教諭・養護教諭栄養教諭)を所持している場合は、選択領域講習において、それぞれの種類の履修認定対象職種の講習を18時間以上修了する必要がある<
全ての種類の免許状を更新する必要はない
平成21年4月1日以降に新たに免許状を取得した場合の取り扱い 新たに取得した免許状であっても旧免許状とみなされるため旧免許状所持者となる
更新講習受講義務者(現職の教員など)であれば、免許管理者(都道府県教育委員会)に申請することで、修了確認期限を延長することができる
全ての免許状が、最も遅い有効期間の満了の日に自動的に統一される
免許失効時の取り扱い 返納しない 更新講習受講義務者(現職の教員など)であれば返納する
更新講習の免除手続き 更新講習受講義務者であり免除対象の職・事由があれば、免許管理者に更新講習の免除を申請できる 更新講習受講義務者であり免除対象の職・事由があれば、免許管理者に更新講習の免除を申請できる
更新後に免許管理者から授与される書類 更新講習修了確認証明書(次の修了確認期限が明記されている) 有効期間更新証明書(次の有効期間の満了の日が明記されている)

 なお、記事中の件に係る根拠法令等は以下の通りです。

教育職員免許法

(効力)

第九条 

5 普通免許状又は特別免許状を二以上有する者の当該二以上の免許状の有効期間は、第一項、第二項及び前項並びに次条第四項及び第五項の規定にかかわらず、それぞれの免許状に係るこれらの規定による有効期間の満了の日のうち最も遅い日までとする。

(有効期間の更新及び延長)

第九条の二 

5 免許管理者は、普通免許状又は特別免許状を有する者が、次条第三項第一号に掲げる者である場合において、同条第四項の規定により免許状更新講習を受けることができないことその他文部科学省令で定めるやむを得ない事由により、その免許状の有効期間の満了の日までに免許状更新講習の課程を修了することが困難であると認めるときは、文部科学省令で定めるところにより相当の期間を定めて、その免許状の有効期間を延長するものとする。

附 則 (平成一九年六月二七日法律第九八号) 抄

教育職員免許法の一部改正に伴う経過措置)

第二条 前条第二号に掲げる規定の施行の際現に(略)授与された普通免許状又は特別免許状を有する者(当該普通免許状及び特別免許状が失効した者を除く。以下この条において「旧免許状所持者」という。)については、(略)第九条第四項及び第五項、第九条の二(略)の規定は、旧免許状所持者には適用しない。

4 免許管理者は、旧免許状所持現職教員が、新法第九条の三第四項の規定により免許状更新講習を受けることができないことその他文部科学省令で定めるやむを得ない事由により当該旧免許状所持現職教員に係る前項に規定する修了確認期限(以下この条において単に「修了確認期限」という。)までに免許状更新講習の課程を修了することが困難であると認めるときは、文部科学省令で定めるところにより相当の期間を定めて、当該修了確認期限を延期するものとする。旧免許状所持現職教員が、新たに普通免許状又は特別免許状の授与を受けたことその他の当該旧免許状所持現職教員に係る修了確認期限を延期することが相当であるものとして文部科学省令で定める事由に該当すると認めるときも、同様とする。

教員免許更新制の実施に係る関係省令等の整備について(通知):文部科学省

第1 教育職員免許法施行規則の改正の概要

2.有効期間の更新及び延長

(4)有効期間の延長及び修了確認期限の延期

 新法第9条の2第5項に規定する免許状の有効期間を延長することができる事由及び改正法附則第2条第4項に規定する修了確認期限を延期することができる事由について以下の通り定めることとしたこと。(施行規則第61条の5、改正省令附則第7条)

<新免許状を所有する者及び旧免許状を所有する者に共通する事由>

1~7
<旧免許状を所有する者にのみ該当する事由>

8~10

(個人的メモ)教職課程認定申請書提出時に持参するもの

  • 正本
  • 副本
  • 手引き
  • 鉛筆数本
  • ボールペン
  • はさみ
  • のり
  • 定規
  • 小型穴あけパンチ
  • ラベルシート(切れ込み無しの一枚もの)
      表紙や背表紙、表紙裏に対する指摘に対応するため準備する
  • 付箋紙
  • 高さ変動式フラットファイル(変動式のフラットファイルを用いている場合は不要)
      過去にファイルの高さが実際の書類の高さと違いすぎて再提出を指示されていた大学を見たため
      申請書とファイルの高さが大きく異なっていない限りは大丈夫だと思われる
  • 小型鉛筆削り
  • 消しゴム
  • 白紙
      ファイルに綴じこむための穴を開けたものと、穴をあけていないものを持参すること
      それぞれの持参枚数の目安はインデックスの数+α
      申請書と同じ用紙を持参すること(上白紙、PPC用紙などの違いに注意)
  • インデックスシール
      文字を印字し台紙から剥がしていないもの
      直接書き込めるよう、印字していないシールも持参すること
      申請書に使用したものと同じ種類(色・サイズ)のシールを準備すること
  • ダブルクリップ
      差し替えになった場合に不要な書類をまとめる
      不要とは言え適当に扱わず持ち帰って副本、副副本の差し替えや失敗箇所の検証ができるようにすること
  • 必要に応じ、参考資料
      履修の手引きなど
      指摘が考えられる事項について予め差し替え版を準備することもありえる
  • 身分証(職員証)
  • 文科省から送信された提出予約結果確定メールの印刷物
  • 携帯電話(関係者の連絡先入り)
      提出の結果をすぐ関係者に報告できるようにする
  • 強い心
      どうにもならないときには再提出を受け入れる諦めも肝要。ちゃんと対応すれば受理されるので落ち込むことはない。