論文が書けるように仕事をしたい

 以前の記事でも言及した通り、日頃の業務でも研究の作法を考えて取り組むことを意識しています。仮説を立てて方法を検討し、取り組んだ結果を明らかにしさらに改善を検討するということですね。大きな制度の話から細かい手法の話まで、なるべくいろんなことを考えて、隙あらば実践してきたいと思っています。

 それに加えて、最近は論文が書けるように仕事をしないといけないなとも思っています。論文を書くには、内容に「体系性」と「新規性」がなければいけません。この場合の体系性とは前年度までの業務手法であったり他大学の状況であったりその業務の法的全国的機関的歴史であったりし、新規性とは自分が改善しようとしていることであるわけです。これを整理した上で、IMRADのフレームワークに当てはめて考え実践すれば、いい仕事ができるのではないかと思っています。これって、IRのような大学業界で論文になりやすい業務のみならず、あらゆる業務に当てはまることですよね。だからこそ「論文が書けるよう”な”仕事をする」ではなく「論文が書けるよう”に”仕事をする」としています。

 昨年度自分が実践していることや考えていることを論文もどきにまとめて投稿したのですが、その際にどうにもうまく書けなかったのが「体系性」でした。「新規性」は自分がやったことなので書けるんですが、それを「体系性」の中に位置づけるのが苦労しました。体系的に過去の経緯を書いているうちに、自分がやったこと考えていることは果たして新規性があることなのかとどんどん疑念が湧いてきて、なかなか進まなかったことを思い出します。

 職員が書いた論文や発表を見ていても、国外も含め過去の研究や取組がうまく参照できていないのではないかと感じることはあります。この部分は費やす時間がものをいうところなので職業研究者には及ばないところもありますが、体系性がなければ新規性がわからない(自分のやっていることは新しいことなのか、効果のあることなのか)ので、過去の経緯などは追求していきたいと思っています。
なんにせよ、そのくらいちゃんと自分のやっていることや成果を説明できるくらいには考えていきたいですね。

私信:異動します。全く新しい仕事を楽しんでいきたいです。

結局、国立大学の運営費交付金はどう配分されているのか。

国立大交付金100億円、特色競わせ配分 3分類で評価:朝日新聞デジタル

国立大学の収入の3~4割を占める「運営費交付金」の配分が決まり、文部科学省が9日、発表した。2016年度からは、大学を目的別に3分類し、取り組みに応じて交付金の一部約100億円を配分する。

 平成28年度の国立大学運営費交付金の配分が話題になっています。ただ、運営費交付金全体が何割削減されるみたい誤解のある理解も目にしますので、改めてこの配分の位置付けを考えてみます。

 今回の発端となったのが、3月9日に出た文部科学省の発表です。

平成28年度における国立大学法人運営費交付金の重点支援の評価結果について:文部科学省

この度、平成28年度における国立大学法人運営費交付金の重点支援の評価結果について、別紙のとおり取りまとめましたので、公表いたします。

 ここでは、

第3期中期目標における国立大学法人運営費交付金(以下「運営費交付金」という。)については、第3期における国立大学の機能強化の方向性に応じた取組をきめ細かく支援するため、予算上、3つの枠組みを設けて重点支援を行うこととしており、各国立大学法人は、それぞれの機能強化の方向性や第3期を通じて特に取り組む内容を踏まえていずれかの枠組みを選択することとなっている。

として、

平成28年度の運営費交付金の重点支援に当たっては、重点支援の枠組みごとに、各法人から提案のあった取組構想の評価を有識者の御意見を踏まえて行った上で配分することとしており、その評価結果を公表するものである。

と書かれています。

 その結果として各大学が提案した戦略が評価され、それを踏まえ、運営費交付金の配分割合が決定されています。(配分率は下図及び下表を参照。なお、旭川医科大学は配分を要求していません。)

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 ここまで、幾つか確認が必要な言葉が出てきました。まず、「重点支援の枠組み」です。これについては、以前弊BLOGでも言及したので繰り返しませんが、簡単に言えば国立大学を第3期中期目標期間に担う主たる役割に合わせて3つに分類しそれを踏まえた運営や予算措置をしましょうということです。だからこそ、重点支援の枠組みごとに結果が公表されているのでしょう。

 次に「反映率」です。この割合により運営費交付金が増えたり減ったりするということは想像できるとは思いますが、何に反映される割合なのか、わかりにくいですね。これを平成28年度予算資料の中から読み解くには、文部科学省公表資料ではなく、財務省公表資料を見た方がわかりやすいです。

平成28年度予算政府案 : 財務省

平成28年度文教・科学技術予算のポイント P8

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 ここから、基幹運営費交付金(従来の一般運営費交付金+特別運営費交付金)の1%程度をあらかじめ拠出し、それを反映率に応じて再配分していると考えられます。ものすごく簡略化すると、図2のようであると想像できます。

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 拠出した1%程度の基幹運営費交付金に反映率を反映した金額が再配分として大学に戻ってきているというイメージですね(「戻ってくる」という表現は適切ではありませんが。。。)。これを見れば、運営費交付金全体を対象としているわけではないことがわかってもらえると思います。この考え方が正しいとすると、75.5%と一番反映率が低い京都教育大学の場合、運営費交付金が4分の3になるのではなく、拠出金のうち4分の3しか戻ってこないということになります。つまり、仮に重点支援①の拠出割合が1%だとすると、再配分後の基幹運営費交付金は本来その年度に受け取るはずだった交付金の99.75%になるということですね。(ただ、各大学の拠出金額及び再配分金額が公表されていませんので、この考え方が正しいのかは不明です。)

 私は完全に感覚が麻痺しているので、毎年1%づつ削られていたことに比べるとなんと平和なことかと思ってしまいます。ただ、平成29年度以降、財務省は再び1%づつ削減する気もあるようですので、状況は読めません。また、平成29年度以降のこのような予算制度つまり機能強化経費も、将来の基盤経費化も含め文部科学省の中で検討されていると聞いています。

 気になるのは配分された予算の使途ですね。元々配分総額が決まっており割合に応じて各大学に配分するものですから、通常の補助金にあるような予算計画などは立てにくいだろうと考えます。一方、あくまで各大学の戦略の評価に応じて配分した以上は、その戦略に関連性がないものには支出しにくいでしょう。各大学で特別事業経費みたいな枠を設け、担当部署の裁量である程度動かしていくのかなと想像しています。

 また、確かにこの方法は第3期から新たに導入されたものですが、基盤的経費を削ってプロジェクト型経費に回すという路線は継続されているように思えます。結局しばらくはこういう方向でいくのかなと改めて感じました。(それでも、毎年1%ずつ削減よりは天と地ほども違いますが。)

 平成28年度の国立大学運営費交付金について、簡単にまとめてみました。なお、裏を取ったわけではなく、諸々の資料を踏まえた私の考えのみに留まっていることを申し添えます。

自分を守るためのボス・マネジメント

 人事異動などで自分よりも当該業務の経験が浅い上司が赴任することってありますよね。あるいは、能力的にちょっと微妙って人が上司として配置されることもあるかもしれません。通常マネジメントというと上司から部下への方向が多いですが、部下から上司をコントロールするボス・マネジメントということも十分に考えられます。私の実践上、ボス・マネジメントのコツは以下の点に整理できると考えています。

1.たてる

 一番目にこれがあるのは意外かもしれませんが、上司である以上ある程度はたてることが必要です。と言っても媚びへつらうのではなく、ちゃんと話を聞き理解しようとすることやないがしろにしないことなど、基本的な人間関係を押さえるということですね。他大学の職員と交流する場において年下の上司を持つ方や管理職クラスの方にボス・マネジメントを相談しても、まずこのように助言されることが多かったです。(もしかしたら私のパーソナリティに依るものかもしれませんが。。。)

2.手順だけではなく意義目的なども伝える

 これは対上司のみに限りませんが、業務の手順だけではくその意義や目的なども併せて伝え、なんのためにその業務をやっているのかということも意識してもらえることが必要です。加えて、私の場合は、最低限守らなくてはいけないラインや将来的な業務の展望(廃止条件など)も併せて伝えるようにしています。

3.上司の上司を味方にする

 上司の上司と話を通じておくと、いろいろとやりやすくなります。場合によっては、だんだんに話をあげていくというよりは、二人同時に話をすることもやっています。これに関連して、上司と業務上の相談をする際は少し大きめに話をして、上司の上司に聞こえるようにすることも意識していますね。

4.いなくなることを意識させる

 私がいなくなっても仕事が回るように、業務を差配したり委任したりしています。自分の口からは「いなくなっても」ということは言いませんが、上司やそのまた上司から「〜〜がいなくなっても」という言葉が聞かれるようになれば、考えてもらっているなと感じます。これに関連して、上司がそのまた上司と業務上の相談をしているときは、基本的には振られるまでは口をはさまず、耳だけ立てるようにしています。ただ、最初からこれはできないので、様子を見ながら徐々にというところでしょうか。

5.得意な分野を見つける

 職務経歴などから得意な分野や仕事方法を見つけ、それに関連する部分は積極的に役割を担ってもらうようにします。上司の仕事のスタイルを見つけるということに近いですね。

6.あきらめる

 いろいろ手を尽くしても、もしかしたらどうにもならないような人もいるかもしれません。その場合は、自分が異動するか相手が異動するかまであきらめ、普通に接するしかないのでしょう。その際にも意識すべきなのは、3.にある上司の上司と理解を通じるということ、また他部署や後任者への実害を最低限に抑えるということだと思っています。

 

 上司がうまく仕事を動かせなかった時に、実害をこうむるのは結局は自分です。自衛手段としてのボス・マネジメントは今後とも意識していきたいと思っています。 

URAシンポジウム「大学の研究経営システムの確立に向けて~経営を担う・支える人材確保にどう取り組むか~」に参加してきました。

文部科学省委託調査研究 URAシンポジウム 大学の研究経営システムの確立に向けて ~経営を担う・支える人材確保にどう取り組むか~:一般向けセミナー:セミナー・イベント:三菱総合研究所1

大学等においてはURA(University Research Administrator)の必要性の認識が進みつつありますが、URAと同様に研究企画立案、研究資金の調達・管理、知財の管理・活用等を行う研究経営人材の職種も多様なものへと変化し、業務内容についても多様化が進んでいます。そこで、URAシステムの自立的運営に向けて取り組むべき内容・課題、各種ネットワーク組織の現状・課題・成果、我が国のURAシステムの現状認識や課題意識、あるべきURAシステム構築へ向けたプロセスや必要な施策等を議論します。

  URAシンポジウムに参加してきました。会場には、ほぼ満員の300名程度がいたと思います。内容はURAに限らずかなり多岐にわたるもので、集中して聞いているだけで大変でした。特に上山先生から事務職員の在り方について考えていることを伺えたのは、良かったですね。

 以下に、本会での発言を記します。なお、あくまで私が理解できた部分を一部のみ掲載していることに留意ください。また、個人的に気になった箇所に下線を引いています。

基調講演1「日本の科学技術駆動型イノベーション創出能力の強化に向けて ~URAの使命と大学の挑戦~」(柘植 公益社団法人科学技術国際交流センター会長)

  • 本日は3点のお話をする。1.日本の再生と持続可能な発展には「科学技術・学術力」と「イノベーション力」と「教育力」の三位一体推進が必須であること、2.限られた財政下で「教育・研究・イノベーションに向けた一石三鳥的な投資効果の最大化」を行う大学は生き残るということ。3.学長と部局の経営力強化が要でありURAはクロスファンクショナル機能に挑戦すべきであるということ。
  • 日本再生に向け経済や社会保障を立て直さないといけない。歳入は改善傾向にあるが歳出は依然として大きく、イノベーション・エコシステムの構築は必要である。その要は、次世代を担う人材教育と科学技術とイノベーションの三位一体振興が必要であり、これは大学人の社会的使命を再認識しなければならない。
  • 科学技術の広がりを横に、社会経済的創造のステップを縦軸に取ると、大学と公的研究機関、産業が繋がっていなければならないことがわかる。URAは大学経営中核人材に不可欠である。三位一体推進に向けて橋渡し機能の発揮を担っていくことになり、URAは多様な価値と人材の結合による新たな価値創造プロデューサーとなる。URAの活用はIRの重要経営課題であり、大学を取り巻く社会的環境条件の変化と大学の対応能力の強化を、学長と全部局、研究者・教育者及び事務組織の全員が認識し、共有化できるかがIRの調整である。また、URA人材育成とシステム改革は、この危機感の下で全学的IR活動の下で行われることが肝要である。
  • 文部科学省の資料にある定義にとどまらず、URAは学術研究のプレ・ポストアワードを支援するだけでは不十分であると考える。URAとは、世界に生き残る大学の「学術研究力と教育力と社会貢献力とを三位一体的に発揮する大学力の強化に必須の高度アクティング・マネージメント人材群」である。ある大学では研究科長直下の研究支援総括室の中にURAを配置しているが、この形では新たな価値創造のためのプロデューサーではあり難い。大学本部と各部局が共同で実践しなければならない「全学的IR」のもと「URA機能・職種の充実と定着化に向けた設計と具体的な改革」への障害になる可能性がある。
  • URAには全学的クロスファンクショナル機能のリーダーになってほしい。URAが執行部や事務職員、教員の価値を結合することで、新しい価値を創造することができる。これからの大学経営の要として、三位一体推進マネージメントを掲げる。国における教育振興や科学技術・学術振興、イノベーション振興に係る各種方針を踏まえ、大学に投下される資金と人財の一石三鳥的投資効果を狙った施策を行わなければならない。イノベーション創出への要求はますます高まっている。大学の中で仕組みを作っていかなければならない。
  • 学長が優秀なURAをいかに確保できるかで生き残りが決まると考える日が来る。また、各部局構成員も、大学の存続の危機感のもと、各部局の論理を越えて全学的IRの実質化・可視化に参加することが不可欠である。そのため、学長は教員・職員、研究者の全員参加の下で、”領空侵犯を恐れぬ”優秀なURAの育成とキャリアパス構築に注力することが必要である。近い将来URAから学長が出てくることを予測している。
  • Q:どのように教育に”領空侵犯”していくのか?
  • A:経済的支援など、博士課程学生の教育活動にアプローチすることが考えられる。
  • Q:明確なURAの定義はあるのか?また、博士課程修了者にもキャリアパスとしてURAを提示できるか?
  • A:URAをどのように活用するのかは、各大学で強み弱みを把握し学内で意思を統一することになる。定義は各大学で定めれば良い。博士課程修了者のURAへのキャリアパスには期待している。研究とイノベーションの現場がよく見えるのは大学のアドバンテージである。大学のためにも、博士課程学生に対してURAを有力なキャリアパスとして位置付けてほしい。

基調講演2「大学の未来と求められるアカデミアの戦略~大学経営を担う人材の計画的な育成と確保に向けて~」(上山 政策研究大学院大学副学長)

  • 海外大学には分厚い事務組織があり、そこが日本の大学とは違うところ。スタンフォード大学には、PresidentOfficeとProvostOfficeがあり、役割分担をしている。PresidentOfficeは財務の責任や寄附、人事、大学戦略、ファンドレイジングの司令塔という役割、ProvostOfficeは各スクールとの調整や研究方針、バジェット、教育、FDという役割がある。特に、ProvostOfficeは部局のすべてのバジェットを把握し調整をしており、ここは日本と大きく違う点である。
  • それぞれプロフェッショナルな人材が雇われており、各Officeはマネジメント層と連携が取れている。予算は各部局でうまく動かしており、日本の大学との大きな違いでもある。URAは今後各分野のプロフェッショナルの人材に分かれていくだろう。アメリカの大学でも、事務的なマネジメントの経験がある人材がプロフェッショナルとしてProvostOfficeで働いている。
  • スタンフォード大学では財務にかかる組織が様々なところに配置されているところも特徴である。財務的な背景がなけれ戦略的な取り組みができないが、日本の大学はこのような状態にはなっていない。
  • 日本の大学では、学長にガバナンスが集中している形になっているが、その意思決定や行動を支える専門性人材がいない為、何も動かないことになる。事務とマネジメント層をつなぐ人材がいない。また、財務部門が弱く、戦略的に検討できる体制になっていない。日本の組織はデータを並べてることができるかもしれないが、その先の部分ができていない。事務組織とマネジメント層が分断している。これは総合大学であればあるほど難しい問題である。役割分担ができておらず、各者の専門性が発揮できていない。
  • 大学の中の資源配分こそが大学のマネジメントのキモである。アメリカの大学では、資金をUnrestricted funds,Designated funds,Restricted fundsの3つに分け、特定の目的に使用する使途制限のないDesignated fundsを戦略的に用いる資金を定めた。これにより、戦略的マネジメントが可能になった。スタンフォードで大学は、各教員と専門人材によるバジェットグループを形成し、線略的な計画を立てProvostOfficeに提案している。ProvostOfficeが使用するのは全予算の3割程度であり、競争的資金が取れないところなどに戦略的に配分している。ProvostOfficeの役割が大きく、URAのような者が配置されている。ここから見ると、日本の大学は経営判断ができる組織体ではないと考える。
  • 日本の大学の事務部門が非効率的なのは、うまく動かすマネジメント体制ができていないためでもある。例えばURAに対しうまく指示できるマネージャーはおらず、使いこなすだけのマネジメント層が形成できていない。URAは専門が細分化し、大学の将来ビジョン策定に関与していかないといけない。また、優秀な事務職員が適切にキャリアパスを形成し、経営に参画できる体制にしなければならない。
  • アメリカの大学は人材の専門性が細分化している。これはここ30年くらいのことであり、日本の大学が巻き返せないくらい遅れているわけではない。ハーバード大学は80年代に入ってからアドミニストレーションの予算が急激に増加しており、またUCバークレーの管理部門の人件費は80年代と00年代では大きく伸びている部署がある。アメリカの大学の進展はマネジメント体制の劇的な変化にある。URAはこのような体制に吸収されていくものと思う。

事例紹介「大学経営を研究等の側面から支える体制、人材、その役割について」

「大学マネジメントとIR」(西郡 佐賀大学IR室長)

  • IRは大学の規模によって方向性や位置付けが変わってくる。佐賀大学版IRは1.学長主導であり執行部支援が中心であること、2.全学的な組織であること、3.経営基盤・教学・学術・社会貢献という四つの視点があること、4.機能先行主義として結果を出してマネジメントに機能させることを意識していること、5.Quality Indicator(QI)の導入、6.影響機能の6点が特徴である。
  • 手段としてのマネジメントにおいて、コンセンサスをとる際にIR情報の提供や影響機能の提供をしている。また、経営層が根拠に基づいた大学経営を行うことを宣言して取り組んでいる。意思決定の支援に関わる情報を提供することを重要視している。また、それによる合意形成にも影響を与えている。
  • 佐賀大学IR室は、専任職員1名のもと、学内の各教職員を室員とするとともに、現場でデータを扱っている事務職員を拡充メンバーとしている。運営データを扱っているのは事務職員であり、教職協働でないと機能させるのは難しい。会議では、学長や理事等が陪席し、報告や情報共有を行っている。この会議は役員会の直前に行っており、必要に応じて役員会で議論される。横串としてのIRを意識しており、各部局のデータ分析の交通整理を行っている。
  • KPIは様々あるが、モニタリングすべき指標をQIと位置付け、IR室の各部会はQIの作成・精査を担当している。会議におけるルールとして根拠のあるデータを掲載することを前学長の時から全学的に推進しており、それらの情報をIR室が収集している。IR室が執行部にQIの状況を報告するとともに、執行雨の判断により原因と対応策を検討することになる。
  • 各指標については、学内のIRデータから各部会が抽出・精査し、意思決定者が指標を設定・実行している。収集したデータは学内ウェブサイトにて公表している。
  • 計画を立てる際には、大学の現在の立ち位置をデータを用いて明らかにしている。また、「影響機能」とは指標自体が持つインパクト機能のことであり、各指標の状況を踏まえ評価反映特別経費として実績に応じて学長裁量経費を配分している。例えば、オンラインシラバスの入力率は100%にならないと部局配分経費の減額対象にしている。認証評価の必要性などに応じて、各指標を評価反映特別経費に含め、改善している。
  • 本学では生データをわかりやすい形で可視化すること、当事者意識の喚起のため学科単位でデータフィードバックの実施などを行っている。改善のためのデータとは都合の悪いデータであり、評価のためのデータとは異なる

「これからの大学に求められるリスクマネジメント体制の構築」(岡田 九州大学国際法務室副室長・教授)

  • 日本の大学にはリーガルデパートメントが欠けている。日本の企業が法務部門が作られたのは30年程度前であり、日本の大学はそれを追いかけることになるのかもしれない。
  • 日本の大学の環境の変化は大きい。それに対応するのはガバナンスであり、ガバナンスがあってこその経営である。ガバナンスは、コンプライアンスとリスクマネジメントの両輪体制である。日本の大学は特許件数を競っているが、アメリカの大学はライセンスにつながる有望な技術のみをプロテクトしている。
  • 大学では国際化や国際戦略が重要になっており、アメリカの大学の法務部門に関する調査を行った。海外の大学では法務部門のトップであるGeneral Counselが大きな権限を持っており、彼がYesとしないと学長がサインできない。また、企業法務をやっている者が大学の中で働いており、業界団体もある。日本の大学で国際法務室があるのは九州大学だけである。
  • 国際法務の中で大切なことは、国際プロトコールの策定であり、海外企業との共同研究のやり方や契約方法を教えている。また、契約書のやり取りを通じた契約交渉も重要である。日本の大学では、法的背景のない担当事務職員や教員、URAが先方大学の法務部門の者とやり取りをせざるをえず、交渉に負け不利な条件での共同研究などを行うことになる。このような事態は国際化という波で生じている。
  • 国際安全保障輸出管理においても、留学生や外国人研究者を受け入れるリスクはあり、身分を調べながら受け入れていかなければならない。外国人研究者にとっては、内定通知と承諾書だけでは雇用が成立していないと思われる可能性もある。
  • 様々な体制を構築する際には、法務人材がいなければならず、これは法務のミッション・組織の土台の上に構築されるものである。日本の大学にはこの2つがない。法務の素地を持ったURAや人材が必要になる。外部人材を使う際にも、外部人材を使うノウハウを持った者が組織内にいなければならない。これにより、教育と研究の自由を守ることになる。海外調査の際には、教員はKingであり法務部門はKnightであると言われた。

「求められる大学の広報戦略~大阪大学の挑戦」(伊藤 大阪大学准教授クリエィティブ・ユニット)

  • クリエイティブユニットとは、学内と学外をつなぐ組織である。興味を持ってもらうところから始め、注目へとつなぎ、イメージを作る「ブランディング」に取り組んでいる。これは、優秀な学生や教職員を集めるためであり、活動の活性化やreputationの向上、サービスの向上、愛校心の醸成といったポジティブループを構成するためである。
  • ブランディングとは好感を得るということであり、好感を持ってもらうことで大学とのコミュニケーション機会を増大させ、寄附などの行動につなげるために行う。ブランディングのターゲットとして、縦軸(入る人、中の人、出た人)、横軸(社会、学生、コニュニティ)の9象限で考えている。それぞれ正しいリーチメディアを用いてアプローチしていく。
  • 以前の広報活動は、各部局の独自展開や費用対効果の低下、専門人材の不足などの問題が発生しており、広報横断的部署の必要性が当時の総長から出された。そのためクリエイティブユニットという教員組織を作った。大学本部事務組織と同じ場所で仕事をしている。独立した組織とすることで、縦割り回避や事務組織横断的対応が可能になる。また、事務組織と場所を共有することで連携体制が構築できる。
  • デザイン・ブランドマネージやメディア企画・対応に取り組んでいる。具体的には、受験生に対するウェブ、ビデオ作成やtwitterYouTube対応、職員に対する採用サイトやビデオ作成、研究に関するリリースなどに取り組んでいる。
  • 研究を通じて感動を伝えるコンテンツを作ること、スター研究者をどのように生み出しプロモーションするか、そもそも研究の広報にひっかりをどう作るかということを考えている。大学とのコミュニケーションチャンネル・トリガをどう作るかということである。

委託調査研究の紹介「リサーチ・アドミニストレーター業務の自立的運営に向けた調査・分析」(山野 株式会社三菱総合研究所主任研究員)

  • URAの実態やあるべき姿を調査するため、アンケートやインタビューを実施した。
  • 多様な要求に応えられる専門的人材としてのURAについて、1.学内の認知度(役割メリット必要性)、2.キャリアパス、3.人材の確保育成、4.今後の展開の4点を問題意識を位置付けた。
  • 1.について、プレアワード関連やIR、研究戦略がURAに期待されている。また、URAの配置により外部資金の導入や政策動向の把握について役に立っているが、戦略的配分などについては現状では役立ったという回答が高くなかった。認知度については、近隣者以外には認知度はあまり高くなかった。学内の中で認知されていることが必要である。
  • 2.について、URA全体の8割が任期付きであり、キャリアパス不足がネックになっている。給与水準は教員に準拠しているところが多いが、教員とも職員とも異なる給与水準である場合もあった。キャリアパス全体では、学内で再配置する場合と他機関を行き来する場合の二つがある。
  • 3.について、大半の大学が人材の不足感を持っている。募集をしても確保できないことや人材確保の競合先が増えたことが挙げられた。URAの背景として、39歳以下が一番多く、前職として3割程度がアカデミア、4割程度が民間企業出身である。若手でアカデミア出身、シニアで民間企業出身という二つの人材が確認でき、ミドル層が抜けている。
  • 4.について、URAは資料作成等形式的な業務が中心になっており、経営に関わっていくには経営層へのアプローチが必要である。多くの大学でURAの財源については明確に回答できておらず、URAが獲得に貢献した外部資金の一部を人件費に当てるという回答する大学もあった。URAの維持・発展のためには経営への関与や事務組織との連携が必要という発言があった。
  • 1.については学内への認知度向上や大学戦略へのURAの位置付け、2については雇用の安定化とキャリアパスの明確化、3.についてはミドル層の配置や生え抜きURAの必要性、4.についてはアドミニストレーターとして認知される必要性を踏まえ長期的計画停な育成、事務組織との連携が大切である。

URAシステムの構築に向けて ~各団体等の活動紹介~

「研究力強化に資する大学・研究機関ネットワークの構築とその活動」(小泉 自然科学研究機構研究力強化推進本部特任教授)

  • 共同して行うべきところは共同して行うという精神のもと、大学研究力強化ネットワークを形成している。課題を解決するためのタスクフォースを作り、活動を行っている。各タスクフォースには、興味関心を持っている大学が自主的に参加している。様々なことをまとめ、国に提言として提出している。
  • 各タスクフォースでは、各大学の課題を共有し、共同でその解決に取り組んでいる。JSPS等他機関とも協力している。また、国際情報発信に関し、AAASが提供するプレスリリース配信プラットフォームにグループとして参画し、EurekAlert!japan Portalを設立して世界中の科学記者にプレスリリースを提供している。これにより、プレスリリースがロイターや有名科学サイトに取り上げられた。
  • 大学ランキング指標についてもタスクフォースを立ち上げ、ランキング指標の適切な利用を目指し、TimesHigherEducationや行政に提言を行っている。
  • これらタスクフォース活動はオープンであり、メンバー以外にも公表されている。ぜひ参加してほしい。

「リサーチ・アドミニストレーター協議会の創設と期待する取組み」(山崎 金沢大学学長)

  • 1年ほど前にリサーチ・アドミニストレーター協議会を設立した。同協議会にはURAの自主的な能力開発や相互支援に力点を置いている。指定国立大学や卓越大学院とURAとの関わりも気になるところである。
  • JST事業がきっかけとなり、金沢大学がRA研究会を2009年から開始した。また、2011年からはURAシンポジウムも開催し、2013年から合同開催とした。2015年に年次大会を行い、年1回の大会や分科会、ワーキンググループでの活動に取り組んでいる。
  • RA協議会では、研究会・講習会の開催や情報交換の促進などに取り組んでいる。RA協議会は、運営委員会の下に三つの専門委員会と一つのワーキンググループを設置している。現在は21機関、350名の会員である。

「医歯薬系URAに求められる役割とmedU-net の活動」(飯田 medU-net 事務局長・東京医科歯科大学教授)

  • medU-netとは医療系産学連携を支える人材を育成する組織であり、各種リソースの共有による標準化・スキルアップや産業界や行政と連携した政策提言に取り組んでいる。医療系には研究期間やガバナンス上の配慮事項、特許の完成度など特徴的な研究活動上の特性があり、その課題を攻略しなければならない。現在249機関404名の会員がおり、アカデミア法人会員としては24法人が加盟している。
  • medU-netにURAの参画が増えており、医療系URAワーキングを設立した。医療系特有の業務として臨床研究のサポートが求められており、医療系URAとして他分野と異なる業務がある。また、機関ごとにも求められる役割が異なる。医師経験者や製薬企業OBがURAとして求められているとともに、人材育成に関する意見もあった。医療に特化したスキルアップできる場がないことは課題であり、情報も散在している。中長期的なプロジェクトであるため安定した雇用が必要である。
  • 医療系URAのモデル構築や情報共有の場の設置に取り組んでいきたい。

 パネルディスカッション「大学の研究経営におけるURAの位置づけ(今後、URA の更なる機能高度化のために取り組むべきアカデミアの課題とは何か)」

(司会)上山 政策研究大学院大学 副学長

(パネリスト)
川端 北海道大学理事・副学長
野口 立命館大学研究部事務部長・立命館大学産学官連携戦略本部副本部長
向 金沢大学理事・副学長
森田 東京医科歯科大学理事・副学長
山本 岡山大学 理事・副学長

事例紹介(北海道大学

  • URAとしてパーマネントポストを準備し幹部候補生を育成している。国立大学は組織としての個性をどう作るかが課題であり、大学側が企画・資金調達・実施をしなければならない。強みを社会的要請に落とし込んだ中で、資金配分等を行わなければならず、これが大学経営である。
  • URAはプロデューサーとして働くことになるが、これは必ずしも新しい話ではなく、企業でも研究所に入って以降企画・マネジメントの道に進む者がいる。北大では、個別研究者支援だけではなく、プロデューサー機能などを付加し、URAが大学を改革するシステムを作っている。
  • URAを大学の経営を担う幹部候補生として育成するため、学内でしっかり育成して最終的に理事にまで持っていく。今は12名のURAであり、教員でも職員でもない職として位置付けている。

事例紹介(立命館大学

  • URAを事務改革の旗頭としたいと思っている。私立大学は学部学生が多いが、だからこそ高度・効率的な研究支援の必要性がある。私立大学ならではのURAのミッションとして、1.学費依存体質からの脱却、2.人的研究支援環境の充実、3.研究高度化戦略への寄与が重要であり、「士業」クラスの地位・位置付けの確立が重要であると考える。
  • 高度専門職として、URAと特定業務専門職を設けた。導入の際には文系の教員にも丁寧に説明した。

事例紹介(金沢大学)

  • URAは先端科学・イノベーション推進機構に15名を配置している。本部型の配置であり、部局には配置していない。教員と事務職員と研究員が混在している。大学の研究力強化につながる企画・実施・支援が目的であり、学部資金獲得支援や研究IRの実施などに取り組んでいる。
  • データに基づき企画立案・提案できる人材を育成するため、大学改革推進委員会への同席や学内競争的資金の審査員などにURAを配置している。大学執行部とURAとの距離を近くすることを大切に思っている。

事例紹介(東京医科歯科大学

  • 病院収入が多く、病院における診療を無視して戦略を立てることはできない。また、外部資金は企業からくる資金が多く、臨床研究が重要になってくる。マネジメントや臨床研究の推進にも、URAを導入しなければならなかった。URAがIRを行い、学部改革につなげる体制を整備している。また、先進医療や臨床研究を支援するという役割もある。

事例紹介(岡山大学

  • 文科省の公募に落ちても定員をつけて推進してきた。URAとは研究マネジメントを行う人材であり、研究環境の改善など8つの役割がある。岡山大学では企画業務型裁量労働性を適応している。研究推進本部とは異なり、トップ研究者の牽引などを担っている。また、高度な研究成果を生み出し社会につなげる体制を整備している。
  • グローバルURAとして海外研究者を雇用し、4月から副学長になる予定である。現在は5ポストであり、内閣府への出向や副理事への就任などキャリアパスを示すとともに、事務職員への良い影響も与えていきたい。

パネルディスカッション

  • (司会)URAの定義が定めにくいのは、まだURAとしての姿が見えていないためだろう。URAの果たすべき役割や直面している課題、維持などが焦点である。URAの業務もより細分化していくのかもしれない。まず役割について聞きたい。
  • (川端)研究経営ではなく大学経営を担うことを期待している。IRをベースとした時、国立大学は財務が不透明であり、このあたりをどうにかしていきたい。
  • (森田)病院を持っている国立大学は経営自体が厳しくなっており、重要になっている。
  • (向)研究の後方支援が基本であり、俯瞰的にものを見る立場になって欲しい。執行部と議論する中で新しいものが出てくる。まず大学のビジョンがあって、従来の教員とは違う立場でものを見て、取り組んでいくことになる。
  • (山本)現時点では順調にいっていると思う。研究科長がURAに相談に行くこともある。企業経験者や外国人をURAや執行部に入れることで、改革を進めていきたい。
  • (野口)立命館では、大学改革は大学職員が担うとおもっている職員が多いのではないか。課長級としてURAを配置しマネジメントをさせたかった。
  • (司会)評価に使うIRと未来に向かうIRは異なる。IR組織をマネージする役割が重要であると考える。
  • (川端)URAがIRを持つと、各部局へ照会することをやめた。こちらの方が詳しくなった。大学経営の凄さを教員が実感しないとURAが何をやっても動かない。このためには財務IRが重要であり、それに基づき資源配分を行わないといけない。国立大学法人会計制度の壁もありまだうまくいっていないため、小技を繰り返して効果を示している状態である。
  • (司会)財務活動とURAまたはIRとの関係をどう考えるか。
  • (山本)財務とURAとの関係性について、監査人や監事との連携のもとで取り組んでいかなければならない。成功すれば教員の態度が変わった。財務会計のURAはヘッドハンティングしないといけない。
  • (森田)国際的な資金獲得については、他部署において対応している。過程においてどのようにURAやIRを活用していくかが今後論点になる。
  • (向)国際的な展開を踏まえ、広くIRに取り組んでいきたい。
  • (野口)執行部に危機意識を持ってもらうことである。URAにはまず研究プロジェクトのマネジメントを担ってほしい。個人として評価にはアレルギーがあるが、組織としての評価には比較的受け入れられやすく、IRや指標を用いて定量的な目標を立てやすくなった。
  • (司会)キャリアパスを含め、URAを経営としてどう捉えていくか?
  • (川端)今いる教員や事務職員でもダメで経営などに関する知識を持った人材が必要であり、URAとしてパーマネントな地位を準備した。URAとは別にコーディネーターなどがいるが、最終的に統合して組織化し、キャリアパスを形成していきたい。
  • (野口)URAを増やしていきたい。定数化の提案をしていきたい。他部署からの評価を得て、初めて動く話もある。
  • (向)教員と事務とでURAの組織を作っており、事務職員はローテーション人事の一環である。事務職員のトレーニングという意味もある。教員の数、職員の数、URAの数のどこに重点を置くかを学内で議論していきたい。URAの効果は学内で認識されており、学長の思いもあり、URAの導入を推進していきたい。
  • (森田)教員とURAのどっちを取るかと聞かれた時にURAをとるというような人が出るように育成をしていきたいと思っていた。医療系URAを育てるプログラムのようなものも想像したい。経営の専門職を学長の補佐としてつけたいという思いもある。
  • (山本)パーマネントポストを準備するとともに、URA独自の俸給表や規定を作り、キャリアが見えるようにした。URAの仕事が目に見える形になると、学内で信頼関係ができる。そのために2年かかった。ポスドク雇用とのバランスは難しく経営判断になる。
  • (司会)URAの事務職員への影響はどうか?
  • (川端)URA部門のトップは事務職員であり、事務職員も含めた研究推進部全体の仕事の速度感が上がった。
  • (野口)職種は分かりやすい事務職員にURAを置いて、それが成果を出す方がインパクトがある。
  • (向)同じフロアで仕事をしており、化学反応が起こっている。
  • (森田)特定分野に特化した事務職員を育てるため、URAとして雇用している者もいる。
  • (山本)最初は事務職員から敵視されていたが、時間をかけて変わってきた。

創造的な仕事ができないと嘆いている大学職員の方へ

稲盛和夫の名言・格言|創造的な仕事をするヒント

創造的な仕事とは、高度な技術を開発するということばかりではない。今日よりは明日、明日よりは明後日と創意工夫をこらし、改良、改善を積み上げていくことである。一人ひとりが自分の持ち場で、もっと能率の上がる方法はないか、昨日の欠点をどうしたら直せるか、考える習慣をつけることだ。

 稲盛和夫さんの名言ですね。

 ルーチンワークではない仕事やいわゆる大きな仕事みたいなものを想定して創造的な仕事ができないみたいな声を聞きますし、そのような相談を受けたことがあります。その際にはいつも「それはあなたが創造的な人間ではないからだ」と返しています。座して待つだけでは、最低限こなすべき仕事しか来ないのは当然です。もしあなたが本当に自分で思い描く仕事をしたいのであれば、自分自身で思い、考え、行動していくしかありません。

 私が実感しているのは、何よりも「思い」と「行動」が大切だということです。その業務は何を大切にしなければならないもののか、何のためにやるのか、誰のためにやるのかなど、他人にきちんと伝えられるよう、自身のなかで思いをしっかり持つことが必要です。そうでないと他人を説得したり協力を得たりすることはできません。もちろんこれは状況に応じて変化していくべきものですが、少なくともその時点での価値観の軸は行動する勇気を与えるものです。

 どんな良いアイデアを持っていようとも行動しなければ成功も失敗もありません。成功できないことではなく、失敗できないことが恐ろしいのです。失敗から学ぶことができなければ成長はありません。そんな行動を後押しするのが、前述の思いであり勇気だと思っています。行動とは自分一人が動くことではなく、皆と動くことや他人にやってもらうことも想定できます。身体を動かすことだけではなく、学ぶことや聞くことなども含まれるでしょう。何にせよ、思いに沿って行動し、内省し考え改善しながら働くことが、「創造的な仕事」につながると思っています。

 では、思いを持つためにはどうすればいいのか。明確な答えはありませんが、様々な人と仕事について話すことかなと考えています。大学職員に限らず様々な人と自分の仕事のことを話し、他人の仕事のことを聞くことで、徐々に自分の思いがはっきりしてきます。そのチャンスは、平常業務に限らず、業務外にも、学外にもたくさんありますね。

 このように働いていると「創造的な仕事」なんて言葉は絶対に言わなくなります、それが普通の働き方になるんですから。「創造的な仕事」と言っている限り、創造的な仕事はできないのでしょう。

PS 結局「創造的な仕事」ってなんだかよくわかりません。きっと言ってる当人らも良くわかっていないのでしょう。

3つのパブコメが出ています。

 大学関係のパブリックコメントが3件でています。中央教育審議会大学分科会大学教育部会の審議が一段楽したので、審議していた3案件についてまとめてパブコメにかけたのでしょうね。なお、これらは行政手続法第39条に定める意見公募手続に則ったものです。

行政手続法

意見公募手続
第三十九条  命令等制定機関は、命令等を定めようとする場合には、当該命令等の案(命令等で定めようとする内容を示すものをいう。以下同じ。)及びこれに関連する資料をあらかじめ公示し、意見(情報を含む。以下同じ。)の提出先及び意見の提出のための期間(以下「意見提出期間」という。)を定めて広く一般の意見を求めなければならない。

1.三つのポリシーの策定・公表に関する学校教育法施行規則の改正

パブリックコメント:意見募集中案件詳細|電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ

1.三つのポリシーの策定の義務化

・ 大学(短期大学及び高等専門学校※を含む。大学院については,入学者の受入れに関する方針のみを適用。以下同じ。)は,当該大学,学部又は学科若しくは課程(大学院にあっては,当該大学院、研究科又は専攻)ごとに、その教育上の目的を踏まえて、次の1~3の方針を定めるものとする。

高等専門学校には,大学に関する規定を準用。

  1. 卒業の認定に関する方針
  2. 教育課程の編成及び実施に関する方針
  3. 入学者の受入れに関する方針

・ 2の方針を定めるに当たっては,1の方針との一貫性の確保に特に意を用いなければならない。

2.三つのポリシーの公表の義務化

・ 大学は,上記1により定めた三つのポリシーを公表するものとする。

3.その他

・ 本改正の施行日は,各大学における三つのポリシーの策定・見直し作業に要する期間を考慮し,平成29年4月1日とする。

 アドミッションポリシー、カリキュラムポリシー、ディプロマポリシーのいわゆる3つのポリシーを定めて公表せよという内容です。とは言いつつも、現行の大学機関別認証評価の評価基準におけるポリシーへの言及もあり、ほとんどの大学で3つのポリシーは策定され公表されています(詳細は大学教育部会資料を参照。)。

 ただし、今回の改正は単なる現状追認というよりは、3つのポリシーを見直しよりそれに沿った大学教育を展開せよということだろうと思います。それは、施行日の設定における「見直し」という文言及び大学教育部会での3つのポリシーの策定及び運用に関するガイドライン検討ということからも明らかでしょう。事実、各国立大学法人の第3期中期目標・中期計画には3つのポリシーを見直すというフレーズがちらほら見られます。認証評価における3つのポリシー周りの評価も、策定予定のガイドラインを踏まえて行われるのではないかとも想像できますね。

 各大学では様々な憲章や方針、ポリシー、目的、目標、計画などが作られているとは思いますが、これらを作るには本来は相当のロジックやテクニック、知識経験やコストがかかるものです。先日の福島さんの講演からは熱意も必要だということを感じました。言い出し始めて10年経ったということを考えると、見直すタイミングはこの辺りということでしょうね。

 ちょっとよくわからないのが、大学や学部、学科”それぞれに”作る必要があるのか、どこを策定単位とするのかです。ガイドライン(素案)では、

三つのポリシーの策定単位については,具体的には各大学で適切に判断すべきものであるが,「我が国の高等教育の将来像」(平成 17 年1月 28 日中央教育審議会答申)等において,今後の大学教育については,学位の取得を目指す学生の視点に立って,学位取得のために求められる知識・能力をあらかじめ明示し,学生が当該知識・能力を身に付けるための教育課程を体系的に整備することが提言されていることなどを踏まえれば,三つのポリシーの策定単位の基本は,授与される学位の専攻分野ごとの入学から卒業までの課程(以下「学位プログラム」という。)とすることが望ましいと考えられる。(P4)

とあります。ポリシーを用いた教育改善となると、結局は入試単位ごとになるかなとも思いますね。

2.認証評価基準等に関する細目省令の改正

パブリックコメント:意見募集中案件詳細|電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ

I.改正の概要

(1)評価内容の充実

 認証評価機関(以下「機関」という。)が定める評価基準(「大学評価基準」)に共通して定めなければならない内容等として新たに次の事項を規定する。

(評価項目)

1 大学における教育研究活動等の見直しを継続的に行う仕組み(以下「内部質保証」という。)に関すること

2 卒業の認定に関する方針、教育課程の編成及び実施に関する方針並びに入学者の受入れに関する方針に関すること

(重点評価項目の設定)

3 内部質保証の機能に関することについては評価において重視すべき事項とする こと

(その他)

4 設置計画履行状況等調査における「警告」「是正意見」等への対応状況を把握すること

(2)評価の質の向上

 評価の質の向上に向けて機関の体制及び評価方法として次の内容を規定する。

1 機関は、評価に関する規定や組織の運営状況について自ら点検及び評価を行い、その結果を公表することとすること

2 評価において改善等を大学に指摘した場合、当該大学からの求めに応じ、再度評価を行うよう努めることとすること

3 評価の過程において高等学校、地方公共団体、民間企業等の関係者から意見を聞かなければならないこととすること

(3)高等専門学校への準用

 高等専門学校の機関別評価においては、従前、大学の機関別評価の内容を準用している ことから、上述の(1)、(2)の内容についても、高等専門学校の機関別評価に準用することとする。

II.施行日 平成30年4月1日とする。 (機関における新たな評価基準等への改訂及び新基準の各大学への周知(平成28年度)、 評価受審前年に行う各大学の自己点検・評価(平成29年度)の期間を考慮。)

 認証評価の基準等に関する事項を定めた省令、いわゆる細目省令の改正です。3つのポリシーに関することや内部質保証に関することが追加になっています。現行の細目省令はかなり大まかにしか基準の内容を示しておらず、各認証評価機関ではすでに3つのポリシーや内部質保証に関する評価基準が運用されているので、大きな基準の変更等はないのではないかと想像しています。また、今回1番目に紹介している3つのポリシーに関するパブコメを認証評価の面から担保しているとも捉えることができますね。当初の方向性では高大接続一体改革に合わせ「入学者選抜に関する評価」も細目省令に加えるものだったと覚えていますが、それは無くなったようです。

 この段階ではあまり具体性のある記述ではありませんが、内部質保証の機能を重要項目に設定するとあります。大学の質保証とは何かでは、内部質保証を

改革サイクルが組み込まれた教学マネジメント(P13)

とし、

そのため、これらの部分(補註:体系的なカリキュラムの開発と運用状況の評価、学修成果の持続状況の確認など)を対象とする質保証の責任は全て個別大学に委ねられることになります。ここでの認証評価機関の役割は、各大学が、内部質保証の枠組みを構築し、その枠組みの中で、教育改善の取り組みを効果的に成し得ているかどうかを、「間接評価」の評価手法を通じて確認することにあります。(P14)

とあります。認証評価では、うまく改善サイクルが回っているのかということを重点的に見るということでしょう。(重点的にというのならば、一方で「これは文章ではなく数値だけで確認する」みたいなコストを下げる手段も併せてとってほしいところですが。。。)

 施行も平成30年度からということで、ちょうど認証評価の第3サイクルが始まるタイミングですね(逆に言えば、このタイミング以外ありえないのですが。)。来年度あたりに各認証評価機関から基準改定に係る意見募集が出されることでしょう。

3.スタッフ・ディベロップメント(SD)に関する大学設置基準等の改正

パブリックコメント:意見募集中案件詳細|電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ

1.SDの義務化

・ 大学は,当該大学の教育研究活動等の適切かつ効果的な運営を図るため,その職員※1に対し必要な知識及び技能を習得させ,並びにその能力及び資質を向上させるための研修※2の機会を設けることその他必要な取組を行うものとする。

※1 「職員」には,事務職員だけでなく,教員や技術職員を含む。

※2 第25条の3に規定するファカルティ・ディベロップメントを除く。

・ ほか,短期大学,大学院,専門職大学院及び高等専門学校についても同様に規定。

2.その他 ・ 本改正の施行日は,各大学における研修の計画・体制整備等に要する期間を考慮し,平成29年4月1日とする。

 SDを義務化するための大学設置基準の改正です。なお、大学設置基準は「大学は、この省令で定める設置基準より低下した状態にならないようにすることはもとより、その水準の向上を図ることに努めなければならない。」ものですので、新設の大学等だけではなく既設の大学等にも適用されます。

 当初は高度専門職の設置基準への位置付けということも視野にあったとは思いますが、8割程度の大学がSDを実施していることも踏まえ、無難なところに落ち着いたという印象です。 気になるのは従来から行われているFDとここで言われているSDとの区分ですね。内容として重なる部分もありますし、どのように考えるのかはいろいろと切り口がありそうです(「参加」ではなく「機会を設ける」に留まっていることもポイントだとは思いますが。。。)。

 もっと言うと、これはSD全般に言えることですが、ここで言われているSDが何を指すのかもはっきりしないとも感じます。各種法令や規則等に年1回の開催が定められている講習会や研修会はSDに該当するのか、個人的にはどうでも良いとも思いますが、うまく整理できないところです。

 以上、3件のパブコメを紹介しました。併せて、指定国立大学法人や余裕金の運用に関する国立大学法人法の一部を改正する法律案も国会に提出されていますので、こちらも注目しています。

「SDについて、あらためて考える-大学行政管理学会の20年とSDのこれから-」に参加してきました。

中部・北陸地区 » Blog Archive » 大学行政管理学会創立20周年記念企画 中部・北陸地区研究会(2/27@愛知大学名古屋校舎)の開催について

JUAMは、その開設趣旨からも分かるように、SDの義務化が謳われる以前、SDという用語が確立する以前から、理論的かつ実践的に様々な形のSDに取り組んできました。そこで20周年を契機にこれまで実践してきたSDを振り返るとともに、SDが今後どのようにあるべきかを考えたいと思います。また20周年の統一テーマである「大学行政管理学の深化と発展‐高等教育の牽引を目指して‐」に照らし、JUAMの活動の中でSDがどのように位置づけられるべきかについてもあらためて考えたいと思います。

 大学行政管理学会(JUAM)創立20周年記念企画 中部・北陸地区研究会「SDについて、あらためて考える-大学行政管理学会の20年とSDのこれから-」に参加してきました。参加者は概ね100程度であり、事務局長クラスから若手まで幅広い方が参加していたようです。

 以下に、本会での発言を記します。なお、あくまで私が理解できた部分を一部のみ掲載していることに留意ください。

基調講演(福島 学校法人追手門学院理事・追手門学院大学副学長)

  • 本日は、JUAM創設の趣旨、学士課程答申におけるSDの言及、SDプログラム提言のポイント、高等教育のユニバーサル段階を踏まえたSDの実践論についてお話をする。
  • 一つ目。1996年のJUAM開設趣旨には「職員自体の自覚と意欲に関しても、また、それを担うに必要な資質・能力の点でも、問題なしとするには程遠い」と書かれているが、今もまだこのような状況であると言える。設立時は350名程度であり、第1回の研究集会で発表したのは会長と私だけだったことを記憶している。2007年5月には中教審の小委員会で大学教職員の職能開発について発表をした。
  • 二つ目。2008年12月に公表された学士課程答申では、職員の能力開発について小委員会で報告をした内容がほとんどそのまま掲載されている。学会設立10年で答申に取り上げられたことになり、大きなトピックであった。
  • 三つ目。JUAMとしてSDについてプログラムをまとめた。これからの大学職員にはどのような能力が必要なのか、実践事例の調査や大学職員検定制度、SDに関する連携のあり方などを検討した。この中では、SDの目的とは大学が複雑多岐にわたる課題を自律的に解決し社会的な存在として発展していくこととし、大学改革実現へのマネジメント業務ができる職員の能力開発をSDと位置づけ、職員への権限移譲が不可欠であるとした。職員出身の理事や理事長、教学部門の管理職も増えてきたが、そういう立場に立たされてば能力開発は一生懸命やることになる。これは対等な教職協働の条件である。
  • 四つ目。トロウによる高等教育システムの段階的以降では、大学在籍者率50%以上はユニバーサルアクセス型としているが、併せてトロウはユニバーサルアクセス型になるとどのようなことが生じるかを検討している。ユニバーサルアクセス型になると、高等教育の機会は万人の義務になり、高等教育の目的観は新しい広い経験の提供となる。
  • 今、大学の本務事務職員は全国で8万6千人程度であり、ここ12年間で1万5千人程度増えている。一方で、学生数はここ12年間でほぼ変わっていない。職員一人あたりの学生数は少なくなっており、私立大学における職員一人あたりの学生数はここ12年間で44人から36人となっている。
  • 日本の中高生は自己肯定感が乏しく、そういった者が大学生になる。また、中学校教師の勤務時間は長く、特に事務仕事が多いことが調査結果から読み取れる。併せて、教員の自己効力感は低いことは気になっている。生徒も教師も自信がなく、そういった中で大学に入学していることは留意する必要がある。
  • 大学生は第一希望で入学してきている者ばかりではなく、自ら不本意入学だと言う学生も多い。自分の大学の状況を押さえておく必要がある。また、自大学の授業の実態も押さえておく必要がある。初年次教育などもやっているが、学生はそもそも大学での学習や生活をしっかり考えられおらず、あまり効果が上がっていない場合もある。そのため、入学時点からしっかり大学で学ぶことを考えてもらうため、新しい仕組みを導入した。まず、学生の実態がどうであるかをしっかり見る必要がある。学力を問わない入試による入学もあり、履修という言葉が理解できない学生もいる。その対応について職員が考えないといけない。
  • 大学改革とは何か。それは、学生の実態を踏まえて彼らが主体性をもって成長することができるような教育内容・システムを開発することである。いかに主体性を引き出すかということが大切であり、そのためにガバナンス改革やIR、FD・SDなどが必要である。派手な改革が大学改革であるわけではない。本質的な改革に正面から向き合える人材の育成が不可欠である。
  • 大学経営の責務とは、大学の永続性を担保し学生を成長させることができる教学を支えるための財務・人事・企画・総務・ガバナンスである。また、教学の責務とは、経営実態を踏まえたうえで学生実態を的確に把握し学生が主体的に成長できる教育内容・システムを開発・実践することにある。経営の実態を踏まえ、計画的に行うことを教員と一緒に考えていかなればならない。教学なき経営は害悪であり、経営なき教学は幻想である。手間暇をかけることと効率化することを分けて考える必要がある。高校生が大学で学ぶ意味を考えさせること、学生に自発性を持たせることには手間暇がかかる。
  • 目標と達成度による職員評価と処遇制度が必要である。また、職員組織内の相互批判もとても意味がある。真正面から物を言うとちゃんと考えるようになる。他流試合、たくさんの人たちと言葉を交わしたことも仕事にも活きてくる。他職場からの人材移入やトップミドル現場担当者の三位一体チームも大切。特に、三位一体となったチームは大きく仕事が前進する。これらの上で、企画・開発から実践までできる専門職の育成が可能になる。
  • 事務職員から大学職員への変化として、教育サービスの本質を理解し発達支援原理に基づいた教学改革の開発・実践ができる人材に変化することが挙げられる。学生は教育の対象であり、彼らを自律させる過程において大学が提供する様々な教育サービスがあるという位置付けである。学生が発達していく段階を見ながら、取組をしなければならない。大学の外部・内部の環境を的確に分析できミッションやビジョンを描いて具体化することができる人材への変化も、大学職員への変化として挙げられる。実務処理ができるのは当たり前であり、事務職員から大学職員への飛躍が必要である。
  • 自発性原理から発達支援原理への転換も必要である。昔は自発性に基づいたシステムだったかもしれないが、今は学生たちの発達を見ながら、90分授業からの転換やセメスター制の再検討、試験を受ける前から考えさせる入試改革などが必要ではないか。学生たちの様子を見ながら、どうしていくのかを考えていかなければならない。
  • 「どこまでやるのか」とよく聞かれるが、若者をきちんと社会に送り出せるようにするのが大学の責任であると考えている。目の前の問題解決だけではなく、学生の成長を信じてその力を引き出す支援が必要である。生徒学生にとっては自主判断よりも管理される方が楽であり、例えば入試などは偏差値で選択することも多い。主体的に学んで生きるということに対する支援をしなければならず、それは各大学の学生の実態に合わせて対応することになる。
  • どうやったら偏差値やランキングではない視点で高校生が大学を選ぶことができるのかという思いで、読売新聞の「大学の実力」に関わっている。主体的に学ぶ・生きるということをいろんな場面で学生たちができるように仕向けるにはどうしたら良いのかを考えなければならない。
  • アドミッションポリシーは学生や教職員の何人が知っているのか。言葉を覚えるのではなく、議論をしていく中で頭に叩き込まれているものである。生きるポリシーにするためにも、自分の大学が欲しい学生を理解しやすい言葉で記載する必要がある。職員は建学の理念を言えるのか、学生の名前が言えるのか。たくさんの学生の名前を言えるようになって欲しい。具体的な業務の改善や改革をしたことがある職員はどの程度いるのか。いくつ他の大学に行き、その大学の職員と交流したことがあるのか。
  • プロフェッショナルな大学職員像として、1.コミュニケーション能力が高い2.戦略的プランニングの手法を持つ3.政策を実現できるマネジメント能力がある4.新たな価値創造ができる5.複数の業務領域での知見がある6.教職員・学生から信頼される人格と大学リテラシーを含む教養が豊か7.使命感と勇気の7つを掲げる。組織的にやらなければならないこともあるが、職員個人としてできることもある。評論ではなく変革の立場で考えて欲しい。他流試合や自大学自身を相対化できる立場に身を置くこと、学生の実態把握、学ぶ目的を明確にした大学院進学、経験値の理論化手法化(学会誌への投稿などを通じ文章にすること)などが大切である。

講演(船橋 一般社団法人日本能率協会学校経営支援センター)

  • 能率協会は設立以降企業職員への教育活動を行なっているが、その成果を活かし大学・学校に対する人材育成事業にも取り組んでいる。大学とも協力して研修を行なっているが、ある程度の人数がいなければ効率的に行えないため、職員規模で100人オーダーの大学と協力することが多い。2002年以降開催している大学経営評価指標研究会では、大学経営評価指標の開発や大学教育力向上の調査研究、大学改革リーダー養成コース開発、私立大学ガバナンスコード開発など、実務に伝える成果を出している。
  • 大学経営とは資源をどのように配分していくかということであり、経営力を最大化していくこととは、教育研究力の向上と運営効率化・合理化の追求のバランスをとっていくことである。これには職員の力が重要である。従来の維持管理の視点から、問題課題を発見して改革改善をしていかなければならない。組織人として、仕事をやるという業務機能、周辺の人とやっていくという人間機能の2つの機能がある。併せて、維持機能と改革機能があり、4象限のマトリクスで考えることができる。今後より求められるのは改革機能であり、業務改革や部下指導育成が大切になってくる。そのためには、意識能力スキルを積み上げていく必要がある。
  • 学士課程答申の中では、職員も段階的に専門家としてのキャリア形成をしてスペシャリストになる者やジェネラリストとなる者が分かれるなど、複線型の人事が提案されている。これは、大学の事務組織の規模感にもよる話であり、スペシャリストのキャリア形成の問題なども思い浮かぶところである。
  • 2012年に能率協会が行った調査では、職能要件基準が定められている大学は半数程度であり、これは大規模大学で整備が進んでいた。また、目標管理制度を適用している大学は6割程度であり、国立は8割程度の導入率であった。9割の大学では、業務の効率化や管理職のマネジメント能力開発が重視されていた。
  • SDはマネジメントや人事システムとの連動が重要である。やるべきことを明確にする仕組みややったことを評価する仕組みなどを整備することが広義のSDになる。最も影響が高く時間が多く成果が上がるものはOJTである。シャドーイングやノウハウの聞き取り、コーチング、メンタリングなどが該当する。動機意欲と基礎としてスキルや知識を学んでいくという話もある。
  • 能率協会では、階層別研修を縦軸とし、企画・改革力、人間力、業務知識・遂行力を横軸に取ったマップをSDに用いており、カッツの理論に基づき、階層が上がるにつれ企画・改革力の範囲が増加するとともに業務知識・遂行力の範囲が減少していくと考えている。これに基づき、能率協会ではJMA大学SDフォーラムを開催している。
  • 理論と実務を缶詰にしてやるのが、SDとして一番いい。知識をその場で覚え実務をその場で取り組むことで、追い詰められる環境ができる。例えば、新棟の整備計画をテーマとして、プロジェクトマネジメントを学びチームで実際の計画立案やリスク分析などを行う研修を行った大学がある。その場でやることが大切である。
  • 能率協会はKAIKAというプロジェクトを立ち上げ組織開発に貢献することに取り組んでいる。組織が発展することで個人や社会との関係性を広げるものであり、大学に合う考えだと思っている。行動評価変容アプローチを取ることで行動を変えることができる。
  • Q:文科省の調査ではSDの内容として「戦略的な企画能力の向上」が最も低い実施状況だが、その要因はどう考えるか?
  • A:研修がやりにくいことも要因であると思う。
  • Q:プレイヤーやマネジャーの転換をどのように考えれば良いか?OJTは上司次第のところもあり、どのように育っていけば良いか?
  • A:自分の職階の一段上二段上の目線に立って、実務はその立場で行うことが大切である。OJTは上司により異なることも多く、異動を待つことも一つの手である。後輩には同じことをしないようにすれば、中長期的に組織が変わっていくことにつながる。

事例報告1

  • 本学ではキャリアビジョンシートを導入したが、これは愛媛大学で行なわれているスタッフポートフォリオを参考にしたものである。本事例報告では、導入経緯やその内容等について報告をする。
  • 自分自身の移動歴等を振り返ると、個々人の将来の職員像や志向、能力と大学組織の考えをすり合わせる機会があったも良いのではないかと思っている。SDに取り組む先は、学んだことを自分自身に落とし込み、参加後に実践を行うことなどを意識している。他流試合や経験値の理論化手法化は大切であると感じている。
  • 数年前に現役職に配属された際、本学には人事異動の方針や業績記録がなく、職員が職場で輝いて欲しいと思っていた。また、個々人の強みを把握して大学として伸ばして欲しいと思っていた。この思いも踏まえ、JUAMで勉強していた際に、愛媛大学のスタッフポートフォリオに出会い、これをさらに学ぶためSDコーディネーター養成講座に参加した。
  • SDC養成講座参加後に職員像の明確化や人材育成方針の策定などを提案し、大学として進めていくことになった。本学の第3次基本構想内に中期計画として明記し、結果としてキャリアビジョンシートの導入までには1年2ヶ月かかった。この際、中堅・若手が案を作るとともに、職員全体で議論する場を設けた。振り返ってみると、大学の計画として明文化すること、計画を組織化して検討すること、検討結果を皆で議論すること、事務局長がリーダーシップを取ることの4点が重要だった。
  • キャリアビジョンシートには、今後担当したい業務や今後5年間のキャリアビジョンなどを記載する。今後は、愛媛大学のように入職時の思いから将来の職員像までが記載するような、過去から未来へつながるような改善を行っていきたい。キャリアビジョンシートを踏まえた人材育成として、同シートを踏まえた上司との面談などを開始した。併せて、作成ワークショップも開催している。
  • 管理職の面接スキルの向上を目指した研修の継続実施や他目標管理業務との連携、諸制度等の整理、能力開発プログラムの整備や内部人材の研修講師としての育成、長い目で考えられる意識改革などは今後の課題である。

事例報告2

  • 本学では、自己研鑽費として年15万円まで使用することができる。JUAMでの勉強会企画や大学職員人間ネットワークへの参加に取り組んできた。
  • 友達が欲しかった思いもあり、様々な場に顔を出してきた。学外に出ていくことで、大学職員としてのロールモデルが見つかり真似ができることが大切だと感じている。実務へつなげることは難しい。